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槇島城の戦い~高屋城の戦い
言い訳
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「で、何であんたがここにいたわけ?」
それから数分後。皆が落ち着いてきたところで、六助が何故ここにいるのかを問いただしている。全員で円になるように座っているけど、六助はいつも違って正座で、顔は俯きがちだ。
お市に問われ、六助は赤くなった頬を左手で押さえながら答える。
「プニ長様にお会いしたかったものの、それだけを理由に帰蝶殿の屋敷に行くのは申し訳ないと思い……せめてここでプニ長様を感じようと」
発想が怖いわ。
「何で襖を開けた時はこっちを向いてたのよ」
「誰かが階段を昇って来るのが音でわかったのですが、ここではどこにも逃げられませんし、見つかったところで正直に話せば、大抵の人には気持ちをわかってもらえるでしょう。ですから、むしろかかってこいやぐらいの気持ちで開き直り、入って来た者と対峙しようかと」
「何を言っているのか全然わからないんだけど」
お市が侮蔑の視線を六助に向けている。一方で帰蝶はドン引きしながらも、何とかおずおずといった様子で言った。
「あの、別にいつでも屋敷に来て下さって構いませんよ?」
「なりません」
六助は迷わず、厳しい表情で首を横に振る。こいつ本当にめんどくさいな……今に始まった話じゃないけど。
「プニ長様と帰蝶様の愛の巣に足を運ぶなどと。恐れ多すぎて踏み入った瞬間に死亡してしまいます」
「ここだって少し前までそうだったでしょ」
「ここは大丈夫です」
「キュキュン(基準がわからん)」
お市がツッコめば、六助はあっさりと答える。
その反応に再び憤りを感じて握りこぶしをわなわなと震わせたお市だったけど、深呼吸をして息を整えると、呆れた表情で口を開いた。
「とにかく、次にこういうことしたらその場で斬るから」
「かしこまりました」
「そういうことだから、あんたも相手がこいつだからって遠慮すんじゃないわよ。えっと……『槍の三郎座衛門』」
実はずっと部屋の隅で待機していた足軽に、そう声をかける。
「『槍の太郎兵衛』です」
「その辺はいいから。とにかくわかった?」
「か、かしこまりました」
自分の呼び名をぞんざいに扱われたことにいささか動揺しながら、足軽は何とか返事をした。
会話が一段落したところで、帰蝶が会話に入る。
「でも六助様、プニ長様にお会いしたくなったら、本当に気兼ねなくおいでになってくださいね」
「そんなこと言ったらこいつ、本当に来るわよ」
「もう、お市ちゃん?」
帰蝶は眉根を寄せ、お市を叱りつけながら俺を抱き上げると、穏やかな笑顔で俺を見下ろしながら続けた。
「プニ長様にお会いしたい、プニモフを賜りたいって気持ちは皆一緒なんだから、そんな風に言っちゃだめ。お市ちゃんだってそうでしょ?」
「わ、私は別に……」
ばつが悪そうに視線を逸らしながらも、頬を赤らめるお市。
「私は、昨日までお会いしていたプニ長様やモフ政様と突然離れ離れになったら、すごく寂しくなっちゃうな」
「……」
お市は俯きがちに口を噤んだまま、返事をしない。もし自分がそうなったら、とか想像をしているのかもしれなかった。
う~ん、帰蝶と会えなくなったら、か。全く想像もつかないけど、いつかはそういう日だって来るのかもしれない。
例えば明日朝突然目が覚めて、帰蝶がいなくなっていたら? それで近くを探しても影も形も見つからなかったとしたら……。
とりあえず泣く。泣いて泣いて、泣きながら岐阜城に向かって一仕切り遠吠えをした後、手形ならぬ足型付きのメッセージをどうにか残してから、帰蝶を探す旅に出るな。
犬の一人、いや一匹旅。きっとその道のりは苛烈を極めるだろう。時にはこの小さな身体で野良犬と戦ったり、人間から逃げたりなんてこともあるかもしれない。しかし、それらを乗り越えて訪れる帰蝶との再会。
