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槇島城の戦い~高屋城の戦い
探検家モフ政の悲劇
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「…………」
やつは何をするでもなく、ただそこに佇んでいる。
こいつ、本当にどうしてここにいるんだろう。お市に部屋に置いてけぼりにされて暇だから探検、とかだろうか。で、俺たちの匂いをたどってここまで来た? それなら何故男湯? もしかしてこいつ俺のこと好きなの?
だめだ、考えてもわからん。とりあえず話しかけてみよう。
「キュ、キュキュン(おい、何か用かよ)」
「ワウ」
やっぱり通じない言葉を差し置いて、モフ政はくんくんと鼻を鳴らしながら、俺の身体の匂いを嗅ぎまわり始めた。
「キュウンキュ(今風呂入ったばっかだぞ)」
「……」
匂いを嗅ぎ終わると、また真正面から俺を見つめ始める。本当にどうすればいいかわからずこちらまで固まってしまった。
人間だった時、こういう時はどうしてたかな、と考えるも詮無いこと。家で飼うことは出来ず、ほとんどが路上での野良犬・猫かあるいはペットショップでのほんのわずかな触れ合いの経験しかなかったから。
まあ、適当に頭撫でたり抱っこしてやったりするんだろうけど、今は俺が犬になってしまっているしなあ。
とりあえず俺も匂いを嗅いでみるか。そういう犬の流儀みたいなものがあるのかもしれないし。
「……」
「……」
「……」
「……」
周囲をゆっくりと歩きながらすんこらすんこらやってみるも、モフ政は特に抵抗するでもなくされるがままになっている。
ふんふん……うおくさっ。こいつめっちゃ臭うぞ。いわゆる獣の匂いというやつだ。お市がいるのにしばらく風呂に入ってないのだろうか。そういえば、さっき風呂嫌いだとか言ってた気がするな。
俺は桶の逆側へと歩いて行き、振り返った。桶を挟んでモフ政と対峙する形になってから提案する。
「キュキュンキュン(とりあえずお風呂に入りなさい)」
「ワウ」
「キュキュンキュン、キュウンキュン(ぬるくなっちゃったけど、入らないよりはいいだろ)」
「ワウ」
すると意志が通じたのか、モフ政は桶の前まで歩き、縁に片方の手をかけて中を覗き込んだ。
「……」
そしてスッと元の態勢に戻り、再びこちらに視線をやってくる。
「何だ風呂か、入らねえよ」みたいな感じだろうか。いやでもね、そんだけ臭うとその内お市に無理やり入らされちゃうと思うよ?
どうやって桶の中にこやつを突っ込んでやろうかと思索を巡らせていると、背後からひたひたと足音が響いてきた。
「プニ長様が脱衣所に戻って来られないので見に来てみれば、モフ政殿ではありませんか。義兄上とお風呂に入ろうと言ったところですかな?」
いつの間にやらあがって着替えまで済ませていた六助だ。ていうかモフ政とはすれ違わなかったのだろうか。
とても愉快そうな六助は、桶内のお湯加減でも確かめようというのか、そのまま俺とモフ政に近付いてきた。そこで、はたと何かに気付き、モフ政の身体に顔を近付けて鼻をひくひくとさせる。
「む、そこそこに臭いますね。これは先にモフ政殿だけを洗った方が良さそうですかな。そうなると、待っている間に風邪をひかないよう、プニ長様もお湯に浸かっていただいた方がいいでしょうし、もう一つ桶が必要ですね」
ぶつくさと独り言ちながら立ち上がり、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。
「もう一つ大きい桶は、と……」
不幸にも、それはもうこの風呂場には存在しないようだった。そうなれば、次にこいつが取りそうな行動は予想がつく。
「キュ、キュキュン(おい、逃げろモフ政)」
「ワウ」
ダメ元でモフ政を説得しようとするもやはり無駄に終わった。
「では、私が直接抱きかかえてご入浴させて差し上げましょう。せっかくの温泉ですし、ただお湯で洗うだけというのも味気ないでしょう」
ほら来た。俺でさえ嫌なのに、元々風呂嫌いらしいモフ政にこれが耐えられるはずもないだろう。
ちなみに、六助が嫌とかそういうことではなく、我慢できない程熱くても逃げ出すことの出来ないという状況がまずい、ということだ。
