冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!

風早 るう

文字の大きさ
上 下
7 / 10

7

しおりを挟む
イワンの台詞に、俺達は焦った。

「グレイ様が言う通り、第二王子は本当に魔王を蘇えらせてしまったのかもしれません…。」
「…国が危ないな。それに、魔獣をうじゃうじゃ飼い慣らされたら面倒だ。」

1日の刑務作業を終えて、束の間の夜の自由時間。
俺達は、談話室で内緒話をしていた。
囚人達は日々増えてきている様で、小競り合いが絶えず騒がしい。

その喧騒に紛れながら、俺達は数日かけて脱獄計画を立てた。
まずは監獄の出入り口の位置や看守の見回りの時間を調べて、それを頭に叩き込む。

流れとしては、俺がグレイの魔力を増幅して、グレイが房の中から魔法で刑務所の外にそびえ立つ壁の一部を破壊し、看守達の目を外に引き付ける。
そしてその隙に房の鍵を手当たり次第に魔法で解除し、どさくさに紛れて脱獄する。
という計画だ。

もう猶予がない。
今夜、決行だ…。






消灯時間を過ぎ、囚人達が寝静まった頃。看守の見回りが終わったタイミングで、決行だ。
俺のベッドに、グレイが忍び込んでくる。

「キスで俺が興奮しすぎたら、マナトがなだめろよ?」
「え、どうやって…?」
「年上だろ? うまくあしらってくれよ。」

全くどうしたらいいか分からなかったけど、悩んでいる暇はない。
いよいよその時がやってきて、俺は心を決めた。
横になっている俺に、グレイがそっと唇を重ねる。

どうか、上手くいきますように…。

祈るような気持ちで重ねた唇に、神秘の力が宿った気がした。
徐々に深くなっていく口付けに、必死に応える。

「ふっ…、んぅ………っ!」

心臓も息も苦しくなってきて、つい顔を背けると、関係ない首筋まで強く吸われた。

「グレイ…っ、外に出られたら、好きなだけしていいから…!」

俺の台詞にグレイの動きが止まる。
そして、グレイの神秘的なオッドアイが、獄中のわずかな光を集めて輝いた。

「…悪い、つい夢中になる。魔力はもう、大丈夫そうだ。」

グレイが手をかざすと、足の魔封じリングが粉々になる。
そして、間髪入れずに外から爆音が聞こえた。
無詠唱で容易く遠隔爆破まで使えるグレイに、俺は圧倒された。

「行くぞ、ついて来い!」

そして、牢の鍵を魔法で解除し、グレイが外へ出る。
外の爆音に皆が気を取られている隙に、素早く隣の房の鍵を解除し、難なくリオンの足のリングも破壊した。

「グレイ様、ありがとうございます。足手まといにはなりません!」

魔法が使えるようになったリオンは、打って変わって頼もしい。

グレイとリオンとで無差別に牢の鍵を解除しながら、入り口までの道をひた走る。
監獄内は騒然として、看守達も混乱している様だった。

しかし、いよいよ出口という所で、あの看守のイワンが立ちはだかる。

「外には出さねぇぞ。王子様から頂いた、とっておきを見せてやろう。」

ニヤニヤした意地の悪い笑みを浮かべるイワンは、ドーベルマンの様な犬を連れている。そして、首輪型の魔封じリングを外した。

「…気をつけろ、魔獣だ。」
「え? 犬じゃなくて!?」

俺がそう言うや否や、いきなり凶暴化した犬の魔獣が、口から火を吹いた。

「マナトっ!」

素早くグレイの後ろに庇われ、俺は何とか熱風の直撃から逃れる。
でも、グレイは…!?

