上 下
10 / 10

エピローグ

しおりを挟む

 暗い撮影スタジオの中に衣擦れの音が響く。パイプ椅子に座るスーツ姿の東堂の前で、ナツは黒スーツのボタンをしっかりと留めた。

「お前、マジで戦えるのか?」
「ええ、ご主人様。今の私はもう仮初のヒーローではありません。貴方の忠実なペットです」

 ナツは静かに笑みを浮かべ、東堂から送られた特注のスーツを撫でる。
 耐火性・耐久性に優れたシャツに橙色のネクタイ、下半身の挙動を妨げないショートパンツ。そのパンツと絶対領域を生み出す筋肉と関節のサポート機能が備わった白のニーソックス。幼げな顔立ちに似合わない妖艶さを醸し出す黒い手袋をきゅっとはめている。

 ヒーロー時代のコスチュームとは打って変わった色合いと趣の服を纏ったナツは超能力を発現させた。
 より獣らしさが強まった耳が頭部に現れ、すうっと瞳孔が縦に長くなった。髪の色はまるで墨汁を垂らしたように暗い色になり、ところどころに斑点が見える。しなやかな尻尾だけが、かつての面影を残していた。
 黒い手袋に覆われた手を伸ばし、元ヒーローキャットは瞳の奥に激情を燃やす。

「さあ、ご主人様。貴方の覇道を阻む愚かな人間を根こそぎ殺しましょう!」

 壁に貼り付けられた新聞には『シルフィ退院!』の文字が見出しに飾られ、緑髪女ヒーローの顔写真に夥しい数のナイフが突き立てられている。
 その横には大きなショッピングモールの見取り図が貼られていた。非常口、建物の脆い部分、警備員の巡回ルートまでも細かく書き込まれている。

 すっかり変わり果てたナツに東堂は満足感と支配欲が満たされ、さらにこの女がどこまで堕ちるのか間近で見たいという好奇心が刺激される。

「はっ、お前はよくできたペットだな」
「えへへ」

 東堂に頭を撫でられながら、ナツは頬を染める。

「よし、見せてやれ『新生キャット』の実力を」
「はいっ!」

 颯爽と撮影スタジオを後にする二人。

 その数時間後、ショッピングモールで大規模な戦闘が発生し、周辺地域に配属されていたヒーローは尽く戦闘不能にまで追い詰められた。被害は民間人にも及び、駆けつけた警察に深刻な損害を与えた。
 襲撃者のなかに一人、かつて行方不明となった『キャット』によく似ていた人物がいたことから関係性が疑われているが、真相は明らかになっていない。
 ただ、ヒーローについて熟知していたかのような襲撃計画だったと関係者は語っていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...