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しおりを挟むあの女、どたまかち割るぞ。クソぼけぇ。
放課後、私とロゼンの待ち合わせ場所である第三図書館の入口で、結構な頻度でヒロインとロゼンが話しているところを見かける。
私の存在に気づくとヒロインを置いて真っ直ぐ私に駆け寄って来てくれるが、こちとら気が気じゃない。
その時のヒロインの顔と言ったら、私は親の仇かっつうの。
まあ全く気にしないが。フルシカトでしれっとロゼンを連れて帰るが。
二人で話す姿を見る度に、私の中で飼っているドラゴンが火を噴く。何度ヒロインを黒焦げしたか。
ロゼンも何で毎回話に付き合ってあげているのか。何もかも腹立たしい。
次の日、たまたま校舎内でロゼンを見かけた私は、追いかけて腕を掴んだ。そのまま人気のない空き教室に連れ込む。
ロゼンの表情はなかなか変わらない。そのため、氷の貴公子と呼ばれている。ほんと、よく考えたあだ名だ。
「アフェイユ様?」
あの女に近づくな、そう言うのはなんだか悔しい。
「お前の髪を触りたくなった」
すすっと頬に手を滑らせてから髪の毛を優しく梳く。
たったそれだけで、氷のような表情は小さくだが嬉しそうに綻んだ。目を細めて私の手を受け入れている。
なかなかいい関係だと思う。
ゲームでは見られなかったロゼンを、私はいくらでも引き出せる。
私だけを見て欲しくて、駆け引きなんかもしちゃって。これだけは言える。ロゼンの一番は私であると。今のところっていう怖い括弧書きがつくが。
私が育てたと言っても過言じゃないロゼンが、ビッチヒロインに奪われるなんて冗談でも笑えない。
誰にもあげない。
「あ、」
ロゼンの視線が私の胸元を掠めると、小さな声とともに固定された。やましい視線じゃなくて、見つけてしまった、とそんな視線。
ロゼンの髪から手を離し、その視線を辿るように自分の胸元を見やる。
あ、と私も同じ言葉を心の中で発した。
ここの制服はわりかし有名だ。女性は美しさを際立てるような繊細なデザイン。男性は隙を見せないようきっちりと。
女性の制服の胸元には細い布のリボンがついている。色によって学園での地位が分かれていて、私は最上級の金だ。それから下に銀、赤、青、緑、白となる。男性の場合はネクタイの色で地位が分かれる。ロゼンも勿論金色。
この地位というのは、成績で決まる。
そのリボンが解けかかっていた。
ロゼンの髪から離した手を、そのまま流れるように自分の胸元のリボンに持っていく。そして端を掴みするっと解いた。
首あたりが少し緩やかになり、鎖骨が露わになる。
ロゼンを見ると、決して鎖骨には目をやらず私の瞳だけを見つめていた。
「ロゼン、直して」
私の言葉にロゼンはピクリと反応し、ハイと頷くと少し震えながら胸元のリボンに手をかけた。キツすぎず緩すぎず、器用に結んでくれた。
綺麗になったリボンに満足すると、ロゼンの目と目の間にお礼の意味を込めて、音を立てず唇を落とした。
その口付けは小さな頃からの2人だけの秘め事。ご褒美やお礼の意味を込めて唇を落とすと、ああ、たまらない。
ロゼンの嬉しそうな、でもどこか耐えるような表情。
私が顔を近づけると受け入れるように目を伏せ、白い頬をほんの少しだけ蒸気させる。
唇をきゅっと結び、息を止めるその姿はいくら見ても飽きないほどいい。
こう、ぐっと来るものがある。
「ロゼン」
呼びかけるとそろりと視線を上げた。と、言っても10センチほど身長差があるので、視線を上げたと言うより私と目を合わせるため伏せていた視線を元に戻したと言った方が正しい。
この学園に入学してからぐんと背が伸びたロゼンは、前にも増してキャーキャーとムカつくくらいモテるようになった。
ゲームのおかげでロゼンの人気は知っていたものの、直接見ると凄すぎて引くレベルだ。
「帰ろうか」
「......はい、アフェイユ様」
あ、ふっふっふっ。
今少しだけ残念そうな顔をした。この時間が終わることへの落胆か。
他のやつじゃ見抜けないほんの少しの変化。
「やっぱりもう少しだけ」
「! はい」
ああ、もう。可愛すぎかよ。
なんだよそのハニカミ笑顔は。このハニカミ王子め。
こんな姿を知ったらストーカーされちゃうぞ。ただでさえ予備軍らしき人たちがいるのに。
適当な椅子に座って足を組む。ロゼンは私が許可を出した後おずおずと隣の椅子に座った。
姿勢よく座るロゼンの横顔をちらりと見る。真っ直ぐ前を向いていて、って、んん? なんか様子が.......あ、もしかして。
「ロゼン」
「っ、はい」
どうやらこの二人きりの空間に緊張しているらしい。
二人きりなんて毎日のようになっているのに、何を今更だと思う。
でも確かに、なんの目的もなくこんな近くで肩を並べて座ったことはあまり無かったかもしれない。
一歩後ろを行くのが当たり前なロゼンは慣れない状況にドギマギしているのだろう。
「明日から教室に迎えに来なさい」
どこで待ち合わせをしようときっとヒロインは現れるだろう。それならいっそ、教室に迎えに来てもらって二人きりの状況を作らないようにした方がいい。
口角を上げながら言うと、ロゼンは素直にハイと返事をした。
「もちろん、たまには他の人と帰ってもいい」
と、言うだけは言うが。
「いいえ、アフェイユ様と共に」
いつも彼はそれに頷かない。彼の優先順位は私が一番、自分のことよりも。従者として立派である。ゾクゾクと快感に似た優越感が体を刺激した。
「いい子だねロゼン」
頬を擽るように撫でれば、ロゼンは目元を赤らめ小さく頷いた。
まるでいい子だからもっと撫でろと言われているみたい。
「さて、帰ろうか」
なので敢えて席を立ち帰りを促す。
少し遅れた返事に笑いそうになった。
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