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上洛~姉川の戦い
家臣たちの帰還
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美濃に戻ってからはいつも通りの平穏な時間を味わい、気付けば一日が過ぎてしまっていた。帰蝶の膝の上に座って何でもないひと時を過ごす。元いた世界では味わうことの出来なかった幸せが今、ここにある。
ちなみに今日はソフィアが遊びに来ている。
「帰蝶ちゃん、おせんべい食べますか?」
「いただきます」
どこからか取り出して差し出されたせんべいを手に取り、ぽりぽりとかじり始める帰蝶。ソフィアのやつ、餌付けしようとしてんじゃねえよ。
と思ったけど迂闊に口には出さない。うっかり翻訳されてしまって恥をかくという経験を何度もして来たからだ。
するとソフィアが俺に寄って来て小声で囁くように喋り出す。
「もう~、嫉妬なんかしちゃって。いつも独り占めしてるんですから、たまに私と触れ合うくらいいいじゃないですか」
「キュン(聞こえてんのかよ)」
どうもこいつには俺の心の声が聞こえているらしい。犬語? が通じていることといい、神の魔法みたいなものがあるのかもしれない。
そんなやり取りをしていると、また部屋の外からどたばたと騒がしい足音がやってきた。襖が開き、先の空間から六助が現れる。
「プニ長様! お楽しみのところ失礼致します!」
「キュンキュウン(お楽しみちゃうわ)」
「殿を務めた秀吉殿や柴田殿、そして明智殿が帰って来ました!」
「キュン(ふむ)」
命を張って最後尾での役目を果たしてくれたんだ。主従がどうとか以前に人としてお礼を言っておきたい。
「キュキュンキュン(もう城まで来てるのか?)」
「むう。いと尊し」
「キュン、キュウンキュウンキュン(おいソフィア、せんべい食ってないで訳してくれよ)」
「しょうがないれふねぇ」
自身とほぼ同じ大きさのせんべいからかじり取った破片をもぐもぐごっくんとしてから、ソフィアが俺の言葉を訳してくれた。
すでに家臣たちは続々とこの城に集結しつつあるとのことなので、少し待ってから全員で大広間へと移動することに。
大広間へ到着する頃には全員が揃っていた。いつも通りステージみたいなとこに俺が座って、その少し後ろに帰蝶、横にソフィア。正面に六助がいて、その左右に一列ずつずらりと家臣たちが並んでいる。
全員が静まった頃合いを見計らって六助が口を開いた。
「それでは只今より、論功行賞を行う! まずは木下殿、前へ!」
そう言って六助がすっと横に避けて家臣団の列に混じると、秀吉が立ち上がって俺の目の前までやって来てから座る。
「第一武功は殿を務めた木下隊! 敵の追撃を防いでくれたおかげで、プニ長様が無傷で美濃に到達できた功績は素晴らしいものである! よって、今日一日プニ長様をプニプニモフモフし放題に出来るものとする!」
途端に家臣団からどよめきが起こる。「何とうらやましい」とか「次の撤退戦では拙者が殿を」といった声も聞こえて来た。出来ればもう撤退戦はやりたくないと思います。
秀吉が座ったまま腰を折った。
「ありがたき幸せ」
「キュキュ、キュウン(おいおい、ちょっと待て)」
「ちょっと待って欲しいそうです!」
「何か?」
ソフィアの声に、六助だけでなく秀吉や他の家臣たちまでもがきょとんとした表情でこちらを見つめている。まじかこいつら。
「キュウンキュウンキュキュウ(せっかくの恩賞がそんなもんでいいのかよ)」
「せっかくの恩賞がそんなものでいいのか、と」
「はて、他にはどんなものがおありでしたか?」
「キュンキュン、キュウン(よくわかんないけど、土地とかさ)」
まあ、本音は秀吉に一日中プニプニモフモフされるのも嫌だから他の褒美にして欲しいだけなんだけどね。
