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エピローグ
しおりを挟む暗い撮影スタジオの中に衣擦れの音が響く。パイプ椅子に座るスーツ姿の東堂の前で、ナツは黒スーツのボタンをしっかりと留めた。
「お前、マジで戦えるのか?」
「ええ、ご主人様。今の私はもう仮初のヒーローではありません。貴方の忠実な僕です」
ナツは静かに笑みを浮かべ、東堂から送られた特注のスーツを撫でる。
耐火性・耐久性に優れたシャツに橙色のネクタイ、下半身の挙動を妨げないショートパンツ。そのパンツと絶対領域を生み出す筋肉と関節のサポート機能が備わった白のニーソックス。幼げな顔立ちに似合わない妖艶さを醸し出す黒い手袋をきゅっとはめている。
ヒーロー時代のコスチュームとは打って変わった色合いと趣の服を纏ったナツは超能力を発現させた。
より獣らしさが強まった耳が頭部に現れ、すうっと瞳孔が縦に長くなった。髪の色はまるで墨汁を垂らしたように暗い色になり、ところどころに斑点が見える。しなやかな尻尾だけが、かつての面影を残していた。
黒い手袋に覆われた手を伸ばし、元ヒーローは瞳の奥に激情を燃やす。
「さあ、ご主人様。貴方の覇道を阻む愚かな人間を根こそぎ殺しましょう!」
壁に貼り付けられた新聞には『シルフィ退院!』の文字が見出しに飾られ、緑髪女ヒーローの顔写真に夥しい数のナイフが突き立てられている。
その横には大きなショッピングモールの見取り図が貼られていた。非常口、建物の脆い部分、警備員の巡回ルートまでも細かく書き込まれている。
すっかり変わり果てたナツに東堂は満足感と支配欲が満たされ、さらにこの女がどこまで堕ちるのか間近で見たいという好奇心が刺激される。
「はっ、お前はよくできたペットだな」
「えへへ」
東堂に頭を撫でられながら、ナツは頬を染める。
「よし、見せてやれ『新生キャット』の実力を」
「はいっ!」
颯爽と撮影スタジオを後にする二人。
その数時間後、ショッピングモールで大規模な戦闘が発生し、周辺地域に配属されていたヒーローは尽く戦闘不能にまで追い詰められた。被害は民間人にも及び、駆けつけた警察に深刻な損害を与えた。
襲撃者のなかに一人、かつて行方不明となった『キャット』によく似ていた人物がいたことから関係性が疑われているが、真相は明らかになっていない。
ただ、ヒーローについて熟知していたかのような襲撃計画だったと関係者は語っていた。
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