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おやすみ

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 お風呂に入って、またおめかしかなと思ったが、夜寝る時の服を着せられた。
 思わず、デザートは? と足をじたばたさせてしまったが、きちんとデザートはあるし、パパの部屋で食べるから、おめかしは必要ないとじいやから言われたみたい。
 ふふん、絶対パパと寝よう。今日はずっと一緒って言質取ってるもんね。

 準備が終わってるんたったーとパパの部屋へ向かう。ディリアに途中から抱っこされたけど。パパの部屋と逆方向に向かってたみたい。
 パパが私の部屋に来ることはあっても、私がパパの部屋に行くことはなかったので、すごくドキドキする。

 着いた扉の前にはじいやが立っており、デザートの準備は既に出来ているから1人で入るように言われた。
 開かれた扉を潜ると、ふわっと、いつもパパから香る匂いが鼻腔を刺激した。
 後ろで扉の閉まる音が聞こえる。高鳴る鼓動を落ち着かせながら部屋を見渡した。

 さすが皇帝の住む部屋。物の価値を知らない私でも、この部屋にある全てがとんでもない代物だと分かる。
 パパの意向だろう。物自体は少ない。一つ一つを見てしまうと、うわっとなってしまうが、全体的には落ち着いた雰囲気だ。

 テーブル、ソファー、執務をする机と椅子、大きいクローゼット、キングサイズのベッド。あとは小物がいくつかと、景色の絵が壁に飾ってある。
 敷かれている絨毯がふわふわでちょっと落ち着かない。

 パパはソファーの上で足を立て、肘置きに腕を乗せながら反対の手に持つ赤い飲み物の入ったグラスを傾けていた。ソファーは大人3人が座れるほどの長さ。
 普通だったらだらしないと眉を顰める格好のはずなのに、パパがしているからだろうか。絵になっいてとても格好良い。
 吸い寄せられるようにとてとてとパパの側に近寄る。パパは、部屋に入った時からずっと私を見つめていた。
 部屋を見渡している時に何度も目があった。

 近くで見るパパは、もう、本当に、凄い。
 パパもお風呂に入ったのか、少し髪が濡れていて、シルクのナイトガウンを着ていた。
 足を立てているので太ももや、肘置きに腕を乗せたために肌蹴たのだろう胸が丸見えだ。
 部屋にはパパと2人きり。うん、こんな姿のパパ、危険すぎる。そして、絶対、今日一緒に寝る。意地でも。

「リシア?」

 無言でパパを見つめすぎていたのだろう。表情には出ていないが、心配そうな声色で私の名を呼んできた。

「パパ、だっこ!」

 ぐっと両手を広げると、グラスを置いて抱き上げてくれた。首にギュッと抱きついてぐりぐりと頭を擦り寄せる。
 パパの大きな手が私の背中を優しく撫でる。数回手を上下に往復させたあと、くるっと私の体の向きを反転させた。
 背が低くて気付かなかったが、テーブルには美味しそうなたくさんのデザートたち。ホットミルクはお花のアート付き。
 私一人の時はこんなにデザートを与えてくれないので、わあっと、嬉しい歓声が溢れた。
 両腕をバタバタさせながらデザートへ手を伸ばす。手が届きそうな距離にある、ぷるんぷるんのプリン、君に決めた。
 上体を前のめりにさせていると、パパがグンと私の体を後ろに引いた。引き裂かれるプリンと私。

「うー、プリンー」

 恨めしい声が出てしまった。

「じっとしてろ」

 そう言うと、パパが楽々とプリンを手に取り、スプーンにたっぷりと掬う。
 条件反射のように口を開けると、間髪入れずに入ってくるプリン。
 お、美味しすぎる。滑らかでとろける。なんて素晴らしいものを作ってくれたんだ。心の中で拝ませて頂きます。

「もう1回!」

 催促するようにパパを見上げると、無言で頷いて再度口に入れてくれた。そこまで大きいプリンではなかったので、続けざまに4口ほど食べると空っぽになった。
 皿を置いたパパはコップを手に取ると、おもむろに自分の口に含む。小さいコップだから、多分私のミルクだと思う。
 パパは一口だけ飲むと、私にコップを手渡してきた。しっかり私が握ったのを確認すると、上から手を添えるように重ねてくる。
 私手動でコップを傾け、零さず上手に飲めた。

 今の流れからして、じいやの教育的指導があったのかもしれない。

「パパ食べない?」
「甘いものは好きじゃない」
「んー、でも食べきれない」
「残ったら使用人に食べてもらう」

 パパは赤い飲み物、多分お酒を飲んで。私はミルクとデザートをせっせと食べて。
 満足した私は、小さくけふっとゲップをした。空気も飲み込んじゃうから仕方ないの。
 ふっくらとしている私のお腹をさすさすとパパが摩っているが、形を確認しているような触り方は気の所為だよね。幼児は頭がでかくて、お腹も出ているんもんなんです。

 パパがベルを鳴らして侍女達を呼ぶ。このベル、防音がしっかりしている部屋の中から鳴らしても外に聞こえる優れもの。こう言うのを魔道具というらしい。
 テーブルにあるものを全て下げてもらっていると、パパがカプセル状の丸いものを差し出してきた。
 これはこの世界での歯磨き。口に含んで歯で割ると、一瞬で口の中を綺麗にしてくれる。うがいする必要もなし。こう言うアイテムは魔薬まやくって言うんだって。

 パパも口に含んで、2人してキレイキレイ。
 侍女達が退出すると、パパは立ち上がりながら私を抱き上げた。向かう先はベッド。
 驚いて目を丸くする。

「いっちょ、寝てくれるの?」
「ベッドをチラチラ見ていたから、そうして欲しいのだと思っていたが」

 うわぁ、無意識に見てたのか、恥ずかしい。
 ガウンを握りしめ、ぐりぐりとパパの首元にすり着いた。それを了承と受け取ったのか、私をベッドにおろし、その隣にパパも横になる。

 なんて幸せなんだろう。心がポカポカする。

 パパの片手を両手で握りしめ、おやすみと言って目を瞑る。

「……おやすみ」

 今日は朝までぐっすり眠れそうだ。
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