「土地とか、と仰ってます!」
「またまた御冗談を」「土地で飯は食えませぬぞ」
「プニ長様はまことに尊いでござるなぁ、はっはっは」
「「「はっはっは」」」
「キュ、キュン(いや、飯は食えるだろ)」
逆にプニプニモフモフしたところで腹の足しにはならないぞ。
「キュウウンキュンキュウン(とにかく秀吉には別の褒美をやるから、プニモフはなしでお願いします)」
「秀吉さんには他の褒美をあげるからプニモフはなし、だそうです!」
「そ、そんな……」
この世の終わりのような表情をしてから、がっくりと肩を落とす秀吉。すまん、でもわかってくれ。お主とてちょんまげのおっさんに一日中触られまくるのは嫌じゃろ? そういうことなのじゃ……。
その後、柴田と明智にあげる褒美やらを決めて、実際の授与は六助に任せておいた。織田家が所有してる財産とかよく知らないし。
一通り論功行賞が終わったところで話題は今後のことへと移った。
「プニ長様、浅井長政めはどういたしますか?」
「キュウン(う~ん)」
先日六助も言っていたことだけど、殿を務めてくれた部隊のことを考えれば、やはり浅井家に一矢報いたいと思うのが人の心だろう。
家臣の気持ちを汲んで攻めたい反面、勝機はあるのかとか、そもそも当主を失ったばかりなはずの浅井家がどうしてあそこまで統率が取れているのかとか、疑問は尽きない。
とりあえず一つずつ尋ねてみよう。
「キュキュウンキュンキュウン?(浅井家はどうしてあそこまで統率が取れているんだと思う? )」
「浅井家はどうして統率が取れているウホホ!? です!」
「キュキュキュン(何でゴリラなんだよ)」
「恐らくですが、甘いものを使ったのではないかと思います。浅井家の前当主、久政殿はまだ生きておられますので、俺の言うこと聞いてくれたらきなこもちあげるよ~みたいな」
こいつ普通にまともなことが言える時だってあるのに、どこでおバカスイッチが入るのかよくわかんねえな……。まあいいや、この件は放っといて次に行こう。
「キュ、キュンキュンキュ? (今戦ってやつらに勝てると思う?)」
「今戦っても勝てるのか! ワンワン! だそうです!」
「プニ長様がいれば何も問題はございません」
こいつに聞いた俺がバカだった。もしかしなくても帰蝶に聞いてみた方がまだマシだったりして……。
「キュウンキュウン? (帰蝶はどう思う?)」
「帰蝶ちゃん、今晩空いてるかい? とのことです!」
「キュ(おい)」
「は、はい。空いておりますが……」
「キュウ~ン(空いてんのか~い)」
袖で口元を隠しながら動揺する帰蝶に、思わずツッコミを入れてしまった。
そんな彼女の反応を見たソフィアは、顎に手を当ててにやけながら、帰蝶に下卑た視線を送っている。
「ぬふふ、やはり恥ずかしがる美少女というのは素晴らしいですねえ」
「キュキュン、キュン(素晴らしいですねえ、じゃねえよ)」
気付けば帰蝶の耳が赤い。犬相手に恥ずかしがるなんて、なんて純粋な子なんだ……色んなところが尊くなるとか言ってた自分が恥ずかしいぜ。
「家臣たちの前で誘うとは、さすがプニ長様じゃあ!」
「いとサムライ! いとサムライ!」
「ワオ~ン! (うるせえよ!)」
一斉に立ち上がった家臣団の「いとサムライ」コールが凄すぎて俺の声もかき消されてしまう。ていうかなんだよいとサムライって。
しばらくしてようやく静まると、話を戻すことにした。ソフィアを通じて帰蝶に現状の織田家で勝てるかどうかを再度尋ねてみる。
「私が意見を述べるのも恐れ多いのですが……一旦態勢を整えつつ、近隣の織田方の城へ皆さんに入っていただいて、浅井朝倉方がどう出るか様子を見るのがいいのではないかと思います」
おおおっ、という声が家臣団からあがる。そう言われればそうだな、というくらいのことなのにやはり賢そうに聞こえるな。織田家マジック!
