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上洛~姉川の戦い
男の子しちゃってる系BOY
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柴田隊、秀吉隊、森隊が一丸となって磯野隊へと襲い掛かる。
「オ、オラオラァ! これぐらいで俺をどうにか出来ると思ってんじゃねえぞオラァー!」
しかし、磯野隊を始めとした浅井軍の元には、いつの間にか両側面に展開されていた織田軍が続々と押し寄せている。その中にはこの天幕の背後にある横山城を包囲していたはずの西美濃三人衆の姿も見受けられた。
「オラオラ、オラァー! 撤退じゃオラァ!」
オラオラ系の磯野さんも、これにはたまらず撤退を開始する。
えっと、秀吉と柴田は退却したと思ってたんだけど、一体何がどうなってるのか誰か教えてぴょろりん。
いや、前に学校の先生も「人に聞いてばかりじゃなくて自分で考えなさい」と言っていたことだし自分で考えをまとめてみよう。
よくよく考えてみれば、坂井隊や池田隊とは違って、秀吉や柴田はほとんど戦わずして撤退していた。それに、秀吉の態度や台詞。
恐らくはこういうことだ。
開始時刻よりも早めに攻めて来るという奇襲を受けた織田軍は、まず坂井隊と池田隊が敗走する。
でも、その様子を見た秀吉がまず自分の隊の足軽たちに、左右に散開しながら撤退をするよう指示を出したのだと思う。そして秀吉本人は柴田の元へと走る。この時に西美濃三人衆への救援要請の早馬も出したかも。
ここで秀吉は、放っておけば真正面から突撃しかねない柴田に対して「反撃の時まで我慢して一度撤退してくれ」的なことを言ったに違いない。
こうして、磯野隊が森隊の元へ到達する頃には、縦に伸びた浅井軍を左右から囲む織田軍という構図が出来上がるというわけだ。これに西美濃三人衆の救援も加わって、反撃の準備は完璧に整ったって感じだろうな。
何とかなりそうではあるけど、数で劣る浅井軍がかなり奮闘したな。秀吉の機転が無ければ負けていた可能性すらある。
一安心、という気持ちでフンスと鼻息をついてごろんと寝転がると、同じように安堵した表情を浮かべたソフィアが何かに気付いた。
人差し指を顎に当てながら、宙に視線を漂わせつつ問い掛けて来る。
「そういえば、徳川軍の方はどうなっているのでしょう?」
「キュキュウン……(言われてみれば……)」
家康の方は朝倉軍と対峙していて、俺たちとは違って最初から数で負けていたはず。苦戦は免れないだろうし、磯野さんみたいな武将が朝倉家にもいれば、下手したらもう壊滅しているなんてこともあり得る。
「とりあえず見てみましょうか」
「キュウン(おなしゃす)」
〇 〇 〇
徳川本陣と思われる天幕の中。そこには木製の椅子に座した家康と、その前で片膝をつく服部半蔵が映し出されていた。
半蔵はその姿勢のまま、ぼそぼそと何かを語り掛けている。
「ニンニン……」
「そうか、織田軍は押し返したか! さすがだな!」
報告? を聞いた家康は明るい表情を見せる。でもすぐに何かを思い出したかのように眉根を寄せて悩み始めた。
「とはいえ、こちらの状況は相変わらず厳しいままだ。何か織田軍のように反撃の糸口が掴めればいいのだが」
「ニンニン……」
やはり徳川軍も劣勢に立たされているみたいだ。家康につられて、心なしか半蔵も浮かない顔をしているように見える。
家康が一体どのようにして半蔵とのコミュニケーションを成立させているかが気にはなるけど、今はそれどころじゃない。
二人して頭を抱えているところに、今度こそ明らかに忍者だと言える、黒装束に身を包んだ人が天幕に訪れた。そいつは俊敏な動作で半蔵の隣に片膝をつき、顔を上げて口を開く。
「申し上げます。本田平八郎忠勝殿が単騎駆けとのこと」
「何だって!?」
目を見開き、椅子から立ち上がる家康。
本田平八郎忠勝、敵をばったばった倒して行く無双系のアクションゲームで見たことある。「蜻蛉切り」とかいう長い槍を使いこなす豪傑で、徳川四天王の一人だった気がする。
