81 / 93
2章
異世界からの聖女1
しおりを挟む
カタリーナは王宮に戻ると目が回るような日々を送る事になる。それは今まで行っていた公務の手伝いが理由ではない。婚姻の準備に忙しいのだ。
国王の言葉の通り、エヴァトリスは準備を進めており、その中からカタリーナが選ぶ形で、通常に比べれば格段にやる事は少なくなっているが、婚姻まではあと半年ほどしかない。そして、長い付き合いだけあってエヴァトリスはカタリーナの趣味を熟知していた。ドレス一つ、宝石一つとっても、もれもこれもカタリーナ好みにドンピシャであり選ぶのに時間がかかってしまう。楽しみもあるが、やはり長時間、それもキラキラしたものばかり眺めていると、どうしても目が疲れてしまう。
カタリーナは30分ほど時間が空いたため、疲れた目を休めるために侍女と護衛を連れ王宮の園庭を散歩する事にした。公爵家から連れてきている侍女は今日は休みであり、王宮付きの侍女が今日は担当をしている。
目の疲れだけでなく、忙しさからの疲れもあり、人に会いたくないと思ったカタリーナは少し奥まった方に足を向け散歩を続ける。
「こんな所があったのね」
カタリーナの独り言に答える者はおらず、侍女も護衛も無言でついてくる。護衛が無言なのはいつもの事であるが、侍女からの反応がないことにカタリーナはわずかな寂しさを感じた。
しばらく進むと見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけようとするが誰かと一緒である事に気づき、慌てて口を塞ぐ。エヴァトリスはどこかの御令嬢をエスコートしているようだ。令嬢は真っ白なドレスを着用しており、よく見るとそれが聖女に与えられる服である事にカタリーナは気づく。そして、エヴァトリスと揃いの黒髪を考えると、一緒に居るのが異世界からの聖女である事が容易に予想できた。
「あれが、聖女様・・・」
聖女の歳は15歳、お揃いの黒髪を見ると遠目で似合いの二人である事が分かる。
何を話しているか分からないが、エスコート中であり、二人の距離は近い。
「私で良いんだよね」
カタリーナは無意識に呟き、エヴァトリスの視線に注意を向けた。
エヴァトリスは他の令嬢をエスコートする時、令嬢に視線を向ける事はない。ただ、カタリーナをエスコートする時だけ時折視線を向け微笑んでくれる。だが、聖女をエスコートするエヴァトリスはどうだろう。聖女から視線を離そうとはせず、時折進行方向の確認をする程度だ。カタリーナの位置から聖女の顔も表情も分からないが聖女と視線が合うとエヴァトリスは優しく微笑んでいる。そして、聖女との視線が外れると悲しそうな、そしでどこか懐かしむような表情を向ける。カタリーナも見たことのないエヴァトリスの表情に驚きを隠せない。距離もあり、木の陰であることから向こうがカタリーナに気づく様子はない。
「いつもああやってお二人で散歩をされているのです。」
どこか憧れるような視線を聖女とエヴァトリスに向ける侍女は、カタリーナを気にする様子がない。
「本当にお似合いだわ。まるで番の様・・・」
この若い侍女は、自身の発言が不敬である事にすら気づいてすらいない。
カタリーナは侍女の発言に苛立つ事はなく、どこか他人事の様に諦めにも似た感情が生まれる。
(国民達の反応もきっとこうよね、、、)
いつにないエヴァトリスの反応に不安にならないと言えば嘘になるが、つい先日カタリーナに見せた今にも泣きそうな表情に嘘はなかった。
「それでも、殿下は私を求めてる」
小さく小さく呟いたカタリーナの声を聞く者はこの空間に誰もいなかった。
それからもカタリーナはエヴァトリスと聖女が一緒に居る姿を何度も目撃する事になる。相変わらずエヴァトリスは優しげな視線を聖女に向けている向こうが気づかないこともあるが、エヴァトリスはカタリーナがいる事に気がつくと聖女に別れを告げ早足で側に来てくれる。カタリーナはその度にホッとする。エヴァトリスに、まだここにいて良いと言ってもらっている気がするからだ。一度カタリーナはエヴァトリスに聖女に挨拶をしたほうが良いか確認した事があったが、その時は
「正式な対面はまだ許可されていないんだ」
