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槇島城の戦い~高屋城の戦い
エピローグ:織田弾正忠プニ長
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その後、俺たちと六助は安土城へ帰還し、明智は備中高松城にて秀吉と合流。毛利との同盟を結ぶことに成功した。
同盟とは言っても降伏させたのに近く、人質も差し出させている。実質的に傘下に収めたような形だ。
四国方面は、まず土佐国の長宗我部氏と争い苦戦していた、十河存保を味方につけた。それから、丹羽を中心とした四国方面軍を結成して長宗我部元親・信親親子との決戦に臨む。
終始苦戦させられたものの、最終的には大量のお母さんを送り込むという数の暴力で勝利を収めた。
すでに関東の北条氏や、奥羽の伊達氏などを始めとした各地方の大名も織田家に恭順の意を示していて、北陸の上杉氏なども柴田が制圧した。これで、後は九州さえ手中に収めれば天下統一ということになる。
その九州もすでに大友氏を味方につけているので、平定は時間の問題だろう。龍造寺氏を倒し、一大勢力となった島津氏は手強いと聞くが、お母さんの数において圧倒的な織田家にもはや敵などいない。
うん。こうやって自然と訳の分からないことを口に出来る辺り、俺もこの世界に来た頃と比べて随分と成長したものだと思う。いや、退化したのか?
そして、秀吉を総大将とした九州平定戦が始まる、その数日前。安土城にとある人物が訪れた。
「プニ長様」
「キュ(ん)」
「六助殿が参られましたよ」
いつの間にか昼寝をしてしまっていた俺の身体を優しく揺らしつつ、起こしてくれた鈴の鳴るような声の主は、帰蝶。
俺のお嫁さんにして、この世で一番大切な人だ。
「お目覚めになられましたか?」
襖の向こうから聞こえる声の主は、司寿六助。正式名称は司寿盛り盛りの玉子焼きがどうのこうのでなんちゃら。
いつも俺の側にいる、子供っぽくて、おバカで、モテない男。けど、意外と頭が良くて、真面目で、頑張り屋さんで、どこか憎めない。そしていざという時は頼りになる男でもある。
「キュ(眠い)」
「どうぞお入りになってください」
がらりと襖が開き、見慣れたおっさんの顔が現れた。
「おお。これはまた、寝起きのお顔もいと尊しですな」
「本当に」
ふふっ、と帰蝶が笑う。
「気持ちよくお昼寝をされていたところ、誠に申し訳ございません」
「キュン(全くだ)」
「本日は如何されたのですか?」
六助の様子からして、急な用件ではないのだろう。帰蝶が世間話でもするように笑顔で尋ねた。
「家康殿が、こちらに直接参られております」
「まあ。どうしてまた今日に」
「私もまだ詳細は伺っておりませんので、何とも。プニ長様に助言して差し上げたいことがあると仰っていましたが」
天下統一が目前に迫っているというのに、一体何を助言してくれるというのだろうか。まあ、家康ならそう悪い話じゃないとは思うけど。
「ひとまずお入りいただきましょう」
そう言って、六助が座ったまま身体を背後に向けると、何者かの手によって襖がすすっと開き、爽やか笑顔のイケメンが現れる。そこにいたんなら六助と一緒に入って来いよと思わないでもないけど、気にしないでおこう。
「ご無沙汰しております」
「本能寺の変以来になりますかな」
「ええ。その後、各地での調査や家内での軍議に忙殺されておりまして」
会話をしながら、家康は部屋に入って六助の隣に腰かける。その背後からはこっそり半蔵もついてきて、襖を静かに閉めた後、家康の斜め後ろくらいに座って待機モードに入った。さっき襖を開けたのはこいつか。
「調査や軍議、ですか?」
「はい」
この時期に、しかも徳川単独で、何をしようとしているのか、と。
六助が不思議そうに問うと、家康はそれを待っていたと言わんばかりににやりと微笑んだ。
「差し出がましいかとは存じますが、天下統一のその後を考え、プニ長様にご提案をと考えました」
「その後……一つになった日の本を、如何にして治めるか、ということですか?」
「正に」
「なるほど。さすがは家康殿ですな」
たしかに、今は天下統一事業に手一杯で、そこまで配慮が行っていない。各々考えているところはあるだろうけど、それらは九州平定戦後の軍議にて出し合うことになっていた……と思われる。
その場その場で先を読み、何か自分に出来ることはないかと考える。家康らしい話だ。
