ヒロインだからって私のモノを攻略しようだなんて断固拒否!

キぼうのキ

文字の大きさ
上 下
4 / 5

4

しおりを挟む

 あの女、どたまかち割るぞ。クソぼけぇ。

 放課後、私とロゼンの待ち合わせ場所である第三図書館の入口で、結構な頻度でヒロインとロゼンが話しているところを見かける。
 私の存在に気づくとヒロインを置いて真っ直ぐ私に駆け寄って来てくれるが、こちとら気が気じゃない。
 その時のヒロインの顔と言ったら、私は親の仇かっつうの。
 まあ全く気にしないが。フルシカトでしれっとロゼンを連れて帰るが。
 二人で話す姿を見る度に、私の中で飼っているドラゴンが火を噴く。何度ヒロインを黒焦げしたか。
 ロゼンも何で毎回話に付き合ってあげているのか。何もかも腹立たしい。


 次の日、たまたま校舎内でロゼンを見かけた私は、追いかけて腕を掴んだ。そのまま人気のない空き教室に連れ込む。
 ロゼンの表情はなかなか変わらない。そのため、氷の貴公子と呼ばれている。ほんと、よく考えたあだ名だ。

「アフェイユ様?」

 あの女に近づくな、そう言うのはなんだか悔しい。

「お前の髪を触りたくなった」

 すすっと頬に手を滑らせてから髪の毛を優しく梳く。
 たったそれだけで、氷のような表情は小さくだが嬉しそうに綻んだ。目を細めて私の手を受け入れている。
 なかなかいい関係だと思う。
 ゲームでは見られなかったロゼンを、私はいくらでも引き出せる。
 私だけを見て欲しくて、駆け引きなんかもしちゃって。これだけは言える。ロゼンの一番は私であると。今のところっていう怖い括弧書きがつくが。

 私が育てたと言っても過言じゃないロゼンが、ビッチヒロインに奪われるなんて冗談でも笑えない。
 誰にもあげない。

「あ、」

 ロゼンの視線が私の胸元を掠めると、小さな声とともに固定された。やましい視線じゃなくて、見つけてしまった、とそんな視線。
 ロゼンの髪から手を離し、その視線を辿るように自分の胸元を見やる。
 あ、と私も同じ言葉を心の中で発した。

 ここの制服はわりかし有名だ。女性は美しさを際立てるような繊細なデザイン。男性は隙を見せないようきっちりと。
 女性の制服の胸元には細い布のリボンがついている。色によって学園での地位が分かれていて、私は最上級の金だ。それから下に銀、赤、青、緑、白となる。男性の場合はネクタイの色で地位が分かれる。ロゼンも勿論金色。
 この地位というのは、成績で決まる。
 そのリボンが解けかかっていた。

 ロゼンの髪から離した手を、そのまま流れるように自分の胸元のリボンに持っていく。そして端を掴みするっと解いた。
 首あたりが少し緩やかになり、鎖骨が露わになる。
 ロゼンを見ると、決して鎖骨には目をやらず私の瞳だけを見つめていた。

「ロゼン、直して」

 私の言葉にロゼンはピクリと反応し、ハイと頷くと少し震えながら胸元のリボンに手をかけた。キツすぎず緩すぎず、器用に結んでくれた。
 綺麗になったリボンに満足すると、ロゼンの目と目の間にお礼の意味を込めて、音を立てず唇を落とした。

 その口付けは小さな頃からの2人だけの秘め事。ご褒美やお礼の意味を込めて唇を落とすと、ああ、たまらない。
 ロゼンの嬉しそうな、でもどこか耐えるような表情。
 私が顔を近づけると受け入れるように目を伏せ、白い頬をほんの少しだけ蒸気させる。
 唇をきゅっと結び、息を止めるその姿はいくら見ても飽きないほどいい。
 こう、ぐっと来るものがある。

「ロゼン」

 呼びかけるとそろりと視線を上げた。と、言っても10センチほど身長差があるので、視線を上げたと言うより私と目を合わせるため伏せていた視線を元に戻したと言った方が正しい。
 この学園に入学してからぐんと背が伸びたロゼンは、前にも増してキャーキャーとムカつくくらいモテるようになった。
 ゲームのおかげでロゼンの人気は知っていたものの、直接見ると凄すぎて引くレベルだ。

