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ろくでなし勇者、何だか褒められる

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 勇者様は最初からあの魔王が王国を救いに来た人だって知ってたの!?
 でもどうして……?

「次はお前だぁっ!おらぁっ!『すごい通常攻撃』!!」
「しゅごいいいい!!!!」

 立て続けに勇者様は王様を倒してしまった。
 べ、別に倒すまではしなくても良かったと思うけど……。

 死んではいないからいいのかな。
 やっぱり勇者様は優しい。

 魔王は呆然と勇者様の戦う姿を眺めていたけど、やがてその場にへたり込んだ。

「ふっ、何だか知らないけど助かったわ……実は、喋り過ぎたせいで『かなりすごい封印』を維持する体力が尽きそうだったのよね」
「おうそりゃよかったぜ。お礼なら後で俺と……」

 そこで場が落ち着いたと思い、勝手に家を出て来たことも忘れて私は勇者様のところに駆け寄った。

「勇者様!!」
「うおっ!リリスいたのか!?」

 ふふふ、驚いてる。
 魔王を助けるのに夢中で、私に気付いてなかったみたい。

「勇者様すごいです!!どうして担々麺ニボニボ塩風味が王国の圧政に苦しんでる人たちを助けに来たってわかったんですか!?」
「えっ……」

 いきなり私のテンションが高いからか、勇者様はびっくりしている。
 でもすぐにドヤ顔になって教えてくれた。
 
「ふっ、まあこの俺の『勇者アイ』にかかればそんなの一発だ」

 『勇者アイ』……!?
 すごい!全然聞いたことのない未知の力?かスキル?だけど、勇者様はそんなものまでお持ちなんだわ!

 やっぱり勇者様はかっこいいなあ……。

 ☆ ☆ ☆

 え~と……何がどうなってんだ?
 担々麺ニボニボ塩風味がいい女だって聞いたから助けに来て、自分でやっといて何だけど仮にも国王と新勇者をぶった切ったってのに、えらい褒められようなんだけど……。

 リリスと魔王の言葉や状況から察するに、魔王は王様を倒して国を救うつもりだったってことか……?

 まあ王様のだめっぷりは前から知ってたけど、何でそれを魔王が……?
 わからないことが多すぎる。

 やがて遅れてマリアが入って来て魔王に気付くと、かなり驚いた様子で声を張り上げた。

「あ、あなたは……!!もしかして新しい魔王ってあなたなの!?」
「あらマリアじゃない。そうよ、王様を倒しに来たの」
「そういうことだったのね……!何でこの国を真っ先に狙うのかと思っていたけど……納得だわ。ここに来るまでに見て来たけど、ラーメンを無理やり食べさせられた以外に民に被害も出ていないしね」

 こいつら知り合いか?
 そうかなるほど、担々麺ニボニボ塩風味は以前城で働いていて、王様のだめっぷりに我慢が出来なくなって味噌ラーメン醤油味と契約して魔王になったと。

 しかし実は体力が切れて負けそうになっていた、そこに俺が現れて新しい勇者と王をこの俺が倒したと……。

 俺めっちゃおいしいやん……。

「でもね、最後の最後であのアディに助けられて、おいしいところも全部持っていかれちゃったわ……最低な男って聞いてたけど、中々やるじゃない」
「そうだったんですね……勇者様、ありがとうございます……!このお礼は今度身体でお返しします……!」

 マリアがチョロすぎるのが気にはなるが、何だかめっちゃ感謝されている。
 下心だけでここに来た事は内緒にしておこう。

 その後俺たちは城の役人たちも交えて、今後どうするかを話し合った。
 結果として王様は国外に追放し、新しい玉座には担々麺ニボニボ塩風味がつくことになる。

 ちなみに、俺たちは今後の国の安全の為に、役人たちから王国に住まないかと言われたけど断った。

 何だか俺はジミーダ村での暮らしを少し気に入り始めているからだ。

 魔王が人間の国の王になることに関してはさすがに疑問の声があがったものの、元々魔王と言うのは「代価を払って味噌ラーメン醤油味から力をもらった者」であって、本当の意味での魔王というのは実は味噌ラーメン醤油味だけなのだ。

 つまり、担々麺ニボニボ塩風味は今でもほぼ人間で、外見上も問題はない。
 王都に侵入していた軍勢もレンタルサービスであって、残された懸念である彼女とモンスターとの繋がりは今はもうないとのこと。

 担々麺ニボニボ塩風味はここで働いていた頃には人望もあったらしく、彼女が王になると言えば、説明には苦労したものの役人以外の城の人たちも何とか納得してくれた。国民の反応はまだわからないけど、前の王様みたいな政治をしなければ確実に暮らしは良くなるし、納得してくれるだろう。

 ただ、味噌ラーメン醤油味と契約した時の代価の一つとして「自分が担当するラーメンの味を広める」という約束があるので、これからは王国の名産が担々麺ニボニボ塩風味になってしまうらしい。

 とにかくそんなこんなで王国の脅威は去り、一件落着。
 俺たちはジミーダ村の家に帰還したんだけど……。

「何でお前がいるんだ?」

 とある朝、マリアが家に押しかけて来て一緒に飯を食い始めた。

「いえ、その……この前のお礼を身体でお返ししようかと……」
「それしか頭にねえのかよ。ていうか仕事はどうした仕事は」
「やめました」
「は?」
「仕事をやめて、昨日この村に引っ越してきました!私も憧れの勇者様と一緒に冒険者生活をしたいのです!ご迷惑かとは思いますが、どうか私も仲間に入れていただけませんでしょうか……」

 本当にご迷惑だな……。
 いや、マリアも見た目は美人だし悪くはないんだけど、チョロすぎる女の子ってのは何だか心に闇を抱えてそうで怖いというのがある。

 まあ、この家に住むわけじゃねえしな……クエストに一緒に行くくらいならまあ構わないか。

 そう考えているとリリスが喋り出し、

「あの……その辺りは勇者様のご意向に従いますが……その、恩を身体で返すとか……そういったものは私の役目ですので……」

 そんなとんでもない事を言い出した。
 俺は朝飯を噴き出してしまい、辺りに散らばる。

「あら、リリスちゃんはヤキモチ妬きなのねえ……いいじゃない、皆で相手をしていただけば。独占する必要なんてないと思うわ」
「うっ……勇者様がそうしたいなら構いませんけど……出来れば相手は、私一人で……」
「まあかわいい。何ならお姉さんとそういうことしちゃう?」
「やっ、やめてください……」

 お前ら二人ともハーレム要員じゃないんですけど。
 何だか騒がしい冒険者生活になりそうだな……。
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