何という一大スペクタクル。想像しただけで泣けてきた。チワワが一人寂しく飼い主を求めて歩く、その哀愁漂う後ろ姿を見るだけでもう泣けてくる。
全国ロードショーはいつだろうか……と考えている間にも帰蝶の話は続く。
「だから、六助様にそんな風に言うのはやめてあげて欲しいな」
「帰蝶様……」
六助は感極まった様子で帰蝶を見つめている。最初は帰蝶もドン引きしていたのをすっかり忘れているようで何よりだった。
「まあ、義姉上がそこまで言うなら、屋敷には来てもいいけど」
「お市様っ!」
「ただし、無断で侵入したら斬る。それは屋敷でもこの部屋でも一緒。それは譲れないわ。わかった?」
「はいっ! かしこまりましたぁっ!」
無駄にテンションの高い叫び声が、美濃の空へと響いていた。
その後、俺の部屋で何故か槍の次郎も交えつつ、歓談をして過ごす。そして陽が傾き始めて来た頃に解散となった。
朱に塗られた美濃の空を背景に四人並んで歩いていく。
これまで何だかんだ言って戦場に行くことが多かったけど、やはり俺にはこうしてのんびりと過ごす方が合ってるみたいだ。
「ね、お市ちゃん、今日の夕飯は私たちで作ろっか」
「うん。義姉上と作るの楽しそう」
「食材は侍女たちが用意してくれているだろうから、帰ったらすぐにやろう」
姉妹仲が良くて大変よろしいことである。俺は男同士の友情とかもかっこいいと思う方だけど、女の子同士がきゃっきゃしている様は単純に目の保養になるので、やはりより素敵で尊いものだなあと思う。
帰蝶の屋敷へと戻ると、侍女たちが食材を用意して夕飯を作ろうとしているところだった。
二人が「今日は私たちが作るよ」と言うと、少し心配そうな顔をしていた侍女たちだったけど、大人しく自分たちの部屋へと引っ込んでいった。
「包丁使うし危ないから、あんたらも部屋にいなさい」
とお市に言われ、俺とモフ政も部屋へと移動した。
特にすることもないので、モフ政にふんふんと匂いを嗅がれながら寝転んでいると、何やら玄関の方から「失礼します!」という言葉と同時に、どたばたと忙しない足音が聞こえてくる。
そして、俺たちがいる部屋の襖の前で再び「失礼します!」が聞こえたかと思えば、襖が鋭く開いた。
その先から現れたのは、柴田隊の足軽だった。
「プニ長様、お休みのところ失礼致します!」
「キュン(どうも)」
「義昭様、追放に!」
「キュ(えっ)」
「「えっ!?」」
何だ何だと、厨房から駆け付けた割烹着姿の帰蝶とお市が声を揃える。割烹着で手を拭いながら、帰蝶が尋ねる。
「どういったことなのでしょう?」
「はい、順を追って説明致します!」
「お願いします」
「まず、義昭様がうぇーほ! えほえほっ! ぐえっ!」
「キュキュンキュン(とりあえず落ち着け)」
随分と慌てて来たらしく、足軽は登場からしてすでに息を切らしていた。
「とりあえずお茶でも用意してくるから、そこでゆっくりしてなさい」
「お市様直々に!? いえ、そんな申し訳ありませぬ!」
「いいから。夕飯作ろうとしてたとこだったし、この格好だから丁度いいでしょ」
割烹着をつまみながらお市がそう言えば、帰蝶も柔らかく微笑む。
「そうなんです。ですからゆっくりなさってください」
「は。ではお言葉に甘えて……」
いくら帰蝶やお市が優しいとは言っても、足軽一人にここまですることは割と珍しい。いつも報告に来てくれている足軽な上に、余程急いで来たのか、かなり疲れているのを見て労をねぎらっているのだろう。
お市が厨房の方へと消えて行くのを見て、帰蝶が声を潜める。
「もし良ければ、プニ長様からこっそりプニプニを賜っても大丈夫ですよ」
「えっ!?」
「ね、プニ長様」
「キュン(しゃあねえな)」
本当は嫌だけど、帰蝶がそう言うのなら仕方がない。
足軽の前まで躍り出て右前足を差し出すと、彼はまるで金銀財宝を見つけた冒険者のような表情をした。
「おお……」
「プニ長様もこう仰っていますから」
