転生したら戦国最強のチワワだった~プニプニ無双で天下統一~

偽モスコ先生

文字の大きさ
上 下
6 / 150
上洛~姉川の戦い

城下町にて

しおりを挟む
 それから数日後。城の庭を横切ると、何やら書状を携えた六助がにやにやとしたままこちらに歩いて来たので無視をすることにした。

「おおっ、プニ長様! これは丁度良いところに! プニ長様! プニ長様!?」
「どうされたのですか? 何だか嬉しそうでございますね」

 強引に前を素通りしようとしたものの、俺の後ろをついて来た帰蝶が反応してしまった。ええ子やでほんま。
 六助は書状を握りしめたまま勢いよく答える。

「稲葉山城を乗っ取った竹中重治殿と安藤守就殿に『俺のとこに来いよ……』と書状を送ったところ、竹中殿からの返事はありませんでしたが、安藤殿からは『いいよ~他の西美濃三人衆にも声かけとくわ~』と来たのですよ!」
「キュキュン(よかったね)」
「おめでとうございます」
「さあ、早速軍議だ! 美濃をプニ長様に、必ずや献上して差し上げますよ!」

 そう言って、六助は鼻息も荒くずんずんと勇ましい足取りで去っていった。

「さて、それでは参りましょうか」

 六助を見送ると、帰蝶は俺を抱っこしてくれた。何でも今日は帰蝶が街を案内してくれるらしい。
 適当に散歩でもしようと城を出ようとしたら「街に出たいのですか? でしたら私が案内して差し上げますよ」と、つまりは勘違いされたことが発端だけど、俺も街を見ておきたいから丁度いいと思った次第だ。

 城から降りて街へと入ったら、大河ドラマに使われているような、古風な木造建築の建ち並ぶ風景が目に飛び込んで来る。
 戦国風な世界だけにやはりアスファルトやコンクリートは存在せず、文化は発達していない様子ながらも、通りを行き交う人々は俺がかつて暮らしていたところよりも活気に満ち溢れているように思えた。
 そんな街の人たちは、俺を見るなり両手を合わせて拝んできたり、時代劇みたいに「ははーっ」と言いながらひれ伏せたりしてくる。一体、俺の存在は国の住民たちにどのように伝わっているのだろう。
 ざっざっと、草履と土の擦れる音を鳴らして歩きながら帰蝶が説明してくれる。

「こちらがプニ長様が領有していらっしゃる、尾張国は清州城下の街並みでございます」

 そしてある商店を通り過ぎた際に、どこか昔を懐かしむような表情をしながらしみじみと語り出した。

「信長様は、寺社や貴族などにお金を払うことで販売の独占権などの特権を認められた、一部の商人たちによって行われている現在の市場を憂いておいででした」

 そういや学校のテストとかに出たことあったな……楽市楽座だっけ。よく覚えてないけど、自由に商売しようぜえ! みたいな政策だった気がする。今度気が向いたら信長の代わりに施行しといてやろう。

「尾張統一までようやく後一歩というところまで迫り、これからだという時にまさか喉にお餅をつまらせてお亡くなりになるなんて……」
「キュウン……(帰蝶たん……)」

 今にも泣き出しそうな帰蝶の頬をぺろぺろと舐めてみる。日本なら逮捕案件だけど、今は犬の身体になっているので許して欲しい。
 すると帰蝶はどうやら目尻に溜まっていたらしい涙を拭って、こちらにつぼみがぱっと開いたような笑みを見せてくれた。

「ふふっ。ありがとうございます、プニ長様」

 それと今の話を聞いていてふと気になったんだけど、信長と帰蝶はその……どこまでいったのかな、なんて。もしかしてもういくところまでいってしまったのだろうか。夫婦だし別に全然おかしなことじゃないもんな。
 いや、でも信長って大名になる頃にはそこそこ歳をとってたはず。それで帰蝶とすることしちゃったら信長というよりはロリ長なのでは?

 あれこれと考えてもやもやしていると、俺たちの周りに小さい子供たちがわらわらと集まって来た。

「いぬー!」「ちげーよ、おいぬさまだよ!」
「かわいー!」
「こーらっ。国主様なんだから、無礼なことをしちゃだめよ?」

 小さい子たちをたしなめる帰蝶。俺にもお願いします。
 にしてもソフィアの話だとチワワは他にはいないって話だったけど、他の犬種は存在してるんだな。ってことは、この日本に存在しない俺みたいな犬種が、「お犬様」と呼ばれているという認識で合っているんだろうか。

「さわらせて!」「おい、やめとけって」
「だめ?」「もふもふをたまわる、とかいうんじゃないの?」
「もふもふ?」
「えっと……」

 帰蝶が困り顔でこちらを見下ろして来たので、別にいいよ~という意思表示の為に尻尾を振ってあげる。小さい子供は苦手ってわけでもないし、帰蝶もいるからいじめられたりはしないだろう。
 俺を見た帰蝶がぱっと明るい表情を見せてくれた。