「江戸に幕府を開くのがよろしいかと存じます」
家康はせっせと懐から地図を取り出し、それを床に広げた。
「すでに水路が整っており、人の集まる大坂も場所としては良いのですが、今後の日の本の発展を考慮した場合、地理的には江戸の方が良いでしょう」
「今後の日の本の発展と申しますと?」
「蝦夷の地です」
「なるほど」
「信長殿の頃より彼の地は未開拓であり、寒いが故に不毛の大地とされて来ましたが、広大ですからいくらでも可能性を秘めています。それこそ、冷害の時にでも育つような稲が見つかれば、一瞬にして米が大量に収穫できる楽園と化すでしょう」
蝦夷……聞いたことある名前だな。未開拓で寒いってことは、北海道かな? 広大って言ってるし。
六助は真剣な顔で一つうなずいた。
「日の本を統一したとなれば、次に目指すは領土の拡大……もっと言えば、更なる稲作地帯の確保ということですか」
「そういうことです。大坂からでは蝦夷はちと遠すぎますし、蝦夷を領土とした場合、この国の中心は地理的にも江戸になりますから」
「しかし、あそこは低湿地帯であまり人の住める場所ではなかったような気がするのですが」
「六助殿の御懸念はもっともです。ですが、あそこは数多もの川が走っていて海のも面していますので、水路を整備していけば見違えるほどに発展すると確信しております」
「その為の軍議と調査だった、というわけですか」
得心いった、とばかりに口角を上げる六助。
「そういうことです」
ふ~ん……織田信長の代わりである俺が生きているのに、結局江戸幕府は誕生するのか。
そういえば、ソフィアが言ってたな。あいつが俺たちと会話するくらいじゃ未来は変わらない的なことを。神様の手によって捻じ曲げられでもしない限り、どうやったって江戸幕府は誕生することになっているのかもしれない。
「しかし、江戸は家康殿の領有する地の一つでしょう。我々が頂くのは何だか申し訳ない気がします」
「それは構いません。プニ長様の為ですから」
「ありがとうございます。江戸の街が発展した暁には、プニ長様と家康殿を祀った像を造らせましょう」
「キュン(やめい)」
「では、これから仔細の方を……」
その後、六助と家康はどこか別の部屋に移動していった。
山頂の風が肌を撫でつつ颯爽と吹き抜けていく。初夏の色を帯びたそれは少しばかり湿っていながらも涼しく、優しい。
家康との会談後、俺と帰蝶は自室の縁側にて、城下町を二人で眺めていた。
時に笑顔でゆっくりと、時には忙しなく駆け足で行き交う人々。小さくびっしりと敷き詰められた民家の中に、突然現れる広い屋敷。
最初は新鮮だった街並みも、今ではすっかり見慣れてしまった。でも、今の方が大切で、何よりも愛しく感じられるから不思議だ。
帰蝶も俺の隣に立ち、同じ様にその景色を眺めながら話しかけてくる。
「プニ長様の領地に住んでいる人々は、皆あのように活気に溢れている、と聞き及んでおります」
「キュン? キュ、キュン(まじで? 俺、何もしてないんだけど)」
「日の本がプニ長様の下で一つになれば、不当に搾取されることなく、国に護られながら、皆が健やかに暮らせる時代が訪れるのでしょう」
まだ未来の話だけど、そう信じている。そんな目だ。
帰蝶はそこで俺を抱き上げてから問い掛けた。
「この国には、もう慣れましたか?」
俺がこの世界に転生してきてから、色んなことがあった。
「今のあなた様には、この景色が、どう映っていますか?」
前の世界よりも不便で、土埃が舞っていて、遊びも少ないけれど。でも、だからこそ皆が生気に満ち溢れて、輝いていて。
「そして、これからも私と一緒に、この景色を眺めてくださいますか?」
何より、大切な人と、家族と、仲間たちがいる。
そんな世界で、おバカで騒がしくて、楽しくて、かけがえのない毎日を、これからも過ごしていければと思う。
尻尾を振って、是非お願いします的な意志を示した。
「ありがとうございます」
はあ。この笑顔を見ただけで全部どうでもよくなるな。
まあ、元から俺はプニモフを差し出すだけだし、めんどくさいことは全部六助がやってくれるし……。天下統一を果たして合戦がなくなれば、帰蝶たんとの静かな余生が待っていることだろう。
笑顔で見つめ合う俺たち。幸せは永遠に……。
「プニ長様ぁ~!」
と、そんな憩いのひと時をぶち壊す、情けないおっさんの声が響き渡る。
ぶっちゃけかなりびびりつつも慌てて振り向くと、部屋の出入り口になる襖を勢いよく開けて、六助が入って来るところだった。
