今世では溺れるほど愛されたい

キぼうのキ

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マドリオン

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 えー、これどういう状況?

 会議に参加するため、急かすように父を催促したシャドバーズの言葉に従って部屋を出てくれたはいいものの。
 え、なんで私まで一緒に部屋出てるの? 抱っこのまま。てか初めて部屋の外出た。
 部屋の外に立っていた護衛や、すれ違う人から二度見されるんだけど、絶対この人が私を抱っこしてるからだよね。

 スタスタと早足で歩く父の後ろから、笑いを含めたストップがかかった。

「ふっ、陛下待ってください。そのまま行くおつもりで?」
「なにが……、あ」

 気づいてなかったのか、足を止めた父は私を見下ろした。いやずっと私の頬ぷにぷにしてたじゃん。忘れるとか有り得る?
 もちろんそんな心の内はおくびにも出さず、ニコッと笑いかける。

「戻る」
「いやいや、時間がありません」
「少しくらい待たせても、あの古狸共の無駄な会議の内容は変わらん」
「既に遅れてます。私が言われるんですよ」
「だからどうした?」
「このっ、はあ。私がリフレシア様を部屋まで送ります」

 そう言って手を伸ばしたシャドバーズへ、仕事の邪魔をする訳には行かないと、素直に両手を広げる。
 だが、シャドバーズの所へ移動する前に父によって遮られた。

「ちょっと、何ですか」
「…………」
「私から取り上げるように囲い込まないでくださいよ」
「俺が送る」
「だから、時間ないんですってば! 私の話聞いてます?」
「送る」
「聞けって! じゃなくて、たまには私の言うこと聞いて貰えます?」
「…………」

 一向に譲らない父の様子にシャドバーズのこめかみに青筋が浮かぶ。
 仕方ない、助け舟を出しましょうか。

「ふえっ、ひっく、えぇええん」

 うるさくないくらいの泣き声を一つ。泣きながら父の頭を撫で、その後シャドバーズに手を伸ばし、察して近づいてきたシャドバーズの頭を撫でた。

「ないない、ないないっ!」

 おお、私すごい! ないない言えた。昨日まで言えなかったのに、これが火事場の馬鹿力ってやつ?

「リフレシア様、私たちは喧嘩した訳では無いんですよ? お労しい、目が赤くなってしまいましたね」

 そっと、私の涙を人差し指で掬ったシャドバーズにありがとうの意味を込めて、小さいお手で人差し指をきゅっと握った。
 直ぐに父に引き離されたが、可愛いを連呼するシャドバーズを見るに、私にメロメロになっているに違いないと心の中でほくそ笑んだ。

 シャドバーズを見てニコニコする私と、そんな私にメロメロなシャドバーズに、父は舌打ちをするとまたスタスタ歩き出した。
 私の部屋とは逆方向で、えっこの人このまま会議に行くつもり?
 私と同じ心配をしたのか、シャドバーズが慌てたように父を引き止めた。
 だが、父は聞く気なしでスタスタと歩みを進める。曲がり角に差し掛かった時、同じく向こう側から歩いてきた人とかち合った。

「あ、父上」

 12、3歳くらいだろうか。父と同じ赤髪にキラキラな金色の瞳、父似のイケメン顔。誰が見ても親子だと分かる姿形。

「おはようございます、父上。えーと、その子は?」

 顔は似ているのに、雰囲気が全く違う。父が冷ならこの子は温だ。

「リフレシアだ」
「あ、クレア様の子供ですね。……父上、先程向こうの扉の前を通ったら老人…、ごほん、大臣たちが騒がしくしていましたが、今から会議ですよね?」
「…………」
「マドリオン様、陛下に言ってやって下さい。リフレシア様を離したくなくてそのまま会議に行こうとしてるんですよ」
「えっ!」

 マドリオンと呼ばれは少年は目を丸めて私と父を交互に見つめた。それから少し考える素振りを見せたあと、手を伸ばし私の脇に両手を差し込んだ。

「さすがにこのままはダメですよ父上。僕が部屋まで送ります」
「不要だ」
「会議にリフレシアを抱えたまま入ったらあの古狸共に目を付けられます」
「……む、なら俺が送る」
「これ以上遅れると、父上ではなく遅れた原因を作ったとしてリフレシアが避難されますよ」

 それを聞いた父は、仕方なく、といった様子で私をマドリオンへ渡した。
 どこか名残惜しげな父の様子に心の中でニマニマしながら、ふえぇんと泣き声をあげる。

「やぁーっ、パパ! パパー! ええぇん!」

 両手をパタパタと揺らし、悲壮感たっぷりに父を呼ぶ。
 急に大泣きした私を、父はびっくりした様子で見やった。
 父は両手を伸ばしかけたが、ハッとしたように片手だけ引っ込めると、優しく私の頭を撫でた。

「すぐ会いに行く」

 それだけ言うと、シャドバーズと共に角を曲がって歩いていった。
 えぐえぐと嗚咽を漏らしていると、マドリオンが私の顔を覗き込み不思議そうな顔をした。
 一度泣きだしたら止まらない私の涙は、次から次にマドリオンの高級そうな服を濡らす。
 父に気が行き過ぎていたため気付かなかったが、マドリオンの後ろに侍女や騎士が沢山並んでいて、皇族ってすごいなと改めて思った。
 それに、この広いお城。何坪くらいあるんだろう。

「リフレシア、目が溶けそうだよ」

 まだ小さいせいか、安定感のあまりない腕の中。それでも、万が一でも落ちないようにきつく抱きしめられている腕の中は少し痛いが温かい。

「父上が何度も会いに行く噂の皇女って君だよね、リフレシア。母上が化け物のように顔を歪めてて面白かったなー、ふふふ」

 母上、の単語の時少し顔を歪めたマドリオンに、あまり仲が良くないことが伺える。

「クレア様に似て、綺麗な黒髪だねリフレシア」

 クレア様っていうのは、今の会話からして多分死んだ私の母だろう。
 自分の母親の話の時は顔を歪めたくせに、私の母の名前は懐かしげな様子で優しい声色で呼んでいて。
 マドリオンの金色の瞳の奥に、悲しさや寂しさを感じ取り、思わず涙を拭うようにマドリオンの瞼を擦ってしまった。

「あーぅ、あー!」
「ふふ、本当に可愛いねリフレシア」
「うー、りしー、りーあ?」
「可愛い、リシア」

 ちゅっと額にマドリオンの唇が触れた。頭の中は爆発だ。心臓もバクバクしている。
 私が落とされてどうする! しっかりしないと!
 
「こんなに可愛いんなら早く会いに来ればよかったなー」

 マドリオンはスタスタと私の部屋へ向かって廊下を歩きながらそう呟いた。
 私も早く会いたかった。幼児の問答無用の可愛さは今だけなんだから。

 数分もせず部屋にたどり着き、マドリオンは私をディリアへ渡す。まだ離れたくないとぐずっていると、マドリオンはふんわり笑って私に言った。

「この兄様がまたすぐ会いに来るからね」
「にぃー? にーにぃ?」
「っ! うん、にーにだよ!」

 にーに呼びにさらに笑みを深めたマドリオンは大きく手を振って去っていった。

 はあ、なんか今日はとっても疲れた。明日も色々上手く行きますように。
 そう思いながらディリアの腕の中で眠りについた。
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