と言葉を濁されてしまった。そのため、カタリーナは未だに聖女の顔をはっきりと見た事がない。小柄で、ストレートのロングと言うのがカタリーナの印象だった。
正式な発表前とは言え、議会でも話に上がり、王宮内であれば歩き回っている聖女の存在は公然の秘密となっている。王宮内での聖女の評判はなかなか良い。最近こちらの世界に来たとは思えないほど、馴染んでいるらしい。言動の一つ一つにも品があり、マナーに関しては付け焼き刃とは思えないほどだと王妃が話していたこともある。カタリーナは王妃の話を聞き複雑な気落ちになったが、こちらの世界に馴染んでいるというのはきっと良い事なのだろうと自身を納得させたのはごく最近のことだった。
時折公務の手伝いに出向き、だがほとんどは婚姻の準備に追われ数ヶ月がすぎる。だいぶ終わりが見えて来た時には婚姻の義まで2ヶ月ほどとなっていた。民にも正式な婚姻の日も発表され、それと共にこの国の王子の生誕祭、立太子が行われるとあって、市井の賑わいは十分なものになっていた。
議会で最初に話に出ていた、異世界からの聖女のお披露目については婚姻から1ヶ月後を予定している。民の混乱を避けることが目的らしいが、カタリーナとしては「1ヶ月ずれたところで大きな変わりはないだろう」というのが正直な意見だ。ただ、1ヶ月の間であっても純粋に婚姻を喜んでもらえるのは嬉しいものでもある。この先の事を思うと重くなる気持ちもあったが、婚姻の儀は楽しみでもありエヴァトリスが考えてくれた衣装を見ると嬉しくなる気持ちを止める事はできなかった。
そんな中嬉しいような、悲しいような議会からの決定がカタリーナに知らされることになる。
___________________________________________________________________________________________________
やっとここまで来ました。ここから本格的ストーリーが動き始める予定です(最近はこの辺りから書き始めればよかったのではと思い始めている)。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
国王の言葉の通り、エヴァトリスは準備を進めており、その中からカタリーナが選ぶ形で、通常に比べれば格段にやる事は少なくなっているが、婚姻まではあと半年ほどしかない。そして、長い付き合いだけあってエヴァトリスはカタリーナの趣味を熟知していた。ドレス一つ、宝石一つとっても、もれもこれもカタリーナ好みにドンピシャであり選ぶのに時間がかかってしまう。楽しみもあるが、やはり長時間、それもキラキラしたものばかり眺めていると、どうしても目が疲れてしまう。
カタリーナは30分ほど時間が空いたため、疲れた目を休めるために侍女と護衛を連れ王宮の園庭を散歩する事にした。公爵家から連れてきている侍女は今日は休みであり、王宮付きの侍女が今日は担当をしている。
目の疲れだけでなく、忙しさからの疲れもあり、人に会いたくないと思ったカタリーナは少し奥まった方に足を向け散歩を続ける。
「こんな所があったのね」
カタリーナの独り言に答える者はおらず、侍女も護衛も無言でついてくる。護衛が無言なのはいつもの事であるが、侍女からの反応がないことにカタリーナはわずかな寂しさを感じた。
しばらく進むと見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけようとするが誰かと一緒である事に気づき、慌てて口を塞ぐ。エヴァトリスはどこかの御令嬢をエスコートしているようだ。令嬢は真っ白なドレスを着用しており、よく見るとそれが聖女に与えられる服である事にカタリーナは気づく。そして、エヴァトリスと揃いの黒髪を考えると、一緒に居るのが異世界からの聖女である事が容易に予想できた。
「あれが、聖女様・・・」
聖女の歳は15歳、お揃いの黒髪を見ると遠目で似合いの二人である事が分かる。
何を話しているか分からないが、エスコート中であり、二人の距離は近い。
「私で良いんだよね」
カタリーナは無意識に呟き、エヴァトリスの視線に注意を向けた。
