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それからすぐに、囚人全員の魔封じリングのチェックが行われた。
でも、誰にも異常はなかった様だ。

3人と揉めた俺とグレイは相当疑われ、しつこくしぶとく調べられた。
そして、夜中になってようやく、房へ帰してもらえる。
俺とグレイは、結局また同室だ。

「……マナト、ちょっといいか?」

殴られた腹がまだ痛んで、やっと眠れるとベッドに入ろうとした所で、俺はグレイに呼び止められた。

「え、何?」
「……もう一回、キスしたいんだけど。」
「!?」

ものすごく真剣な顔で迫られて、つい顔が熱くなった。でも、揶揄うわけでも、イヤらしい意味がありそうなわけでもない言い方だ。

「ど、どうしたんだよ…?」
「確かめたいことがある。」
「確かめる…?」
「…それは、確証が得られたら言う。」

神秘的なオッドアイが、俺をみつめている。
曖昧な返事だし、まだ出会ったばかりだけど、グレイは絶対いいヤツだ…。

「……よくわからないけど、わ、わかった。」
「何だよそれ。…でも、ありがとな。」

心を決めて頷いた俺に、グレイが優しく笑う。

そして、2人並んでベッドに腰掛けた。
なぜか妙にドキドキしてくる…。
いい年だから、さすがにはじめてじゃないのに。
そうだ、キスされると思うから恥ずかしいんだ。
年長者の俺の方からすればいいんじゃ…?
そう思った俺は、グレイの方に体を向けると、グレイの両肩にそっと手を添えた。
暗い牢獄なんて不似合いな端正な顔に、ゴクリと息を呑む。
綺麗すぎて、やっぱり緊張するな…。
そう思い、目を瞑る。そして、女の子にするみたいにゆっくりと…。

ふいに体がベッドに押し倒されてハッとした。
閉じていた目を開くと、グレイが俺の上にいる。

「…悪い、女扱いされんの大嫌いなんだ。」

そして、綺麗な形の唇が、そっと重なった。
ちゅっと音をたてて軽く吸われ、また角度を変えて重なる。
何回もされて、頬が熱くなった。

「……っ、グレイ…?」
「やばい、なんか気持ちいい…。マナト…。」

熱っぽく言ったグレイのオッドアイが、いつもとは違う光を宿した気がして、心臓が一気に早くなる。

「!? や……っ!」

再び合わされた唇の隙間から舌を入れられそうになり、俺は慌てて顔を背けて腕を突っぱねる。
さすがにいきなりディープキスは…!
心の準備というものが無かった俺は、乙女のごとく抵抗した。
でも、初めて触れたグレイの胸板は、細く見えるのにものすごく硬い。必死に押しても、びくともしない。
俺の唇の端を、グレイが名残惜しそうに舐め、つなぎの囚人服のジッパーが下ろされる。
まだ痛む腹の辺りを撫でられ、ビクッと体が跳ねた。
撫でられた所が、じんわりと温かくなる…。

「……悪い、やりすぎた。」

グレイがそう言って、俺の上から離れた。重みが消えても、心臓はまだバクバクしている。
でも、殴られて痛かったはずの腹がすっかり痛まなくなっていて…。

「あ、あれ、痛くない…。」
「治癒魔法を使った。」

グレイが小声で言う。
魔法は封じられているはずなのに…??
そう思ってハッとした。
あの3人組に襲われた時も、キスした後にあいつらが吹っ飛んだ。
キスしたら、魔法が使えるようになるのか…?

