冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!

風早 るう

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イワンの台詞に、俺達は焦った。

「グレイ様が言う通り、第二王子は本当に魔王を蘇えらせてしまったのかもしれません…。」
「…国が危ないな。それに、魔獣をうじゃうじゃ飼い慣らされたら面倒だ。」

1日の刑務作業を終えて、束の間の夜の自由時間。
俺達は、談話室で内緒話をしていた。
囚人達は日々増えてきている様で、小競り合いが絶えず騒がしい。

その喧騒に紛れながら、俺達は数日かけて脱獄計画を立てた。
まずは監獄の出入り口の位置や看守の見回りの時間を調べて、それを頭に叩き込む。

流れとしては、俺がグレイの魔力を増幅して、グレイが房の中から魔法で刑務所の外にそびえ立つ壁の一部を破壊し、看守達の目を外に引き付ける。
そしてその隙に房の鍵を手当たり次第に魔法で解除し、どさくさに紛れて脱獄する。
という計画だ。

もう猶予がない。
今夜、決行だ…。






消灯時間を過ぎ、囚人達が寝静まった頃。看守の見回りが終わったタイミングで、決行だ。
俺のベッドに、グレイが忍び込んでくる。

「キスで俺が興奮しすぎたら、マナトがなだめろよ?」
「え、どうやって…?」
「年上だろ? うまくあしらってくれよ。」

全くどうしたらいいか分からなかったけど、悩んでいる暇はない。
いよいよその時がやってきて、俺は心を決めた。
横になっている俺に、グレイがそっと唇を重ねる。

どうか、上手くいきますように…。

祈るような気持ちで重ねた唇に、神秘の力が宿った気がした。
徐々に深くなっていく口付けに、必死に応える。

「ふっ…、んぅ………っ!」

心臓も息も苦しくなってきて、つい顔を背けると、関係ない首筋まで強く吸われた。

「グレイ…っ、外に出られたら、好きなだけしていいから…!」

俺の台詞にグレイの動きが止まる。
そして、グレイの神秘的なオッドアイが、獄中のわずかな光を集めて輝いた。

「…悪い、つい夢中になる。魔力はもう、大丈夫そうだ。」

グレイが手をかざすと、足の魔封じリングが粉々になる。
そして、間髪入れずに外から爆音が聞こえた。
無詠唱で容易く遠隔爆破まで使えるグレイに、俺は圧倒された。

「行くぞ、ついて来い!」

そして、牢の鍵を魔法で解除し、グレイが外へ出る。
外の爆音に皆が気を取られている隙に、素早く隣の房の鍵を解除し、難なくリオンの足のリングも破壊した。

「グレイ様、ありがとうございます。足手まといにはなりません!」

魔法が使えるようになったリオンは、打って変わって頼もしい。

グレイとリオンとで無差別に牢の鍵を解除しながら、入り口までの道をひた走る。
監獄内は騒然として、看守達も混乱している様だった。

しかし、いよいよ出口という所で、あの看守のイワンが立ちはだかる。

「外には出さねぇぞ。王子様から頂いた、とっておきを見せてやろう。」

ニヤニヤした意地の悪い笑みを浮かべるイワンは、ドーベルマンの様な犬を連れている。そして、首輪型の魔封じリングを外した。

「…気をつけろ、魔獣だ。」
「え? 犬じゃなくて!?」

俺がそう言うや否や、いきなり凶暴化した犬の魔獣が、口から火を吹いた。

「マナトっ!」

素早くグレイの後ろに庇われ、俺は何とか熱風の直撃から逃れる。
でも、グレイは…!?

防御魔法なのか、グレイもリオンも傷はなさそうだ。
でも、周りにいた囚人達が大火傷を負って苦しんでいる…。

「…看守、まさか魔獣を飼い慣らしたつもりか?」
「エサをやってたのは俺だからな。よく焼けた肉を後でたんまり食わせてやるから、あいつらを殺せ。」

イワンの言葉に、魔獣がグレイとリオンを威嚇するように唸る。

「…おい、魔獣。その程度の魔力で、俺に逆らう気か?」

しかし、グレイは全く怯むことなくそう言った。
魔獣が、唸りながらも後ろに引き下がる。

「そういえば、お前らの種族は焼けた肉より生の方が好きだろ? お前の隣のその男を殺れ。さっさとしないと、こっちから行くぞっ!」
「なっ、餌を毎日やっただろう!?」

魔獣はあっさりと寝返り、獰猛な牙で看守のイワンに噛み付き始めた。
聞くのもおぞましい悲鳴が上がる。

「魔獣が人に懐くなんてねぇんだよ…!」

しかし、イワンが食い殺されそうになった所で、グレイは魔獣を瞬殺する。
そして…。

「わかったら、二度と魔獣には近づくな。そこを退け!!!」

イワンは、ブルブルと震えながら道を開けた。
振り返ると、リオンが火傷の重症者達にいつの間にか治癒魔法をかけている。

「…罪を犯した命だからといって、軽んじることはしません。悔い改めれば、救われます。」

その姿は、俺なんかよりずっと聖女の様だった。

囚人達が、可愛い見た目のリオンを散々揶揄ってきたことを後悔しながら泣いている。

もう誰も、俺達の行く手を邪魔する者はいなかった。

そして俺達3人は、無事に脱獄したのだった…。





真夜中に脱獄した俺達は、しばらく身を潜めるため、王都から少し離れた町の中にある何の変哲もない宿屋に入った。

魔法で姿を変え、何なく受付を通る。
通されたのは4人部屋で、俺とグレイとリオンは、ぐったりとベッドへ横になった。
監獄のベッドとは違う、柔らかい寝心地だ。

魔力を大量に使ったらしい2人は、今まで見たことがないくらいに疲れ切っている。

俺ももう限界で、瞼が強制的に閉じてくる。
目を閉じると、脳裏に焼き付いた魔法や魔獣の恐ろしさが蘇ってきた。
異世界ファンタジーだと浮かれていたけど、初めて戦いを目の当たりにした。
今まで、役所の仕事と監獄生活しかしてこなかったから、わかっていなかったんだ。

これは正真正銘の、命に関わる戦いなんだ…。

























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