「ありがたき、ありがたき幸せ……おお、これが伝説のプニプニ……」
足軽は終始泣きながら俺の肉球を触っていた。いや、ここまで来ると逆に怖いんですけど……。
それから数分後。皆が落ち着いてきたところで、六助が何故ここにいるのかを問いただしている。全員で円になるように座っているけど、六助はいつも違って正座で、顔は俯きがちだ。
お市に問われ、六助は赤くなった頬を左手で押さえながら答える。
「プニ長様にお会いしたかったものの、それだけを理由に帰蝶殿の屋敷に行くのは申し訳ないと思い……せめてここでプニ長様を感じようと」
発想が怖いわ。
「何で襖を開けた時はこっちを向いてたのよ」
「誰かが階段を昇って来るのが音でわかったのですが、ここではどこにも逃げられませんし、見つかったところで正直に話せば、大抵の人には気持ちをわかってもらえるでしょう。ですから、むしろかかってこいやぐらいの気持ちで開き直り、入って来た者と対峙しようかと」
「何を言っているのか全然わからないんだけど」
お市が侮蔑の視線を六助に向けている。一方で帰蝶はドン引きしながらも、何とかおずおずといった様子で言った。
「あの、別にいつでも屋敷に来て下さって構いませんよ?」
「なりません」
六助は迷わず、厳しい表情で首を横に振る。こいつ本当にめんどくさいな……今に始まった話じゃないけど。
「プニ長様と帰蝶様の愛の巣に足を運ぶなどと。恐れ多すぎて踏み入った瞬間に死亡してしまいます」
「ここだって少し前までそうだったでしょ」
「ここは大丈夫です」
「キュキュン(基準がわからん)」
お市がツッコめば、六助はあっさりと答える。
その反応に再び憤りを感じて握りこぶしをわなわなと震わせたお市だったけど、深呼吸をして息を整えると、呆れた表情で口を開いた。
「とにかく、次にこういうことしたらその場で斬るから」
「かしこまりました」
「そういうことだから、あんたも相手がこいつだからって遠慮すんじゃないわよ。えっと……『槍の三郎座衛門』」
実はずっと部屋の隅で待機していた足軽に、そう声をかける。
「『槍の太郎兵衛』です」
「その辺はいいから。とにかくわかった?」
「か、かしこまりました」
自分の呼び名をぞんざいに扱われたことにいささか動揺しながら、足軽は何とか返事をした。
会話が一段落したところで、帰蝶が会話に入る。
「でも六助様、プニ長様にお会いしたくなったら、本当に気兼ねなくおいでになってくださいね」
「そんなこと言ったらこいつ、本当に来るわよ」
「もう、お市ちゃん?」
帰蝶は眉根を寄せ、お市を叱りつけながら俺を抱き上げると、穏やかな笑顔で俺を見下ろしながら続けた。
「プニ長様にお会いしたい、プニモフを賜りたいって気持ちは皆一緒なんだから、そんな風に言っちゃだめ。お市ちゃんだってそうでしょ?」
「わ、私は別に……」
ばつが悪そうに視線を逸らしながらも、頬を赤らめるお市。
「私は、昨日までお会いしていたプニ長様やモフ政様と突然離れ離れになったら、すごく寂しくなっちゃうな」
「……」
お市は俯きがちに口を噤んだまま、返事をしない。もし自分がそうなったら、とか想像をしているのかもしれなかった。
う~ん、帰蝶と会えなくなったら、か。全く想像もつかないけど、いつかはそういう日だって来るのかもしれない。
例えば明日朝突然目が覚めて、帰蝶がいなくなっていたら? それで近くを探しても影も形も見つからなかったとしたら……。
とりあえず泣く。泣いて泣いて、泣きながら岐阜城に向かって一仕切り遠吠えをした後、手形ならぬ足型付きのメッセージをどうにか残してから、帰蝶を探す旅に出るな。
犬の一人、いや一匹旅。きっとその道のりは苛烈を極めるだろう。時にはこの小さな身体で野良犬と戦ったり、人間から逃げたりなんてこともあるかもしれない。しかし、それらを乗り越えて訪れる帰蝶との再会。
何という一大スペクタクル。想像しただけで泣けてきた。チワワが一人寂しく飼い主を求めて歩く、その哀愁漂う後ろ姿を見るだけでもう泣けてくる。
