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遠吠え

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 ミルクを飲み終わって、ふぅと一息。イケメン男性からのキスというご馳走を噛み締めながら飲みきった。

「おかわりは大丈夫ですか?」
「うん」

 シャドウは宝物のようにコップを受けとり、胸に抱いた。どタイプな容姿とはいえ、ちょっと行動がたまに変態臭いのどうにかならないのだろうか。独身の原因もしかしてそれかな。

「なんか砂糖吐きそうだわ」

 ニタニタしながらそう言うガウォンに、塩でも食っとけと辛辣な言葉を浴びせるオクト。

「まじで息子の嫁に欲しいなー。10歳の年の差くらい貴族なら普通っしょ?」

 ガウォンが結婚していて子供がいることに驚いたが、今はそれどころじゃない。
 息子の嫁、のところでパパからブリザード発射。危険を感じたのか、シャドウがサッと私を抱き上げ部屋の隅に移動した。
 ゆらりと立ち上がりガウォンへ近づくパパ。
 今私は、娘は嫁に出さん、のホラー版を体験している。

「ぱ、パパ?」

 呼び掛けに答えない。
 ガウォンがパパを見ながらジリジリと後ずさっている。顔が青い。いや、白くなりかけている。
 あ、ガウォンが腰の剣に手を掛けた。それって不敬罪で処罰対象なんじゃ……。

「へ、陛下。すいません、嘘です嘘! 怖い怖い、ど、土下座すればいいのか!?」

 不敬罪で処罰されるか、パパに殺られるか。
 静かに傍観していたが、肌にピリピリと感じるパパの怒りにさっき止まったばかりの涙が滝のように流れた。
 怖いよぉー!

「うわあああん!」

 サッと殺意を散らして振り返るパパと、土下座しようとしていたガウォン。
 パパが素早い動きで目の前に来た。私を抱きあげようと手を伸ばしてきたので、パシンと叩く。パパのせいで泣いたの今日で2度目。思い知れと何度もペシペシ叩く。
 反省しなさい!

「リシア」
「おこ、やっ! リフレやって言った!」

 ぎゅうっとシャドウに抱きつき、ぷりぷり怒る。こっそり涙と鼻水をシャドウと服で拭いたけど、バレませんように。

「リシア、こっちに来い」
「ふえええん、おこするもん、リシアこわいこわい!」
「……お前の前では控える」
「ひかえる?」
「リシアのいない所で怒る」

 つまり、ガウォンは生還できない運命だと? 後ろの方でお願いポーズを私に向けるガウォンのため、仕方ないと一肌脱ぐことに。

「ガー、わん。……ん? ガワン、んん?」

 ガウォンって言えない問題発生。俺犬じゃねーよと抗議しているクマは黙っとけい。
 何度練習してもわんわんしてしまう私に、場の空気が段々と柔らかくなってきた。

「リシア」

 わんわん吠える私をひょいと持ち上げるパパに、いつの間にと驚く。
 パパに怒っていたことや、ガウォンの名前が上手く言えずわんわんしてしまうこととか、抱っこされてしまったこととか。幼児にとっては情報過多過ぎて、爆発した。

「わんちゃんいじめちゃ、やっ!」

 言ってから後悔。原型を留めない名前になってしまった。

「はあ!? 犬じゃねえって! もうそれ誰だよ!」

 パパはあまりにもショックを受けているわんちゃんを、ちらっと一瞥すると興味を失ったようにすぐに私を見下ろした。
 両手でしっかりと抱え、優しく背中を撫でてくれる。ぎこちないけど許容範囲。

 なんだか眠くなってきた。口からけぷっと空気が漏れる。多分ミルクと一緒に空気もたくさん飲んでしまったのだろう。幼児だから許して。

 そういえばパパが帰ってくる前お昼寝しようと思っていたんだった。お化けも逃げるすすり泣きを毎夜噛ます私にとって、お昼寝は大切。
 パパの腕に抱かれて今すぐにでも目を閉じたいところだが、その前に。

「パパぁ」
「何だ」
「よる、いっちょ?」
「ああ」
「ずっと?」
「ああ」
「えへへー」

 パパの返事に満足した私は、すりすりと引き締まっている胸筋に頬を擦り寄せ目を閉じる。
 パパがいる夜が楽しみだ。
 遠くから末っ子ーって叫ぶ遠吠えが聞こえた気がした。

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