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ツギノ町編 第二章 色んなやつら、襲来
特殊なマタタビをあげるとすぐに懐いてくれました
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「「かんぱ~い!!」」
初めてのクエストを達成した日の夜。
私は部屋を借りている宿の一階にある酒場でお祝いをしてもらっていた。
気持ちだけでも嬉しいのに、代金までジン君が持ってくれるみたい。
最初こそお金の方は遠慮したものの、結局はお言葉に甘える事にしちゃった。
ジン君にごり押しされたのもあるけど、やっぱり初めてのクエスト達成をお祝いしてもらえるのが嬉しかったから。
何だかジン君に助けてもらってばっかりだなあ……。
「遠慮せずにじゃんじゃん食えよ!」
「うん、ありがとう」
私にそう促しながら、自分でもじゃんじゃん食べるジン君。
すごくよく食べるしいかにも男の子って感じ。
ジン君は鶏の丸焼きやパン、私はシチューにアップルパイ。
料金はいくらくらいになるんだろ……。
そんな事を考えていると、ジン君が話しかけて来た。
「ティナは、明日やりたい事とかあるのか?」
「う~ん……装備を整えたいかなあ。そろそろゴブリンに勝てる様になりたいし」
「そうか。じゃあ約束通りこんぼうはプレゼントするから、浮いた金で防具を買うといいかもな」
「本当にいいの?」
そう聞きながらも心は踊っていた。
昨日も装備に金は惜しむな……なんてちょっと怒られたばっかりだし。
遠慮なくこんぼうを受け取る方針で心は固まっている。
それに、そろそろ新しい服とか欲しいな~何て思っていたから。
防具だから服とはちょっと違うんだけど……それでもやっぱり嬉しい。
買うならたびびとのふくだけど、色んなお店を周って見てみたいな。
「もちろん」
「ありがとう」
お礼を言うと、ジン君はそっぽを向いた。
こういう堅苦しいのは苦手なのかもしれない。
感謝の気持ちだけはちゃんと伝えたいんだけど、難しいな……。
話題を切り替えてみよう。
「ねえねえ、今日のわんちゃんすごく可愛かったよね」
「ん? ああ……そうだな」
「また会いたいな。ああいうモンスターってどこに行ったらいるの?」
食事をする動きが鈍くなり、何かを考える様に視線を躍らせるジン君。
あの種類のわんちゃんの事を前から知っていたみたいだし、色々と思い出そうとしてくれているのかもしれない。
「ど、どうだろうな……。本来はレベルの高いモンスターだからな、しばらくティナは会えないと思う。あの時はたまたまあそこにいただけだろ」
私は顎に指を当てて、今日の出来事を思い出してみる。
たしかに……威嚇に爆発系の魔法を使う程だもんね……。
「そっか、残念だなぁ……。じゃあまたあの子たちに会うためにも、早くレベルを上げなくっちゃね」
両腕でガッツポーズを作ってそう言うと、ジン君も笑い返してくれた。
「そうだその意気だぞ! きっとあいつらもティナを待ってるさ」
「ふふふ、それまでにマタタビもたくさん用意しておかなきゃ」
「お、おうそうだな……」
ジン君の表情は少し強張っている様に見える。
マタタビがあまり好きじゃないのかな……?