六助は先程まで俺が浸かっていた桶のお湯を捨て、露天風呂から補充して、俺の目の前に置いた。
「そんなわけで、プニ長様はこちらに入ってお待ちください。その後に義兄弟での水いらずの入浴をお楽しみいただきますので」
「キュウンキュキュン(その気遣い全く要らんわ)」
「さ、モフ政殿」
そう言って笑顔の六助が、両腕を広げながらモフ政へ歩み寄る。
対するモフ政はお風呂に入れられる気配を察知したのか、それとも六助そのものが嫌なのか、ささっと一歩、逃げるように後ずさった。
「ウウ~」
「おや、どうしたのですか? 怖くないですよ~」
今モフ政の瞳に、六助はさながら自身を温泉へと突き落とす地獄からの使者として映っているに違いない。それぐらい警戒している。
しかしモフ政はあまり必死こいて逃げるタイプの犬ではない。だからそのまま大人しく捕まってしまった。
「ほら捕まえた~」
「ワフッワフッ」
腕の中で取れたての魚のようにびちびちと暴れるモフ政を抱いて、六助は湯の方へと歩いて行ったかと思えばふと立ち止まる。
「あっ、着物着たままだった……まあいいか」
そしてそのまま湯の中へ足を踏み入れ、恍惚の表情と共に身体を沈めていく。
「うっ……うおおあぁぁぁぁ~~……」
いやいや、着物は脱げよ。さすがにそれは頭おかしいだろ。
と心の中でツッコミを入れたのも束の間、湯面の接近に心が耐え切れなくなったらしいモフ政のびちびちが限界に達した。意外に力の強い六助も、不意を突かれて腕の中から逃げられてしまう。
そして、モフ政は湯という絶望の海へとダイブしていった。
ぼちゃーん。湯面との衝突音を盛大に響かせながら、義弟の身体は一瞬で消えてしまう。
「おわああああああ! モフ政殿おおおおぉぉぉぉ!」
「キャイイイイィィィィン!(ああああああああああああああ!)」
「ワフッワフッ」
必死に泳ごうとするモフ政を見て、パニックに陥った俺は、気付けば義弟を助けようと地獄の釜の中へと飛び込んでいた。
「キャキャンキャン(モフ政ああああぁぁぁぁ)」
「プニ長様!? お待ち……」
「キャインキャイン! (あっちいいいいぃぃぃぃ!)」
が、飛び込んで早々に熱すぎてまともに泳げるほどの思考が働かず、溺れたも同然の醜態を晒してしまう羽目になる。
慌てた六助がその場で着物を脱いで再び露わな姿になり、湯に飛び込む。
「プニ長様、モフ政殿、今お助けしますぞおおおおぉぉぉぉ」
「キャンキャンキャイン(だからそれ誰が得すんだよおおおおぉぉぉぉ)」
必要のないサービスシーンにまたもツッコミを入れている内に俺たちは六助の腕の中に収まり、何とか事なきを得た。
湯からあがって脱衣所まで運ばれ降ろされて、風邪をひかないようにと六助に布で身体を拭いてもらいながら、モフ政はぐったりしている。
「ワフゥ」
「キュ、キュンキュキュン(まあ、そもそも風呂に来るべきじゃなかったな)」
風呂嫌いだってのに、何でこいつはここに来たんだろうか。
あれこれと思案している間に、六助が俺たちを拭き終わり、立ち上がってから笑顔で口を開いた。
「さて、そろそろ夕食の準備も済んでいる頃です。食堂へ参りましょう」
食堂は宴会も出来そうで、多目的に使えそうな大広間だった。敷き詰められた畳の数は数えるのも億劫でがらんどうとしていながらも、不思議と黄色い声のおかげでもの寂しい感じはしない。
先に到着して歓談をしていた女性陣がこちらに気付くなり、お市が勢いよく立ち上がった。
「あっ! モフ政あんたどこ行ってたのよ! 探したじゃない!」
とか言いつつも、俺たちのところにいる気はしていたのだろう。そこまで心配しているようには見えなかった。
「皆様お帰りなさいませ」
「お帰りなさ~い!」
次いで帰蝶とソフィアが挨拶を口にする。俺たちが来るまで待っていてくれたらしく、既に各床机の上には料理が並べられていた。
「お待たせして申し訳ありません。さあ、冷めないうちにいただきましょう」
色々あって疲れたせいか、この日の飯は妙に美味かった。
やつは何をするでもなく、ただそこに佇んでいる。
こいつ、本当にどうしてここにいるんだろう。お市に部屋に置いてけぼりにされて暇だから探検、とかだろうか。で、俺たちの匂いをたどってここまで来た? それなら何故男湯? もしかしてこいつ俺のこと好きなの?
