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駈が再び目覚めたとき、外はすっかりと暗くなっていた。
布団から這い出ようとして、早々に諦める。
身体が昼間と比較にならないほど重かった。指一本でさえも動かすのがおっくうだなんて、今まで経験したこともない。
でも、正直なところ、それよりもっと辛いのが――
駈は布団の中、甘い痺れに苛まれ続けているだらしのない身体に、うんざりとため息を吐いた。
あの後――大いに盛り上がってしまった二人は、時間が無いというのにまたたっぷりと睦み合ってしまい……結局それは駈が気絶して落ちるまで続いた。
英は覚えたての駈を随分良いようにしたらしく、そのせいであの場所は未だにじくじくとした熱がわだかまっている。身じろぐたびにそこがざわめいて、その時の快感をすぐにでも追いかけてしまいそうだった。
「くそ、あいつ……っ」
布団を被りながらこの場にいない男を罵る。たった一日で、すっかり身体を変えられてしまった気がする。
だがいくらここで恨み言を並べたところで、その彼は今頃、何食わぬ顔で収録に臨んでいるだけだろう。やっぱり不公平極まりない。
と、枕元に置いてあったスマホがチカチカと点滅しているのに気が付く。
手に取ってみると、その彼からのショートメールだった。
『さっきはほんとゴメン!』
その文面でも真っ先に謝罪する英に、駈はフンと鼻を鳴らした。
『駈があんまり可愛いんで、つい……』
「……俺のせいにするなよ」
駈は口を尖らせながらも、その目元はほんのりと緩んでいた。
ショートメールはその後も何件か来ていたようで、
『鍵はポストの中に入れておいたけど……そもそも玄関に置いとくのってどうなの?』
とか、
『収録長引きそうでつらい』
だとかがポンポンと並んでいた。
やれやれといった様子で読み進めていった駈は、とある場所まで来た途端、がばりと身体を起こした。
「……っ!」
酷使しすぎた腰の痛みと、それとはまた別の、その何ともいえない疼き。思わず上げてしまいそうになった声をどうにか堪えながらベッド横の棚を見る。
彼とやり合う前に慌てて移動させた黄色い本は、その場所から忽然と姿を消していた。
『十何年越しになっちゃったけど……本、ありがとう』
『これは餞別じゃなくて、駈からの愛の証ってことで!』
後に続いていたその文面を見て、駈は「なんだよそれ」と笑った。そして、ようやくあるべき人の元へと旅立ったそれを想う。
ちなみに、あいつの手元には既に同じものが一冊あるわけで、それらが本棚に並ぶだろう状況を想像すると何となくおかしくもあった。
駈は枕元にスマホを投げ置く。
英が変えてくれたのだろう新しいシーツが心地よい。ずっと落ち着かなかった身体も再び襲ってきた睡魔には勝てないようで、目を閉じれば、今にも意識が飛んでしまいそうだった。
『俺からのも、楽しみにしておいて』
最後のショートメールはそんな言葉で締められていた。
「べつに、いらないっての……」
まどろみの中でそう呟くと、駈はその欲望に抗うことなく、夢の中へと落ちていったのだった。
布団から這い出ようとして、早々に諦める。
身体が昼間と比較にならないほど重かった。指一本でさえも動かすのがおっくうだなんて、今まで経験したこともない。
でも、正直なところ、それよりもっと辛いのが――
駈は布団の中、甘い痺れに苛まれ続けているだらしのない身体に、うんざりとため息を吐いた。
あの後――大いに盛り上がってしまった二人は、時間が無いというのにまたたっぷりと睦み合ってしまい……結局それは駈が気絶して落ちるまで続いた。
英は覚えたての駈を随分良いようにしたらしく、そのせいであの場所は未だにじくじくとした熱がわだかまっている。身じろぐたびにそこがざわめいて、その時の快感をすぐにでも追いかけてしまいそうだった。
「くそ、あいつ……っ」
布団を被りながらこの場にいない男を罵る。たった一日で、すっかり身体を変えられてしまった気がする。
だがいくらここで恨み言を並べたところで、その彼は今頃、何食わぬ顔で収録に臨んでいるだけだろう。やっぱり不公平極まりない。
と、枕元に置いてあったスマホがチカチカと点滅しているのに気が付く。
手に取ってみると、その彼からのショートメールだった。
『さっきはほんとゴメン!』
その文面でも真っ先に謝罪する英に、駈はフンと鼻を鳴らした。
『駈があんまり可愛いんで、つい……』
「……俺のせいにするなよ」
駈は口を尖らせながらも、その目元はほんのりと緩んでいた。
ショートメールはその後も何件か来ていたようで、
『鍵はポストの中に入れておいたけど……そもそも玄関に置いとくのってどうなの?』
とか、
『収録長引きそうでつらい』
だとかがポンポンと並んでいた。
やれやれといった様子で読み進めていった駈は、とある場所まで来た途端、がばりと身体を起こした。
「……っ!」
酷使しすぎた腰の痛みと、それとはまた別の、その何ともいえない疼き。思わず上げてしまいそうになった声をどうにか堪えながらベッド横の棚を見る。
彼とやり合う前に慌てて移動させた黄色い本は、その場所から忽然と姿を消していた。
『十何年越しになっちゃったけど……本、ありがとう』
『これは餞別じゃなくて、駈からの愛の証ってことで!』
後に続いていたその文面を見て、駈は「なんだよそれ」と笑った。そして、ようやくあるべき人の元へと旅立ったそれを想う。
ちなみに、あいつの手元には既に同じものが一冊あるわけで、それらが本棚に並ぶだろう状況を想像すると何となくおかしくもあった。
駈は枕元にスマホを投げ置く。
英が変えてくれたのだろう新しいシーツが心地よい。ずっと落ち着かなかった身体も再び襲ってきた睡魔には勝てないようで、目を閉じれば、今にも意識が飛んでしまいそうだった。
『俺からのも、楽しみにしておいて』
最後のショートメールはそんな言葉で締められていた。
「べつに、いらないっての……」
まどろみの中でそう呟くと、駈はその欲望に抗うことなく、夢の中へと落ちていったのだった。
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