単騎駆けというのは、一人で敵陣に突っ込んでいった的なことだろう。
家康は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした後、声を張り上げて二人の部下に告げた。
「全軍忠勝に続け! 彼をここで失うわけにはいかない!」
「はっ」
片膝をついたまま一礼をすると、入ってきた時と同じ素早い動きで、忍者らしき人は去っていった。
家康は立ち上がったまま顎に手を当て、自らの軍の状況を憂う。
「忠勝も頑張ってくれているんだ。何かないか、この状況を打開する手段が……」
「ニンニン……」
「どういうことだ?」
突然の忠臣の助言? に、家康は真摯に耳を傾ける。
「ニンニン……」
「なるほど、それしかないな。よし半蔵、すぐに伝令を頼む!」
「ニンニン……」
去っていく半蔵の背中を、家康は真剣な眼差しで見送っていた。
〇 〇 〇
「おおおおおおっ!!!!」
風景が切り替わり、織田軍が戦っていたのとは別の流域と思われる姉川が遠くに映し出されている。
そして、平野を馬に乗って駆ける武者が一人。
鹿の角らしき意匠があしらわれた兜を頭に乗せて、肩からは大きな数珠を下げている。筋骨隆々で大柄な体躯には軽装を纏い、腕からは穂先を鋭く光らせた、恐ろしく長い槍が伸びていた。
まるで後ろに大軍を背負っているかのような怒涛の勢いに、敵どころか味方までのみ込まれているみたいだ。
話の流れからして、この人が本田平八郎忠勝なのだろう。
「忠勝様をお守りしろ!」
「我らも続けぇー!」
やや遅れて、戸惑い気味だった徳川軍が忠勝について行く。
敵軍の前に到達した忠勝は恐れる気配すら見せずに胸を張り、声高に叫んだ。
「一足先に極楽浄土に行きたくば我に挑んでくるがいい!」
すると、朝倉軍が彼の元に殺到する。
「よろしくお願いします!」
「どりゃあ!」
「よっしゃあ!」
「お、おらも頼むだ!」
「でありゃあ!」
「行ってくるだ!」
忠勝が手にする名槍「蜻蛉切」によって次々に散っていく朝倉軍の兵士たち。
いやいや極楽浄土人気過ぎるだろ。中には向こうで食べる為なのか、おやつをいくつか携えているやつもいた。
当然の如く、足軽たちと一緒になって吹き飛んで行くおやつを見て、忠勝は鬼の形相で叫んだ。
「戦場におやつを持ち込むとは何事かぁ!」
「極楽浄土で食べてみたいでござろう!」
「そうだそうだ!」
戦線がわけのわからない盛り上がりを見せているうちに、遅れてやってきた徳川軍の兵がようやく合流する。
「忠勝様、遅くなり申し訳ありません!」
「僭越ながら助太刀いたす!」
慌てた様子で忠勝の横に並んでは、次々に敵と矛を交えていく足軽たち。
まだまだ数では劣っているけど、これなら反撃の準備が整うのも時間の問題かな……と、俺が安心しかけたその時だった。
「! ふんっ!」
突如として襲い来る、巨大な銀の一閃。自らの身に降りかかった火の粉を難なく振り払った忠勝は、それを放った人物がいるであろう先を見つめる。
それを操る本人の身の丈以上もあろうかという大太刀。忠勝と、同じく長尺の武器を手にするその男の対峙は、この戦場にあって異様であるとも、華やかであるとも言えた。
男は口角を吊り上げ、不敵に笑いながら語る。
「活きの良いのがいるって聞いて来てみりゃあ、期待通りって感じだな」
「人を魚みたいに言うのはやめい」
「や、そこは別にいいだろ」
苦笑しながら頬を指でかく大太刀の男は、しばらく間を空けてから、まるで何かの決まりごとのように、自然とその名を口にした。
「……真柄十郎左衛門直隆だ」
「わかった」
「…………」
「…………」
「いや、お前も名乗ってくれよ」
「何故名乗らねばならんのだ」
「いいから! あるだろそういうの!」
「本田平八郎忠勝と申す」
真柄って人は多分男の子したかったんだろう。決闘を前にして名乗るのって何かかっこいいもんな。
少しテンポはずれたものの、ようやく名乗り合いが出来てすっきりしたらしい真柄が動き出せば、忠勝もそれにならう。両雄はゆっくりと円を描くように歩きながら鋭い眼差しをぶつけ合い、そして。
