【完結】新人猫娘ヒーローは悪に堕ちる

清水薬子

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確信へと変わる疑惑

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 暗い撮影スタジオのなかに、肉がぶつかる音と女の嬌声が響く。
 エアベッドの上で四つん這いになったナツの尻尾の根本を東堂の手が覆っていた。トントンと一定のリズムで叩かれるたびに、ナツの腰が媚びるようにくねくねと踊る。
 かつて処女だった膣道は東堂の凶悪ペニスを咥え込んでは精液を搾り上げるように締め付けている。

「はっ、すっかりセックスにハマってんじゃねえか」
「うにゃあああっ♡にゃお゛お゛ん゛っ♡」

 理性など当の彼方に押しやったナツ。コスチュームにはまるでアクセサリーのように精液が溜まったゴムが括り付けられている。それが揺れるたびに、中身の精液がたぽたぽと音を立てていた。
 その数七つ。七度のセックスを経てもなお東堂は疲れた様子もなく、ナツを的確に絶頂に押し上げてはヒーローとしてのプライドを完膚なきまでにへし折っていく。
 五度目の絶頂でナツはほとんど呂律も回らないほどに追い詰められていた。

「出すぞ」
「ふぎゅっ♡♡♡」

 それどころか、東堂の射精宣告にさらなる絶頂を期待して喘ぎ声を漏らす始末。快感で碌に力の入らない下半身に鞭を打って踏ん張る。
 背中の筋が浮き出るほど背筋を伸ばしてベッドに顔を埋めるナツを見下ろしていた東堂は、激しく腰を振りながらふと思いついたことを実行した。

 ──がぶり、と頸に噛み付く。

「ふぎゅおおおっ♡♡♡くび、らめっ、らめなのぉっ♡」

 膣道だけでなく、子宮口でも東堂に絡みついて精液を強請る浅ましい雌猫。頸を噛まれたことで、完全に発情排卵モードに突入して一滴残らず射精させようと腰をくねらせる。
 何度も首筋に歯を立てられた雌猫は、瞳の奥にハートマークを浮かべながら自ら腰を深くまで押しつけ、東堂の腰を潮で汚す。ベッドにはナツの愛液と尿と潮が混ざり合って独特の匂いを発していた。

「ふあんっ♡でてりゅ、でてりゅのお……♡」

 びゅく、びゅくと吐き出される精液はゴムに阻まれる。恍惚の表情を浮かべながらどさりとベッドに倒れ込み、余韻に浸りながらかくかくと腰を動かすナツ。
 甘えるように尻尾が東堂の手首に絡みつく。他と変わらない量の精液が半透明黒色ゴムを結え、ナツのコスチュームに加えていく。

「良い拾い物したな。これからは俺のオナペットに仕込んで」

 ────プルルルッ、プルルルッ

 東堂の脱ぎ捨てたスーツから電話の着信音が響く。気怠げに応対した東堂は内容を聞いて表情を険しくし、電話を切ってから舌打ちした。

「ったく、なんで俺が他人のケツを拭わなきゃいけないんだ……」

 東堂は苦虫を噛み潰した表情でスーツに腕を通す。ちらりと意識を失ったナツを一瞥してから、扉の外へ出て行った。
 それから数十分後。


「う、うああ……ひゅうっ……」

 ヒーローとは思えないあられもない声をあげながらナツが目を覚ます。身体を起こした拍子にコスチュームに結わえ付けられていた精液入りコンドームが揺れて肌を叩く。

 ナツは周りを見回して、東堂の気配がないことにほっと胸を撫で下ろした。

「う、うう……」

 東堂に抱かれていた時を思い出し、コスチュームに結えられたそれを外そうと足掻く。男の力で強く結び付けられたそれは簡単には外れず、ぷちんと音を立ててゴムが破れた。どろりと精液が赤いコスチュームを伝い落ちる。

「うう、汚いよお……」

 八個中、三個を破いてしまった。何度か外せた五個のゴムを遠くに投げ捨てて精液を拭い取ろうとタオルに手を伸ばす。

 ──パキッ……

 聞き慣れない音をナツの耳が捉えた。音がしたのは己の足首に繋がれた鎖。よくよく目を凝らして見れば、鎖が錆び付いて腐りかけている。
 何回か強く引っ張るとばきんと鎖が折れた。

「や、やった……!」

 自由の身となったナツは扉の外に出ようとして、今の自分の格好を思い出した。身体を隠せそうなものを探し、東堂が脱ぎ捨てた白いシャツを上から着る。

「戻らないと」

 思い出すのはシルフィの顔。瞬間転移の超能力を持つ彼女ならば、東堂に勝てるはずだ。そんな淡い期待を抱きながら、扉を開けて外に出る。
 外は深夜も過ぎた頃、幸いにも人の気配はない。

