【完結済】悪役令嬢は官能作家になって印税でウハウハしたい!!〜『ペンは剣より強し』ならエロは世界を救えるはず!〜

清水薬子

文字の大きさ
上 下
28 / 71
お茶会の悪魔

 SS.アランから見たレティシアという令嬢

しおりを挟む

 アラン・フォン・エッシェンバッハの人生は順風満帆でいて退屈なものだった。
 齢十三を迎える頃には既に貴族としての振る舞い方を理解し、実兄よりも狡猾に立ち回れるほどの知略も兼ね備えていた。

 人は誰しも細い“糸”が心にある。
 それは誇りであったり、自尊心であったりと個々に違いはあれど、その糸に触れられたら怒り狂って我を忘れることをアランは知っていた。
 我を忘れた人間が墓穴を掘っていく様を見るのはなによりも爽快で、それに勝る優越感はないと彼は確信していた。

 そんな折、アランは興味深い本を手に入れた。
 『塔の王女と無名の騎士』という本は、いかにも年頃の女の子が気に入りそうな恋愛模様を描いたものだ。
 これを書いた人物は、それはもう恋に恋い焦がれる少女のように繊細な感性の持ち主に違いなく、そういう人物ほど“糸”に過敏に反応する。
 そうして愉悦に笑みを浮かべ、作者の元を訪れた彼は度肝を抜かれることになった。

 軽い挑発をさらりと流したかと思えば、「ふしだら」に怒り、突きつけてきたのは年頃の令嬢が書き綴るには過激な性描写が施された短編。

 ────面白い。

 その時。アランの心の底に湧き上がってきたのは、これまでの愉悦など彼方に消し去るほどに清々しい好奇心。

 こんな、妄想の産物を出版しようものなら大顰蹙ものだ。
 王政府に睨まれるのはもちろんのこと、他の作家からも睨まれること間違いなし。
 一切メリットがない。

 ……ああ、だというのに彼は何か確信めいたものを感じていた。

 気がつけばおちょくる目的で用意した契約書にサインをし、出版の約束を取り付けてからは本の為に奔走した。
 自身ですら馬鹿げているとしか思えない『ときめき』を理由に、あらゆる損失を最小限に抑えながら利益を得る為に根回しして。
 右に左に、北に南に。
 法律の抜け穴を探しては複数の優秀な弁護士の話を仰ぎ。
 圧力をかけようとしてきた他の貴族を権力と金で黙らせ。
 けれども、流石のアランでもシェリンガム公爵の力を削ぐことはできなかった。
 そして、そんな己の不甲斐なさを嘆くアランに件の令嬢は微笑むのだ。

『アラン様、ご覧ください。この手紙の山を! これ全部、が作った本を読んで、心を動かされたという人たちが送ってくれたものですよ!』

 気丈な振る舞いを見せていたレティシアの、日頃浮かべている完璧な微笑とは程遠い、目を細めただけの仕草。
 その仕草を一目見た瞬間、アランの心臓は一際強く跳ねた。
 じわじわと熱を持ち始めた頰にレティシアは気づく様子もなく、無邪気に、残酷に手紙に目を通してはガラスペンを走らせる。
 その手紙の相手は、アランですら知り得ないほどの膨大な数。
 それをレティシアは一枚一枚、時間を縫っては丁寧に言葉を選んで返信を書く。
 果たして自分の手紙にそれほど時間をかけてくれるのだろうかと考えると、骨が冷えるような悍しい感覚がアランを襲う。

 愛想笑いを他人に浮かべるのは構わない、けれどもあの小さな仕草を他人が見るのかと思うと『ときめき』とは真逆の不愉快な気持ちしか湧かなくて。
 いけない事だとは頭で理解していても、思考は甘美な物語もうそうを紡ぎ始める。

 レティシアの“糸”は創作だ。
 その糸を引き千切って、手の届かないところにしまったら彼女は自分を見てくれるだろうか。
 桃色の瞳に激情の色を浮かべるのか、それとも悲嘆して足に縋り付くのか。

 考えるだけで言葉にできないほど甘い痺れが全身を襲う。
 そんな思考など誰にも悟らせず、アランは今日もレティシアの元を訪れる。

「やあ、レティシアさん! 新作の調子はどうだい?」

 いつものようにレティシアはアランの顔を見て少し呆れたように笑ってから封筒を渡すのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

目には目を歯には歯を!ビッチにはビッチを!

B介
恋愛
誰もいないはずの教室で絡み合う男女! 喘ぐ女性の声で、私は全て思い出した! ここは乙女ゲームの世界!前世、親の借金のせいで若くして風俗嬢となった私の唯一のオアシス!純愛ゲームの中で、私は悪役令嬢!! あれ?純愛のはずが、絡み合っているのはヒロインと…へ?モブ? せめて攻略キャラとじゃないの!? せめて今世は好きに行きたい!!断罪なんてごめんだわ!! ヒロインがビッチなら私もビッチで勝負!! *思いつきのまま書きましたので、何となくで読んで下さい!! *急に、いや、ほとんどR 18になるかもしれません。 *更新は他3作が優先となりますので、遅い場合申し訳ございません!

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

処理中です...