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新たな魔王の誕生だ

ダークエルフ村の娘たちよ

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 すっかりルネがジンを気に入ってしまったのですぐ帰ってもらうのもどうかと思い、そのまま皆でイベント会場まで遊びに来た。

 ちなみにこの「萌え萌え大運動会」会場予定地にはまだ名前がないのでテレポートを使って飛んでくることは出来ない。テレポートが使える基準はそれだけじゃないらしいけど。

 当然ながら俺たち以外の人は会場の設営やイベントの準備の為に右往左往していて忙しそうだ。

 とりあえずみんなにはその辺で遊んでもらってルネとの親睦を深めてもらいながら、俺はエレナを手伝うことにした。

「ようエレナ、何か手伝えることはあるか?」
「ヒデオ様……いえ、手伝っていただくことなんて……あ、そういえば村長が挨拶をしたいと……」
「村長か。そういえば会ってなかったな……今どこにいるんだ?」
「それが、その、多分なんですけど……サフランさんの、お店に……」
「は?何で?」

 サフランの店、というのはルミナスという人間の街にあるキャバクラだかスナックだかみたいなお店のことだ。

「えと、何でというか……そういうのが、好きな人なので……」
「…………」

 数分後。

「ふふ、この可愛いおじいさま、エルフなのは知ってたけど、まさかダークエルフでしかも村長様だったなんてねえ……」
「面目ないですじゃ……」
「本当にな……サフランの店に行ってくれるのはそりゃ悪い事じゃないんだけど、時と場合を考えないとな」
「英雄さんはむしろもっとサフランさんのお店に行くべきだと思います!」
「ソフィア……お前は静かにしてなさい」

 俺はルミナスまでサフランに事情を話し、このスケベじじいを強引に連れ戻して来た。村長は皆から説教をされて正座をしながらへこんでいる。

 ちなみに、ルミナスは以前サフランに連れて行ってもらったことがあるから俺はテレポートで行けるし、敵意さえ出さずにローブで顔を隠せば俺が魔王だとばれることもない。念の為隠ぺい効果付きのローブを着て行ったけど。

 店にさえ入ってしまえばあそこは店員がサキュバスなこともあり、客同士のあらゆる揉め事が禁じられている。

 あそこは男たちが楽しくお酒を飲みながらサキュバスとお喋りをするお店。
 外でのどんないさかいをも忘れ、皆笑顔で仲良く手を取り合う。

 そう、日本でいう戦国時代の茶室の様な場所なのだ。
 随分と下心にまみれた茶室だけど。

「まあ、さんざんな出会いにはなったけど……俺が新しい魔王のヒデオだ。よろしくな村長」
「私は魔王を育てる暗黒の精霊、ソフィアと申します!」
「ははっ……よろしくお願いしますじゃ」
「それじゃ私はお店に戻るわね」
「ああ、突然で悪かったなサフラン」
「ほっほっほ。サフランちゃん、また明日の~!」

 このじいさん懲りてねえな……。

 それから村長とは世間話やらサンハイム森本でのエレナの様子なんかを話しながら過ごしていたんだけど、突然ダークエルフの男がやってきて村長に何やら相談事をしている様子。

「ふむふむ、わかったわい。何とかするから少し待っておれ」

 村長の返事を聞くと頷き、男は設営に戻って行った。

「どうしたんだ?」
「いやはや恥ずかしいお話、計画にミスがあったようですじゃ。今のプログラムに使う時間を計算しなおしたところ、予定よりもかなり早く終わってしまいそうなのだとか……」
「そりゃ問題だな」

 まあ、こういう催しものは初めてなんだろうし、そういうミスもあるんだろう。

「プログラムとかって見せてもらえるのか?」
「はい、もちろん……用意させますので少々お待ちを……」

 村長は近くにいた村人に声をかけてプログラムが書かれた紙を持ってこさせた。
 プログラムをざっと眺めてみたけど、どういうわけか日本の運動会とそう大差がない。これもチート系主人公が伝えたのだろうか。

 とはいえ、確かに村長が言った通りボリューム不足感があるのはぱっと見でもわかるくらいだった。ソフィアも横から覗き込んでいる。

「ほとんどがかけっこみたいな走る系のやつなんですね!」
「これじゃ昼過ぎくらいには全部終わりそうだな。昼休憩を長くするのにも限度があるだろうし」
「そうなのです……それにプログラムも皆で案を出し合って出し合って、ようやくこの数です。これから新しいアイディアを出すのも難しいですじゃ」
「う~ん……」

 プログラムを眺めているけど、あまり俺もいい案は浮かびそうになかった。
 でも、ふと思ったことがある。

「なあ村長……これ、メイド喫茶の出店とかはないのか?」

 別にそんな変な事を聞いたつもりはなかったんだけど、村長は何を言っているのかわからないという顔をして。

「はて……メイド喫茶とは何でしょうか?」
「えっ……」
「えっ……」

 そんな事を言い出した。
 俺と村長は思わず顔を見合わせ、お互いに間の抜けた顔になってしまう。

 メイド喫茶のメニューやそこで働く店員さんの名物的な行動は伝わってるのに、メイド喫茶の存在自体が伝わってないなんてことはあるんだろうか。

 まあ、それを伝えたチート系にとって重要なのがメイド喫茶よりもオムライスにケチャップをかけてもらうことだったのならあり得る話か……?メイド喫茶が何かを説明するのも難しいだろうしな。

