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「えっ」
促されて窓の外を見る。
するとそこは、いつの間にか舞い散る雪で真っ白になっていた。
「わぁっ……」
駈は窓に張り付くと、そう感激したような声を上げた。
「駈、興奮しすぎでしょ」
笑いながら英がそう言うと。
「いやだって、ここでこんなに雪降ったことなんて最近……っていうか、もう十年近くなかったよな? 俺がこっちに来てから一度も見たことなかったし……」
駈は頬を染めたまま、早口でそう捲し立てた。
「っていってもさ、駈の地元ではこんなの、全然普通だったよな?」
「ああ、まぁな……」
駈の脳裏に、もう長いこと帰省していない故郷の景色が蘇る。
豪雪地帯という訳ではないが、この時期辺りからすでに雪かきに駆り出されていたことを思い出し、駈はそれだけでげんなりした気持ちになった。
だからこそ……駈自身にも、どうしてこうも自分がはしゃいでしまったのか、よく分からないでいた。
「お前の言う通り、雪なんて死ぬほど見飽きているはずなのに、どうしてかな……まるで違うものを見ているような、そんな気分になるんだよな」
その呟きに、英はニヤリと駈を見つめた。
「その理由……教えてやろうか?」
確信めいた視線ともったいぶった言い方に、駈は胡散臭そうな顔をする。
「……なんだよ」
仕方なくそう尋ねてやると、英はふふん、と口角を吊り上げた。
「それはさ……この俺と一緒にいるから、じゃない?」
「……」
「……何か言ってよ」
自分でそう言っておきながら、英は沈黙に耐えかねて駈を見やる。
そんな彼の弱り切った表情に、駈は思わず吹き出すように笑ってしまった。
「どうやったらそんな発想になるんだよ、って言いたいとこだけど……ま、確かに一理、あるかもな?」
その答えに英はくるりと表情を変えると、「だろ~?」と得意げに微笑んでみせた。
この雪のせいもあってか、車の列は一層のろのろとしたペースでしか進まなくなっていた。
英が付けたラジオからは、この予想を超えた大雪で混乱した各地の様子が延々と流れている。
「そういやさ、冬休みの部活の後、ゲー研メンバーで雪合戦したよな」
半ば諦め気味の二人は、学生時代の話に花を咲かせていた。
英から「覚えてる?」と振られ、駈は「ああ」と勢いよく頷く。
「運動なんて全然……って奴らばっかりなのに、みんな本気になってやり合ったよな。で、お前だけ飛びぬけて凄くって……無駄にハンドボールの技みたいなの繰り出してくるしさ」
「そこまで覚えてるんだ」
「だってお前、俺に相当当てただろ……」
「あれ、そうだっけ?」
「……覚えてるくせに」
駈の恨み節に、英はアハハと笑ってごまかした。
「ほんと……懐かしい話だよな」
「っていうか……ガキだったよな、俺たち」
……そう言ってくすくすと肩を揺らす駈の顔にはもう、さっきまでのもの寂しい色は消えて無くなっていた。
英は気が付くと、駈の右腕をむんずと掴んでしまっていた。
「ん? どうした?」
駈はポカンと首を傾げている。
「……」
英はそれに答えることなく、その腕をぐいっと自分の方へと引っ張った。
「わっ!」
上がった悲鳴には聞こえなかったフリをして、彼の身体を限界まで自分へと近づける。
「何すんだよ、英、んん……っ!」
文句を言おうと薄く開いた唇を、英は自分の唇で塞ぐ。
そのまま、さらに密着させるように駈の後頭部を引き寄せた。
「ん、ぅ……っ」
背中に手を回し、隙間から舌を捻じ込んでいく。
駈は最初こそ英を引きはがそうと肩を押したが……いよいよ外が視界を完全に遮るほど白くなってくると、その手をするりと英の腕へと滑らせてきた。
くちゅ、くちゅと甘やかな水音がお互いの鼓膜を揺らす。体温を交換するように舌を絡ませ合えば、さらに二人の吐息は熱く忙しなくなっていく。
腕を掴む手が時折ぴくりと反応するのがこそばゆくも愛おしい。
シートベルトの煩わしさも、いつしか気にならなくなっていた。
英は口の端から溢れそうになっている唾液を舐めとると、すっかり芯を失ってしまったらしい駈からそっと身体を離した。
「ったく、お前なぁ……っ」
よろめきながら、唇を雑に手の甲で拭って文句を言う駈だったが……途中から自分もそれに乗ってしまった自覚があるせいか、声にいつものような覇気はない。
その代わり、「お前のそういうとこ、マジでガキのまんまだよな」と溢すと、シートへとどさりと身体を投げ出した。
英はその台詞にまた、ニッと口の端を引き上げる。
「でも……ガキにはこういうこと、できないはずだけど?」
「…………」
「…………だからさ、何とか言ってよ」
英に小突かれ、駈はハァ、と呆れた表情でため息を吐いた。
「お前……絶対そう言うと思ったんだよなぁ」
「あ、バレてた?」
「バレてたもなにも……お前が作詞家じゃなくてほんと良かったよ」
