転生したら戦国最強のチワワだった~プニプニ無双で天下統一~

偽モスコ先生

文字の大きさ
上 下
120 / 150
槇島城の戦い~高屋城の戦い

安土城完成

しおりを挟む
「わ~すご~い!」
「あれが、てんしゅでございますか?」
「きれい……」

 初、茶々、江が絢爛豪華と言うにふさわしい城内を見渡しながら、それぞれに言葉を発する。
 引っ越しの準備を済ませた俺たちは帰蝶の屋敷を引き払って旅立ち、近江の地、安土山にある安土城へとやってきた。もちろんモフ政や信ガルも一緒だ。信ガルは茶々の横に並び、モフ政は三姉妹の後ろをのんびりと歩いている。
 美濃から引っ越す際に子供たち――特に初――がだだをこねるかと思っていたけど、意外とそんなことはなかった。寂しさよりも、新しい街に住める楽しみやそこまでの旅路への期待といったものの方が勝ったらしい。
 実際、茶々はともかく、初と江はここに来るまでの道中大はしゃぎで、あのお市もさすがに疲れ果てたようだった。
 ちなみに美濃の屋敷は取り壊さずに残しておくらしい。あまり行くことはないかもしれないけど、あるとわかるだけで嬉しいものだ。

 子供たちやモフ政の更に後ろで、六階建てくらいの無駄に高い天守を遠めに眺めながら、帰蝶がぽつりとつぶやく。

「あそこに、今日からプニ長様が……」

 その横顔(正確には右斜め下顔)はどこか儚げだったけど、次の瞬間にこちらを振り向いた時には、もう笑顔になっていた。

「プニ長様、おめでとうございます」
「キュキュン(ありがとうございます)」

 今日から俺は天守で。帰蝶やお市、そして三姉妹らは本丸で生活することになるらしい。だから寂しいなと思っていたけど、帰蝶も同じように感じてくれていたのかもしれない……なんて気持ち悪いな、俺。
 自虐に走っていた思考に横やりが入る。

「あんな豪華な犬小屋なんて聞いたこともないわ」
「キュウンキュン(犬小屋ちゃうわ)」

 恐らくは天守のことだろう。お市はそのまま首を巡らせて、城内を通っている道を確認しながら言った。

「道もわかりやすいし、本当に住むために造られたのね」
「ほら、プニながさまもはやくいこっ!」

 そう言って、初がこちらに無邪気に走り寄るのを眺めていたら、突然ふわりと俺の身体が浮かび上がった。

「ごめんね、プニ長様は私と一緒に天守に行くの」
「え~! まあいっか」

 初に連れて行かれる前に、帰蝶が俺を抱きかかえてくれたみたいだ。
 断られるとあっさりと引き下がった初はモフ政を抱っこし、姉妹も連れて本丸の方へといち早く駆けていく。信ガルも茶々についていった。更に後ろから「こらー走らないの!」と言ってお市も追いかける。
 そんな義妹の一家の背を見送ってから、帰蝶は腕の中にいる俺を見下ろした。

「それでは、私たちも参りましょうか」
「キュン(ういっす)」



 安土城の内装も外装と一緒で、これまでの「城」とは一線を画していた。
 要塞としての機能はほとんど排除され、居住性が高まっている。というとわかりにくいけど、要は住みやすくなっている。
 清州城や岐阜城は、俺が住んでいた部屋と軍議を行っていた大広間以外のほぼ全てが木で出来ていた。でも、安土城は部屋という部屋全てに畳が敷かれている。
 装飾物に関しても、これまではあまり見られなかった絵画や仏像が場内のあちこちに設置されていた。ちなみに内装ではないけれども、安土城内には摠見寺というお寺まで存在している。

 実は、これに関しては安土城建築中に六助から相談を受けていた。曰く、

「恥ずかしながら私、この歳になっても浮いた話の一つも無くて。何か呪いのようなものにでもかかっているのではないかと思いますので、城内に仏像やお寺などを設置したいと考えているのですが、よろしいでしょうか?」