すると、ワカメみたいな髪型をした明智が、いきなりテンションマックスで中央側へ一歩前に出ながら口を開いた。
「いいじゃんいいじゃん! それすごくいいよ!」
別に明智に賛同されなくてもすごくいいことはわかっている。ていうかその前にお前髪切れよ、と言いたくなってしまう。
「キュウ。キュキュンキュン(よし。じゃあそうしてくれ)」
「そうしてくれ、と仰っています!」
「誰をどの城に配置致しますか?」
そう問いかけて来た六助を見つめ返しながら指示を飛ばす。
「キュウンキュウン(お前に任せる)」
「お前に任せる、とのことです!」
「恐悦至極」
そう言って下がると同時に秀吉が割り込んで来た。
「プニ長様、ならばこの岐阜城の守護は私にお任せを」
「ハゲネズミよ。貴様、そう言いながらプニモフを独占する気でござろう」
「何を仰いますか、柴田殿。独占出来るのはせいぜいプニプニくらいのもので……いっひっひ」
「やはりそうか、皆の者、出合え出合えぇぇぇ!」
「キュウキュウンキュキュン(またお前ら喧嘩してんのか)」
「いいぞもっとやれ! と仰っています!」
「キュン(おい)」
まあいいや。どうせ聞こえてないだろうし、部屋に戻って寝よ。
ちなみに今日はソフィアが遊びに来ている。
「帰蝶ちゃん、おせんべい食べますか?」
「いただきます」
どこからか取り出して差し出されたせんべいを手に取り、ぽりぽりとかじり始める帰蝶。ソフィアのやつ、餌付けしようとしてんじゃねえよ。
と思ったけど迂闊に口には出さない。うっかり翻訳されてしまって恥をかくという経験を何度もして来たからだ。
するとソフィアが俺に寄って来て小声で囁くように喋り出す。
「もう~、嫉妬なんかしちゃって。いつも独り占めしてるんですから、たまに私と触れ合うくらいいいじゃないですか」
「キュン(聞こえてんのかよ)」
どうもこいつには俺の心の声が聞こえているらしい。犬語? が通じていることといい、神の魔法みたいなものがあるのかもしれない。
そんなやり取りをしていると、また部屋の外からどたばたと騒がしい足音がやってきた。襖が開き、先の空間から六助が現れる。
「プニ長様! お楽しみのところ失礼致します!」
「キュンキュウン(お楽しみちゃうわ)」
「殿を務めた秀吉殿や柴田殿、そして明智殿が帰って来ました!」
「キュン(ふむ)」
命を張って最後尾での役目を果たしてくれたんだ。主従がどうとか以前に人としてお礼を言っておきたい。
「キュキュンキュン(もう城まで来てるのか?)」
「むう。いと尊し」
「キュン、キュウンキュウンキュン(おいソフィア、せんべい食ってないで訳してくれよ)」
「しょうがないれふねぇ」
自身とほぼ同じ大きさのせんべいからかじり取った破片をもぐもぐごっくんとしてから、ソフィアが俺の言葉を訳してくれた。
すでに家臣たちは続々とこの城に集結しつつあるとのことなので、少し待ってから全員で大広間へと移動することに。
大広間へ到着する頃には全員が揃っていた。いつも通りステージみたいなとこに俺が座って、その少し後ろに帰蝶、横にソフィア。正面に六助がいて、その左右に一列ずつずらりと家臣たちが並んでいる。
全員が静まった頃合いを見計らって六助が口を開いた。
「それでは只今より、論功行賞を行う! まずは木下殿、前へ!」
そう言って六助がすっと横に避けて家臣団の列に混じると、秀吉が立ち上がって俺の目の前までやって来てから座る。
「第一武功は殿を務めた木下隊! 敵の追撃を防いでくれたおかげで、プニ長様が無傷で美濃に到達できた功績は素晴らしいものである! よって、今日一日プニ長様をプニプニモフモフし放題に出来るものとする!」
途端に家臣団からどよめきが起こる。「何とうらやましい」とか「次の撤退戦では拙者が殿を」といった声も聞こえて来た。出来ればもう撤退戦はやりたくないと思います。
秀吉が座ったまま腰を折った。
「ありがたき幸せ」
「キュキュ、キュウン(おいおい、ちょっと待て)」
「ちょっと待って欲しいそうです!」
「何か?」
ソフィアの声に、六助だけでなく秀吉や他の家臣たちまでもがきょとんとした表情でこちらを見つめている。まじかこいつら。
「キュウンキュウンキュキュウ(せっかくの恩賞がそんなもんでいいのかよ)」
「せっかくの恩賞がそんなものでいいのか、と」
「はて、他にはどんなものがおありでしたか?」
「キュンキュン、キュウン(よくわかんないけど、土地とかさ)」
まあ、本音は秀吉に一日中プニプニモフモフされるのも嫌だから他の褒美にして欲しいだけなんだけどね。
「土地とか、と仰ってます!」
「またまた御冗談を」「土地で飯は食えませぬぞ」
「プニ長様はまことに尊いでござるなぁ、はっはっは」
「「「はっはっは」」」
「キュ、キュン(いや、飯は食えるだろ)」
逆にプニプニモフモフしたところで腹の足しにはならないぞ。
