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礼央×シロ 編
噛みつきαのしつけ方 3
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αがΩを手懐ける…。
執事長の言葉に、どうしてこんなに動揺しているんだろう。
藤堂家お抱えの往診医に傷の手当てをしてもらい、俺は自分の部屋で休んでいた。
βで使用人だった時には考えられなかったけど、彼との恋愛が成立するかもしれないと思い始めていたのに。
Ωになってからというもの、礼央様を見ると妙に心拍数が上がるし、体はどんどん抱き慣らされていく。
挙句、噛まれることにも慣れていって…。
彼の言うことを聞かされるのは、もともとが主人と使用人だし、相手があの礼央様だし、仕方がないことの様な気もしていたのに、執事長の言葉にこのままでいいのかと不安になってくる。
ヒートで感じた、あの強烈な一目惚れの様な感覚を思い出した。それと同時に、俺を見据えるあの獰猛な目も。
Ωになったからなのか、αの彼を前よりずっと怖いと思う。怖いと思うのに、惹かれてしまう…。
その日の夜になって、礼央様が執事長と一緒に俺の部屋へやって来た。
「シロ、ただいま。」
静かだと思っていたら買い物に出ていた様で、執事長が洒落たショップ袋をごっそり持たされている。
「大丈夫ですか!?」
慌てて手伝おうとしたら、
「シロ、おかえりのキスは?」
礼央様から、不機嫌そうに見下ろされた。
「…間を失礼します。」
そんな俺たちの間を、いつものポーカーフェイスで執事長がわざわざ通り抜け、紙袋を壁際のチェストの上へ降ろす。
「礼央様から、立花さんへのプレゼントだそうですよ。」
「どうしてこんなに…。」
「俺の趣味で服選ばせてって、言ったろ?」
おかえりのキスは何となく流された様で、代わりに俺は山の様な紙袋を見つめた。有名なハイブランドの袋もたくさんある。
「成瀬はもう下がれよ。」
「いいえ。礼央様がご自分の部屋へ戻るまで、ここにおります。」
「さすがに今夜は何もしないって。」
面倒くさそうに呟く礼央様に、
「来週の土曜は私も同伴しますので、ついでに立花さんの服装も確認させてください。」
執事長は、ポーカーフェイスを崩さない。
来週の土曜日に、また何かあるらしい。特権階級というのは、本当にパーティー好きだな…。
「じゃあ、コーラ持って来て。シロは何か飲む?」
「いえ、特には…。」
「では立花さんには、麦茶でもお持ちしましょう。」
執事長の言葉に、いつぞやお互いを飲み物に喩えたのを思い出した。執事長は確か、俺のことを常温の麦茶みたいだと…。
「何、シロって麦茶好きだった?」
執事長が部屋を出て行くと、礼央様が不思議そうに言ってソファに腰をかけた。
「いえ、…執事長と飲み物に喩えあったことがあるんです。礼央様はコーラで、俺は常温の麦茶みたいだって。」
「…ふーん、じゃあ成瀬は?」
「ほっ○レモンって、わかります? コンビニにあるんですけど…。」
礼央様が、俺の方を面白そうに眺めている。
「見たことある。飲んだことはねぇけど。」
彼はお坊ちゃんだけど、決して世間知らずではない。
コンビニも覗くし、新商品にも詳しい。
「で、シロはどうしてそう思った?」
「冷めても、美味しいので…。」
「何だよそれ。」
執事長にも、どういう意味かと聞かれたのを思い出した。
「…冷たく見えても優しい人だと、思ったんです。」
「大概のαは、Ωに優しいと思うけど?」
確かにαはΩに下心を持って優しくしてきたりするんだろうけど、執事長はそんな人ではないと思う。だって…。
「執事長は、母親がΩだから大変さがわかると…。」
「似たようなもんじゃん。βのシロに成瀬は優しくしてくれたか? 顔合わせたことくらいはあるだろ。」
礼央様の言葉に、以前のことを思い出す。
確かに、執事長は訓練のことも、俺が関わっていることも知っていた。礼央様にどんなに噛まれても訓練に付き合う変わった人だと思っていた、と前に言われたし…。
「成瀬みたいにクールな奴でも、Ωにはいい顔したいんだろーな。」
