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槇島城の戦い~高屋城の戦い

次なる戦い

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 結果から言えば、三好義継討伐戦となった若江城の戦いは織田軍の圧勝に終わったらしい。
 まず三好家では織田家を恐れて織田家と通じ、義継へも織田家への従属を進める家臣と、そうでない家臣に分かれた。つまりは内乱が起きていた。しかし義継は反対派の意見を押し切って若江城に籠城し、織田軍を迎え撃つ。
 ところが、ここで首謀者の義昭が近臣だけを連れて逃亡してしまったので士気が著しく低下した上に、親織田派の家臣たちが義継を裏切り、織田軍と内通して城門に引き入れてしまう。
 泣きっ面に蜂な義継だけど、敗戦が決定的となってからも十日以上奮戦し、見事な散り際を飾ったと聞いている。

「しかし敵前逃亡、しかも友軍を置いてなどと、征夷大将軍が聞いて呆れますな」

 岐阜城にて、帰還した佐久間らの報告を受けた六助はそのまま柴田、秀吉と俺の寝室だった場所で飲んでいる。一人で帰るのは何かとまずいので、俺もその場に居座ることにした。
 盃に酒を注ぎながらの六助の一言に、柴田は首を縦に振った。

「全くでござる。拙者なら、そんな恥をさらすくらいなら義継のように敵陣に突撃し、最後に一矢報いる道を選ぶでござるよ」
「お気持ちはわかりますが、時には撤退するのも大事なことでありましょう」

 秀吉に意見を述べられ、柴田が少し苦い顔をする。

「お前に言われんでもわかっておるわ。だが今回の義昭めの行動は格好がつかないというか、あまりにも体裁が悪すぎるでござろう」
「全くもって仰る通りです。三好家の内乱はともかくとして、結果がこうなることは予想がつきましたからね。逃げるくらいなら、義昭は義継をけしかけるべきではなかったかと」
「うむ。珍しくお前と意見が合うでござるな」
「まあ、今回は織田家と戦うことが決まった時点で義継の負けです。相手の戦力を見極め、負けそうなら戦わない為に策をめぐらすのも軍略のうち。決して不運などではありませんよ」

 もっとも義継が織田家と敵対したのには、義兄にあたる義昭への義理などそういった背景もあるのだろうけど、二人ともあえてそこには触れない。
 そこで早速顔の赤くなった六助が、空になった盃を御膳に叩きつけた。

「そうですよぉ! あの腰抜けの義昭が逃げ出すなんてわかっていたことじゃないでしゅか! だめだめ! 義継は全っ然だめ!」
「酔いの回りが早過ぎるのではござらぬか!?」

 驚愕する柴田に、六助が胸を張って言う。

「酔ってません!!!!」
「酔っている御仁が放つ典型的な言葉にござるな」
「で、逃亡した義昭はどこへ?」

 至って平静に酒を飲み続ける秀吉が話を戻した。どうやらかなり強いらしい。

「あんなやつぅ! あの世にでも逃亡しちまえばいいんですよ!」
「堺へと逃亡したのち、さらに紀伊の興国寺へ向かったとの報告を受けているでござる」

 柴田は酔った六助をスルーしていく方向だ。

「紀伊ですか。また同じようなことを繰り返す気がしてなりませんな」
「もういっそ、浅井や朝倉のように……」

 秀吉が静かに首を横に振った。

「柴田殿、それはなりませんよ」
「そうそう! なりませぇーん! プニ長様が『将軍殺し』になっちゃいまぁーす」
「それはわかっているのでござるが」
「もちろん、お気持ちは理解致します」

 そう言って、秀吉はまた酒を一杯あおる。

「このままでは、どこに逃げようとも義昭の反抗的な姿勢は続くでしょう。目立った反織田の勢力が全て潰れるまでね」
「とは言っても、浅井朝倉は滅びて畿内も織田が制圧。武田信玄も病死か何らかの理由で動けない可能性が高い今、残るは……」
「石山本願寺」

 秀吉と柴田は目を合わせて同時にうなずいた。

「それと毛利ぃー! 安芸の毛利輝元ぉー!」
「毛利氏ですか。う~む、難しいところですがそれはないのではないかと」
「一応、表面上は同盟関係にある国でござるからな」

 西の大国、毛利氏とは元から親交があった。しかし最近は義昭が毛利を、織田に対抗する為に何かと利用しようとするので、織田から毛利の方へと再度接近して同盟関係を維持しておいたという経緯がある。

「とはいえ浅井の件もあります。油断は禁物でしょう」
「でござるな」
「油断はぁ~禁物だよぉ~ん!」
「「…………」」

 秀吉と柴田が無言のまま、再度視線を合わせる。

「さすがに酔い過ぎではござらぬか?」
「そうですね。六助殿もお疲れでしょうし、多少は無視をしようと思っていましたが……変なことをする前に自宅へとお連れした方がいいかもしれません」
「で、ござるな。おい、誰かおらぬか!」

 柴田の声に応じて部屋に入って来た足軽に連れられ、六助は自身の屋敷へと帰って行った。
 
 そしてその翌日。

「う~あいたたた……頭が痛い……」
「ならばご自宅でお休みになられては」

 頭を押さえてうめき声をあげる六助に、帰蝶が苦笑する。明らかな二日酔いにも関わらず、六助は昼間から俺たちの屋敷を訪れていた。

「一日に一度はプニ長様に顔をお見せしなければなりませんので」
「そうでございますか。プニ長様もお喜びになっておられましょう」

 全くもってそんなことはないけど、帰蝶の為に一応尻尾を振っておく。それを見た六助がわずかに口の端を吊り上げた。

「プニ長様にお喜びいただけるとは、光栄の極み」
「よろしければ、プニプニとモフモフもご堪能下さい」
「えっ。よろしいのですか?」

 六助は大袈裟なのではないかと思うくらい、心底驚いた顔をした。いつから帰蝶に許可を取ればオッケーなシステムになったんだろうか。別にいいけど。

「最近は子供たちにプニ長様を取られて寂しそうにされておられましたので」
「いや、これはお恥ずかしい」

 ぽりぽりと、照れながら後頭部をかいた六助は、そのまますっと腕をこちらに伸ばしながら近づいてきた。

「ではお言葉に甘えて。まずはプニプニから……」

 正直そこまで嫌でもないけど、やっぱり嫌だな……とか思っていると廊下と接して部屋の出入り口になっている襖ががらりと開いた。

「失礼致します! こちらに六助様がおられると聞いてきたのですが!」

 現れた足軽は肩で息をしている。邪魔に入られた六助は怒っているような悲しんでいるような、複雑な表情で振り返った。

「どうした」
「これはお楽しみのところを失礼致しました!」
「それは良い。早く用件を言え」
「はっ! 畿内の掘城が攻め落とされました!」

 振り返った体勢のまま、六助が目を見開く。帰蝶は上品に口を手で押さえながら驚いていた。

「敵はどこの勢力だ?」
「摂津国の池田数正、雑賀衆に若江城の残兵などのようです!」
「若江城の残兵はともかく、池田や雑賀衆が何故……まさかまた義昭か? それとも石山本願寺が……」

 六助は畳に視線をやったままぶつぶつとつぶやいてから顔を上げた。

「よし軍議を開く。ただちに家臣団に声をかけてくれ」
「了解致しました」
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