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忠珍鱈

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「え、あの企画の曲、通したんですか?」

駈の鋭い声に、ブースに緊張感が走る。

「最終確認と決裁は必ず私がすることになっていましたよね?」
駈が詰め寄ると、佐谷は一瞬視線を彷徨わせるも、すぐにいつものへらりとした調子に戻る。
そして、「仕方なかったんですよ」と顎を突き出した。

「だって、樋野さん出張だったし、それに……いつも忙しそうだったじゃないですか。こちらの部署の仕事だけじゃなく、他部署からも頼りにされていますしね」
含みのある言い方に、駈もつい声が厳しくなる。

「他と連携するのは当然のことでしょう。それに、多少忙しくても、確認と決裁の時間は絶対に確保します。というか今までそうしてきましたよね? それを、何だって急に……」

「俺ですよ、それ通したの」
苛立ちと焦りを滲ませる駈の声を遮ったのは、副主任の羽根田政人だった。
以前、ドアの向こう側で陰口を叩いていた男だ。

「競合しそうだって言われていたB社のゲーム、あれのリリースが急遽早まるって分かったらしくて。どうしてもそれより前に出したいって上にせっつかれてね。樋野さんが戻るのを待っていられなかったんですよ」
「だからといって、」
「俺の決裁でも構わない、って言われて。通してくれればいいから、ってね。うちの部署なんて、いつもそんなもんですよ」

「そんなもん……?」
羽根田のその言葉に、駈は冷たくそう繰り返す。
だが、羽根田はそれに怯む様子もなく、逆に挑むように駈を見据えた。

「ええ、そんなもんです。それで今まで、何の問題もなくやってこれたんです。それを樋野さんはいちいちイチャモンを付けて、ああしろこうしろ、って……それでどれだけ仕事が増えたか、分かっていないんですか?」

羽根田の剣幕に、ブースがシンと静まり返る。

彼はおもむろに立ちあがると、駈のそばへと近寄っていく。
「ずっと俺たち、イライラしていたんですよ。気付いていましたよね」
羽根田は真正面から駈を見据えた。
「まぁ……樋野さんからしたら、さぞ出来の悪い部下だったでしょうね、俺たちは。でも、ここの事情を知ろうともしないで、全部俺たちの怠慢だって決めつける……そんな上司の下で働く人間の気持ちを考えたこと、アンタにありますか?」
強い口調でそう詰める羽根田に、他のブースの人間も何が起こったのかと騒めきだす。

「……」
声が出なかった。

「……すみません。ちょっと頭冷やしてきます」
羽根田はそう言うと、呆然と突っ立っている駈の横を通り過ぎていった。
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