いい顔? 下心なくΩに優しいだけなんじゃないのか…? βからΩになって前とはフェロモンの量が違うから心配だとも言われたし、何より、Ωの本能だけじゃなく心も大切にした方がいいと言ってくれた。その執事長が、αの本能で俺に優しくしてくれているとは思いたくない。
「失礼します。」
その時ちょうど、飲み物を持って戻ってきた執事長に、俺たちの会話が途切れた。
「ほら、早く開けてみろよ。似合いそうなやつ選んできたから。」
「え…? は、はい。」
礼央様が、ソファからプレゼント達を視線で示している。
執事長を前にして、どうして俺に優しくしてくれるのかなんていう話を続けるのも憚られて、俺は仕方なく目についたものから開封していった。
どれもこれも丁寧に包装されていて、開封するだけでも一苦労だ。
「あれ、麦茶は?」
「屋敷には置いておりませんでしたので、紅茶にしました。」
「そんなこと、お前なら初めから把握してるだろ。」
ソファーテーブルの上に、レモンを添えたコーラと紅茶を並べた執事長と、礼央様の会話が耳に入る。
なぜ麦茶の話を出してこられたのか、執事長の意図がよくわからない。
「何でシロは麦茶なんだよ。」
「…個人的なイメージですが、庶民的で素朴な方だからです。それなのに、随分と無理をしておられる。」
「無理って?」
俺は山程の包みを開けながら、2人の話を黙って聞いていた。不穏な空気が流れ始める。
「立花さんの意思を無視して、貴方が好き放題しているじゃないですか。」
執事長が躊躇いなく年下の主に言い放った言葉に、俺は息を呑んだ。いくら礼央様が子どもの頃からの付き合いとはいえ、大丈夫なんだろうか。しかも、執事長自身のことじゃなく、俺のことで…。
「そもそも、同意もなしにβをΩにするなど根本的におかしいですよ。いくらα性が強いからといって、やっていいことと悪いことがあります。私は止めたはずです。」
礼央様は黙ってコーラを飲んでいるけど、俺は慌てて執事長を止めようとした。
「それはもういいですから…!」
「立花さんも、何でも許しては駄目です。番も妊娠も、あなたが望まないなら…!」
「俺とシロの関係は『特別』だ。成瀬にはわからない。黙ってろよ。」
礼央様の言葉に、部屋の中が静まり返る。
すごい威圧感だった。大の大人が2人とも、一言で黙らされた。
「…で、何だっけ。シロの服装の確認?」
礼央様がそう言って、すぐにいつもの笑顔を浮かべたことに、俺は心底ホッとしてしまう。
訓練や今後のことは、俺がもっとちゃんとしないといけないんだ。執事長を、巻き込んじゃいけない…。
「私には、この屋敷で働く者達に対する責任があります。関係ないなどということはありません。」
「…執事長。」
巻き込んではいけないのに、いつものポーカーフェイスでそう言い切った執事長を、心のどこかで頼りにしてしまう自分がいた。
礼央様への想いを貫く覚悟も、Ωとして生きていく強かさもないと言われたのを思い出す。まだどちらも持てずにいる中途半端なΩの俺を気遣ってくれる、優しい人だ。
「何、アツくなってんの?」
礼央様が、ソファから立ち上がって俺の側まで来た。
そして開封していた服を、手に取って広げる。
「次は、偉い政治家さん関係の個展のレセプションだっけ?スーツよりは個性的な格好の方が、芸術家には受けると思ってさ。」
礼央様からプレゼントされた服達は、どれも素材が良さそうで色合いもシンプルなものだった。でも形が変わっていて、確かにどこか芸術的なデザインだ。
「…俺に着こなせますかね?」
自分では絶対に選ばない様な個性的なデザインの服を前に、つい戸惑いを隠せない。
「デザイナーの一点ものだから、誰とも被らない。着てみてよ。」
身幅の広いジャケットを羽織らされ、袖を通した。ドロップショルダーで、袖の先がやや広がっている。
「変わったデザインですね…。」
「曲線的で色気あるだろ?」
曲線とか色気とか言われても、俺にはあまりピンとこなかった。でも、女性でも着れそうなデザインではある。
「ユニセックスな感じはします。」
「シロは男だけど俺の子どもを産むんだから、性別には囚われないで欲しいんだよなぁ…。」
礼央様の言葉に、俺は何も返事が出来なくなった。
あの遊び人の礼央様が、子どものことまで考えているなんて…。だから俺に、メスの自覚を持てなんて言ってくるのか!?