「いくぜ!」
真柄のありがちな台詞を合図に、遂に死闘が開始された。
「オ、オラオラァ! これぐらいで俺をどうにか出来ると思ってんじゃねえぞオラァー!」
しかし、磯野隊を始めとした浅井軍の元には、いつの間にか両側面に展開されていた織田軍が続々と押し寄せている。その中にはこの天幕の背後にある横山城を包囲していたはずの西美濃三人衆の姿も見受けられた。
「オラオラ、オラァー! 撤退じゃオラァ!」
オラオラ系の磯野さんも、これにはたまらず撤退を開始する。
えっと、秀吉と柴田は退却したと思ってたんだけど、一体何がどうなってるのか誰か教えてぴょろりん。
いや、前に学校の先生も「人に聞いてばかりじゃなくて自分で考えなさい」と言っていたことだし自分で考えをまとめてみよう。
よくよく考えてみれば、坂井隊や池田隊とは違って、秀吉や柴田はほとんど戦わずして撤退していた。それに、秀吉の態度や台詞。
恐らくはこういうことだ。
開始時刻よりも早めに攻めて来るという奇襲を受けた織田軍は、まず坂井隊と池田隊が敗走する。
でも、その様子を見た秀吉がまず自分の隊の足軽たちに、左右に散開しながら撤退をするよう指示を出したのだと思う。そして秀吉本人は柴田の元へと走る。この時に西美濃三人衆への救援要請の早馬も出したかも。
ここで秀吉は、放っておけば真正面から突撃しかねない柴田に対して「反撃の時まで我慢して一度撤退してくれ」的なことを言ったに違いない。
こうして、磯野隊が森隊の元へ到達する頃には、縦に伸びた浅井軍を左右から囲む織田軍という構図が出来上がるというわけだ。これに西美濃三人衆の救援も加わって、反撃の準備は完璧に整ったって感じだろうな。
何とかなりそうではあるけど、数で劣る浅井軍がかなり奮闘したな。秀吉の機転が無ければ負けていた可能性すらある。
一安心、という気持ちでフンスと鼻息をついてごろんと寝転がると、同じように安堵した表情を浮かべたソフィアが何かに気付いた。
人差し指を顎に当てながら、宙に視線を漂わせつつ問い掛けて来る。
「そういえば、徳川軍の方はどうなっているのでしょう?」
「キュキュウン……(言われてみれば……)」
家康の方は朝倉軍と対峙していて、俺たちとは違って最初から数で負けていたはず。苦戦は免れないだろうし、磯野さんみたいな武将が朝倉家にもいれば、下手したらもう壊滅しているなんてこともあり得る。
「とりあえず見てみましょうか」
「キュウン(おなしゃす)」
〇 〇 〇
徳川本陣と思われる天幕の中。そこには木製の椅子に座した家康と、その前で片膝をつく服部半蔵が映し出されていた。
半蔵はその姿勢のまま、ぼそぼそと何かを語り掛けている。
「ニンニン……」
「そうか、織田軍は押し返したか! さすがだな!」
報告? を聞いた家康は明るい表情を見せる。でもすぐに何かを思い出したかのように眉根を寄せて悩み始めた。
「とはいえ、こちらの状況は相変わらず厳しいままだ。何か織田軍のように反撃の糸口が掴めればいいのだが」
「ニンニン……」
やはり徳川軍も劣勢に立たされているみたいだ。家康につられて、心なしか半蔵も浮かない顔をしているように見える。
家康が一体どのようにして半蔵とのコミュニケーションを成立させているかが気にはなるけど、今はそれどころじゃない。
二人して頭を抱えているところに、今度こそ明らかに忍者だと言える、黒装束に身を包んだ人が天幕に訪れた。そいつは俊敏な動作で半蔵の隣に片膝をつき、顔を上げて口を開く。
「申し上げます。本田平八郎忠勝殿が単騎駆けとのこと」
「何だって!?」
目を見開き、椅子から立ち上がる家康。
本田平八郎忠勝、敵をばったばった倒して行く無双系のアクションゲームで見たことある。「蜻蛉切り」とかいう長い槍を使いこなす豪傑で、徳川四天王の一人だった気がする。
単騎駆けというのは、一人で敵陣に突っ込んでいった的なことだろう。
家康は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をした後、声を張り上げて二人の部下に告げた。