 ということらしい。何かのせいにしようとしているからモテないのでは……と思ったけど敢えて言わなかった。
 そんな六助の切実な願いが込められているとはいえ、仏像や絵画を施した内装は見た目的には悪くない。少なくとも、殺風景だったこれまでの城よりは何倍もいいと思える。
 帰蝶の腕の中からの景色が久しぶりだというのも、気持ちに影響しているのかもしれない。最近はずっと並んで一緒に歩いていたから。

 程なくして天守に到着する。帰蝶は少しの間足を止め、安土城内の建物の中でも際立って煌びやかな外見に見入ってから中に入って行く。
 帰蝶も概ね俺と同じ感想を抱いたらしく、とても綺麗だ、とか仏像や絵画が多いのですねとか言いながら歩みを進めた。そして、やがて天守の三階にたどり着くと降ろしてもらう。
 以前のように最上階に住むのはさすがに頭が悪すぎるので、今回は天守とはいっても、三階に住ませてもらうことにした。本当は一階や二階が良かったんだけど、それだと城で働いてくれる人たちに色々と気を使わせてしまうと思ったからだ。
 例えば俺にむかついた時、下の階に降りてすぐに「今日のプニ長まじくさいよね~」などの愚痴が言いたくなるものだ。俺が一階や二階に住んでいれば安心してそれが出来ない。

 帰蝶が縁側へと通じる襖を開けて外へ出たのでついて行くと、もう一度ひょいっと抱き上げられた。
 安土城自体が安土山に張り巡らされていて、この天守や本丸は頂上付近にあるので景色は中々のものだった。遠くには森林の中に浮かび上がるようにして琵琶湖がその存在感を示していて、陽光を浴びてきらきらと輝いている。
 景色はこんなにも綺麗なのに、何故だろう。帰蝶の表情がどうにも浮かないように見えるのは。

「やはり、安土山からの眺めは比肩するものなく、筆舌に尽くしがたいことでございますね」

 優しく微笑みながらもその瞳はどこか儚げに揺れている。そして次の瞬間にはうつむき、帰蝶は表情に陰りを落とした。

「なのに、どうしてでしょう……」

 今にも泣き出しそうな顔で俺を見下ろしながら、口を開いた。

「ここでプニ長様と穏やかに老後を過ごす未来が、どうしても見えないのです」

 その一言で俺は重要なことを思い出す。いや、今まで考えないようにしていたのかもしれない。
 元の世界で、織田信長がどのような最後を迎えたのかということを。
 本能寺の変。明智光秀が織田信長を裏切り、自らの軍勢を率いて本能寺を襲撃したという、歴史上では最も有名といって差し支えのない出来事だ。

 この世界の歴史が完全に俺の元いた世界の日本と同じ歴史を辿っているのなら、俺はもうすぐ明智に討たれてしまうのだろうか。あいつがそんなことをするとは思えない……けど、織田信長だって本能寺の変の前はそう思っていたはずだ。
 そもそも現在、あいつは自由に動かせる大軍勢を持っているのか。俺の記憶が正しければ、各方面軍の司令官の中にあいつの名前はなかった。

 ううむ。基本的に何でも六助に任せっきりになっていたからよくわからない。あいつも安土城の麓に住むようになったはずだし、後で聞いてみるか。

「プニ長様?」

 あれこれと巡らせていた思索は、帰蝶の心配そうな声に遮られた。
 いかん。せめて俺だけでも明るく振る舞わないと、帰蝶を余計に不安にさせてしまうではないか。

「キュウンキュキュン(おしっこ漏れそうなだけでしゅよ~)」
「ふふっ。お昼寝の時間に致しますか?」

 言葉は通じなかったけど、何とか笑ってくれたので良し。どうやらおねむだと思われたみたいだ。
 それから帰蝶が敷いてくれた布団の上で横になると、帰蝶は「本丸の方に行って参ります」と言って出て行った。

 一人になり、ぼんやりとあれこれ考えている内に、段々と意識が遠のく。
 前代未聞といえる程の絢爛豪華な城の中で、俺はたった一人、闇の中へと溶けていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...