だめだ、考えてもわからん。とりあえず話しかけてみよう。
「キュ、キュキュン(おい、何か用かよ)」
「ワウ」
やっぱり通じない言葉を差し置いて、モフ政はくんくんと鼻を鳴らしながら、俺の身体の匂いを嗅ぎまわり始めた。
「キュウンキュ(今風呂入ったばっかだぞ)」
「……」
匂いを嗅ぎ終わると、また真正面から俺を見つめ始める。本当にどうすればいいかわからずこちらまで固まってしまった。
人間だった時、こういう時はどうしてたかな、と考えるも詮無いこと。家で飼うことは出来ず、ほとんどが路上での野良犬・猫かあるいはペットショップでのほんのわずかな触れ合いの経験しかなかったから。
まあ、適当に頭撫でたり抱っこしてやったりするんだろうけど、今は俺が犬になってしまっているしなあ。
とりあえず俺も匂いを嗅いでみるか。そういう犬の流儀みたいなものがあるのかもしれないし。
「……」
「……」
「……」
「……」
周囲をゆっくりと歩きながらすんこらすんこらやってみるも、モフ政は特に抵抗するでもなくされるがままになっている。
ふんふん……うおくさっ。こいつめっちゃ臭うぞ。いわゆる獣の匂いというやつだ。お市がいるのにしばらく風呂に入ってないのだろうか。そういえば、さっき風呂嫌いだとか言ってた気がするな。
俺は桶の逆側へと歩いて行き、振り返った。桶を挟んでモフ政と対峙する形になってから提案する。
「キュキュンキュン(とりあえずお風呂に入りなさい)」
「ワウ」
「キュキュンキュン、キュウンキュン(ぬるくなっちゃったけど、入らないよりはいいだろ)」
「ワウ」
すると意志が通じたのか、モフ政は桶の前まで歩き、縁に片方の手をかけて中を覗き込んだ。
「……」
そしてスッと元の態勢に戻り、再びこちらに視線をやってくる。
「何だ風呂か、入らねえよ」みたいな感じだろうか。いやでもね、そんだけ臭うとその内お市に無理やり入らされちゃうと思うよ?
どうやって桶の中にこやつを突っ込んでやろうかと思索を巡らせていると、背後からひたひたと足音が響いてきた。
「プニ長様が脱衣所に戻って来られないので見に来てみれば、モフ政殿ではありませんか。義兄上とお風呂に入ろうと言ったところですかな?」
いつの間にやらあがって着替えまで済ませていた六助だ。ていうかモフ政とはすれ違わなかったのだろうか。
とても愉快そうな六助は、桶内のお湯加減でも確かめようというのか、そのまま俺とモフ政に近付いてきた。そこで、はたと何かに気付き、モフ政の身体に顔を近付けて鼻をひくひくとさせる。
「む、そこそこに臭いますね。これは先にモフ政殿だけを洗った方が良さそうですかな。そうなると、待っている間に風邪をひかないよう、プニ長様もお湯に浸かっていただいた方がいいでしょうし、もう一つ桶が必要ですね」
ぶつくさと独り言ちながら立ち上がり、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。
「もう一つ大きい桶は、と……」
不幸にも、それはもうこの風呂場には存在しないようだった。そうなれば、次にこいつが取りそうな行動は予想がつく。
「キュ、キュキュン(おい、逃げろモフ政)」
「ワウ」
ダメ元でモフ政を説得しようとするもやはり無駄に終わった。
「では、私が直接抱きかかえてご入浴させて差し上げましょう。せっかくの温泉ですし、ただお湯で洗うだけというのも味気ないでしょう」
ほら来た。俺でさえ嫌なのに、元々風呂嫌いらしいモフ政にこれが耐えられるはずもないだろう。
ちなみに、六助が嫌とかそういうことではなく、我慢できない程熱くても逃げ出すことの出来ないという状況がまずい、ということだ。
六助は先程まで俺が浸かっていた桶のお湯を捨て、露天風呂から補充して、俺の目の前に置いた。
「そんなわけで、プニ長様はこちらに入ってお待ちください。その後に義兄弟での水いらずの入浴をお楽しみいただきますので」