エヴァトリスは他の令嬢をエスコートする時、令嬢に視線を向ける事はない。ただ、カタリーナをエスコートする時だけ時折視線を向け微笑んでくれる。だが、聖女をエスコートするエヴァトリスはどうだろう。聖女から視線を離そうとはせず、時折進行方向の確認をする程度だ。カタリーナの位置から聖女の顔も表情も分からないが聖女と視線が合うとエヴァトリスは優しく微笑んでいる。そして、聖女との視線が外れると悲しそうな、そしでどこか懐かしむような表情を向ける。カタリーナも見たことのないエヴァトリスの表情に驚きを隠せない。距離もあり、木の陰であることから向こうがカタリーナに気づく様子はない。
「いつもああやってお二人で散歩をされているのです。」
どこか憧れるような視線を聖女とエヴァトリスに向ける侍女は、カタリーナを気にする様子がない。
「本当にお似合いだわ。まるで番の様・・・」
この若い侍女は、自身の発言が不敬である事にすら気づいてすらいない。
カタリーナは侍女の発言に苛立つ事はなく、どこか他人事の様に諦めにも似た感情が生まれる。
(国民達の反応もきっとこうよね、、、)
いつにないエヴァトリスの反応に不安にならないと言えば嘘になるが、つい先日カタリーナに見せた今にも泣きそうな表情に嘘はなかった。
「それでも、殿下は私を求めてる」
小さく小さく呟いたカタリーナの声を聞く者はこの空間に誰もいなかった。
それからもカタリーナはエヴァトリスと聖女が一緒に居る姿を何度も目撃する事になる。相変わらずエヴァトリスは優しげな視線を聖女に向けている向こうが気づかないこともあるが、エヴァトリスはカタリーナがいる事に気がつくと聖女に別れを告げ早足で側に来てくれる。カタリーナはその度にホッとする。エヴァトリスに、まだここにいて良いと言ってもらっている気がするからだ。一度カタリーナはエヴァトリスに聖女に挨拶をしたほうが良いか確認した事があったが、その時は
「正式な対面はまだ許可されていないんだ」
と言葉を濁されてしまった。そのため、カタリーナは未だに聖女の顔をはっきりと見た事がない。小柄で、ストレートのロングと言うのがカタリーナの印象だった。
正式な発表前とは言え、議会でも話に上がり、王宮内であれば歩き回っている聖女の存在は公然の秘密となっている。王宮内での聖女の評判はなかなか良い。最近こちらの世界に来たとは思えないほど、馴染んでいるらしい。言動の一つ一つにも品があり、マナーに関しては付け焼き刃とは思えないほどだと王妃が話していたこともある。カタリーナは王妃の話を聞き複雑な気落ちになったが、こちらの世界に馴染んでいるというのはきっと良い事なのだろうと自身を納得させたのはごく最近のことだった。
時折公務の手伝いに出向き、だがほとんどは婚姻の準備に追われ数ヶ月がすぎる。だいぶ終わりが見えて来た時には婚姻の義まで2ヶ月ほどとなっていた。民にも正式な婚姻の日も発表され、それと共にこの国の王子の生誕祭、立太子が行われるとあって、市井の賑わいは十分なものになっていた。
議会で最初に話に出ていた、異世界からの聖女のお披露目については婚姻から1ヶ月後を予定している。民の混乱を避けることが目的らしいが、カタリーナとしては「1ヶ月ずれたところで大きな変わりはないだろう」というのが正直な意見だ。ただ、1ヶ月の間であっても純粋に婚姻を喜んでもらえるのは嬉しいものでもある。この先の事を思うと重くなる気持ちもあったが、婚姻の儀は楽しみでもありエヴァトリスが考えてくれた衣装を見ると嬉しくなる気持ちを止める事はできなかった。
そんな中嬉しいような、悲しいような議会からの決定がカタリーナに知らされることになる。
___________________________________________________________________________________________________
やっとここまで来ました。ここから本格的ストーリーが動き始める予定です(最近はこの辺りから書き始めればよかったのではと思い始めている)。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる