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ふわふわたくさん
しおりを挟むたくさん寝たおかげで無事熱も下がり、元気いっぱい。パパを思い出すと悲しくなるけど、時間が解決してくれているのか、初めのころよりはだいぶましになった。
今日のお昼はディリアが料理長に頼み、私でも食べられるパンケーキを一緒に食す予定だ。すごく楽しみ。
ソファーの上で足をぶらぶらさせながらマドにーにの帰りを待つ。
マドにーには約束通り、いつもより早く帰ってきてくれた。
「おかえり!」
「ふふ、ただいま」
ソファーから降りてマドにーにに抱き着く。軽々と受け止めたマドにーには、私の手のひらと自分の手のひらを重ねると、ぎゅっと握った。
「熱も下がったみたいだね。じゃあ、行こうか」
「うん!」
繋がった手をぶんぶん振りながら喜びを表す。くすくすと笑うマドにーにに案内してもらいながら温室まで向かった。
ちなみに、後ろからマドにーにと私の護衛アンド侍女がついてきているので結構な大名行列と化していたと思う。
温室まで幼児の足では辿り着けず、途中からマドにーにに抱っこしてもらった。私がギブアップするのは分かっていたようで、歩く速度が少し遅くなった瞬間抱き上げられた。
抱っこのお陰で向かうスピードは上がったが、思ったより遠くて、辿り着くまでに結構掛かった。
もう少し大きくならないと、私一人では歩き切れないと思う。
温室に着くまでキョロキョロと周りを観察して思ったのだが、本当にこの城は広すぎる。
東京ドームが何個も入るくらい大きいと思う。
整備された道に、区画された建物。デザインや雰囲気が建物によって異なり、マドにーにへ気になる建物を指さしで聞くと、騎士のための建物、魔法使いのための建物、研究するための建物、お金の管理をするための建物など、分かりやすい言葉で教えてくれた。
騎士と魔法使いの建物が、私から見て右と左で離れた場所にあったので理由を聞くと、困ったように笑いながら、喧嘩しちゃうから、と答えた。
「わあっ! ふわふわたくさんある!」
徐々に言葉を覚えてきているものの、咄嗟にはまだ上手く言葉が出てこない。初めて学ぶ言葉だからというのもあるが、前世の大人だった時の自我より今の幼児の自我の方が大きくて、どうしても考え方や気持ちが幼いものとなってしまう。
現に今も、お花という言葉が出てこず、ふわふわといった擬音語で表現してしまった。
マドにーには、ふわふわが何を意味するのかすぐに分かったようで、綺麗でしょう? とにっこり笑いながら答えてくれた。
「きれい! リシアここすき!」
「ふふ、気に入って貰えて嬉しいよ。取りすぎなければ、好きなお花を摘んでもいいからね」
「いいのー?」
「もちろん」
嬉しくなって、きゃっきゃとはしゃぎながらマドにーにが私を下に下ろしてくれた瞬間、よちよちと駆け出した。
可愛い愛らしいと、侍女達がよちよち姿の私を見ながらほうっと頬を赤くしていて、とっても気分が良くなった。
可愛かろ? もっともっと好きになって。
適当なところに座り込み、色とりどりのお花をつついたり、匂いを嗅いだりして観察する。
前世、お花に興味はなかったが、それでもこの世界のお花が少なくとも日本にはないだろうと言うことは分かる。
不思議な形をしていたり、甘い匂いを放っていたり、目でも匂いでも楽しめる。
1つ、オレンジ色のお花をちぎると、立ち上がってよちよちとディリアの元へ向かった。
「ディーア!」
ディリアと、たまにしか発音できない自分の口が恨めしい。嫌な顔ひとつせず返事をしてくれるディリアは、優しくて美人で大好きだ。
「リフレシア様?」
しゃがんで目線を合わせてくれる。
私は恥ずかしそうにモジモジしながら、あのね、と上目遣いでディリアを見つめた。
「いちゅも、ありがと。……だいちゅき」
たちつてとは調子が良ければ上手く発音できるが、大好きをだいちゅきに変えたり、わざと舌っ足らずを演じることもある。愛され作戦だ。
手に持っていたオレンジ色のお花をディリアに差し出す。茶髪にオレンジの瞳を持つディリアに似合うと思ったのだ。
ドキドキと反応を待っていると、ふわっと抱きしめられた。
「愛おしいリフレシア様。……大切に致します」
ディリアの声は震えていて、少し涙ぐんでいた。
体を離し、私の手からお花を受け取ったディリアは宝物を扱うようにそうっとお花を顔に寄せ、匂いを嗅いだ。
「私も大好きです」
もう一度私を抱き寄せると、そう耳元で呟いてくれた。
「全く、リシアは本当に可愛いね」
マドにーにが、優しく頭を撫でてくれる。ディリアは私を離し、3歩ほど後ろに下がった。
私付きの侍女が羨ましそうにディリアの持つお花を見ていて、いつかみんなにもプレゼントしたいなと思った。
マドにーにの護衛と侍女が驚きの表情で私を見ているのに気づき、そう言えばと思い出した。
マドにーには私の部屋に遊びに来る時、自分の護衛と侍女は部屋の外に待機させていた。
部屋には私の侍女達がいるので、入る必要がなかったのだ。
だから、私の愛想愛嬌媚びへつらう姿を見るのは初めてだと思う。
マドにーにの護衛と侍女との初対面時、パパにより外に連れ出された私をマドにーにが引き取り、部屋に戻るまでの短い間一緒にいたが、対して話して居ないので私の性格など測れるはずがない。
今日をきっかけに、マドにーにの護衛達も私を好きになってくれたらいいなー。
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