「キュ、キュン(どうした、そんなに慌てて)」
「如何されたのですか?」
「すいません、つい取り乱してしまいました……」
よく見れば後ろには、六助や秀吉、明智や柴田……と、その他重臣たちが勢ぞろいしていた。
いや、秀吉や明智はともかく、柴田やらは何してんだよ。お前らは別の方面軍持ってんだからさっさと領地経営に戻れよ。
ちなみに家康と半蔵もいる。さっき一緒に部屋を出て行ったのだから当然だ。
「皆様、もうすぐ九州平定戦ではないのですか? 合戦の準備など……」
「はい。その件に関しまして、ご説明致します」
六助は真剣な表情で頷きそう言って、一つ深呼吸をしてから座り込む。すると、ぞろぞろとおっさんたちも後に続いて部屋に入り、腰を下ろした。
普段は俺と帰蝶しか存在することのない素敵空間が、おっさんどもに汚染される瞬間だった。
「先程、せっかくなので家康殿も交えて、秀吉殿の屋敷で軍議を開いたのですが」
「キュキュンキュン(鍋パのノリで家康を軍議に入れるな)」
「その最中、半蔵殿の部下が屋敷を訪れ、島津氏に関する衝撃的な情報を届けてくださったのです」
「衝撃的な情報、と言いますと……」
「島津家は、織田家を凌ぐ戦力を保持しています」
「そんな戦力が島津家に?」
優しい帰蝶は、六助の話を真面目に聞いてあげている。
はいはい。もうわかってますよ。どうせ、島津は織田のそれをはるかに凌駕するお母さんの数を確保している、とかそんなオチだろ? 最近の合戦はお母さんの数で勝敗が決まることも多いからな。本当自分で言ってて意味わからんわ。
「はい。それは……」
しかし、続く六助の言葉は意外なものだった。
「お父さんです」
…………。
はあ。もう寝よ。
「プニ長様!? お待ちください! まだ報告は途中で……」
「プニ長様は早速、お父さんを打ち破る方法を思案してくださるのでしょう。続きは私が承ります」
縁側へ出て伏せた俺の意図を察し、帰蝶が引き留めてくれた。
「了解致しました。通常であれば、むしろお父さんはお母さんに弱い。ですが、島津氏が抱えているお父さんは、今の世にあるまじき亭主関白系統のお父さんばかりなのです」
「家庭では基本的に女性の方が強いですからねえ。うちの寧々も……」
「おいハゲネズミ。貴様の家庭の事情など今はどうでも良かろう」
「柴田殿は家庭をお持ちでないのですから理解出来ないでしょう」
「何だと? 貴様……」
「許せない! 女性に対して強く出る男性なんて、全てこの僕が討ち滅ぼしてあげるよ! よ~し!」
「お待ちください明智殿!」
服がびりびりと破れる音。ボルテージマックスモードになった明智を、誰かが止めようとしている。
「ぐわーっ!」「明智殿、それは自軍の将です! 内乱はおやめください!」
「いかん! 者ども出合え出合えー!」
「プニ長様の居室まで討ち滅ぼすのはお控え願います!」
ばきっ! どかん、めりめりっ! と、破壊の音色が場を支配している。
そして、次々に安土城で待機していた兵が流れ込み、明智と戦う音がそれに続いていった。
帰蝶がゆっくりと俺の隣へ移動し、そっと座る。そして、俺の背中を優しく撫でながら語りかけてくれた。
「ふふっ。まだしばらくは騒がしい日々が続きそうですね」
「キュン(ですね~)」
そう。俺はこれからもこいつらと、うるさいけれど愉快で楽しい日々を……これ以上過ごしたくはないので、さっさと天下統一してください。
転生したら戦国最強のチワワだった~プニプニ無双で天下統一~ ~完~
同盟とは言っても降伏させたのに近く、人質も差し出させている。実質的に傘下に収めたような形だ。
四国方面は、まず土佐国の長宗我部氏と争い苦戦していた、十河存保を味方につけた。それから、丹羽を中心とした四国方面軍を結成して長宗我部元親・信親親子との決戦に臨む。
終始苦戦させられたものの、最終的には大量のお母さんを送り込むという数の暴力で勝利を収めた。
すでに関東の北条氏や、奥羽の伊達氏などを始めとした各地方の大名も織田家に恭順の意を示していて、北陸の上杉氏なども柴田が制圧した。これで、後は九州さえ手中に収めれば天下統一ということになる。
その九州もすでに大友氏を味方につけているので、平定は時間の問題だろう。龍造寺氏を倒し、一大勢力となった島津氏は手強いと聞くが、お母さんの数において圧倒的な織田家にもはや敵などいない。
うん。こうやって自然と訳の分からないことを口に出来る辺り、俺もこの世界に来た頃と比べて随分と成長したものだと思う。いや、退化したのか?
