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槇島城の戦い~高屋城の戦い
戦闘再燃
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それから数日が経って、越前一向一揆の鎮圧に出兵していた織田軍が美濃に帰ってきた。戦後処理やら何やらが終わったのか、また更に数日後、六助が報告の為に俺たちの屋敷に訪れる。
客間にて、帰蝶の膝の上で六助と対峙する。
「越前一向一揆の鎮圧は完了致しました」
「キュン(お疲れ様です)」
「ご苦労様でした」
「して、いくらかご相談させていただきたいことがございまして」
「キュン(聞こう)」
「褒章として、柴田殿に越前八郡七十五万石を授与したいと考えているのですが、いかがでしょうか」
「キュン(いいよ)」
「織田家、もといプニ長様の支配地域も増々拡大してきており、家臣団に領地を与えて経営させる必要が出て来ています。特に、今回新たに手に入れた越前は対上杉という観点から見ても重要な土地です。ここは、織田家に古くから仕え、戦においても頼りになる柴田殿にお任せするのがよろしいかと存じます」
「キュキュンキュン(だからいいっつってんだろ)」
以前に六助か誰かから聞いたんだけど、一石というのは大人一人が一年に食べる米の量に相当するらしい。かなり大雑把に説明すれば、石高が多い大名は財力も兵力もあってすげーよということになる。
つまり、七十五万石もの財源を与えるには強いとか経営が上手いとかよりも、まず織田家に対する忠誠心の強さが問題になってくると思う。裏切られたりしたら困るからだ。その点、柴田なら問題ない。
ぶっちゃけ最初は適当にいいよと答えたけど、今冷静に考えてみても越前を与えるなら柴田が最適な気はする。
「もし許可を頂けるなら……」
いつもの方法で許可を出し、六助がゴリラになるまでの流れを終える。
「報告は以上です。さて、また暇になってしまいました。次はどこに攻め入るのがよろしいでしょうか」
「キュキュン(暇言うな)」
「時に、対本願寺はどうなっているのですか? 確か越前の一揆は本願寺から派遣された坊官が率いていたと聞いておりますが」
さすが聡明なる我が妻。織田家の宿敵ともいえる本願寺を常に気にかけているなんて、よっ! 武将の妻の鑑!
「越前の一揆勢はあまり統率が取れておらず、本願寺の指導が行き届いていない印象を受けました。恐らく地方までは手が回りきっていないのでしょう」
「現在はそこまでの脅威ではないということでしょうか?」
顎に手を当てて唸り声をあげる六助。
「難しいところですね。脅威ではありますが、顕如の義兄である信玄が病没し、浅井朝倉に長島の一向一揆まで滅亡した今、以前ほどの勢いはないと言えば正しいのでしょうか」
「左様でございますか」
「はい。ですが……そうですね、例えば西国の毛利などと組むようなことがあれば本願寺は再び織田家の宿敵として立ちはだかることとなります」
西の大国、毛利。現在の当主は輝元とか言ったはず。彼の祖父である元就は、小国に過ぎなかった毛利を一代で山陽・山陰十ヶ国を領有する戦国大名の雄にまで成長させた。
ところが六助はそこで今までの雰囲気を一変させ、笑顔で自分の膝を叩き、ぱんという小気味のいい音を立てる。
「まあ、そんなことはありませんよ。あるとすればあの義昭が毛利氏の下に逃げ込んで助けを求め、それに応じた毛利が本願寺に協力する、といった場合ぐらいですから! そんなまさかという感じですよ! がっはっは!」
「キュキュン(はっはっは)」
何言ってるかよくわからんので帰蝶と一緒に合わせ笑いをしていると、急に襖ががらりと開き、全員の視線を集めた。そこにいたのは肩で息をし、焦りの色を顔ににじませた六助の部下だ。
「ご歓談中に失礼を致します!」
「どうした、騒がしいぞ」
「義昭が毛利氏の下に逃げ込んで助けを求め、それに応じた毛利が本願寺に協力をする模様です!」