「帰ろうか」
「......はい、アフェイユ様」

 あ、ふっふっふっ。
 今少しだけ残念そうな顔をした。この時間が終わることへの落胆か。
 他のやつじゃ見抜けないほんの少しの変化。

「やっぱりもう少しだけ」
「! はい」

 ああ、もう。可愛すぎかよ。
 なんだよそのハニカミ笑顔は。このハニカミ王子め。
 こんな姿を知ったらストーカーされちゃうぞ。ただでさえ予備軍らしき人たちがいるのに。

 適当な椅子に座って足を組む。ロゼンは私が許可を出した後おずおずと隣の椅子に座った。
 姿勢よく座るロゼンの横顔をちらりと見る。真っ直ぐ前を向いていて、って、んん? なんか様子が.......あ、もしかして。

「ロゼン」
「っ、はい」

 どうやらこの二人きりの空間に緊張しているらしい。
 二人きりなんて毎日のようになっているのに、何を今更だと思う。
 でも確かに、なんの目的もなくこんな近くで肩を並べて座ったことはあまり無かったかもしれない。
 一歩後ろを行くのが当たり前なロゼンは慣れない状況にドギマギしているのだろう。

「明日から教室に迎えに来なさい」

 どこで待ち合わせをしようときっとヒロインは現れるだろう。それならいっそ、教室に迎えに来てもらって二人きりの状況を作らないようにした方がいい。
 口角を上げながら言うと、ロゼンは素直にハイと返事をした。

「もちろん、たまには他の人と帰ってもいい」

 と、言うだけは言うが。

「いいえ、アフェイユ様と共に」

 いつも彼はそれに頷かない。彼の優先順位は私が一番、自分のことよりも。従者として立派である。ゾクゾクと快感に似た優越感が体を刺激した。

「いい子だねロゼン」

 頬を擽るように撫でれば、ロゼンは目元を赤らめ小さく頷いた。
 まるでいい子だからもっと撫でろと言われているみたい。

「さて、帰ろうか」

 なので敢えて席を立ち帰りを促す。
 少し遅れた返事に笑いそうになった。


しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ
恋愛
 3歳のとき、前世を思い出した私。私ことアメリア・レンドールは乙女ゲーム『サクラ咲く出会い〜君と恋する』(通称『サク君』)の悪役令嬢だった。『サク君』では、私は第三皇子の婚約者だったけど、ぶっちゃけ好みじゃないし、第三皇子の腹違いの兄のサブキャラな皇太子様の方が好きだった。前世を思い出した後、皇太子様の同級生な3つ上の兄に引っ付いて回った結果、皇太子様にも可愛がられるようになり、見事、皇太子エディック殿下の婚約者の座に収まる事が出来た。  これはそんな私が第三皇子に婚約破棄?されそうになり、私が第三皇子と頭お花畑ヒロインにざまぁすることから始まる物語である。  いや、1つ言わせて?  だから、そもそも私あなたの婚約者ではないんです! ーーーーーーーーーーーー なんかしばらく色々忙しかったし、色々細かい設定考えてたら更新遅くなりそう…。 元々ゆるゆるふわふわ設定だったもの。 ただいま、更新準備中。しばしお待ちください( ^ω^ ) お気に入り登録100件突破!(2019年1月31日) お気に入り登録200件突破!(同日) お気に入り登録300件突破!(同日) 投稿した次の日開いてみたら100件超えてて吃驚しています。 (えっ、これあってるよね?壊れてない?大丈夫? あっ、壊れてないのね。おーけーおーけー) ありがとうございます! お気に入り登録1000件突破!(2019年2月1日) お気に入り登録2000件突破!(同日) お気に入り登録5000件突破!(2019年2月13日) ありがとうございます! 【注】 作者は豆腐メンタルなので、誹謗中傷はおやめ下さい。 誤字脱字等の間違いは多いと思います。指摘してくださるとありがたいです。 感想への返信は遅くなると思います。 突発的に思いついた話なので、設定はゆるゆるです。 誤字脱字等をご指摘いただいたみなさん、ありがとうございました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ
恋愛
伯爵令嬢リコリスは嫌われていると知りながら婚約者であるルシウスに常日頃からしつこく付き纏っていた。 ある日我慢の限界が来たルシウスに突き飛ばされリコリスは後頭部を強打する。 その結果自分の前世が20代後半喪女の乙女ゲーマーだったことと、 この世界が女性向け恋愛ゲーム『花ざかりスクールライフ』に酷似していることに気づく。 顔がほぼ見えない長い髪、血走った赤い目と青紫の唇で婚約者に執着する黒衣の悪役令嬢。 前世の記憶が戻ったことで自らのストーカー行為を反省した彼女は婚約解消と不気味過ぎる外見のイメージチェンジを決心するが……?

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...