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2章

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『自分で選べる未来』カタリーナはそんな事を考えたことがなかった。幼少期から婚約者がおり、王妃になる未来が決まっていた。貴族、公爵家の娘と言う肩書きは常にカタリーナの両肩にのしかかっていた。王妃になる事を嫌だと思ったことはない。守る力を持っていることが誇りであった。ただ、それが重圧であった事も間違いなかった。
「望むなら、婚約を白紙に戻してもいい。殿下の話を聞くのが辛いなら辺境に土地と家を与えるから、そこでゆっくりと過ごしてもいい。」
父のその言葉に、エヴァトリスはずっと下に向けていた視線を上げ今にも泣き出しそうな表情でカタリーナを見つめる。
「もう、カタリーナに・・・会えなくなる?」
小さすぎる呟きはカタリーナには届かない。かろうじて、隣に座っている王妃が聞こえた程度だった。
だが、何も取り繕うことのできていないエヴァトリスの表情からカタリーナは目が離せなかった。静まり返った部屋の中で、カタリーナとエヴァトリスは見つめ合っている。どれくらいの時間をそうしていたのかわからないが、どちらかが視線をそらす事はなかった。
カタリーナは息を大きく吐き、エヴァトリスに微笑みかけた。その変化にエヴァトリスは肩を大きく揺らし、さらに不安げな表情を浮かべる。
(こんな状態のエヴァを放ってはおけないわね・・・。)
カタリーナの気持ちは最初から決まっていたのかもしれない。
「側に居て、お役に立つことが出来るなら、その勤めを果たさせていただきます。」
国王とエヴァトリスは明らかにホッときた様な表情を浮かべ、王妃はどこか辛そうな表情を浮かべている。同じ女性として思うところがあるのかもしれない。
「本当にそれで後悔しないのか?」
悔しそうな表情を向けてくるのは父のだったが、それに対してカタリーナは笑顔を向ける。
「どちらを選んだとしても・・・「ああすれば良かった」と後悔しそうな気がするのです。しない後悔よりは、・・・やれるだけの事をして後悔したいと思います。」
そう言いながらもカタリーナはエヴァトリスに思いを伝えないことを心に決める。建前上は「何かあった時、エヴァトリスの負担にならないように」そして本心は「不安だから」。カタリーナ自身、父に言った言葉と心の中での決意の矛盾点には気づいていたが、あえてそれを知らないふりをする。今日の話の中身はカタリーナにとって辛いものだった。少しでも心の平穏を取り戻せるようにと、矛盾点にも、考えなくてはいけない多くのことについても蓋をする。
(今日はもう休みたい・・・)
カタリーナの心と体は休息を求めていた。それを感じ取ったであろう、エヴァトリスが一番に口を開く。
「ありがとう、カタリーナの決意を無駄にしないように頑張るね。・・・今日はどうする?カタリーナの部屋はいつ戻ってきても大丈夫なように準備はしてあるよ。」
何か・・・を懇願しているような話方だった。いや、ただ純粋に帰ってきて欲しいのだろう。その思いを感じ取ったのはカタリーナだけではなかった。指し示したわけでもなく父とカタリーナは視線を合わせると、先に口を開いたのはカタリーナだった。
「ありがとうございます。ですが、本日は公爵家に帰ると母にも約束していたので申し訳ありません。」
エヴァトリスは明らかにシュンとした顔をしていたが、それに影響を受ける父ではなかった。
突然・・このようなお話を聞きびっくりしておりますので、家の方でも色々と相談させてもらいたく思います。全てが・・・落ち着きましたら、また王宮の方へお送りいたしますのでご安心ください。」
ところどころ棘のある父の言葉にエヴァトリスはさらに落ち込みをみせ、国王はそれを見て苦笑いを浮かべている。
「こんな状況でも王家と縁を結んでくれると言うのだから、ありがたく思わねば」
国王はエヴァトリスに言い聞かせるように話す。国王としても、特に問題なく過ごしていたこの国の状況で、聖女の登場は不不本意だったのだろう。少し卑屈な言い方になっている。国王の言葉に返事を返す者は居なかった。
「話も終わった様だし私たちはそろそろ帰ろう」
父の言葉を合図にカタリーナも立ち上がる。2人は退室の挨拶をし、部屋を出た。

部屋に残された3人は、誰が口を開くでもなく座り続けている。どれぐらいの時間がだったのだろう、外には夕焼けが広がっていた。
「この時代に・・・」
ポツリと呟きたい王妃の声に2人が耳を傾ける。
「この時代にも異世界からの聖女は必要なのでしょうか。何年もの時間をかけて築いてきた絆を捨ててまで、聖女との婚姻は結ばなくてはいけないものなのでしょうか・・・。」
そう呟いた王妃の声に返事をする者は居ない。王妃も返事を求めてるわけではなかったのだろう。少しすると立ち上がり静かに部屋を出ていくのだった。
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