「キュウウンキュンキュウン(とにかく秀吉には別の褒美をやるから、プニモフはなしでお願いします)」
「秀吉さんには他の褒美をあげるからプニモフはなし、だそうです!」
「そ、そんな……」
この世の終わりのような表情をしてから、がっくりと肩を落とす秀吉。すまん、でもわかってくれ。お主とてちょんまげのおっさんに一日中触られまくるのは嫌じゃろ? そういうことなのじゃ……。
その後、柴田と明智にあげる褒美やらを決めて、実際の授与は六助に任せておいた。織田家が所有してる財産とかよく知らないし。
一通り論功行賞が終わったところで話題は今後のことへと移った。
「プニ長様、浅井長政めはどういたしますか?」
「キュウン(う~ん)」
先日六助も言っていたことだけど、殿を務めてくれた部隊のことを考えれば、やはり浅井家に一矢報いたいと思うのが人の心だろう。
家臣の気持ちを汲んで攻めたい反面、勝機はあるのかとか、そもそも当主を失ったばかりなはずの浅井家がどうしてあそこまで統率が取れているのかとか、疑問は尽きない。
とりあえず一つずつ尋ねてみよう。
「キュキュウンキュンキュウン?(浅井家はどうしてあそこまで統率が取れているんだと思う? )」
「浅井家はどうして統率が取れているウホホ!? です!」
「キュキュキュン(何でゴリラなんだよ)」
「恐らくですが、甘いものを使ったのではないかと思います。浅井家の前当主、久政殿はまだ生きておられますので、俺の言うこと聞いてくれたらきなこもちあげるよ~みたいな」
こいつ普通にまともなことが言える時だってあるのに、どこでおバカスイッチが入るのかよくわかんねえな……。まあいいや、この件は放っといて次に行こう。
「キュ、キュンキュンキュ? (今戦ってやつらに勝てると思う?)」
「今戦っても勝てるのか! ワンワン! だそうです!」
「プニ長様がいれば何も問題はございません」
こいつに聞いた俺がバカだった。もしかしなくても帰蝶に聞いてみた方がまだマシだったりして……。
「キュウンキュウン? (帰蝶はどう思う?)」
「帰蝶ちゃん、今晩空いてるかい? とのことです!」
「キュ(おい)」
「は、はい。空いておりますが……」
「キュウ~ン(空いてんのか~い)」
袖で口元を隠しながら動揺する帰蝶に、思わずツッコミを入れてしまった。
そんな彼女の反応を見たソフィアは、顎に手を当ててにやけながら、帰蝶に下卑た視線を送っている。
「ぬふふ、やはり恥ずかしがる美少女というのは素晴らしいですねえ」
「キュキュン、キュン(素晴らしいですねえ、じゃねえよ)」
気付けば帰蝶の耳が赤い。犬相手に恥ずかしがるなんて、なんて純粋な子なんだ……色んなところが尊くなるとか言ってた自分が恥ずかしいぜ。
「家臣たちの前で誘うとは、さすがプニ長様じゃあ!」
「いとサムライ! いとサムライ!」
「ワオ~ン! (うるせえよ!)」
一斉に立ち上がった家臣団の「いとサムライ」コールが凄すぎて俺の声もかき消されてしまう。ていうかなんだよいとサムライって。
しばらくしてようやく静まると、話を戻すことにした。ソフィアを通じて帰蝶に現状の織田家で勝てるかどうかを再度尋ねてみる。
「私が意見を述べるのも恐れ多いのですが……一旦態勢を整えつつ、近隣の織田方の城へ皆さんに入っていただいて、浅井朝倉方がどう出るか様子を見るのがいいのではないかと思います」
おおおっ、という声が家臣団からあがる。そう言われればそうだな、というくらいのことなのにやはり賢そうに聞こえるな。織田家マジック!
すると、ワカメみたいな髪型をした明智が、いきなりテンションマックスで中央側へ一歩前に出ながら口を開いた。
「いいじゃんいいじゃん! それすごくいいよ!」
別に明智に賛同されなくてもすごくいいことはわかっている。ていうかその前にお前髪切れよ、と言いたくなってしまう。
「キュウ。キュキュンキュン(よし。じゃあそうしてくれ)」
「そうしてくれ、と仰っています!」
「誰をどの城に配置致しますか?」
そう問いかけて来た六助を見つめ返しながら指示を飛ばす。
「キュウンキュウン(お前に任せる)」
「お前に任せる、とのことです!」
「恐悦至極」
そう言って下がると同時に秀吉が割り込んで来た。
「プニ長様、ならばこの岐阜城の守護は私にお任せを」
「ハゲネズミよ。貴様、そう言いながらプニモフを独占する気でござろう」
「何を仰いますか、柴田殿。独占出来るのはせいぜいプニプニくらいのもので……いっひっひ」
「やはりそうか、皆の者、出合え出合えぇぇぇ!」
「キュウキュウンキュキュン(またお前ら喧嘩してんのか)」
「いいぞもっとやれ! と仰っています!」
「キュン(おい)」
まあいいや。どうせ聞こえてないだろうし、部屋に戻って寝よ。
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