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レティシアと『モンタント』
悪ノリが過ぎるぞ、裏文芸サロン!
しおりを挟むゲームの景品と思しき物品が仮面を着用した使用人たちの手で運び込まれる。
その箱から見えるものは、どれも日常生活では絶対に目にしない物品ばかり。
明らかに夜用の品だと一目で分かるものがカウンターに陳列されていく。
これには猥談で盛り上がっていた会場の紳士達も笑い声をひそめて、固唾を飲んでその光景を見守るしかなかった。
粘性の高いローションが入った瓶、名状し難い形状をした張り型、ブニブニとした自己主張の激しい筒状のもの。
子供には絶対に見せてはいけない数々の品がさも当然のような顔で陳列されているのはあまりにも非日常的だった。
「なあ、あれってどう見ても……アレ、だよな?」
「そう、ですね。アレ、だな」
隣のセシルでさえ正式な名称を言わない物品に、私は自分の目がまだ正常であることを悟る。
使用人たちは無言で並べ終えると一礼をして店の外へ消えていく。
その姿を見送ったフィッツが咳払いを一つして、会場全体に話しかけた。
「さあ、今宵お集まりいただきました皆様、どうかご注目ください。こちらの品々は、私『ネイソン』が各地からかき集めてきた夜伽に使う品々です」
会場にいる参加者はひそひそと話し合いながら熱の篭った視線をカウンターに向ける。
「皆様から徴収した参加費で購入しましたこれらの品を景品として、ゲームをしようではありませんか」
フィッツの提案に会場はどよめく。
好奇心、羞恥心、葛藤。
それらを目を細めながら眺めるフィッツは心底、人を揶揄うのが好きなのだろう。
「これからランダムな数が書かれたカードを皆様に配ります。私が読み上げた数字を開けていき、縦横どちらでも構いませんので一列開けた方は『ビンノ』とお叫びください」
『ビンゴ』じゃないのか。
ここは異世界だから、そういった些細な違いがあってもおかしくはない。
人伝いに拡散していくカードを受け取りながら、真ん中の星マークを開ける。
まさか裏文芸サロンに参加してビンゴをすることになるとは思わなかったが、これもまた経験だ。
……景品はいらないけど。
よいしょと声を出しながらカウンターの椅子に座ったフィッツはごろごろとビンゴマシンを転がす。
コロンと受け皿に排出された玉に印刷された数字を彼は読み上げる。
「二十七!」
私のカードに該当する数字はない。
どうやらアランとセシルのカードにあったらしく、二人はいそいそとカードに穴を開けていく。
「三十!」
あ、あった。
甘く止められていたカードを押して、穴を開ける。
それから、何個か数字が読み上げられた。
数からして、そろそろリーチが出てきてもおかしくはないはず。
「十二!」
「あっ、リーチだ!」
セシルが喜びながら私の服を掴み、ぶんぶんと引っ張る。
手加減のない男子の全力はなかなか身体的負担が強い。
「それは良かったね。ほら、次の番号が読み上げられますよ」
ガラガラ、とビンゴマシンを回し、フィッツがボールを指で摘んで数字を読み上げる。
「七!」
「ビンノ! 一番乗りだ!」
カードを掲げながら、セシルがフィッツの元に向かう。
いつの年齢になっても、ビンゴで当たりが来た時は嬉しいものだ。
景品は……アレだけど。
貰ったものをどうするつもりなんだろう。
やっぱり、使うんだろうか? いや、考えるのはよそう。
戻ってきたセシルの手には紙袋が握られていた。
覗き見えた中身は綺麗に個包装されていて何が入っているのかは定かではない。
どんなものを景品として貰えたのかは敢えて聞かなかった。
それからさらに番号が読み上げられ、ついに不幸にも私はリーチとなってしまった。
普段なら景品を受け取りに行くところだが、景品が景品だ。
今回はスルーしよう……と決めた矢先。
「おや、我が主人がビンノなさいました!」
ヒョイとカードを奪われて、声高くビンノを代弁される。
カードを高く掲げながら、アランはニマニマと悪どい笑みを浮かべていた。
人を揶揄って楽しんでいる。
「ほら、目立たないとその格好をしている意味がないだろう?」
そう言って囁いてきたアラン。
仮面の下の笑みを隠すことすらせずに目を細めて私を見下していた。
「……言われなくともそのつもりだ」
アランからカードを奪い返し、肩を怒らせながらフィッツの元へ向かう。
なあに、ただのブツだ。
恥じることなど何もないし、人間いつかはそういうものを手にする日もあるはず。
それがたまたま今日だったというだけだ。
「おお、二等はモンタント様でしたか。それでは景品はこちらになります」
そう言って渡された紙袋はズッシリと重い。
丁寧に包装されているから、中身が窺い知れない。
なんとも禍々しいオーラを放っている……気がする。
というか、受け取ったはいいけどどうしよう。
家に置いたりなんかしたら、遊びに来たニコラスに見つかってしまうかもしれないし。
リディかジュリアにでもあげてみようか?
いや、断られるのが目に見えてる。
そんなことを悩みながら戻ると、セシルが親しげに話しかけてきた。
「モンタントさん、おめでとうございます。二等の景品はたしか……」
「みなまで言わなくていいよ、アベニューさん」
「ふひっ、ふふふっ」
そんな私たちのやり取りを見て爆笑するアラン。
やはり、彼にはお灸を据える必要がありそうだ。
それもとびっきりハードなのを。
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