「せんぱい、せんぱい、せんぱいっ!」

 超能力を発現させ、最速で拠点を目指す。人に目撃されないようにビルの上を移動する。その途中、見覚えのある顔を見つけて足を止めた。
 私服を着たシルフィが男と腕を組んで歩いていた。紅潮した頰と潤んだ瞳で男の顔を見上げている。その男はシルフィとナツの上司だった。
 ばくん、とナツの心臓が跳ねる。


 ──「いいのか、後輩が行方不明だっていうのに」
 ──「足手纏いが居なくなって清々してるんです。生意気でしたし」


 鋭敏なナツの耳が、二人の会話を的確に捉えた。耳を塞ぎたくなる言葉が、信じていた仲間の口から次々と溢れていく。


 ──「お前も悪い女だな」
 ──「揉み消し、お願いしますね」


 上司の腕に豊満な胸を押し付けるシルフィの顔を見たナツの視界が暗くなる。がらがらと崩れていく信頼と絆。疑惑は確信に代わる。そして……

(わたしが、あんなに苦しんでいたのに)

 芽生えたのは激しい憎悪と殺意。
 手を伸ばし、屋上に捨てられていたパイプを握る。
 いけないことだと頭では理解していても、限界まで追い詰められていたナツの精神は正常な判断能力を失っていた。
 息を止め、ナツはビルの上から飛び降りて無防備なシルフィの頭部にパイプを振り下ろした。

 鈍い音が響き、聞き慣れた声が絶叫となってホテル街に響く。頭から血を流して倒れ伏したシルフィの頭に繰り返し鉄パイプを振り下ろす。

「裏切り者っ! ずっとっ! ずっと信じてたのにっ!」

 動かなくなるまで何度も殴打し、息が上がった頃。ナツはもう一人、殺すべき人間が居ることを思い出した。
 スマホを取り出し、こちらを青ざめた顔で見ながらどこかに電話をかけようとしている上司。

(そういえば、この人に何回か食事に誘われたっけ? 夜も遅い時間帯ばかりで、仕事があるから断ったら不機嫌になるような人だったなあ)

 過去のことを思い出し、瞳から温度が失せていくナツ。上司は顔を青ざめ、尻餅をついて少しでも距離を取ろうともつれた足で走り出す。
 それをからからとパイプを地面に擦り付けながら、ナツは上司を追いかけ、そして追いついた。躊躇いもなく、ナツはパイプを振り下ろす。腕に当たり、上司は苦痛に顔を歪めた。

「なにがっ、正義の味方だっ! この、このっ……『無能』がっ!」

 一度口をついて出た言葉は、するすると形になってナツの心をドス黒く染めていく。ずっと心の奥底に蓋をして、目を逸らしてきた考えだった。

「なんの力もっ、ない癖にっ!」
「や、やめっ、うぎゃっ!」

 繰り返し、繰り返し呪詛を吐きながら上司の腕にパイプを振り下ろす。怯んだ隙を縫って、ついに顔面にパイプがヒットした。鼻血を流しながら怯えた目でナツを見上げる。
 かつては、ナツが取っていた立場。それが今では逆転していた。

「吠えるのだけは一丁前なんだから、ほら吠えろよっ!」
「ゆっ、ゆるしてっ! ひぎっ!」

 ナツは口角を歪めて、嫌いな上司の顔に鉄パイプを振り下ろす。『ざまあみろ』という、ヒーローにあるまじき感情に支配されたナツを止める存在はない。
 地面に倒れ込んだ上司がついに痙攣しなくなるまで殴打したナツ。

(あーあ、やっちゃった)

 これまでヒーローとして守ってきたはずの倫理観、そのなかでも最大の禁忌である『超能力を用いた殺人』に手を染めたナツはどこか清々しい顔をしていた。
 まるで長い髪をばっさりと斬り捨てたような──新たに生まれ変わったような気さえしている。

(私、本当にヒーロー失格だったんだ。必死に活動してたなんて馬鹿みたい)

 築き上げてきたものを自ら破壊して、パイプを手放す。からんからんと音が響いた。
 サイズの合わない白いシャツには赤い斑模様が付着している。

「これから、どこにいこう……?」

 丸い月を見上げる。奇しくも、ケラウス──東堂に捕まった日と同じ月模様だった。
 ふらふらとした足取りでナツは夜の街並みに消えていった。
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