そう思う私を余所に、ジン君が気を取り直した様に口を開く。
「じゃあ明日は朝から武器や防具を買いに行って……午後からはまたクエストにでも行くか」
「うん、そうしよ!」
それから私たちは満腹になって動けなくなるまでご飯を食べた。
食事が終わると、それぞれの部屋に引き上げる。
ジン君は食べ過ぎたみたいで、苦しそうな顔をしながら歩いているのが少しおかしかった。
お風呂に入って、また部屋に戻りベッドに寝転んだ。
今日も一杯楽しい事があったな……。
そうだ、日記を書いておかなきゃ。
私はベッドから降りると、鞄の中から日記帳を取り出した。
それを持って備え付けの机に向かう。
机の上に日記帳を広げて右手に羽根ペンを持つ。
羽根の部分で自分の頬を突きながら、今日の出来事を頭の中で反芻した。
それらを一つずつゆっくりと、噛みしめる様に書き込んでいく。
「冒険者生活二日目:今日は何と、冒険者登録をしました。登録を済ませると貰える冒険者カードには色んな使い道があるそうです。その内の一つが自分のステータスを表示させるってものだったんだけど……私のステータスはまだどれも低いので残念な気持ちになりました。でも、ジン君が『最初は誰だってそうだよ』と励ましてくれました」
その言葉をくれた時のジン君の顔を思い出す。
穏やかで優しい微笑みを浮かべてくれていた。
「それから初めてのパーティーを結成して、クエストを受けました。薬草採取のクエストです。街を出る前に、ジン君から倉庫と銀行の使い方を教えてもらったのですが、私はお金もアイテムもあまり持っていないので、しばらく使う事はなさそうです」
そう言えば、ジン君が倉庫に預けたあの大きな剣……。
お父さんの形見だって言ってたな。
いつかジン君のお父さんの話なんかも聞いてみたいけど……。
もう亡くなってる人の事って、聞きづらいよね。
「街の外に出て、ゴブリンを狩る冒険者の人たちを眺めながら薬草が生えている場所に向かいました。そこでスライムを倒しながら薬草を集めていると、可愛い犬の赤ちゃんが歩いて来ました。ジン君と一緒にその子の親を見付けたのですが、見た目が怖いので最初はびっくりしました」
最初はわんちゃん、って言うより地獄の番犬って感じだったかな。
すぐに誤解だってわかったけど。
やっぱり人間も動物も、見た目で判断するのは良くないよね。
「でも怖いのは見た目だけでした。ジン君に言われた通り、他とは見た目の違う少し特殊なマタタビをあげるとすぐに懐いてくれました。それからは可愛い犬の親子と一緒に遊びながら楽しく薬草を集めました」
さっきもジン君と言ってたけど……。
またあのわんちゃんたちに会えるといいな。
「街に帰ると、ジン君が初めてのクエスト達成をお祝いしてくれました。ジン君は本当によく食べます。明日も装備を整えてからクエストに行く予定なので楽しみです。おしまい」
そこまで書くと私は日記帳を閉じて羽根ペンを置いた。
ペンが机に当たって、こつり、という音が静かな部屋に響く。
立ち上がって窓際まで歩いて外を眺めた。
夜の帳が下りて人気もなくなった街には灯りもなく、月明かりだけがかろうじてその輪郭を朧《おぼろ》げに映し出している。
でもその上では、宝石の様に輝く星たちが街の空一杯に敷き詰められていた。
綺麗……。
と、思わずベタな台詞を呟いてしまいそうな光景に目を奪われていると。
夜空を一瞬で駆け抜けては消える、一筋の光。
流れ星がツギノ町の空に現れたのだ。
ほんの一瞬の出来事だったからお願い事なんかも出来なかったけれど。
見れた事が嬉しくて、誰かにその気持ちを伝えたい衝動に駆られる。
気付けば私は走り出していた。
扉を押し飛ばす様に開けて、隣のジン君の部屋の前に立つ。
