転生したら戦国最強のチワワだった~プニプニ無双で天下統一~

偽モスコ先生

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槇島城の戦い~高屋城の戦い

戦国の世で

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「あなた様と死ぬことが出来るのなら、それが本望であると」

 もちろん、「俺が死んでも、この子には幸せに長生きをして欲しい」という、ここに来るまでの願いは今もある。けど、人の感情は複雑だ。それとは別に、大切な人と共に最期を迎えることを、嬉しく思ってしまう自分もいた。
 また一つ、近くで柱の燃え落ちる音が響く中、帰蝶は優しい、けど泣き出しそうな声音で続ける。

「かねてより思っておりました。合戦の際に、私も共に戦場へ赴きたいと。叶わない望みだと知っていながらも、何時、どんな場所であってもあなた様と共に戦い、寝食を共にしたいと願っていたのです」

 女性が戦場に出ては行けないという決まりはないし、実際に女武者だっていないこともない。けど帰蝶はそれ以前に織田プニ長の正室として、清州城、美濃城、そして安土城を守らなければならなかった。
 城主が不在の間、代わりを務めるのはその正室なのだ。
 
 俺を抱く帰蝶の腕に、少しだけ力が込められた。

「そして、死ぬ時も」
「クゥン(帰蝶たん)」

 武士は勝つために戦い、そして戦場で散るのもまた本望とされている。その為、合戦へと向かう武士を送り出す際に、「無理はしないで」「死なないで」等という言葉を送ることは出来ない。
 この場だからこそ、帰蝶は今まで隠していた本音を、包み隠さずに話してくれている。

 周囲を覆う炎は更に激しさを増し、俺たちが飲み込まれるのも時間の問題だ。
 結局帰蝶を巻き込んでしまったのに、終わりが一緒で嬉しいだなんて、本当に俺は自己中心的な人間だな。

 俺を見下ろす帰蝶は、その口元にどこか幸せな微笑を湛えている。潤んだ瞳にはもう、余計なものは何一つ映っていなかった。
 言葉なんて必要ない。全てが隔絶された世界の中心で、俺たちの気持ちがゆっくりと溶け合っていくのを感じる。

 ああ、そうか。これが幸せか……。好きな人と一つになるって、えっちな意味じゃなかったんだな……。
 良い人生だったよ、ありがとう。的な意味を込めて、帰蝶の頬をペロペロした。

「ふふっ、ありがとうございます。こんな時でも、プニ長様はそのように尊いお顔をなさるのですね……」

 どさくさに紛れてペロペロも出来たし、もう思い残すことはない。願わくば、来世も帰蝶と一緒に。
 そんなことを思いながら安らかに目を閉じた…………。

 ……。

 ……。



「忍法、水遁の術」



「!?」

 と、そこで突然、どこかで聞いたことのあるおっさんの声が、俺の意識を現実に引き戻した。目を開けて声のした方を見れば、服部半蔵が短い竹の筒を持ちながら腕をクロスさせるポーズを取っている。

「服部殿!? どうしてこちらに」

 ここに、じゃなくてこちらに? まあ、時と場合によっては同じ意味だし今はそれどころじゃないか。
 次の瞬間に半蔵の腕が広げられると、遠心力によって、二本の竹筒から少量の水が飛び出てくる。それは、俺たちと半蔵の間にある炎の柱へとかかった。
 色々と驚きの連続だけど、お前「ニンニン……」以外の言葉を使えたのか、というのと、水遁の術って水中に隠れるやつじゃねえのかよ、というのが、取り急ぎ脳内に浮かんだツッコミだ。

 水が火に触れる。じゅわっ、という音を発しつつ、火はその勢いを急速に弱めていった……。
 ってんなわけあるか~い。

 あれくらいの量でこの火が消せたら火消はいらん。火消というのは、俺が前いた世界でいう消防士のことだ。
 相変わらずごうごうと燃え続ける炎を前に、半蔵は一瞬固まった後、一礼してから踵を返し、去っていった。

「ニンニン……!」

 いや、あいつまじで何しに来たんだ。っていうか、そもそもどうしてここにいたんだ。
 この文明レベルでは、ここから助かるのはどうやったって不可能だ。どうにかなるとすれば、神様仏様の力でも使うしかない。気持ちは嬉しいけど、自分の身の安全を最優先に考えて欲しい。

「半蔵殿、ちゃんと逃げられたのでしょうか」

 半蔵の登場でいい雰囲気も台無しになったな、と思っていると、帰蝶が半蔵の消えていった通路を眺めながらそうつぶやいた。
 こんな時でも他人の心配をするなんて、ほんまええ子やな。

「……」
「……(……)」

 あ、なんか普通に熱さも感じて来た……。
 さっきまでの幸せ気分はどこへやら。俺と、恐らくは帰蝶も完全に素に戻り、なし崩し的に、という最悪な死を迎えてしまいそうだ。まあ、こんな感じの方が俺たちらしいと言えばらしいのだろうか。
 俺と帰蝶は再び目を合わせ、そして目をつぶった。

 神様、どうか来世もこの子と……。

 ……。

 ……。



「やれやれ、本当に私は駄目な女神ですねえ」



「キュ? (えっ?)」「えっ」

 今度は、透き通った清流のような声に意識を引き戻される。
 腰にまで届こうかという長さの金髪に、宝石をはめ込んだような美しい碧眼。人間の手のひらに乗るほどの小さな身体には、淡い水色の羽衣を纏っていた。
 ソフィアだ。何故かここ最近全く姿を見せなかったソフィアが、俺たちの側に突如として出現したのだ。
 混乱の中、何かを考える間すら与えずに、ソフィアはどこからか取り出した、先端に五芒星のついた杖を振りかざした。

「えいっ!」

 すると、一瞬で俺たちを囲んでいた炎が消えていく。消火ではなく、本当に「消えた」という言い方がしっくりくる。
 それは、まるで写真加工アプリで悪戯をした画像のように、避難するのに必要な部分だけが不自然に切り取られていた。
 魔法のようなものを使い終えたソフィアは、後ろ手に杖を持つと、優しく微笑んでから言った。

「さあ、愛しき下界の者達よ。行きなさい」

 この時のソフィアは、俺の知らなかった、本物の女神の表情をしていて。

「ソフィア様……?」

 帰蝶のように、小さく口を開けて固まってしまうのも無理はなかった。
 女神様は、可愛らしく首を傾げて、悪戯っぽく笑う。

「あまり時間はありませんよ?」
「あっ」

 その一言で、俺と帰蝶が我に返った。急がなければ火の海に呑まれて、また逃げることが出来ない状況になってしまう。
 正門に向かって走り出し、帰蝶の方を振り返りながら叫ぶ。

「ワン! (行こう!)」
「はい!」

 礼を言う時間すらも惜しい。俺の声に応じた帰蝶は、側に置いていた薙刀を拾ってから後に続く。
 少し走ってから振り返ってみると、そこにもう女神様の姿はなかった。
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