全国ロードショーはいつだろうか……と考えている間にも帰蝶の話は続く。
「だから、六助様にそんな風に言うのはやめてあげて欲しいな」
「帰蝶様……」
六助は感極まった様子で帰蝶を見つめている。最初は帰蝶もドン引きしていたのをすっかり忘れているようで何よりだった。
「まあ、義姉上がそこまで言うなら、屋敷には来てもいいけど」
「お市様っ!」
「ただし、無断で侵入したら斬る。それは屋敷でもこの部屋でも一緒。それは譲れないわ。わかった?」
「はいっ! かしこまりましたぁっ!」
無駄にテンションの高い叫び声が、美濃の空へと響いていた。
その後、俺の部屋で何故か槍の次郎も交えつつ、歓談をして過ごす。そして陽が傾き始めて来た頃に解散となった。
朱に塗られた美濃の空を背景に四人並んで歩いていく。
これまで何だかんだ言って戦場に行くことが多かったけど、やはり俺にはこうしてのんびりと過ごす方が合ってるみたいだ。
「ね、お市ちゃん、今日の夕飯は私たちで作ろっか」
「うん。義姉上と作るの楽しそう」
「食材は侍女たちが用意してくれているだろうから、帰ったらすぐにやろう」
姉妹仲が良くて大変よろしいことである。俺は男同士の友情とかもかっこいいと思う方だけど、女の子同士がきゃっきゃしている様は単純に目の保養になるので、やはりより素敵で尊いものだなあと思う。
帰蝶の屋敷へと戻ると、侍女たちが食材を用意して夕飯を作ろうとしているところだった。
二人が「今日は私たちが作るよ」と言うと、少し心配そうな顔をしていた侍女たちだったけど、大人しく自分たちの部屋へと引っ込んでいった。
「包丁使うし危ないから、あんたらも部屋にいなさい」
とお市に言われ、俺とモフ政も部屋へと移動した。
特にすることもないので、モフ政にふんふんと匂いを嗅がれながら寝転んでいると、何やら玄関の方から「失礼します!」という言葉と同時に、どたばたと忙しない足音が聞こえてくる。
そして、俺たちがいる部屋の襖の前で再び「失礼します!」が聞こえたかと思えば、襖が鋭く開いた。
その先から現れたのは、柴田隊の足軽だった。
「プニ長様、お休みのところ失礼致します!」
「キュン(どうも)」
「義昭様、追放に!」
「キュ(えっ)」
「「えっ!?」」
何だ何だと、厨房から駆け付けた割烹着姿の帰蝶とお市が声を揃える。割烹着で手を拭いながら、帰蝶が尋ねる。
「どういったことなのでしょう?」
「はい、順を追って説明致します!」
「お願いします」
「まず、義昭様がうぇーほ! えほえほっ! ぐえっ!」
「キュキュンキュン(とりあえず落ち着け)」
随分と慌てて来たらしく、足軽は登場からしてすでに息を切らしていた。
「とりあえずお茶でも用意してくるから、そこでゆっくりしてなさい」
「お市様直々に!? いえ、そんな申し訳ありませぬ!」
「いいから。夕飯作ろうとしてたとこだったし、この格好だから丁度いいでしょ」
割烹着をつまみながらお市がそう言えば、帰蝶も柔らかく微笑む。
「そうなんです。ですからゆっくりなさってください」
「は。ではお言葉に甘えて……」
いくら帰蝶やお市が優しいとは言っても、足軽一人にここまですることは割と珍しい。いつも報告に来てくれている足軽な上に、余程急いで来たのか、かなり疲れているのを見て労をねぎらっているのだろう。
お市が厨房の方へと消えて行くのを見て、帰蝶が声を潜める。
「もし良ければ、プニ長様からこっそりプニプニを賜っても大丈夫ですよ」
「えっ!?」
「ね、プニ長様」
「キュン(しゃあねえな)」
本当は嫌だけど、帰蝶がそう言うのなら仕方がない。
足軽の前まで躍り出て右前足を差し出すと、彼はまるで金銀財宝を見つけた冒険者のような表情をした。
「おお……」
「プニ長様もこう仰っていますから」
「ありがたき、ありがたき幸せ……おお、これが伝説のプニプニ……」
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