「明日、話そう。」
「…わ、わかった。治してくれてありがとう、グレイ。」

房の中で2人きりとはいえ、夜中は流石に静かだし会話が聞こえてしまいそうだ。
俺たちはこれ以上話すのはやめて、とりあえず眠ることにした。
生まれてはじめて押し倒されたせいか、俺の心臓はしばらく早くて、なかなか寝付けなかったけど…。





翌日。
休憩時間に人気のない場所を選びながら、俺とグレイは昨日の件について話をした。

「…俺とキスしたら魔力が高まって、リングをつけてても魔法が使えたっていうことなのか?」
「おそらくそうだ。なぜかはわからないが、リングの限界量を超えて魔力が一気に高まる。短い時間だけどな。」
「俺に魔力はないはずだけど…。」

グレイが言うには、キスで俺の魔力を吸い取っているわけでも、魔力を高める魔法を俺が使っているわけでもないらしい。

「マナトの力は、何か特別なものだ。…記憶がないっていうのは、本当なのか?」

人気の少ない中庭の片隅のベンチで、グレイに真剣な顔で聞かれ、俺は口籠った。
異世界云々の話を、役所では全く信じてもらえなかったけど、グレイなら信じてくれるだろうか…。

「…その、実はさ…。俺、実は違う世界から来たって言ったら、信じる…?」

もしダメそうなら、冗談だと笑えばいい。
そう思って、俺は意を決して本当のことを話してみることにした。

すると、グレイの神秘的なオッドアイが、大きく見開かれる。
そして、少しの沈黙の後…。

「……異世界から来る聖女って、マナトのことだったのか…!」

グレイがそう言って、何故か可笑しそうに笑い始めた。でも、決してバカにされているわけではなく、その雰囲気は温かい。

「いや、俺は男だし聖女なんていう大層なものじゃ…っ!」
「性別なんて関係ねーよ。これで第二王子が本当に魔王と契約してても、何とかなるかもな。」
「えっ!?」
「聖女伝説なんて単なるお伽話だと思ってたけどさ、古の聖女も、魔術師に力を与えてくれる存在だったらしいから。」

俺が魔術師に力を与えて、魔王を倒す…?しかもキスで…?
なんだその乙女設定…っ!
グレイとのキスを思い出し、顔が熱くなる。

「キ、キス以外の方法って、無いのか…?」
「さぁな。俺は別にいーけど? マナトの顔、好みだし、気持ちよかったし。」

まだ笑いながら、グレイがさりげなく言った台詞に、ますます頬が熱くなる。
男同士でも、こんな美少年相手だと気持ち悪いと思わない自分が気持ち悪い…。

「いや、今後のために、色々試してみよう! 手を繋ぐとか、強く念じるとか、何か別の方法があるかもしれない!」
「まぁそうだな。方法も持続時間も、色々試してみるか。」

その時、中庭の入り口からリオンが顔を出した。俺達を見つけて、一目散にこちらへやって来る。
そして、俺とグレイの間に割り込むように座った。

「2人きりで、一体何のお話をしていたんですか?」

若干ヤキモチを妬いている様子のリオンに、俺とグレイは顔を見合わせる。
そしてリオンにも、俺が異世界から来たこと、キスで魔力を増幅出来るらしいことを打ち明けた。

「マナトからは不思議な気配がすると思っていましたが…。まさか聖女様だったなんて!」

リオンが目を輝かせて、俺を見つめている。

「僕にも、ぜひそのお力を見せて頂けませんか?」
「え?」

そして、リオンの可愛い顔が近づいてきたかと思うと、チュッと音を立てて唇に軽くキスをされた。
すると…。

「…す、すごい。もっと…っ!」

大きな瞳に純粋な欲望が宿り、俺を押し倒そうとしてくる。
リオンの魔法なのか、地面に生えていた草が急に伸びて来て、俺の手足を縛りつけようとまでしてきた。

「おいっ、落ち着け、リオン!」

それを引き剥がしながら、グレイは何やら難しい顔をする。

「…この力は危険だ。もう少し制御出来るようにならねぇと…。」

まだジタバタしているリオンに体術をかけて黙らせると、グレイが続ける。

「大人しいリオンでさえこの有様だしな。これだからガキは…。」
「こ、興奮し過ぎたのは謝りますが、僕の方がグレイ様より、年上ですよ!」

実は20歳だったリオンに、俺とグレイは盛大に驚いた。
すごい童顔だ…。























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