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その反応に、駈は(しまった)と顔を青ざめさせる。
(やっぱり、あいつの言っていた『好き』っていうのは、友情の方だったってことか……!)
二人が見つめあっているうちに、信号が青に変わる。
走り出したその車の中で、駈はただただ絶望していた。
(やってしまった……)
以前、英が過去に戻りたいと嘆いたとき、駈は否定したのだが――今はタイムマシンでも何でも使って数分前へと戻ってしまいたかった。
これから一緒に働くことになるというのに……と、駈が鬱々としていると。
突然、山潟がハンドルをポンと叩く。
「と、いうことはだぞ……とうとう俺にも運が巡ってきた、ってことだな!」
やはり脈略のないことを言う山潟に、駈は死にそうな顔を持ち上げる。
「……運?」
いったいそれが、駈と英の関係にどう繋がってくるのだろう。
不思議そうな顔をする駈に、山潟は学生時代のようなはしゃいだ笑みを浮かべた。
「いやー俺、前々から砂山にさ、何か仕事紹介してくれって話してたのよ。ほら、以前に曲提供した企業とか、色々ツテがありそうだろ? でもあいつ、それについては完全無視でさぁ。でも、お前とそうなったんなら……今度こそ、真面目に考えてくれるよな!」
コネゲットだぜ、とガッツポーズを取る山潟に、駈はへろへろと脱力した。
(そうだ……こいつは昔からこういう奴だった)
朗らかで誰とでも仲良くできる、模範的な生徒――そんな評価をされがちな彼の本当の姿を、駈は中学の時には既に知っていた。
当時、皆から――特に女子生徒から嫌われまくっていた中年の数学教師がいた。嫌われる理由は様々あったが、授業がつまらない、話し方が厭味ったらしいというだけでなく、そこまで見た目を気にしない駈でさえも若干引いてしまうほど、酷い寝ぐせと無精ひげ、皺だらけの黄ばんだワイシャツがトレードマークになっているような男だった。
だが、そんな教師と唯一、親しくしている奴がいた。それが同じクラスの山潟だったのだ。
「どうしてあんな奴と仲良くしているんだ?」
駈はある時、思い切ってそう尋ねた。
すると彼は「何でこんなことを聞かれるんだ?」という顔をしながらこう答えたのだ。
「だってあの先生、めちゃくちゃゲーム詳しいんだぜ! 例えば、今はやってる○○あるだろ? あれの元になったやつとかも知ってて、しかもそれを持っているんだって! で、今度それを貸してくれるって約束してくれたんだ!」
だから駈も仲良くしようぜ、と無邪気に誘ってくる山潟を前にして、駈は「生徒にゲームを貸すってどうなんだ」と胸の内で突っ込みを入れながら、先生よりもまず山潟への認識を改めたのだった。
そう、彼は決して他人の基準で物事を判断しない。そんな彼だからこそ、あの個性豊かなゲー研の面子をまとめられたのだろう。さらに、駈や藤河など、一度懐に入れた人間を広い心(?)で包み込む度量もある。
そして何より――なかなかに現金なのだ。
「期待したって無駄だと思うけどな……」
「いや、俺は諦めないぞ!」
鼻息を荒くする彼に、駈はため息交じりの笑みを零したのだった。
(やっぱり、あいつの言っていた『好き』っていうのは、友情の方だったってことか……!)
二人が見つめあっているうちに、信号が青に変わる。
走り出したその車の中で、駈はただただ絶望していた。
(やってしまった……)
以前、英が過去に戻りたいと嘆いたとき、駈は否定したのだが――今はタイムマシンでも何でも使って数分前へと戻ってしまいたかった。
これから一緒に働くことになるというのに……と、駈が鬱々としていると。
突然、山潟がハンドルをポンと叩く。
「と、いうことはだぞ……とうとう俺にも運が巡ってきた、ってことだな!」
やはり脈略のないことを言う山潟に、駈は死にそうな顔を持ち上げる。
「……運?」
いったいそれが、駈と英の関係にどう繋がってくるのだろう。
不思議そうな顔をする駈に、山潟は学生時代のようなはしゃいだ笑みを浮かべた。
「いやー俺、前々から砂山にさ、何か仕事紹介してくれって話してたのよ。ほら、以前に曲提供した企業とか、色々ツテがありそうだろ? でもあいつ、それについては完全無視でさぁ。でも、お前とそうなったんなら……今度こそ、真面目に考えてくれるよな!」
コネゲットだぜ、とガッツポーズを取る山潟に、駈はへろへろと脱力した。
(そうだ……こいつは昔からこういう奴だった)
朗らかで誰とでも仲良くできる、模範的な生徒――そんな評価をされがちな彼の本当の姿を、駈は中学の時には既に知っていた。
当時、皆から――特に女子生徒から嫌われまくっていた中年の数学教師がいた。嫌われる理由は様々あったが、授業がつまらない、話し方が厭味ったらしいというだけでなく、そこまで見た目を気にしない駈でさえも若干引いてしまうほど、酷い寝ぐせと無精ひげ、皺だらけの黄ばんだワイシャツがトレードマークになっているような男だった。
だが、そんな教師と唯一、親しくしている奴がいた。それが同じクラスの山潟だったのだ。
「どうしてあんな奴と仲良くしているんだ?」
駈はある時、思い切ってそう尋ねた。
すると彼は「何でこんなことを聞かれるんだ?」という顔をしながらこう答えたのだ。
「だってあの先生、めちゃくちゃゲーム詳しいんだぜ! 例えば、今はやってる○○あるだろ? あれの元になったやつとかも知ってて、しかもそれを持っているんだって! で、今度それを貸してくれるって約束してくれたんだ!」
だから駈も仲良くしようぜ、と無邪気に誘ってくる山潟を前にして、駈は「生徒にゲームを貸すってどうなんだ」と胸の内で突っ込みを入れながら、先生よりもまず山潟への認識を改めたのだった。
そう、彼は決して他人の基準で物事を判断しない。そんな彼だからこそ、あの個性豊かなゲー研の面子をまとめられたのだろう。さらに、駈や藤河など、一度懐に入れた人間を広い心(?)で包み込む度量もある。
そして何より――なかなかに現金なのだ。
「期待したって無駄だと思うけどな……」
「いや、俺は諦めないぞ!」
鼻息を荒くする彼に、駈はため息交じりの笑みを零したのだった。
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