俺は26歳のいい大人なのに、父親になる覚悟すら持ったことがないんだ。ましてや自分が産むなんて…。
「子どもが子どもを作って、どうするおつもりですか。礼央様はまだ学生です。妊娠は困ります。」
言葉を失っていた俺の代わりに、執事長が淡々と言う。
内容はいたって常識的だけど、言い方に棘があった。
「学生だから子どもって、古くさ…。俺は投資で稼いでるし、シロと俺の子10人くらいは余裕で養えるから。」
子ども10人…!?
それは冗談としても、確かに彼は自分の資産を持っている様だし、成人もした。俺よりずっと年下だけど、家庭を持とうと思えばいつでも持てるのかもしれない。Ωにとって、番は一生の選択だ。でも、彼も彼なりに、俺との未来をちゃんと考えてくれているということなのか…。
「…あなたは、藤堂グループ全体を養わなければならない。よくお考えください。」
執事長が、そう言って丁寧に頭を下げた。礼央様は、はいはいと仕方なさそうに肩をすくめている。
彼が背負うものは大きい。そして、そんな礼央様をまだ子どもだなんて真正面から言える執事長もすごい。2人の関係性の良さが、垣間見える気がした。
「シロ、それ似合ってる。次はこっちも着てみてよ。」
目を細めて俺を見つめる、迷いのない礼央様の言葉。
メスの自覚を持てなんてどういう意味かと思ったけど、子どもか…。単に女扱いされているわけじゃないことには安心したけど、自分が子どもを産むなんてやっぱり想像できなかった。つい数週間前までβの男だったんだ…。
礼央様が俺のために選んでくれた服。似合うと言われるのは嬉しいはずなのに、素直に受け入れられない。
俺にはもっと、平凡な服の方が似合う気がして…。
「…ありがとうございます。」
それだけ言うのが、精一杯だった。
******
翌日、礼央様を学校に送り出した後、俺は部屋でひとり考え事をしていた。
礼央様が俺に望んでいるのは、番になることだけじゃなく彼の子を産むことなのか…。本能的な礼央様が、避妊に失敗して子どもが出来る可能性はあると思っていたけど、まさか自ら作るつもりがあるなんて…。
礼央様に否応なく惹かれるΩの本能と、βの男として生きてきた俺の心がせめぎあう。自分が子どもを産むなんて、正直全く想像が出来ない。親もどう思うんだ…?
そういえば、まだΩになったことすら親に話していない。
とりあえず出来ることからやってみようと、俺は意を決してスマホを手に取った。
『はい、立花です。』
「母さん、俺だけど…。」
『真白? あら、今日は仕事お休み?」
「…うん。母さんは、パートない日だっけ。」
咄嗟に誤魔化したけど、月曜日の午前中だった。でも、父さんよりは母さんの方が話しやすい。週に何回かパートに出ている母さんも、今日は仕事がないらしい。
『あんた、お見合いの話断ったんだって? 理由はお相手がはっきり言ってくれなかったみたいだけど、何でなの?』
「…そのことなんだけど。」
彼女に説明した様に、体調が悪くて病院へ行ったらバース性が変わっていたということにした。ホルモンコントロールのことは、さすがに親でも言えない。
『大変じゃないの…っ。体は大丈夫…?』
黙って話を聞いていた母さんがやっと発した声から、動揺が伝わってくる。一度帰っておいでと言われて、つい里心がついた。
「…帰るときはまた連絡する。」
そう言って電話を切った俺は、ぐったりとベッドへ横になる。予想はしてたけど、ものすごく心配されてしまった。
体のことだけじゃなく、仕事が続けられるのかどうかとか…。定期的にくるヒートのせいで、Ωは安定した仕事にはなかなかつけない。生活が安定しないと、将来が心配というのは当然だ。抑制剤の効果は人によるらしいし…。
かといって、年下のαの下でΩとして働いているなんて、口が裂けても言えなかった。それならいっそ、番になって子どもを産む方が親は安心するのか?