「嘘ん」
鼻水をたらして口を開け、これまで見た事のない程に間抜けな表情で固まっている六助。それを見かねてか、帰蝶が男に質問を投げかける。
「毛利と本願寺が同盟を結んだということでしょうか」
「義昭の要請に応じた毛利がほぼ瓦解していたプニ長包囲網の一翼に参加し、本願寺に兵糧などの援助を始めました。すると毛利が味方についたことで強気になったのか、本願寺が信徒に号令をかけて五万程の兵を集めたようです」
「五万……それはまた驚くべき数字ですね」
もしそれが本当なら緊急事態だ。毛利が敵に回ったことも含めて、織田家の総力を挙げて戦いに臨まなければならない。
帰蝶の膝から降りて六助に近付き、膝にポンと前足を置いた。
「キュキュンキュン、キュキュ(おい固まってる場合じゃねえぞ、起きろ)」
「はっ! ……ウホホ!?」
我に返ったかと思えば、一瞬でゴリラ化してしまう。たしかにチワワが自分の膝に前足を置いて来たらかなり尊いとは思うけれども。
「六助殿、しっかりなさってください」
「はっ!」
帰蝶の声でゴリラ化の解けた六助は周囲を見渡し、首を横に振った。
「申し訳ございません。また正気を失ってしまいました」
「キュウンキュキュン(お前が正気でいることの方が珍しいけどな)」
「しかし、兵力の提供ではないとはいえ、毛利と本願寺が組むのは脅威ですね。これは早急に手を打たねば」
そして部下の方を振り向き指示を飛ばす。
「よし、諸将に岐阜城へ集まるよう伝達を頼む」
「御意に」
「本願寺が挙兵との由!」
数日後、岐阜城で軍議が開かれた。早々に六助が本題を唱えると、家臣団からは動揺よりも興奮に近いざわめきが聞こえる。
「織田家にとってただならぬ事態ではあるのでござるが……」
「正直、暇だったので助かりますねえ、イッヒッヒ」
どうやら戦いに飢えた獣が多いらしい。本当に暇ということはないと思うけど、これまでが忙し過ぎて感覚が麻痺しているのかもな。
「よ~し、僕張り切っちゃうよ! はあっ!」
同じくテンションの上がった明智が服を真ん中から開くようにして破る。見事な逆三角形が姿を現したが、周りの武将たちからはあからさまに迷惑そうな視線を向けられていた。
「明智殿、ここで服を脱ぐのはおやめください」
「そんなこと言わないで、六助君もやろうよ! さあ!」
「ろ、六助君? いやそうではなく今は軍議中ですぞ」
一瞬困惑した様子を見せた六助だが、すぐに調子を取り戻した。
「そこを何とか! ね、六助君もやってくれたら次の戦、頑張っちゃうよ!」
「常日頃から死力を尽くしていただきたいところですが……わかりました」
「キュキュン(わかったんかい)」
覚悟を決めた表情でうなずいた六助は、その場で立ち上がり服を掴んだ。
そしてそれを、身体の中央から外側へと向かって乱暴に広げる。
「はあああぁぁぁっ!!」
その身に纏う着物が幾つもの筋を刻み、音を立てて裂けていく。
それは暴力。
それは無秩序。
あるいは、混沌。
そこにあるのは、紛れもないただの変態の姿だった。
「六助殿。さすがにそれは……」
柴田がまるで苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く。
「さすがは幼子好き、といったところでしょうか」
そのネタまだ引きずってんのか、と秀吉の言葉を聞いて思った。
「変態だ……」
「変態じゃ変態じゃあ! 者ども出合え出合えー!」
家臣団のうち何名かが混乱に陥り、ある者は逃げ惑い、ある者は城内あるいは城外で警備に当たってるものをこの場に召喚すべく叫んだ。
「ちょっと皆さん落ち着いて!」と六助が部屋全体に向かって呼びかけるのも虚しく、すぐに警備を務めていた誰かの部下が勢いよく襖を開けて顔を出す。
「どうされましたか!」
「この変態を捕らえよ!」
家臣の一人が六助を指差しながら警備の男に言い放つと、男は目に見えて動揺し始めた。
「え、あの、あそこにおわすのは六助様では……」