「キュウンキュキュン(その気遣い全く要らんわ)」
「さ、モフ政殿」
そう言って笑顔の六助が、両腕を広げながらモフ政へ歩み寄る。
対するモフ政はお風呂に入れられる気配を察知したのか、それとも六助そのものが嫌なのか、ささっと一歩、逃げるように後ずさった。
「ウウ~」
「おや、どうしたのですか? 怖くないですよ~」
今モフ政の瞳に、六助はさながら自身を温泉へと突き落とす地獄からの使者として映っているに違いない。それぐらい警戒している。
しかしモフ政はあまり必死こいて逃げるタイプの犬ではない。だからそのまま大人しく捕まってしまった。
「ほら捕まえた~」
「ワフッワフッ」
腕の中で取れたての魚のようにびちびちと暴れるモフ政を抱いて、六助は湯の方へと歩いて行ったかと思えばふと立ち止まる。
「あっ、着物着たままだった……まあいいか」
そしてそのまま湯の中へ足を踏み入れ、恍惚の表情と共に身体を沈めていく。
「うっ……うおおあぁぁぁぁ~~……」
いやいや、着物は脱げよ。さすがにそれは頭おかしいだろ。
と心の中でツッコミを入れたのも束の間、湯面の接近に心が耐え切れなくなったらしいモフ政のびちびちが限界に達した。意外に力の強い六助も、不意を突かれて腕の中から逃げられてしまう。
そして、モフ政は湯という絶望の海へとダイブしていった。
ぼちゃーん。湯面との衝突音を盛大に響かせながら、義弟の身体は一瞬で消えてしまう。
「おわああああああ! モフ政殿おおおおぉぉぉぉ!」
「キャイイイイィィィィン!(ああああああああああああああ!)」
「ワフッワフッ」
必死に泳ごうとするモフ政を見て、パニックに陥った俺は、気付けば義弟を助けようと地獄の釜の中へと飛び込んでいた。
「キャキャンキャン(モフ政ああああぁぁぁぁ)」
「プニ長様!? お待ち……」
「キャインキャイン! (あっちいいいいぃぃぃぃ!)」
が、飛び込んで早々に熱すぎてまともに泳げるほどの思考が働かず、溺れたも同然の醜態を晒してしまう羽目になる。
慌てた六助がその場で着物を脱いで再び露わな姿になり、湯に飛び込む。
「プニ長様、モフ政殿、今お助けしますぞおおおおぉぉぉぉ」
「キャンキャンキャイン(だからそれ誰が得すんだよおおおおぉぉぉぉ)」
必要のないサービスシーンにまたもツッコミを入れている内に俺たちは六助の腕の中に収まり、何とか事なきを得た。
湯からあがって脱衣所まで運ばれ降ろされて、風邪をひかないようにと六助に布で身体を拭いてもらいながら、モフ政はぐったりしている。
「ワフゥ」
「キュ、キュンキュキュン(まあ、そもそも風呂に来るべきじゃなかったな)」
風呂嫌いだってのに、何でこいつはここに来たんだろうか。
あれこれと思案している間に、六助が俺たちを拭き終わり、立ち上がってから笑顔で口を開いた。
「さて、そろそろ夕食の準備も済んでいる頃です。食堂へ参りましょう」
食堂は宴会も出来そうで、多目的に使えそうな大広間だった。敷き詰められた畳の数は数えるのも億劫でがらんどうとしていながらも、不思議と黄色い声のおかげでもの寂しい感じはしない。
先に到着して歓談をしていた女性陣がこちらに気付くなり、お市が勢いよく立ち上がった。
「あっ! モフ政あんたどこ行ってたのよ! 探したじゃない!」
とか言いつつも、俺たちのところにいる気はしていたのだろう。そこまで心配しているようには見えなかった。
「皆様お帰りなさいませ」
「お帰りなさ~い!」
次いで帰蝶とソフィアが挨拶を口にする。俺たちが来るまで待っていてくれたらしく、既に各床机の上には料理が並べられていた。
「お待たせして申し訳ありません。さあ、冷めないうちにいただきましょう」
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