無意識にとはいえ、礼央様のためにΩになったんだ。現実感は全くないけど、彼が望むならそうすべきなんだろうか…。
ふいに部屋のドアがノックされ、俺はノロノロとドアを開けた。
「立花さん、体調はどうですか?」
ドアを開けると、今日もいつも通り隙のない執事長がいる。
「ありがとうございます。…大丈夫です。」
「大丈夫、という顔ではありませんね。礼央様とお子様10人との未来は想像できそうですか?」
切長の瞳が、俺の考えていることを見透かした様に見つめている。
「…全然違う未来を、今までは想像していたんですけどね。」
「どんな未来を、想像していたんでしょう?」
執事長を部屋に招き入れて、俺は少しだけ話を聞いてもらうことにした。ソファに座って、向かい合う。
「…礼央様の訓練が終わったら、明るい癒し系の女性と恋愛して、結婚して…。俺は1人息子なんで、子どもは兄弟がいた方が楽しいかなとか、でもその分稼がないといけないなとか。未来って言っても、それくらいなんですけど…。」
そんな平凡な人生を歩む気でいたのに、俺の本能は彼を選んだんだ。どうしてこんなに、ちぐはぐなんだろう…。
「…なぜこの人を好きになったのかと思う恋愛ほど、想いは深い気がします。しかし、幸せかどうかはまた別かもしれませんね。」
執事長の言葉に、ハッとした。想いは深い…。そうかもしれない。今まで散々痛い目に遭ってきたけど、俺は彼から離れられなかった。番になるのも子を産むのも、それが自分の幸せだと思ったことはない。でも彼が望むならと、引きずられそうになっていく…。
「私の母も一般家庭の生まれでしたが、ある政治家一族の父の番になりました。愛しあっていた様ですが、家同士の問題で正妻にはなれなかった。愛する人に他にも家庭があるという現実は、想いが深いほど辛いものです。」
執事長の母親はΩだと聞いたのを思い出す。そして、執事長が何を言おうとしているのかも…。
「礼央様が成人され、しかるべき令嬢との縁談が次々ときています。大学在学中には、ご婚約されるでしょう。もし立花さんが番になり、先にお子様が生まれたとしても、正妻の子とは扱いが違ってきます。」
政治家一族の番の子である執事長が、政治の世界で生きていないことに、複雑な事情を察した。そうか、俺だけじゃなく子どもだって難しい立場に置かれるんだ。
「土曜日の個展は、大臣も務めたことのある有力な代議士の奥様が開くものです。そして先方には、礼央様に引き合わせたい女性がいます。彼らの孫娘で、海外生活も長く非常に優秀なα…。」
なんでも、元大臣の一人娘が婿であるエリート外交官との間に設けた孫娘で、長らく駐在で海外生活をしていたけど、娘婿が日本で政治活動を始めるにあたって帰国したらしい。
「こういった場を利用したいという、まぁ、よくある手です。」
上流階級の社交の場なんだから、そういうのは当然だ。
礼央様がいずれ結婚することだって、当然のことだ。
Ωなら、男同士でも恋愛出来るし、番になってずっと側にいることもできる。でも、結婚は家同士の問題だ。そこはどうしようも出来ない。結局、αの礼央様はΩの俺の全てを自分のものに出来るけど、俺は出来ないんだ。
…それでも、後ろ指刺されることなく側にいられるなら、それでいいじゃないか。そう思う自分と、もっと身の丈に合った穏やかな幸せを願う自分がいる。
俺は何でΩになんかなったんだろう…。
「礼央様に、最後まで従わなければならないということはありません。あなたが望むなら、Ωでも安全に働ける職場を用意します。生活が安定すれば、家庭を持つことも出来るでしょうから。」
目の前に座っている執事長から、微かにタバコの残り香がする気がした。ストレスが溜まると吸いたくなると言っていたっけ。俺にこんな話をするのは、礼央様に仕える執事長としては複雑だろう。
ホルモンコントロールを止められなかった責任を感じているとか、Ωの大変さがわかるとか、こんなにクールに見えるのにやっぱり優しい人だと思う。
俺は選ばせてもらえるんだ。自分の望む未来を…。