防御魔法なのか、グレイもリオンも傷はなさそうだ。
でも、周りにいた囚人達が大火傷を負って苦しんでいる…。

「…看守、まさか魔獣を飼い慣らしたつもりか?」
「エサをやってたのは俺だからな。よく焼けた肉を後でたんまり食わせてやるから、あいつらを殺せ。」

イワンの言葉に、魔獣がグレイとリオンを威嚇するように唸る。

「…おい、魔獣。その程度の魔力で、俺に逆らう気か?」

しかし、グレイは全く怯むことなくそう言った。
魔獣が、唸りながらも後ろに引き下がる。

「そういえば、お前らの種族は焼けた肉より生の方が好きだろ? お前の隣のその男を殺れ。さっさとしないと、こっちから行くぞっ!」
「なっ、餌を毎日やっただろう!?」

魔獣はあっさりと寝返り、獰猛な牙で看守のイワンに噛み付き始めた。
聞くのもおぞましい悲鳴が上がる。

「魔獣が人に懐くなんてねぇんだよ…!」

しかし、イワンが食い殺されそうになった所で、グレイは魔獣を瞬殺する。
そして…。

「わかったら、二度と魔獣には近づくな。そこを退け!!!」

イワンは、ブルブルと震えながら道を開けた。
振り返ると、リオンが火傷の重症者達にいつの間にか治癒魔法をかけている。

「…罪を犯した命だからといって、軽んじることはしません。悔い改めれば、救われます。」

その姿は、俺なんかよりずっと聖女の様だった。

囚人達が、可愛い見た目のリオンを散々揶揄ってきたことを後悔しながら泣いている。

もう誰も、俺達の行く手を邪魔する者はいなかった。

そして俺達3人は、無事に脱獄したのだった…。





真夜中に脱獄した俺達は、しばらく身を潜めるため、王都から少し離れた町の中にある何の変哲もない宿屋に入った。

魔法で姿を変え、何なく受付を通る。
通されたのは4人部屋で、俺とグレイとリオンは、ぐったりとベッドへ横になった。
監獄のベッドとは違う、柔らかい寝心地だ。

魔力を大量に使ったらしい2人は、今まで見たことがないくらいに疲れ切っている。

俺ももう限界で、瞼が強制的に閉じてくる。
目を閉じると、脳裏に焼き付いた魔法や魔獣の恐ろしさが蘇ってきた。
異世界ファンタジーだと浮かれていたけど、初めて戦いを目の当たりにした。
今まで、役所の仕事と監獄生活しかしてこなかったから、わかっていなかったんだ。

これは正真正銘の、命に関わる戦いなんだ…。

























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

守護霊は吸血鬼❤

凪子
BL
ごく普通の男子高校生・楠木聖(くすのき・ひじり)は、紅い月の夜に不思議な声に導かれ、祠(ほこら)の封印を解いてしまう。 目の前に現れた青年は、驚く聖にこう告げた。「自分は吸血鬼だ」――と。 冷酷な美貌の吸血鬼はヴァンと名乗り、二百年前の「血の契約」に基づき、いかなるときも好きなだけ聖の血を吸うことができると宣言した。 憑りつかれたままでは、殺されてしまう……!何とかして、この恐ろしい吸血鬼を祓ってしまわないと。 クラスメイトの笹倉由宇(ささくら・ゆう)、除霊師の月代遥(つきしろ・はるか)の協力を得て、聖はヴァンを追い払おうとするが……? ツンデレ男子高校生と、ドS吸血鬼の物語。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

【完結】元勇者の俺に、死んだ使い魔が美少年になって帰ってきた話

ずー子
BL
1年前くらいに書いた、ほのぼの話です。 魔王討伐で疲れた勇者のスローライフにかつて自分を庇って死んだ使い魔くんが生まれ変わって遊びに来てくれました!だけどその姿は人間の美少年で… 明るいほのぼのラブコメです。銀狐の美少年くんが可愛く感じて貰えたらとっても嬉しいです! 攻→勇者エラン 受→使い魔ミウ 一旦完結しました!冒険編も思いついたら書きたいなと思っています。応援ありがとうございました!

ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

処理中です...