促されて窓の外を見る。
するとそこは、いつの間にか舞い散る雪で真っ白になっていた。
「わぁっ……」
駈は窓に張り付くと、そう感激したような声を上げた。
「駈、興奮しすぎでしょ」
笑いながら英がそう言うと。
「いやだって、ここでこんなに雪降ったことなんて最近……っていうか、もう十年近くなかったよな? 俺がこっちに来てから一度も見たことなかったし……」
駈は頬を染めたまま、早口でそう捲し立てた。
「っていってもさ、駈の地元ではこんなの、全然普通だったよな?」
「ああ、まぁな……」
駈の脳裏に、もう長いこと帰省していない故郷の景色が蘇る。
豪雪地帯という訳ではないが、この時期辺りからすでに雪かきに駆り出されていたことを思い出し、駈はそれだけでげんなりした気持ちになった。
だからこそ……駈自身にも、どうしてこうも自分がはしゃいでしまったのか、よく分からないでいた。
「お前の言う通り、雪なんて死ぬほど見飽きているはずなのに、どうしてかな……まるで違うものを見ているような、そんな気分になるんだよな」
その呟きに、英はニヤリと駈を見つめた。
「その理由……教えてやろうか?」
確信めいた視線ともったいぶった言い方に、駈は胡散臭そうな顔をする。
「……なんだよ」
仕方なくそう尋ねてやると、英はふふん、と口角を吊り上げた。
「それはさ……この俺と一緒にいるから、じゃない?」
「……」
「……何か言ってよ」
自分でそう言っておきながら、英は沈黙に耐えかねて駈を見やる。
そんな彼の弱り切った表情に、駈は思わず吹き出すように笑ってしまった。
「どうやったらそんな発想になるんだよ、って言いたいとこだけど……ま、確かに一理、あるかもな?」
その答えに英はくるりと表情を変えると、「だろ~?」と得意げに微笑んでみせた。
この雪のせいもあってか、車の列は一層のろのろとしたペースでしか進まなくなっていた。
英が付けたラジオからは、この予想を超えた大雪で混乱した各地の様子が延々と流れている。
「そういやさ、冬休みの部活の後、ゲー研メンバーで雪合戦したよな」
半ば諦め気味の二人は、学生時代の話に花を咲かせていた。
英から「覚えてる?」と振られ、駈は「ああ」と勢いよく頷く。
「運動なんて全然……って奴らばっかりなのに、みんな本気になってやり合ったよな。で、お前だけ飛びぬけて凄くって……無駄にハンドボールの技みたいなの繰り出してくるしさ」
「そこまで覚えてるんだ」
「だってお前、俺に相当当てただろ……」
「あれ、そうだっけ?」
「……覚えてるくせに」
駈の恨み節に、英はアハハと笑ってごまかした。
「ほんと……懐かしい話だよな」
「っていうか……ガキだったよな、俺たち」
……そう言ってくすくすと肩を揺らす駈の顔にはもう、さっきまでのもの寂しい色は消えて無くなっていた。
英は気が付くと、駈の右腕をむんずと掴んでしまっていた。
「ん? どうした?」
駈はポカンと首を傾げている。
「……」
英はそれに答えることなく、その腕をぐいっと自分の方へと引っ張った。
「わっ!」
上がった悲鳴には聞こえなかったフリをして、彼の身体を限界まで自分へと近づける。
「何すんだよ、英、んん……っ!」
文句を言おうと薄く開いた唇を、英は自分の唇で塞ぐ。
そのまま、さらに密着させるように駈の後頭部を引き寄せた。
「ん、ぅ……っ」
背中に手を回し、隙間から舌を捻じ込んでいく。
駈は最初こそ英を引きはがそうと肩を押したが……いよいよ外が視界を完全に遮るほど白くなってくると、その手をするりと英の腕へと滑らせてきた。
くちゅ、くちゅと甘やかな水音がお互いの鼓膜を揺らす。体温を交換するように舌を絡ませ合えば、さらに二人の吐息は熱く忙しなくなっていく。
腕を掴む手が時折ぴくりと反応するのがこそばゆくも愛おしい。
シートベルトの煩わしさも、いつしか気にならなくなっていた。
英は口の端から溢れそうになっている唾液を舐めとると、すっかり芯を失ってしまったらしい駈からそっと身体を離した。
「ったく、お前なぁ……っ」
よろめきながら、唇を雑に手の甲で拭って文句を言う駈だったが……途中から自分もそれに乗ってしまった自覚があるせいか、声にいつものような覇気はない。
その代わり、「お前のそういうとこ、マジでガキのまんまだよな」と溢すと、シートへとどさりと身体を投げ出した。
英はその台詞にまた、ニッと口の端を引き上げる。
「でも……ガキにはこういうこと、できないはずだけど?」
「…………」
「…………だからさ、何とか言ってよ」
英に小突かれ、駈はハァ、と呆れた表情でため息を吐いた。
「お前……絶対そう言うと思ったんだよなぁ」
「あ、バレてた?」
「バレてたもなにも……お前が作詞家じゃなくてほんと良かったよ」
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