「触ってもいいよって。よかったね」

 許可を与えられた子供たちが、一斉にこちらに手を伸ばしてくる。

「わ~!」「ふわふわ!」
「もふもふっていうんだって」「もふもふ!」

 うおお……割とすごい勢いでもみくちゃにされている。やっぱり小さい子供ってのは遠慮がないな。
 そんな状況をどう見たのか、子供たちからひょいっと俺を引き離してから、帰蝶が穏やかな笑顔で言った。

「プニ長様が困っておいでだから、もふもふはこれまで」
「えー」「けちー!」
「じゃあほかのことしてあそぼうよ!」
「え~。何して遊ぶの?」

 帰蝶が楽し気に尋ねると、皆が一斉に手を挙げて案を発表した。

「きのぼり!」「あやとり!」
「かくれんぼ!」「あやとりなんてつまんねーだろ!」
「きのぼりだってあぶないじゃん!」
「こらこら、喧嘩しないの」

 男の子と女の子に分かれて争い、それを帰蝶がなだめている。すると帰蝶は視線を宙に躍らせてから諍いに審判を下した。

「う~ん、その中なら木登りかな」
「え~!」

 女の子たちが不満そうな声をあげる。

「ですよね? プニ長様」

 ドヤ顔(可愛い)でこちらを見つめる帰蝶。えっ、俺も参加するの?
 もしかして、木登りを選んだのは提示された遊びの中で俺が一番活躍出来そうだから、だったりするのかな……。この足であやとりなんて出来るわけがないし、かくれんぼは地理を知らないから。
 わかったよ、僕、君の為に頑張るよ! 帰蝶たん!

 全員で、街を出てすぐのところにある木の下に移動する。野次馬のようなものなのか、他の住民たちまで少しばかりついてきてしまった。
 観客が出来て少し興奮した様子の男の子が声を大にして仕切り始める。

「よーし、やるぞ!」
「いちばんうえまでのぼったやつのかちな!」
「がんばれ~!」
「プニ長様、頑張って~!」

 どうやら女の子たちも観客になることにしたらしく、帰蝶も混じって少し外れたところから黄色い声援を飛ばしてくれている。

「キュンキュキュン(かかってこいやガキ共)」

 帰蝶の腕から下りた俺は、木の下で少年たちを睨みつける。ここでかっこいいところを見せ付けて帰蝶との絆をより強固なものにするんだ……!
 なんて思っている間にも、ヤローどもは木にかじりつく勢いで登り始めた。

「いちばんのりぃー!」
「まてよおらー!」

 よし、俺もいくぜ!

「ワオオオオォォォォン(どりゃあああああああああ)」

 かりかり、かりかり。

「ウオオオオォォォォン(だりゃあああああああああ)」

 かりかり、かりかり。
 俺の右前足がうなりを上げ、その爪が木の幹を刈り取らんとばかりに猛威を振るっている。
 しかし。

「プニ長様、頑張って~!」「がんばれー!」
「かわいー!」「ぜんぜんのぼれてない!」

 よく考えたらこれ、どうやって登るんだよ。爪が幹に引っ掛かるわけでもなく、かと言って一気に枝に飛び乗れるほど跳躍力があるわけでもない。世の犬猫たちは一体どうやって木に登ってるんだ。
 俺も思わず高いところまで行きすぎてしまって、自分で登っておきながら帰蝶たんに「助けて~」という目線を送ってみたい。

「おお、いと尊し!」「いとカリカリ!」

 俺の苦悩も露知らず、観客たちは好き勝手に盛り上がってやがる。

「アオ~ン!(ちくしょおおお!)」

 何も出来ない無力な俺はただただ、青空に向かって吠えるしかなかった。



 楽しかった(?)木登りも終わってギャラリーも自然と姿を消し、子供たちともお別れの時間がやって来た。
 小さい女の子が、帰蝶を純真無垢な瞳で見上げている。
 
「またあそびにくる?」
「うん、また来るから、それまで待っててね」

 二人は、小指を絡ませて契りを交わした。

「やくそく!」

 子供たちの「またね~!」に見送られながら、その場を後にした。それからもすこしだけ街を散策して城に戻ったけど、感想としては「いつの時代も人間そのものはあまり変わっていない」というものだった。
 今日を生きる為に必死で金の勘定をする大人たち。家庭を守り、我が子の身を案ずる母親たち。そして、時間と元気を持て余した子供たち。
 今いちピンと来ないお犬様大名としての妙な生活だったけど、街の人たちにより良い暮らしをさせてやりたいな、とは思うようになった。
 西の空はいつの間にか茜色に染まり、燃えるような夕日に、気付けば心を焦がされているような気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

元剣聖のスケルトンが追放された最弱美少女テイマーのテイムモンスターになって成り上がる

ゆる弥
ファンタジー
転生した体はなんと骨だった。 モンスターに転生してしまった俺は、たまたま助けたテイマーにテイムされる。 実は前世が剣聖の俺。 剣を持てば最強だ。 最弱テイマーにテイムされた最強のスケルトンとの成り上がり物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...