慌てて扉をノックすると、返事もまたずに乱暴に部屋に入った。
「ねえねえジンく……!!」
そこまで言ったところで止まってしまった。
ジン君が、既にベッドに横たわって眠りについていたからだ。
私はそこで我に返り、ゆっくりとベッドの方に歩いて行く。
ベッドの側まで来ると、音を立てないようにそっとベッドに腰をかけた。
身体を少し捻って振り向く体勢でジン君の顔を覗き込んだ。
いびきをかいて豪快に眠っている。
とっても気持ちよさそうな寝顔だった。
突然現れた、まだまだ謎な部分も多い男の子。
でも不思議と私は、この人から不信感や怖さは一切感じなかった。
だから知り合ったばかりなのにこうして一緒にいるのかもしれない……。
ジン君の寝顔を見つめる自分の顔が微笑むのを感じる。
「これからも、よろしくね」
気付けば私は、小声でそんな事を呟いていた。
初めてのクエストを達成した日の夜。
私は部屋を借りている宿の一階にある酒場でお祝いをしてもらっていた。
気持ちだけでも嬉しいのに、代金までジン君が持ってくれるみたい。
最初こそお金の方は遠慮したものの、結局はお言葉に甘える事にしちゃった。
ジン君にごり押しされたのもあるけど、やっぱり初めてのクエスト達成をお祝いしてもらえるのが嬉しかったから。
何だかジン君に助けてもらってばっかりだなあ……。
「遠慮せずにじゃんじゃん食えよ!」
「うん、ありがとう」
私にそう促しながら、自分でもじゃんじゃん食べるジン君。
すごくよく食べるしいかにも男の子って感じ。
ジン君は鶏の丸焼きやパン、私はシチューにアップルパイ。
料金はいくらくらいになるんだろ……。
そんな事を考えていると、ジン君が話しかけて来た。
「ティナは、明日やりたい事とかあるのか?」
「う~ん……装備を整えたいかなあ。そろそろゴブリンに勝てる様になりたいし」
「そうか。じゃあ約束通りこんぼうはプレゼントするから、浮いた金で防具を買うといいかもな」
「本当にいいの?」
そう聞きながらも心は踊っていた。
昨日も装備に金は惜しむな……なんてちょっと怒られたばっかりだし。
遠慮なくこんぼうを受け取る方針で心は固まっている。
それに、そろそろ新しい服とか欲しいな~何て思っていたから。
防具だから服とはちょっと違うんだけど……それでもやっぱり嬉しい。
買うならたびびとのふくだけど、色んなお店を周って見てみたいな。
「もちろん」
「ありがとう」
お礼を言うと、ジン君はそっぽを向いた。
こういう堅苦しいのは苦手なのかもしれない。
感謝の気持ちだけはちゃんと伝えたいんだけど、難しいな……。
話題を切り替えてみよう。
「ねえねえ、今日のわんちゃんすごく可愛かったよね」
「ん? ああ……そうだな」
「また会いたいな。ああいうモンスターってどこに行ったらいるの?」
食事をする動きが鈍くなり、何かを考える様に視線を躍らせるジン君。
あの種類のわんちゃんの事を前から知っていたみたいだし、色々と思い出そうとしてくれているのかもしれない。
「ど、どうだろうな……。本来はレベルの高いモンスターだからな、しばらくティナは会えないと思う。あの時はたまたまあそこにいただけだろ」
私は顎に指を当てて、今日の出来事を思い出してみる。
たしかに……威嚇に爆発系の魔法を使う程だもんね……。
「そっか、残念だなぁ……。じゃあまたあの子たちに会うためにも、早くレベルを上げなくっちゃね」
両腕でガッツポーズを作ってそう言うと、ジン君も笑い返してくれた。
「そうだその意気だぞ! きっとあいつらもティナを待ってるさ」
「ふふふ、それまでにマタタビもたくさん用意しておかなきゃ」
「お、おうそうだな……」
ジン君の表情は少し強張っている様に見える。
マタタビがあまり好きじゃないのかな……?