そして、秀吉を総大将とした九州平定戦が始まる、その数日前。安土城にとある人物が訪れた。
「プニ長様」
「キュ(ん)」
「六助殿が参られましたよ」
いつの間にか昼寝をしてしまっていた俺の身体を優しく揺らしつつ、起こしてくれた鈴の鳴るような声の主は、帰蝶。
俺のお嫁さんにして、この世で一番大切な人だ。
「お目覚めになられましたか?」
襖の向こうから聞こえる声の主は、司寿六助。正式名称は司寿盛り盛りの玉子焼きがどうのこうのでなんちゃら。
いつも俺の側にいる、子供っぽくて、おバカで、モテない男。けど、意外と頭が良くて、真面目で、頑張り屋さんで、どこか憎めない。そしていざという時は頼りになる男でもある。
「キュ(眠い)」
「どうぞお入りになってください」
がらりと襖が開き、見慣れたおっさんの顔が現れた。
「おお。これはまた、寝起きのお顔もいと尊しですな」
「本当に」
ふふっ、と帰蝶が笑う。
「気持ちよくお昼寝をされていたところ、誠に申し訳ございません」
「キュン(全くだ)」
「本日は如何されたのですか?」
六助の様子からして、急な用件ではないのだろう。帰蝶が世間話でもするように笑顔で尋ねた。
「家康殿が、こちらに直接参られております」
「まあ。どうしてまた今日に」
「私もまだ詳細は伺っておりませんので、何とも。プニ長様に助言して差し上げたいことがあると仰っていましたが」
天下統一が目前に迫っているというのに、一体何を助言してくれるというのだろうか。まあ、家康ならそう悪い話じゃないとは思うけど。
「ひとまずお入りいただきましょう」
そう言って、六助が座ったまま身体を背後に向けると、何者かの手によって襖がすすっと開き、爽やか笑顔のイケメンが現れる。そこにいたんなら六助と一緒に入って来いよと思わないでもないけど、気にしないでおこう。
「ご無沙汰しております」
「本能寺の変以来になりますかな」
「ええ。その後、各地での調査や家内での軍議に忙殺されておりまして」
会話をしながら、家康は部屋に入って六助の隣に腰かける。その背後からはこっそり半蔵もついてきて、襖を静かに閉めた後、家康の斜め後ろくらいに座って待機モードに入った。さっき襖を開けたのはこいつか。
「調査や軍議、ですか?」
「はい」
この時期に、しかも徳川単独で、何をしようとしているのか、と。
六助が不思議そうに問うと、家康はそれを待っていたと言わんばかりににやりと微笑んだ。
「差し出がましいかとは存じますが、天下統一のその後を考え、プニ長様にご提案をと考えました」
「その後……一つになった日の本を、如何にして治めるか、ということですか?」
「正に」
「なるほど。さすがは家康殿ですな」
たしかに、今は天下統一事業に手一杯で、そこまで配慮が行っていない。各々考えているところはあるだろうけど、それらは九州平定戦後の軍議にて出し合うことになっていた……と思われる。
その場その場で先を読み、何か自分に出来ることはないかと考える。家康らしい話だ。
「江戸に幕府を開くのがよろしいかと存じます」
家康はせっせと懐から地図を取り出し、それを床に広げた。
「すでに水路が整っており、人の集まる大坂も場所としては良いのですが、今後の日の本の発展を考慮した場合、地理的には江戸の方が良いでしょう」
「今後の日の本の発展と申しますと?」
「蝦夷の地です」
「なるほど」
「信長殿の頃より彼の地は未開拓であり、寒いが故に不毛の大地とされて来ましたが、広大ですからいくらでも可能性を秘めています。それこそ、冷害の時にでも育つような稲が見つかれば、一瞬にして米が大量に収穫できる楽園と化すでしょう」
蝦夷……聞いたことある名前だな。未開拓で寒いってことは、北海道かな? 広大って言ってるし。