******
それから数日間は、噛み跡だらけの俺を気遣ってか礼央様は大人しかった。朝は彼を送り出し、帰宅したら出迎えて、一緒に食事したり学校の話を聞いたり…。そんな穏やかな毎日。話をするだけなら気さくな人だ。こういう生活は楽しいと思ってしまう。
そんなある日、気分転換にとヘアサロンへ連れて行かれた夜。
「シロ、なんか元気ないね。」
「…そうですか?」
礼央様行きつけの洒落たヘアサロンで、流行っているからと髪を派手な色に染められそうになるのを何とか躱し、外で食事をして屋敷に帰ってきた。自分の部屋の前で、おやすみのあいさつをしようとした所を、彼に引き止められる。
「サロンの人と長話して、疲れたのかもしれません。」
咄嗟に誤魔化したけど、週末の個展が憂鬱で仕方なかった。礼央様と令嬢が引き合わされることは、彼が面倒がってはいけないからと、執事長から口止めされている。
「今週ずっと、元気ない。」
「…月曜にバース性のことで親に電話したら、ものすごく心配されました。一度、帰っておいでと言われて…。」
以前、嘘をつくのが下手だと言われたことを思い出し、俺は当たらずも遠からずな理由を素直に話した。
「何、帰りたいの? 危ないからダメって言ったろ。」
礼央様が、カットしたばかりの俺の髪を指で弄っている。
自分の部屋の前で、彼の機嫌を損ねると碌なことにならない。
「そ、そうでしたよね。わかってます…。」
「シロの匂い、強くなってきてる。」
「え…?」
Ωフェロモンに過敏な彼には、俺のホルモン変化までわかってしまう様で、嬉しそうに目を細めている。
「もうすぐヒート来るよ。多分来週あたり。」
前回のヒートを特効薬で無理に止めたから、次のヒートは早く来る可能性が高いとは言われていたけど、もう来てしまうのか…?
礼央様に抱きしめられると、彼からもいい匂いがする気がした。
「…礼央様もいい匂いがします。香水か何かつけてますか?」
「うちの学校、香水もピアスも髪染めるのも禁止。サロンのシャンプーかもな。」
そう言われるとそうかもしれないと、礼央様の匂いを確認する様に鼻を寄せていると…。
「…噛まないようにするから、いい?」
耳元で囁かれて、体がゾクリとした。
…俺も彼が欲しいと思った。ヒートが近いからかもしれない。番のことも、何もかも決心がつかないのに。
答える代わりに、俺も彼に腕を回す。やっぱり、いい匂いがする…。
部屋に入ってベッドで服を脱がされながら、勝手に早くなる胸の音に苦しくなった。抱かれる度に、自分はもうβ《ふつう》の男なんかじゃないと思い知らされる。
「親に心配かけて落ち込むなんて、シロはいい子だな。大丈夫、俺の番になれば安心してくれるって。」
そうだ、礼央様のためにΩにまでなったんだ。もう番になって側にいたらいいじゃないか。彼が結婚しようと何をしようと、俺の気持ちの問題だけだろ…。
「それから可愛い孫の顔でも見せてやれば、イチコロだから。」
まだ少し痛む傷痕に優しくキスされながらそんなことを言われると、もうそれで丸くおさまる様な気がしてくる。
そうだ、正妻の子と立場は違っても、一般家庭に生まれるよりはずっと恵まれているはずだ。産むのが怖いだけで…。
後ろを指で弄られると、やっぱり濡れてくる。βの体ではあり得ない。俺の体は、彼のために変わってしまったんだ…。
「…ここ、出したらダメだよ?」
ふいに手を取られて、ゆるく勃ち始めていた自分自身を握らされた。
「え……。」
俺を見下ろすαの目が命じる。
「自分で握って、我慢しろ。」
俺はメスだと言われたのを思い出した。自覚を持てと言われても、どうしても気持ち良くなれば反応してしまうのに。
グチュグチュと後ろを指で弄られながら、勃ってきてしまう自分自身を戒める。
俺はもう、βの男じゃない…。
彼から与えられる刺激に、体が悦んでいる。
オスなのにメスになれなんて、無茶なことを言われても…。
両足を抱えられて彼自身が中に入ってくると、俺は反応する自身の根本を必死に握りしめた。
挿れられると気持ちいい…っ。でも、出しちゃダメだ…!
「メスイキ、ちゃんと覚えてる?」
彼の端正な顔に、αの本能が滲んでいる。
自分の分身を握りながら、中だけで彼を感じようとする。弱い所を、何度も的確に突かれた。
気持ちいい、気持ちいい…っ!