 そもそもメイドくらいならこの世界にも元からいた可能性は高い。

 お前はどう思う?の視線をソフィアに送ってみる。
 おっさん女神は、メイド服で短距離走の練習をする美女エルフたちを半端ねえ、みたいな顔で眺めていた。

「おいおっさん」
「…………えっ、えっ?私ですか?ひどいです!おっさんなんて!」
「女の子を見る目が俺以上におっさんだろうが……」
「英雄さんが子供過ぎるんです!魔王たるもの、もっと私みたいにいやらしい目で女の子を見てください!」
「いやらしい目で見てることを認めたな」

 まあとにかく、どうやらこの世界にはメイド喫茶という文化は伝わっていないらしい。でも、伝わってないのなら伝えればいいだけの話だ。

「村長、ちょっと提案があるんだけど……」



 数分後、俺の前にはメイド服を着たエレナがいた。

 俺は全てのプログラムが終了した後に、会場を使ってのメイド喫茶出店を勧めてみた。

 最初はメイド喫茶が何かわからない村長の反応は鈍かったけど、どういうものか教えてやると途端に顔を輝かせて賛成してくれた。

 よくよく考えてみればこんなイベントを企画するくらいなんだから村長がメイドさん好きなことはわかりきっている。まあ、そのイベントを準備している時にサフランの店に行くんだからどうしようもない。

 プログラム全体としての時間は延ばせないものの、終了後にメイド喫茶を出店すればイベント全体としての時間が短すぎる問題は解決するはず。

 というわけで早速エレナを呼び出してメイド喫茶の概要を伝えてみているというわけだ。

「で、客が来たら『お帰りなさいませご主人様』って言うんだ」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですね……」
「じゃあ早速英雄さんに言ってみてください!早く早く!」
「ソフィア、お前何でそんなテンション高いんだよ……急かすな」

 まあそう言う俺もすごくセクハラしてる気がして段々申し訳なくなって来た……というかもう日本ならセクハラだよなこれ。

「お、お帰りなさいませ、ご主人様……」
「くう~っ!たまらないです!1000点っ!」
「それ何点満点なんだよ、ていうか何の点数だ」

 段々ソフィアを喜ばせるためだけにやっているよう気がしてきたので、一旦エレナに他の女の子たちを連れて来てもらう。

 エレナから女の子たちにメイド喫茶の概要を説明してもらったところ、反応は様々だった。主にノリノリな子と嫌々な子の二つに分かれている。この辺りは高校の文化祭で出し物を決めるHRと似た様なものか。

「エレナ、どうだろう……みんなやってくれそうか?」
「はい、全員じゃないですけど……お店をやるくらいの人数は確保出来そうです、でも……」
「何か問題があるのか?」
「その、メイド喫茶では、支援魔法が大事なんですよね……?あれはお絵かきが出来る子じゃないと難しいかと……」

 エレナの言う支援魔法とは、「萌え萌えきゅん」とか言いながらケチャップでオムライスにお絵かきをするアレのことだ。

 たしかにアレは普通にペンとかを使ってお絵かきをするのとはわけが違うし、絵が苦手な子がうまくやることは難しいだろう。

 正直、個人的にはアレに絵のうまさとかは関係ない気もするんだけど……俺は日本にいる時もメイド喫茶には行ったことがないから、その辺はわからない。可愛い絵が描けるに越したことはないと思うけど。

 とりあえずは一度ダークエルフの女性陣で挨拶の練習をすることになり、その後なぜか俺を客と想定しての実践練習?が始まった。

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」
「…………」

 大勢のメイド服を着たダークエルフの女の子たちにそんなことを言われる俺。
 どうしよう……これ、めちゃめちゃ恥ずかしい……。

「おひょひょ、ええのうええのう」
「村長いつの間に来たんだ」
「英雄さんどうですか!?感想は!」
「何でソフィアが聞いて来るんだよ……いや、みんなちゃんと出来てると思うよ」

 そういうとエルフ娘たちは安心した様な表情を浮かべる。

「挨拶はもういい感じだからさ、ケチャップで絵を描く練習をしたらいいんじゃないか?あれも大事だと思うし」

 大事かどうかは知らないけど、この恥ずかしい状況をどうにかしたくて俺はとっさにそう言ってみた。すると特にエルフ娘たちは反対することもなく、エレナの引率でスムーズに絵を描く練習へと移って行った。

「ふう、助かった……それじゃ一旦ルーンガルドの様子を見に戻るかな」

 帰りがけ、ルーンガルド組とルネに声をかけていくことにする。

「それじゃ俺は一旦帰るから。ルネ、また遊ぼうな」
「え~っ!ひでおにいちゃん帰っちゃうの!?もっと遊ぼうよ!」
「また来るから……ていうかお前は姉ちゃんたちと一緒に練習とかしなくていいのか?」
「私はまだ小さいから出る種目が少ないんだよ!だから別練習!」
「そっかそっか、じゃまたすぐに来るからな」
「ふふっ、英雄さん、すっかりルネちゃんと仲良しですね!」

 不満顔のルネの頭を撫でてから、俺はテレポートでルーンガルドに戻った。
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