六助は真剣な顔で一つうなずいた。
「日の本を統一したとなれば、次に目指すは領土の拡大……もっと言えば、更なる稲作地帯の確保ということですか」
「そういうことです。大坂からでは蝦夷はちと遠すぎますし、蝦夷を領土とした場合、この国の中心は地理的にも江戸になりますから」
「しかし、あそこは低湿地帯であまり人の住める場所ではなかったような気がするのですが」
「六助殿の御懸念はもっともです。ですが、あそこは数多もの川が走っていて海のも面していますので、水路を整備していけば見違えるほどに発展すると確信しております」
「その為の軍議と調査だった、というわけですか」
得心いった、とばかりに口角を上げる六助。
「そういうことです」
ふ~ん……織田信長の代わりである俺が生きているのに、結局江戸幕府は誕生するのか。
そういえば、ソフィアが言ってたな。あいつが俺たちと会話するくらいじゃ未来は変わらない的なことを。神様の手によって捻じ曲げられでもしない限り、どうやったって江戸幕府は誕生することになっているのかもしれない。
「しかし、江戸は家康殿の領有する地の一つでしょう。我々が頂くのは何だか申し訳ない気がします」
「それは構いません。プニ長様の為ですから」
「ありがとうございます。江戸の街が発展した暁には、プニ長様と家康殿を祀った像を造らせましょう」
「キュン(やめい)」
「では、これから仔細の方を……」
その後、六助と家康はどこか別の部屋に移動していった。
山頂の風が肌を撫でつつ颯爽と吹き抜けていく。初夏の色を帯びたそれは少しばかり湿っていながらも涼しく、優しい。
家康との会談後、俺と帰蝶は自室の縁側にて、城下町を二人で眺めていた。
時に笑顔でゆっくりと、時には忙しなく駆け足で行き交う人々。小さくびっしりと敷き詰められた民家の中に、突然現れる広い屋敷。
最初は新鮮だった街並みも、今ではすっかり見慣れてしまった。でも、今の方が大切で、何よりも愛しく感じられるから不思議だ。
帰蝶も俺の隣に立ち、同じ様にその景色を眺めながら話しかけてくる。
「プニ長様の領地に住んでいる人々は、皆あのように活気に溢れている、と聞き及んでおります」
「キュン? キュ、キュン(まじで? 俺、何もしてないんだけど)」
「日の本がプニ長様の下で一つになれば、不当に搾取されることなく、国に護られながら、皆が健やかに暮らせる時代が訪れるのでしょう」
まだ未来の話だけど、そう信じている。そんな目だ。
帰蝶はそこで俺を抱き上げてから問い掛けた。
「この国には、もう慣れましたか?」
俺がこの世界に転生してきてから、色んなことがあった。
「今のあなた様には、この景色が、どう映っていますか?」
前の世界よりも不便で、土埃が舞っていて、遊びも少ないけれど。でも、だからこそ皆が生気に満ち溢れて、輝いていて。
「そして、これからも私と一緒に、この景色を眺めてくださいますか?」
何より、大切な人と、家族と、仲間たちがいる。
そんな世界で、おバカで騒がしくて、楽しくて、かけがえのない毎日を、これからも過ごしていければと思う。
尻尾を振って、是非お願いします的な意志を示した。
「ありがとうございます」
はあ。この笑顔を見ただけで全部どうでもよくなるな。
まあ、元から俺はプニモフを差し出すだけだし、めんどくさいことは全部六助がやってくれるし……。天下統一を果たして合戦がなくなれば、帰蝶たんとの静かな余生が待っていることだろう。
笑顔で見つめ合う俺たち。幸せは永遠に……。
「プニ長様ぁ~!」
と、そんな憩いのひと時をぶち壊す、情けないおっさんの声が響き渡る。
ぶっちゃけかなりびびりつつも慌てて振り向くと、部屋の出入り口になる襖を勢いよく開けて、六助が入って来るところだった。