「全軍忠勝に続け! 彼をここで失うわけにはいかない!」
「はっ」
片膝をついたまま一礼をすると、入ってきた時と同じ素早い動きで、忍者らしき人は去っていった。
家康は立ち上がったまま顎に手を当て、自らの軍の状況を憂う。
「忠勝も頑張ってくれているんだ。何かないか、この状況を打開する手段が……」
「ニンニン……」
「どういうことだ?」
突然の忠臣の助言? に、家康は真摯に耳を傾ける。
「ニンニン……」
「なるほど、それしかないな。よし半蔵、すぐに伝令を頼む!」
「ニンニン……」
去っていく半蔵の背中を、家康は真剣な眼差しで見送っていた。
〇 〇 〇
「おおおおおおっ!!!!」
風景が切り替わり、織田軍が戦っていたのとは別の流域と思われる姉川が遠くに映し出されている。
そして、平野を馬に乗って駆ける武者が一人。
鹿の角らしき意匠があしらわれた兜を頭に乗せて、肩からは大きな数珠を下げている。筋骨隆々で大柄な体躯には軽装を纏い、腕からは穂先を鋭く光らせた、恐ろしく長い槍が伸びていた。
まるで後ろに大軍を背負っているかのような怒涛の勢いに、敵どころか味方までのみ込まれているみたいだ。
話の流れからして、この人が本田平八郎忠勝なのだろう。
「忠勝様をお守りしろ!」
「我らも続けぇー!」
やや遅れて、戸惑い気味だった徳川軍が忠勝について行く。
敵軍の前に到達した忠勝は恐れる気配すら見せずに胸を張り、声高に叫んだ。
「一足先に極楽浄土に行きたくば我に挑んでくるがいい!」
すると、朝倉軍が彼の元に殺到する。
「よろしくお願いします!」
「どりゃあ!」
「よっしゃあ!」
「お、おらも頼むだ!」
「でありゃあ!」
「行ってくるだ!」
忠勝が手にする名槍「蜻蛉切」によって次々に散っていく朝倉軍の兵士たち。
いやいや極楽浄土人気過ぎるだろ。中には向こうで食べる為なのか、おやつをいくつか携えているやつもいた。
当然の如く、足軽たちと一緒になって吹き飛んで行くおやつを見て、忠勝は鬼の形相で叫んだ。
「戦場におやつを持ち込むとは何事かぁ!」
「極楽浄土で食べてみたいでござろう!」
「そうだそうだ!」
戦線がわけのわからない盛り上がりを見せているうちに、遅れてやってきた徳川軍の兵がようやく合流する。
「忠勝様、遅くなり申し訳ありません!」
「僭越ながら助太刀いたす!」
慌てた様子で忠勝の横に並んでは、次々に敵と矛を交えていく足軽たち。
まだまだ数では劣っているけど、これなら反撃の準備が整うのも時間の問題かな……と、俺が安心しかけたその時だった。
「! ふんっ!」
突如として襲い来る、巨大な銀の一閃。自らの身に降りかかった火の粉を難なく振り払った忠勝は、それを放った人物がいるであろう先を見つめる。
それを操る本人の身の丈以上もあろうかという大太刀。忠勝と、同じく長尺の武器を手にするその男の対峙は、この戦場にあって異様であるとも、華やかであるとも言えた。
男は口角を吊り上げ、不敵に笑いながら語る。
「活きの良いのがいるって聞いて来てみりゃあ、期待通りって感じだな」
「人を魚みたいに言うのはやめい」
「や、そこは別にいいだろ」
苦笑しながら頬を指でかく大太刀の男は、しばらく間を空けてから、まるで何かの決まりごとのように、自然とその名を口にした。
「……真柄十郎左衛門直隆だ」
「わかった」
「…………」
「…………」
「いや、お前も名乗ってくれよ」
「何故名乗らねばならんのだ」
「いいから! あるだろそういうの!」
「本田平八郎忠勝と申す」
真柄って人は多分男の子したかったんだろう。決闘を前にして名乗るのって何かかっこいいもんな。
少しテンポはずれたものの、ようやく名乗り合いが出来てすっきりしたらしい真柄が動き出せば、忠勝もそれにならう。両雄はゆっくりと円を描くように歩きながら鋭い眼差しをぶつけ合い、そして。
「いくぜ!」
真柄のありがちな台詞を合図に、遂に死闘が開始された。
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