dominante_motion

忠珍鱈

文字の大きさ
上 下
61 / 98

61

しおりを挟む
その反応に、駈は(しまった)と顔を青ざめさせる。
(やっぱり、あいつの言っていた『好き』っていうのは、友情の方だったってことか……!)

二人が見つめあっているうちに、信号が青に変わる。
走り出したその車の中で、駈はただただ絶望していた。
(やってしまった……)
以前、英が過去に戻りたいと嘆いたとき、駈は否定したのだが――今はタイムマシンでも何でも使って数分前へと戻ってしまいたかった。

これから一緒に働くことになるというのに……と、駈が鬱々としていると。
突然、山潟がハンドルをポンと叩く。
「と、いうことはだぞ……とうとう俺にも運が巡ってきた、ってことだな!」

やはり脈略のないことを言う山潟に、駈は死にそうな顔を持ち上げる。
「……運?」
いったいそれが、駈と英の関係にどう繋がってくるのだろう。
不思議そうな顔をする駈に、山潟は学生時代のようなはしゃいだ笑みを浮かべた。

「いやー俺、前々から砂山にさ、何か仕事紹介してくれって話してたのよ。ほら、以前に曲提供した企業とか、色々ツテがありそうだろ? でもあいつ、それについては完全無視でさぁ。でも、お前となったんなら……今度こそ、真面目に考えてくれるよな!」
コネゲットだぜ、とガッツポーズを取る山潟に、駈はへろへろと脱力した。

(そうだ……こいつは昔からこういう奴だった)


朗らかで誰とでも仲良くできる、模範的な生徒――そんな評価をされがちな彼の本当の姿を、駈は中学の時には既に知っていた。

当時、皆から――特に女子生徒から嫌われまくっていた中年の数学教師がいた。嫌われる理由は様々あったが、授業がつまらない、話し方が厭味ったらしいというだけでなく、そこまで見た目を気にしない駈でさえも若干引いてしまうほど、酷い寝ぐせと無精ひげ、皺だらけの黄ばんだワイシャツがトレードマークになっているような男だった。
だが、そんな教師と唯一、親しくしている奴がいた。それが同じクラスの山潟だったのだ。

「どうしてあんな奴と仲良くしているんだ?」
駈はある時、思い切ってそう尋ねた。
すると彼は「何でこんなことを聞かれるんだ?」という顔をしながらこう答えたのだ。
「だってあの先生、めちゃくちゃゲーム詳しいんだぜ! 例えば、今はやってる○○あるだろ? あれの元になったやつとかも知ってて、しかもそれを持っているんだって! で、今度それを貸してくれるって約束してくれたんだ!」
だから駈も仲良くしようぜ、と無邪気に誘ってくる山潟を前にして、駈は「生徒にゲームを貸すってどうなんだ」と胸の内で突っ込みを入れながら、先生よりもまず山潟への認識を改めたのだった。

そう、彼は決して他人の基準で物事を判断しない。そんな彼だからこそ、あの個性豊かなゲー研の面子をまとめられたのだろう。さらに、駈や藤河など、一度懐に入れた人間を広い心(?)で包み込む度量もある。
そして何より――なかなかに現金なのだ。

「期待したって無駄だと思うけどな……」
「いや、俺は諦めないぞ!」
鼻息を荒くする彼に、駈はため息交じりの笑みを零したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハメられたサラリーマン

熊次郎
BL
中村将太は名門の社会人クラブチーム所属のアメフト選手た。サラリーマンとしても選手としても活躍している。だが、ある出来事で人生が狂い始める。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

九年セフレ

三雲久遠
BL
在宅でウェブデザインの仕事をしているゲイの緒方は、大学のサークル仲間だった新堂と、もう九年セフレの関係を続けていた。 元々ノンケの新堂。男同士で、いつかは必ず終わりがくる。 分かっているから、別れの言葉は言わないでほしい。 また来ると、その一言を最後にしてくれたらいい。 そしてついに、新堂が結婚すると言い出す。 (ムーンライトノベルズにて完結済み。  こちらで再掲載に当たり改稿しております。  13話から途中の展開を変えています。)

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

処理中です...