「キュ、キュン(どうした、そんなに慌てて)」
「如何されたのですか?」
「すいません、つい取り乱してしまいました……」
よく見れば後ろには、六助や秀吉、明智や柴田……と、その他重臣たちが勢ぞろいしていた。
いや、秀吉や明智はともかく、柴田やらは何してんだよ。お前らは別の方面軍持ってんだからさっさと領地経営に戻れよ。
ちなみに家康と半蔵もいる。さっき一緒に部屋を出て行ったのだから当然だ。
「皆様、もうすぐ九州平定戦ではないのですか? 合戦の準備など……」
「はい。その件に関しまして、ご説明致します」
六助は真剣な表情で頷きそう言って、一つ深呼吸をしてから座り込む。すると、ぞろぞろとおっさんたちも後に続いて部屋に入り、腰を下ろした。
普段は俺と帰蝶しか存在することのない素敵空間が、おっさんどもに汚染される瞬間だった。
「先程、せっかくなので家康殿も交えて、秀吉殿の屋敷で軍議を開いたのですが」
「キュキュンキュン(鍋パのノリで家康を軍議に入れるな)」
「その最中、半蔵殿の部下が屋敷を訪れ、島津氏に関する衝撃的な情報を届けてくださったのです」
「衝撃的な情報、と言いますと……」
「島津家は、織田家を凌ぐ戦力を保持しています」
「そんな戦力が島津家に?」
優しい帰蝶は、六助の話を真面目に聞いてあげている。
はいはい。もうわかってますよ。どうせ、島津は織田のそれをはるかに凌駕するお母さんの数を確保している、とかそんなオチだろ? 最近の合戦はお母さんの数で勝敗が決まることも多いからな。本当自分で言ってて意味わからんわ。
「はい。それは……」
しかし、続く六助の言葉は意外なものだった。
「お父さんです」
…………。
はあ。もう寝よ。
「プニ長様!? お待ちください! まだ報告は途中で……」
「プニ長様は早速、お父さんを打ち破る方法を思案してくださるのでしょう。続きは私が承ります」
縁側へ出て伏せた俺の意図を察し、帰蝶が引き留めてくれた。
「了解致しました。通常であれば、むしろお父さんはお母さんに弱い。ですが、島津氏が抱えているお父さんは、今の世にあるまじき亭主関白系統のお父さんばかりなのです」
「家庭では基本的に女性の方が強いですからねえ。うちの寧々も……」
「おいハゲネズミ。貴様の家庭の事情など今はどうでも良かろう」
「柴田殿は家庭をお持ちでないのですから理解出来ないでしょう」
「何だと? 貴様……」
「許せない! 女性に対して強く出る男性なんて、全てこの僕が討ち滅ぼしてあげるよ! よ~し!」
「お待ちください明智殿!」
服がびりびりと破れる音。ボルテージマックスモードになった明智を、誰かが止めようとしている。
「ぐわーっ!」「明智殿、それは自軍の将です! 内乱はおやめください!」
「いかん! 者ども出合え出合えー!」
「プニ長様の居室まで討ち滅ぼすのはお控え願います!」
ばきっ! どかん、めりめりっ! と、破壊の音色が場を支配している。
そして、次々に安土城で待機していた兵が流れ込み、明智と戦う音がそれに続いていった。
帰蝶がゆっくりと俺の隣へ移動し、そっと座る。そして、俺の背中を優しく撫でながら語りかけてくれた。
「ふふっ。まだしばらくは騒がしい日々が続きそうですね」
「キュン(ですね~)」
そう。俺はこれからもこいつらと、うるさいけれど愉快で楽しい日々を……これ以上過ごしたくはないので、さっさと天下統一してください。
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
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ギャグに振り切ってる感じ好き、