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2章

異世界からの聖女1

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カタリーナは王宮に戻ると目が回るような日々を送る事になる。それは今まで行っていた公務の手伝いが理由ではない。婚姻の準備に忙しいのだ。
国王の言葉の通り、エヴァトリスは準備を進めており、その中からカタリーナが選ぶ形で、通常に比べれば格段にやる事は少なくなっているが、婚姻まではあと半年ほどしかない。そして、長い付き合いだけあってエヴァトリスはカタリーナの趣味を熟知していた。ドレス一つ、宝石一つとっても、もれもこれもカタリーナ好みにドンピシャであり選ぶのに時間がかかってしまう。楽しみもあるが、やはり長時間、それもキラキラしたものばかり眺めていると、どうしても目が疲れてしまう。
カタリーナは30分ほど時間が空いたため、疲れた目を休めるために侍女と護衛を連れ王宮の園庭を散歩する事にした。公爵家から連れてきている侍女は今日は休みであり、王宮付きの侍女が今日は担当をしている。
目の疲れだけでなく、忙しさからの疲れもあり、人に会いたくないと思ったカタリーナは少し奥まった方に足を向け散歩を続ける。
「こんな所があったのね」
カタリーナの独り言に答える者はおらず、侍女も護衛も無言でついてくる。護衛が無言なのはいつもの事であるが、侍女からの反応がないことにカタリーナはわずかな寂しさを感じた。

しばらく進むと見慣れた後ろ姿を見つけ声をかけようとするが誰かと一緒である事に気づき、慌てて口を塞ぐ。エヴァトリスはどこかの御令嬢をエスコートしているようだ。令嬢は真っ白なドレスを着用しており、よく見るとそれが聖女に与えられる服である事にカタリーナは気づく。そして、エヴァトリスと揃いの黒髪を考えると、一緒に居るのが異世界からの聖女である事が容易に予想できた。
「あれが、聖女様・・・」
聖女の歳は15歳、お揃いの黒髪を見ると遠目で似合いの二人である事が分かる。

何を話しているか分からないが、エスコート中であり、二人の距離は近い。
「私で良いんだよね」
カタリーナは無意識に呟き、エヴァトリスの視線に注意を向けた。

エヴァトリスは他の令嬢をエスコートする時、令嬢に視線を向ける事はない。ただ、カタリーナをエスコートする時だけ時折視線を向け微笑んでくれる。だが、聖女をエスコートするエヴァトリスはどうだろう。聖女から視線を離そうとはせず、時折進行方向の確認をする程度だ。カタリーナの位置から聖女の顔も表情も分からないが聖女と視線が合うとエヴァトリスは優しく微笑んでいる。そして、聖女との視線が外れると悲しそうな、そしでどこか懐かしむような表情を向ける。カタリーナも見たことのないエヴァトリスの表情に驚きを隠せない。距離もあり、木の陰であることから向こうがカタリーナに気づく様子はない。
「いつもああやってお二人で散歩をされているのです。」
どこか憧れるような視線を聖女とエヴァトリスに向ける侍女は、カタリーナを気にする様子がない。
「本当にお似合いだわ。まるで番の様・・・」
この若い侍女は、自身の発言が不敬である事にすら気づいてすらいない。

カタリーナは侍女の発言に苛立つ事はなく、どこか他人事の様に諦めにも似た感情が生まれる。
(国民達の反応もきっとこうよね、、、)
いつにないエヴァトリスの反応に不安にならないと言えば嘘になるが、つい先日カタリーナに見せた今にも泣きそうな表情に嘘はなかった。
「それでも、殿下は私を求めてる」
小さく小さく呟いたカタリーナの声を聞く者はこの空間に誰もいなかった。


それからもカタリーナはエヴァトリスと聖女が一緒に居る姿を何度も目撃する事になる。相変わらずエヴァトリスは優しげな視線を聖女に向けている向こうが気づかないこともあるが、エヴァトリスはカタリーナがいる事に気がつくと聖女に別れを告げ早足で側に来てくれる。カタリーナはその度にホッとする。エヴァトリスに、まだここにいて良いと言ってもらっている気がするからだ。一度カタリーナはエヴァトリスに聖女に挨拶をしたほうが良いか確認した事があったが、その時は
「正式な対面はまだ許可されていないんだ」
と言葉を濁されてしまった。そのため、カタリーナは未だに聖女の顔をはっきりと見た事がない。小柄で、ストレートのロングと言うのがカタリーナの印象だった。

正式な発表前とは言え、議会でも話に上がり、王宮内であれば歩き回っている聖女の存在は公然の秘密となっている。王宮内での聖女の評判はなかなか良い。最近こちらの世界に来たとは思えないほど、馴染んでいるらしい。言動の一つ一つにも品があり、マナーに関しては付け焼き刃とは思えないほどだと王妃が話していたこともある。カタリーナは王妃の話を聞き複雑な気落ちになったが、こちらの世界に馴染んでいるというのはきっと良い事なのだろうと自身を納得させたのはごく最近のことだった。

時折公務の手伝いに出向き、だがほとんどは婚姻の準備に追われ数ヶ月がすぎる。だいぶ終わりが見えて来た時には婚姻の義まで2ヶ月ほどとなっていた。民にも正式な婚姻の日も発表され、それと共にこの国の王子の生誕祭、立太子が行われるとあって、市井の賑わいは十分なものになっていた。
議会で最初に話に出ていた、異世界からの聖女のお披露目については婚姻から1ヶ月後を予定している。民の混乱を避けることが目的らしいが、カタリーナとしては「1ヶ月ずれたところで大きな変わりはないだろう」というのが正直な意見だ。ただ、1ヶ月の間であっても純粋に婚姻を喜んでもらえるのは嬉しいものでもある。この先の事を思うと重くなる気持ちもあったが、婚姻の儀は楽しみでもありエヴァトリスが考えてくれた衣装を見ると嬉しくなる気持ちを止める事はできなかった。


そんな中嬉しいような、悲しいような議会からの決定がカタリーナに知らされることになる。


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やっとここまで来ました。ここから本格的ストーリーが動き始める予定です(最近はこの辺りから書き始めればよかったのではと思い始めている)。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
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