自分の手の力を緩めて出したい…っ、でも…!
「あっ、あぁぁぁ……っ!」
だんだんと何かがクる様な感覚がしてきて、俺は自分自身を握りながら、両足を伸ばして体を細かく痙攣させた。内壁が甘くヒクついている。
「あー…、シロ、上手。」
彼の満足そうな声に、思わずホッとする。
「メスイキできて偉いね。」
優しく深いキスをされながら、ふいに無防備だった亀頭を弄られた。
「ん゛ぅぅぅ…!!!」
せっかく我慢出来たのに、そんなところ触られたら…っ!
いつの間にか滲んでいた先走りを塗り広げる様に刺激されると、あっという間に限界まで硬くなってきてしまう。
「ダメだよ、我慢。」
意地の悪い言葉とともに、彼がまた腰を動かし始める。もうダメだ、おかしくなりそうだ…っ! 中と俺自身の先端とを同時に責められながら、俺は必死に自分の欲望を堰き止める。
我慢しないと、我慢しないと…っ!!!
「こんなの、無理です…っ、出るっ…!!!」
必死に我慢したはずなのに、先端を爪でグリグリされたり雁首の辺りを弄られるとダメだった。俺の雄が、堪えきれずに白濁を漏らしてしまう。放心しながら涙を滲ませる俺を、彼の冷たいくらい綺麗な顔が見下ろしている。
「…あーあ。」
ゾクリと総毛立った。こんなのないだろと思うのに、噛まれて痛くされたり、こんな風に我慢させられたりすると、どうしようもなく感じてしまう。礼央様から、やっぱりいい匂いがする気がした。αのフェロモンかもしれない…。
「お漏らし我慢できないなら、射精管理してあげようか?」
「い、いやだ…っ、いやです…!」
子どもみたいに叱られて、被りを振った。
イッたばかりでヒクつく俺自身を、また自分で強く抑え込む。
「我慢…しますから…っ!」
礼央様の瞳に、嗜虐的な色が浮かぶ。
そのまま前立腺を抉る様に動かれて、気持ちよくなればなるほど抑えつけた自分の痛みが増していく。
「あぁぁぁ……っ!!!」
αとΩは対等じゃない。対等なβ同士の恋愛とは、まるで違う。Ω《おれ》はα《かれ》に従わないといけない。好きになればなるほど、きっと苦しくなる。それでも、俺は…。
******
土曜日の夕刻になり、個展のレセプションパーティーへ向かうことになった。
車でたどり着いたのは、コンクリート打ちっぱなしのモダンな建物だ。1階がカフェで2階がギャラリースペースになった造りで、洒落た中庭まである。
建物の中に入ると、至る所に美しい風景が描かれた油絵がディスプレイされ、優雅な雰囲気が漂っていた。個展といっても絵を売るというよりは、お金持ち同士の交流がメインの様だ。
受付でコートを預けながら招待客を見回すと、前回のΩだらけのパーティーとは違い、ネックをしたΩはちらほらしかいない。これなら、礼央様はイライラせずに済みそうだ。
そしてどのΩ達も、清楚な服装のお嬢様ばかりだった。
裕福な家に生まれた令嬢達だろう。
「可愛い子でもいる?」
深みのあるチョコレート色のスーツを着た礼央様にふいに話しかけられて、
「いえ! そ、そんなことはっ。」
思わず声が裏返った。そういうつもりで見ていたわけじゃないのに、自分が悪いみたいに感じる。
「…今夜はやはり、政界の関係者が多いですね。」
そんな俺達を横目でチラリと見てから、執事長が言った。政治家一家の人だし、知った顔が多い様だ。
今夜の執事長は、落ち着いたグレーのスーツを着ていて、いつものオールブラックな執事服と比べると雰囲気が柔らかく見える。お祝いの席だからか、ネクタイやチーフの色も明るい。俺だけスーツではなく、礼央様が見立ててくれたデザイナーズのセットアップを着てきたけど、変わったデザインだし少し気恥ずかしかった。
2階で絵を眺めていると、ほどなくしてホストである代議士夫妻の挨拶の後、1階のカフェスペースで立食パーティーが始まった。
