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足りない
しおりを挟む誕生日前日の夜。じいやに連行された私は、パパの部屋に来ていた。
相変わらずいい匂い。パパって歩く芳香剤みたい。
「リシア」
パパに呼ばれて、てててーとソファーに近づく。またガウンがはだけている。一応私もレディーなんだからね!
ソファーに到着すると、ぐっと体を持ち上げられ、パパのお膝に着席。む、胸が近い。
一応念の為ちらっと周りを見渡す。パパ以外誰もいない。二人きり。よし、とパパの胸に頬寄せすりすり。
堪能していると、べりっと引き離された。どうしてとパパを見る。
「まだ寝るな」
目を瞑りながらすりすりしていたから、勘違いしたのかも。
眠くないよと頭を振る。それに満足したのか、パパがテーブルに手を伸ばして何かを取った。パパと向かい合って座っているのでテーブルに何があるのか分からない。
手に取ったものをちょんと口に付けられて、反射的にあむっと食べる。あ、いちごだ。
視線を下ろすと、私の歯型がついたヘタのないいちご。みずみずしくて、美味しい。
あーんと口を開くと残りを口にほおりこんでくれた。
まだ食べたくて、可愛くおしゃぶりをすると、察してくれたのかもう一粒摘んできた。
いちごを持つパパの手を両手で掴み、行儀悪くむしゃむしゃ。
私の口の周り、すごいことになってるかも。パパの手はベトベトだし。ごめんよ、幼児は食べ方が汚いもんで。
「下手くそだな」
酷い、レディーに向かってそんなこと言うなんて。手をバタバタさせて抗議していると、グイッと濡れたタオルで口の周りを拭かれた。
パパも自分の手を拭う。
濡れタオルを用意してくれた人、ファインプレー。
他に何があるかなと、振り返りテーブルを見ると、おお! プリン発見。あれは私のプリンだ。
「パパ、プリン」
「ああ」
取ってくれたので、口を開けて待つ。すぐに入れてくれた。うまー。パパ絶対あーんにハマってる気がする。分かりにくいけど、楽しそうな雰囲気だもん。
せっせと運ばれるプリンをお腹に収めていると、苦しくなってきた。ちなみにプリンは3つ目に突入している。ディリアが見てたら怒りそう。
口に近づけられたスプーンを押しやり、もう要らないと頭を振る。中途半端に浮かんでいるスプーンを見つめたあと、自分の口にパクリとくわえた。
パパには甘かったのか、眉間に皺を寄せ、テーブルに食べかけのプリンを戻す。
「ミルク飲むか」
「ううん、いらない」
これ以上飲み食いすると、お腹がはち切れそう。苦しいなーとお腹を撫でていると、パパも一緒になって撫でてきた。うーん、前も思ったけど、形を確認しているような触り方に感じる。
「パパ?」
「……もう寝るか?」
「んー、パパはねむい?」
「全く」
「じゃあ、遊ぶ!」
バンザイと両手を広げて立ち上がり、パパの膝上で飛び跳ねる。すごい、ビクともしない。
とうっ、前世で見たアニメのヒーローをイメージして、床は怖いのでソファーへ飛び下りる。……前に、捕まった。
お腹に腕を回され、強制的にパパのお膝へ戻される。
「大人しくしろ」
パパの膝からソファーに移るだけだったのだが、私の行動は危険だと判断されたらしい。
厳しい声で注意された。
確かに、人の上ですることじゃなかった。反省します。後悔はしません。
きつく私を抱きながら、チリンとベルを鳴らした。入ってきた侍女達がテーブルの上を片していく。
あれ、この前の腹立つ侍女達がいない。どこかに移されたのだろうか。
歯磨きカプセルを噛んでスッキリすると、ベッドに運ばれた。眠くないのにー。
「ここで飛べ」
一瞬頭にはてなマークが浮かんだ。すぐにさっきパパの膝上でしていたことだと思い出す。
パパはベッドの上に足を伸ばして座り、私はベッドの上で直立不動。
片手で私の両手を掴むと、また飛べって言われた。
一回、軽く飛び跳ねる。続けて二回、三回と跳ねると、段々と楽しくなってきた。
「きゃはは、きゃーっ!」
ジャンプ、ジャンプ。楽しい。パパと遊べて楽しい。
前世の古い記憶と重なる。お父さんとお母さんがいて、リシアじゃない私がいて、楽しそうに3人で笑っている姿。決して戻れない日々。
うるっと涙で視界が歪んだ。手を繋いだまま、パパの膝に座る。
パパが泣きそうな私の目元をなぞるように触ってきた。
「どうした?」
「……ううん、たのしすぎたの」
にこっと笑って、可愛く首を傾げる。
「パパ、だいちゅき」
グリグリとパパの手に頬を擦りつけたあと、体を傾けてパパの胸に頭を預けた。とくとく、心臓の音。
パパ、足りない。足りないの。もっと好きになって。もっと、もっと。
愛に溺れたいの。
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