「構わん! ひっ捕らえぃ!」
「かしこまりました」
「ちょっとちょっと!」
「申し訳ございません。これも命令ですので……」
混乱の勢いに乗じて、六助は本当に連行されてしまった。
客間にて、帰蝶の膝の上で六助と対峙する。
「越前一向一揆の鎮圧は完了致しました」
「キュン(お疲れ様です)」
「ご苦労様でした」
「して、いくらかご相談させていただきたいことがございまして」
「キュン(聞こう)」
「褒章として、柴田殿に越前八郡七十五万石を授与したいと考えているのですが、いかがでしょうか」
「キュン(いいよ)」
「織田家、もといプニ長様の支配地域も増々拡大してきており、家臣団に領地を与えて経営させる必要が出て来ています。特に、今回新たに手に入れた越前は対上杉という観点から見ても重要な土地です。ここは、織田家に古くから仕え、戦においても頼りになる柴田殿にお任せするのがよろしいかと存じます」
「キュキュンキュン(だからいいっつってんだろ)」
以前に六助か誰かから聞いたんだけど、一石というのは大人一人が一年に食べる米の量に相当するらしい。かなり大雑把に説明すれば、石高が多い大名は財力も兵力もあってすげーよということになる。
つまり、七十五万石もの財源を与えるには強いとか経営が上手いとかよりも、まず織田家に対する忠誠心の強さが問題になってくると思う。裏切られたりしたら困るからだ。その点、柴田なら問題ない。
ぶっちゃけ最初は適当にいいよと答えたけど、今冷静に考えてみても越前を与えるなら柴田が最適な気はする。
「もし許可を頂けるなら……」
いつもの方法で許可を出し、六助がゴリラになるまでの流れを終える。
「報告は以上です。さて、また暇になってしまいました。次はどこに攻め入るのがよろしいでしょうか」
「キュキュン(暇言うな)」
「時に、対本願寺はどうなっているのですか? 確か越前の一揆は本願寺から派遣された坊官が率いていたと聞いておりますが」
さすが聡明なる我が妻。織田家の宿敵ともいえる本願寺を常に気にかけているなんて、よっ! 武将の妻の鑑!
「越前の一揆勢はあまり統率が取れておらず、本願寺の指導が行き届いていない印象を受けました。恐らく地方までは手が回りきっていないのでしょう」
「現在はそこまでの脅威ではないということでしょうか?」
顎に手を当てて唸り声をあげる六助。
「難しいところですね。脅威ではありますが、顕如の義兄である信玄が病没し、浅井朝倉に長島の一向一揆まで滅亡した今、以前ほどの勢いはないと言えば正しいのでしょうか」
「左様でございますか」
「はい。ですが……そうですね、例えば西国の毛利などと組むようなことがあれば本願寺は再び織田家の宿敵として立ちはだかることとなります」
西の大国、毛利。現在の当主は輝元とか言ったはず。彼の祖父である元就は、小国に過ぎなかった毛利を一代で山陽・山陰十ヶ国を領有する戦国大名の雄にまで成長させた。
ところが六助はそこで今までの雰囲気を一変させ、笑顔で自分の膝を叩き、ぱんという小気味のいい音を立てる。
「まあ、そんなことはありませんよ。あるとすればあの義昭が毛利氏の下に逃げ込んで助けを求め、それに応じた毛利が本願寺に協力する、といった場合ぐらいですから! そんなまさかという感じですよ! がっはっは!」
「キュキュン(はっはっは)」
何言ってるかよくわからんので帰蝶と一緒に合わせ笑いをしていると、急に襖ががらりと開き、全員の視線を集めた。そこにいたのは肩で息をし、焦りの色を顔ににじませた六助の部下だ。
「ご歓談中に失礼を致します!」
「どうした、騒がしいぞ」
「義昭が毛利氏の下に逃げ込んで助けを求め、それに応じた毛利が本願寺に協力をする模様です!」
「嘘ん」
鼻水をたらして口を開け、これまで見た事のない程に間抜けな表情で固まっている六助。それを見かねてか、帰蝶が男に質問を投げかける。
「毛利と本願寺が同盟を結んだということでしょうか」