そう思う私を余所に、ジン君が気を取り直した様に口を開く。
「じゃあ明日は朝から武器や防具を買いに行って……午後からはまたクエストにでも行くか」
「うん、そうしよ!」
それから私たちは満腹になって動けなくなるまでご飯を食べた。
食事が終わると、それぞれの部屋に引き上げる。
ジン君は食べ過ぎたみたいで、苦しそうな顔をしながら歩いているのが少しおかしかった。
お風呂に入って、また部屋に戻りベッドに寝転んだ。
今日も一杯楽しい事があったな……。
そうだ、日記を書いておかなきゃ。
私はベッドから降りると、鞄の中から日記帳を取り出した。
それを持って備え付けの机に向かう。
机の上に日記帳を広げて右手に羽根ペンを持つ。
羽根の部分で自分の頬を突きながら、今日の出来事を頭の中で反芻した。
それらを一つずつゆっくりと、噛みしめる様に書き込んでいく。
「冒険者生活二日目:今日は何と、冒険者登録をしました。登録を済ませると貰える冒険者カードには色んな使い道があるそうです。その内の一つが自分のステータスを表示させるってものだったんだけど……私のステータスはまだどれも低いので残念な気持ちになりました。でも、ジン君が『最初は誰だってそうだよ』と励ましてくれました」
その言葉をくれた時のジン君の顔を思い出す。
穏やかで優しい微笑みを浮かべてくれていた。
「それから初めてのパーティーを結成して、クエストを受けました。薬草採取のクエストです。街を出る前に、ジン君から倉庫と銀行の使い方を教えてもらったのですが、私はお金もアイテムもあまり持っていないので、しばらく使う事はなさそうです」
そう言えば、ジン君が倉庫に預けたあの大きな剣……。
お父さんの形見だって言ってたな。
いつかジン君のお父さんの話なんかも聞いてみたいけど……。
もう亡くなってる人の事って、聞きづらいよね。
「街の外に出て、ゴブリンを狩る冒険者の人たちを眺めながら薬草が生えている場所に向かいました。そこでスライムを倒しながら薬草を集めていると、可愛い犬の赤ちゃんが歩いて来ました。ジン君と一緒にその子の親を見付けたのですが、見た目が怖いので最初はびっくりしました」
最初はわんちゃん、って言うより地獄の番犬って感じだったかな。
すぐに誤解だってわかったけど。
やっぱり人間も動物も、見た目で判断するのは良くないよね。
「でも怖いのは見た目だけでした。ジン君に言われた通り、他とは見た目の違う少し特殊なマタタビをあげるとすぐに懐いてくれました。それからは可愛い犬の親子と一緒に遊びながら楽しく薬草を集めました」
さっきもジン君と言ってたけど……。
またあのわんちゃんたちに会えるといいな。
「街に帰ると、ジン君が初めてのクエスト達成をお祝いしてくれました。ジン君は本当によく食べます。明日も装備を整えてからクエストに行く予定なので楽しみです。おしまい」
そこまで書くと私は日記帳を閉じて羽根ペンを置いた。
ペンが机に当たって、こつり、という音が静かな部屋に響く。
立ち上がって窓際まで歩いて外を眺めた。
夜の帳が下りて人気もなくなった街には灯りもなく、月明かりだけがかろうじてその輪郭を朧《おぼろ》げに映し出している。
でもその上では、宝石の様に輝く星たちが街の空一杯に敷き詰められていた。
綺麗……。
と、思わずベタな台詞を呟いてしまいそうな光景に目を奪われていると。
夜空を一瞬で駆け抜けては消える、一筋の光。
流れ星がツギノ町の空に現れたのだ。
ほんの一瞬の出来事だったからお願い事なんかも出来なかったけれど。
見れた事が嬉しくて、誰かにその気持ちを伝えたい衝動に駆られる。
気付けば私は走り出していた。
扉を押し飛ばす様に開けて、隣のジン君の部屋の前に立つ。
慌てて扉をノックすると、返事もまたずに乱暴に部屋に入った。
「ねえねえジンく……!!」
そこまで言ったところで止まってしまった。
ジン君が、既にベッドに横たわって眠りについていたからだ。
私はそこで我に返り、ゆっくりとベッドの方に歩いて行く。
ベッドの側まで来ると、音を立てないようにそっとベッドに腰をかけた。
身体を少し捻って振り向く体勢でジン君の顔を覗き込んだ。
いびきをかいて豪快に眠っている。
とっても気持ちよさそうな寝顔だった。
突然現れた、まだまだ謎な部分も多い男の子。
でも不思議と私は、この人から不信感や怖さは一切感じなかった。
だから知り合ったばかりなのにこうして一緒にいるのかもしれない……。
ジン君の寝顔を見つめる自分の顔が微笑むのを感じる。
「これからも、よろしくね」
気付けば私は、小声でそんな事を呟いていた。
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