礼央様も執事長も、招待客の政治家や美術関係者達と卒なく話をしていて、俺はただ隣でそれを聞いていた。政治の話も絵の話も、正直よく分からない。着ていた服を褒められて笑顔で礼を言うくらいしか出来ないのに、礼央様はそれで満足そうだった。着飾って笑っていればいいってことか…。他には何も出来ないくせに、そんな卑屈な気分になってくる。
追い討ちをかける様に、
「今日は娘も来ているから、紹介するよ。」
数人の招待客達が、礼央様に年頃の自分の娘達を紹介する場面を見た。αやΩの、上品な令嬢ばかりだ。
藤堂家の跡取りと娘を引き合わせたい人達は、たくさんいるんだ…。
そもそも社交の場なんだから当たり前だ。この前の還暦パーティーが特殊だっただけで、これが普通なんだろう。
「藤堂さん、今日はありがとうございます。」
しばらくすると、ホストの代議士夫婦が、綺麗な女性を伴ってこちらへやって来た。
「成瀬君も、ありがとう。」
貫禄たっぷりな元大臣の代議士が、にこやかに執事長の背中を叩く。
「先生も、お元気そうで。」
執事長が丁寧に頭を下げ、奥様の絵を褒めた後…。
「彼女は私達の孫なんだが、イギリスから最近帰国してね…。」
紹介された女性は、ショートカットで背の高い美女だった。女性らしい服装の他の令嬢達とは違い、クールなパンツスーツを着ている。でも、それがかえって彼女のスタイルの良さを際立たせていた。
「来年から同じ大学へ通うことになった様だから、よろしく頼むよ。」
イギリスのパブリックスクールで学び、礼央様と同じ様に推薦枠で合格した才媛。
「あなたは経営の方でしょう? 私は理学部だけど、よろしくね。」
少し英語訛りのある話し方で、笑うと途端に華やかになる。
「…へぇ、理学部?」
「私は祖母と違って、絵を描くより科学雑誌を読む方が性に合うのよ。」
2人の会話を聞きながら、礼央様もよく科学雑誌を読んでいる姿が浮かんだ。
「遺伝子がどうとかいうことに興味がある様でね。藤堂家のご子息となら、話が合うんじゃないかと思うんだが…。」
礼央様も、経営より研究の方が面白そうだと以前もらしていたのを思い出す。
「せっかくだから、向こうでもっとゆっくり…。」
代議士夫婦の言葉に俺と執事長は空気を読んで、さり気なく礼央様から離れた。
並べられた食事を取りに行くフリをしたけど、食欲なんてない。客観的に見て、2人はものすごくお似合いだった。しかも、来年の春からは大学まで一緒だ。わかっていたはずなのに、想像以上にショックだった。黙り込んでいる俺に、
「飲みますか?」
執事長が、スパークリングワインが入ったグラスを手渡してくれる。
「…ありがとうございます。」
食欲もないしと、俺はワイングラスを受け取ると一気に飲み干す。行儀が悪い飲み方だと思うけど、執事長は驚いた様に少しだけ目を見開いただけだ。そして、
「…もう、帰りましょうか?」
飲み干したワイングラスを俺の手から受け取りながら、微かに微笑んでくれる。本当に時々しか見れない笑顔だけど、見るたびに思いのほか優しくて目を奪われてしまう。
「でも、礼央様が…。」
「ホスト夫妻に捕まってしまった様ですし、今夜はΩも少ないので大丈夫ですよ。体調でも悪くなったことにして、先に出ましょう。」
彼を目で探したけど、もう見当たらなかった。どこか静かな場所へ、連れて行かれてしまったのかもしれない。
「…そうですね。」
ヤキモキしながら待つのも嫌だし、2人の姿を隣で見るのも辛い。俺はそう思い、受付でコートを受け取ると、執事長と会場を出ることにした。
******
「少し、歩きますか?」
待たせていた車で真っ直ぐ屋敷に帰るのも気が晴れないと思っていた俺は、執事長の言葉に間髪入れず頷いた。
一気飲みしたワインが効いてきたのか少し足元がふわふわするけど、夜の街を自由に歩くなんて久しぶりだ。
土曜日の夜ということもあり、人も車も多くて、辺りは活気に溢れている。
「あの、コンビニ寄ってもいいですか?」
近くのコンビニが目に入って、俺は思わず中に入った。βだった頃は、夕飯を調達しに毎晩のように通っていたコンビニが、ものすごく懐かしく感じる。