「義昭の要請に応じた毛利がほぼ瓦解していたプニ長包囲網の一翼に参加し、本願寺に兵糧などの援助を始めました。すると毛利が味方についたことで強気になったのか、本願寺が信徒に号令をかけて五万程の兵を集めたようです」
「五万……それはまた驚くべき数字ですね」
もしそれが本当なら緊急事態だ。毛利が敵に回ったことも含めて、織田家の総力を挙げて戦いに臨まなければならない。
帰蝶の膝から降りて六助に近付き、膝にポンと前足を置いた。
「キュキュンキュン、キュキュ(おい固まってる場合じゃねえぞ、起きろ)」
「はっ! ……ウホホ!?」
我に返ったかと思えば、一瞬でゴリラ化してしまう。たしかにチワワが自分の膝に前足を置いて来たらかなり尊いとは思うけれども。
「六助殿、しっかりなさってください」
「はっ!」
帰蝶の声でゴリラ化の解けた六助は周囲を見渡し、首を横に振った。
「申し訳ございません。また正気を失ってしまいました」
「キュウンキュキュン(お前が正気でいることの方が珍しいけどな)」
「しかし、兵力の提供ではないとはいえ、毛利と本願寺が組むのは脅威ですね。これは早急に手を打たねば」
そして部下の方を振り向き指示を飛ばす。
「よし、諸将に岐阜城へ集まるよう伝達を頼む」
「御意に」
「本願寺が挙兵との由!」
数日後、岐阜城で軍議が開かれた。早々に六助が本題を唱えると、家臣団からは動揺よりも興奮に近いざわめきが聞こえる。
「織田家にとってただならぬ事態ではあるのでござるが……」
「正直、暇だったので助かりますねえ、イッヒッヒ」
どうやら戦いに飢えた獣が多いらしい。本当に暇ということはないと思うけど、これまでが忙し過ぎて感覚が麻痺しているのかもな。
「よ~し、僕張り切っちゃうよ! はあっ!」
同じくテンションの上がった明智が服を真ん中から開くようにして破る。見事な逆三角形が姿を現したが、周りの武将たちからはあからさまに迷惑そうな視線を向けられていた。
「明智殿、ここで服を脱ぐのはおやめください」
「そんなこと言わないで、六助君もやろうよ! さあ!」
「ろ、六助君? いやそうではなく今は軍議中ですぞ」
一瞬困惑した様子を見せた六助だが、すぐに調子を取り戻した。
「そこを何とか! ね、六助君もやってくれたら次の戦、頑張っちゃうよ!」
「常日頃から死力を尽くしていただきたいところですが……わかりました」
「キュキュン(わかったんかい)」
覚悟を決めた表情でうなずいた六助は、その場で立ち上がり服を掴んだ。
そしてそれを、身体の中央から外側へと向かって乱暴に広げる。
「はあああぁぁぁっ!!」
その身に纏う着物が幾つもの筋を刻み、音を立てて裂けていく。
それは暴力。
それは無秩序。
あるいは、混沌。
そこにあるのは、紛れもないただの変態の姿だった。
「六助殿。さすがにそれは……」
柴田がまるで苦虫を噛み潰したかのような表情で呟く。
「さすがは幼子好き、といったところでしょうか」
そのネタまだ引きずってんのか、と秀吉の言葉を聞いて思った。
「変態だ……」
「変態じゃ変態じゃあ! 者ども出合え出合えー!」
家臣団のうち何名かが混乱に陥り、ある者は逃げ惑い、ある者は城内あるいは城外で警備に当たってるものをこの場に召喚すべく叫んだ。
「ちょっと皆さん落ち着いて!」と六助が部屋全体に向かって呼びかけるのも虚しく、すぐに警備を務めていた誰かの部下が勢いよく襖を開けて顔を出す。
「どうされましたか!」
「この変態を捕らえよ!」
家臣の一人が六助を指差しながら警備の男に言い放つと、男は目に見えて動揺し始めた。
「え、あの、あそこにおわすのは六助様では……」
「構わん! ひっ捕らえぃ!」
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「申し訳ございません。これも命令ですので……」
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