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忠珍鱈

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駈の第一印象は『無』だった……というより、本当に英の記憶に無いのだった。
皆の前での転入生の挨拶。できるだけクラスメイトの顔を覚えようといつもしっかり見回すようにしているのだが、失礼ながらその時、駈のことは全く印象に残らなかったらしい。


だからあの日、彼の方を見たのは本当に偶然だった。

「なあ英、○○の新曲、聞いたか?」
休み時間、つるんでいた友人の一人が英に携帯の画面を見せる。
「これなんだけどさ、聞いて聞いて」
そいつはイヤホンなど付ける様子もなく、そのまま大音量でその曲を流し始めた。
「な、すっげー良いだろ? こんなカッコいい曲、初めて聞いたわ」
「……」

確かに良い曲だとは思う。
でもそれは、どこか聞いたことのあるメロディーだった。

「うん、カッコイイな」
とりあえず合わせてそう言えば、
「だろー!?」
彼はバンバンと肩を叩くと、周りの連中にも聞かせて回りだした。
「やっぱ○○って天才だわ!」
興奮して叫ぶ友人に、何となく腑に落ちない気持ちでその様子を見ていたときだった。

窓際の一番後ろの席、少しくせ毛の大人しい――確か、樋野、という名前だったか。
そいつが一瞬、すごく嫌そうな顔をした気がした。


「樋野」
ホームルームが終わり、各自部活やら委員会やらに散り出す頃合いに、英は彼に声を掛けた。
「な、何」
びくり、と身体が震える。一歩後ずさりまでされて、英は思わず笑いそうになった。
「そんなに警戒しないでよ。ただ、ちょっと聞きたいことがあって」
「……」
そっぽを向いてしまった彼に、英はすぐに本題を切り出した。


「今日、休み時間に鈴木が○○の新曲、流していたでしょ。そんときさ、何か嫌な顔してなかった?」
「……してない」
彼は俯きながらそう否定する。
これはきっと勘違いをしているな、と英は聞き方を変えてみる。
「ええと、別に責めてるとかじゃなくって……あいつが煩かったんなら謝るし」
「そうじゃない」
「じゃあ何で、あんな顔……」

諦めない様子の英に、駈はうんざりとため息を一つ付くと、ようやくその顔を上げて英と目を合わせた。

「だって……あの曲、そんな大した曲じゃないだろ」
「どういうこと?」
「あれ、パクリなんだよ……昔流行った曲の」



樋野に連れてこられた視聴覚室は、既に何人かがパソコンの前に陣取っていた。

「これ、何やってんの?」
「部活」
「何部?」
「……ゲーム研究部」
ぼそりとそう言った後、樋野はこちらを伺うように見てきた。
「お前みたいなやつには縁のない部活だよ」
「そんなこと無いよ。俺ゲーム好きだし」
「……あっそ」

彼にもまた所定の場所があるらしく、廊下よりのパソコンを起動させる。
「これ立ち上がんの遅いんだよ。ちょっと待ってて」
そう言いながらノートやらよくわからない本やらを机上に並べ始める。
そうしている間にデスクトップ画面が現れ、彼はそこの『既存曲』という名のフォルダをクリックした。

「うわぁ……凄い」
そこには、ジャンルや年代順にカテゴリー分けされたフォルダがびっしりと並んでいた。
彼はさらにそのうちの一つを開くと、「これだ」と不思議なアイコンのファイルをクリックした。
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