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32 聖都1

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 ハル

 やっと聖都に辿り着きました。
 通過する国々で毎回私達の歓迎会が催されので、各駅停車の、半年を掛けたゆっくりとした旅になったのです。
 私は、この世界での十三歳になっていました。

 馬車が長いトンネルに入り、闇の中を抜けると、眼下に明るい緑豊かな広大な盆地が広がっており、盆地を取り囲む周囲の山の峰々には、硝子の粉を塗したように、水晶の塊が光輝いていました。

 聖都はクリスタル地方と呼ばれる国家連合が統治する区域に作られた都市で、北大陸の王族や貴族の子弟が学ぶ魔法学院を中心とした魔法都市だそうです。
 周囲を八つの砦で囲まれており、九曜紋の様な形をしています。
 私達は、その砦の一つ、五方の守護と呼ばれる砦に案内され、塔の見張り台で聖都を眺めながら説明を聞きました。

 公園の様に緑豊かな聖都は、幾つかの海老茶色の高い塀で区切られており、王族の子弟達が学ぶ第一群、公爵の子弟達が学ぶ第二群、伯爵の子弟達が学ぶ第三群、男爵以下の貴族の子弟が学ぶ四群、平民の住む民区に別れているそうです。
 第一群域には、四十七の城が建てられており、子弟達の世話をするために国から送り込まれた兵や従者やメイドや執事が六万人も住んでいるそうです。

 各群域内には、それぞれの群域内の子弟専用の学院が建てられており、そこで専用の教師から魔法を教わるそうです。
 学院は初等部、中等部、高等部に分かれており、各部四学年、合計十二年間魔法を学ぶそうです。
 第一群の生徒数は二百名、第二群の生徒数は千名、第三群の生徒は二千名、第四群の生徒は五千人が在籍しているそうです。

 私達は王族扱いなので、専用の館を第一群域内に宛がわれ、各人それぞれに王国連合から送られたメイド達三十人が割り振られ、身の回りの世話をしてくれるそうです。
 ユウが小躍りして喜んでいたので心配になり、キャリアさんに確認してみました。
 勇者は希少なので、屈強な兵士が護衛し、身の回りの世話をするそうです、ええ、安心しました。

 礼儀作法の取得、魔法学の講義、魔法の訓練、実地練習が主な授業内容で、週一日のお休みがあるそうです。
 朝は明けの四鐘に起きて、ゆっくり朝食を楽しんでから午前中の講義を聴講し、ふたたびゆっくりと昼食を楽しんだ後、午後の講義に出席すれば良いそうです。

 メアリーさんの所に手紙を出しているのですが、タケさんは、相変わらず行方不明の様です。
 アキちゃんは、健気にも、タケさんが絶対捜しに来てくれると思っているようで、時々第一群域を抜け出して、民区の酒場でタケさんを捜すと言ってます。
 
 表通りを歩いている人も少なく、荷車も少ない様に感じます。

「普段はもっと賑わっているのですが、今は光季の休暇期間なので皆さん帰省されているのですよ」

 因みに、砦の設置目的は、竜の撃退だそうです。
 毎年何人かの、逃げ遅れた貴族の子弟が犠牲になるそうです。

ーーーーー
 まったく予想外のところから、助けの手が差し伸べられた。
 なんと国家連合から、勇者・勇女保護協定を根拠に、僕の保護権は国家連合にあるので、婚姻の同意は無効であるとの申し入れがあったのだ。
 保護権との言い方は、何となく善意が有りそうで聞こえが良いが、要するに人権を無視した所有権のことだ。

 国家連合の使者は、なんとなく僕がタケミチであると解っているようだった。
 だが、”勇者スノウ”であることを、ことさら強調して僕の保護権を主張している。
 僕が召喚者タケミチであると主張すると、僕の保護権が”タケミチ”を指名手配したことにより失われていると、メトロノ国側に反論されることを恐れたのだろう。
 メトロノ国側は、召還者以外の勇者は勇者・勇女保護協定に含まれないと主張したのだが、協定にそのような例外条文は無いと反論されて、国家連合の使者に押し切られてしまった。
 僕としても、自分をタケミチと主張する選択肢はあった。
 そうすれば状況が逆転するのは解っていたのだが、国家連合から期待されている種馬としての役割と、マルカートの犬歯に怯えて暮らす将来とを天秤に掛け、沈黙すると言う選択肢を選んだ。
 それに、聖都へ行けばハルさんや明美達と再び会える可能性がある。

 僕は、頬が緩みそうになるのを必死で堪え、悲しそうな顔を繕って、マルカートに別れを告げた。

「物凄く悲しくて、心が張り裂けそうだよ。でもこれも運命だから、悲しまないでおくれ、マルカート」
「勇者様、私も聖都の魔法学院の生徒ですから、これからもずっと一緒です」

 えっ?
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