「お一人での外出は出来ませんが、声をかけて頂けたらコンビニくらい私がいつでもお付き合いしますよ。屋敷の近くにもありますし。」
「じゃあ、屋敷の側にあるラーメン屋もいいですか? 俺、あそこのラーメン好きなんです。」
「あぁ、美味しいですよね。」
俺の庶民的な味覚に、意外にも執事長が同意してくれた。
「裏メニューで、麻婆豆腐をかけてもらえたりもしますよ。お勧めです。」
「えっ、知りませんでした。いいですね!」
しかも、通な情報まで教えてくれる。執事長がクールな顔で麻婆ラーメンを食べている所を想像すると、何だかおかしかった。少しだけ、気持ちが楽になってくる。
ふと、温かい飲み物コーナーに例のほっ○レモンを見つけて、俺は立ち止まった。
「似たような商品がたくさんありますけど、どれが私なんでしょう?」
確かに、同じ様な商品名で数種類並んでいる。執事長にあらためてそう聞かれ、もしかしたら密かに悩ませていたのかもしれないと思った。
「俺のお勧めはこれなんです。」
俺は某メーカーのものを手に取ると、それを買ってコンビニから出た。
あたたかい店内から出ると、コートを着ているとはいえ初冬の夜風が冷たい。歩きながらペットボトルで手を温める俺に、
「…手袋が要りましたね。」
執事長が、ポツリと呟く。
「飲むと温まりますから。執事長も良かったらどうぞ。」
ペットボトルを開けて差し出すと、執事長は無言で受け取って一口飲んだ。
「あまり主張のない味なんですね。」
「甘すぎず酸っぱすぎずサラッとしているから、冷めてもおいしいのかもしれません。」
ペットボトルを返してもらって、俺もチビチビと飲みながら歩く。
「…礼央様がいたら、間接キスだ何だと大騒ぎしたでしょう。」
執事長がさりげなく言った台詞に、そういえば…と、今更ながらに意識した。男同士でも俺はΩだった。やっぱり、変な感じがする。
「…執事長は、その、Ωと付き合ったりしたことがあるんですか?」
立ち入った話かなとも思ったけど、ほろ酔いだからか勢いで聞いてしまった。
「Ωは少ないので、まぁ、一度だけ。」
「執事長は、Ωに優しそうですね。」
αはΩを本能的に支配したがると言っていたけど、執事長からはそんな雰囲気を感じたことはない。礼央様と同じαなのに。
「優しいといいますか…、私の場合は、過保護になります。」
過保護と聞いてなるほどと思った。それも少し、支配とか管理に似ているかもしれない。でも保護するんだから、何だかんだで優しい気がした。
「そのΩの方とは…?」
「高校の頃の話ですから。家柄のいい人で、親が決めた婚約者もいたので…。」
その答えに、俺は黙って俯く。特権階級の人達はみんな、恋愛以上の関係に進むには家柄が問題になってくるんだ。
礼央様だけじゃない…。
「…あの代議士のお孫さんと礼央様、お似合いでしたね。」
そう小さく呟いた俺に、執事長は何も答えなかった。
しばらく無言のまま歩いていると…。
「来週には立花さんのヒートが来ると礼央様が言っていましたが…、番になるんですか?」
ふいに立ち止まった執事長が、俺を見つめている。執事長が、心も大切にした方がいいと言ってくれたのを思い出した。仕事まで用意してくれるとも。でも…。
「…自分の心に嘘をついてでも側にいたいなんて、おかしいですよね。」
せっかく選ばせてもらえるのに、結局俺は、礼央様に何をどうやっても惹かれる。
痛い思いばかりさせられても、俺の本能は彼を求める。
彼と代議士の孫娘がお似合いだというだけで、こんなに鬱々とするというのに。
いざ誰かと結婚する彼を目の当たりにしたら、俺の心は一体どうなってしまうんだろう…。
「…辛い恋を選ぶんですね。」
辛い恋だと言葉にされると、怯みそうになる。
番も愛人も、持とうと思えば何人でも持てる立場の人だ。
どうしてもっと先のことを考えて、思いとどまれないんだろう。
それなりにいくつかの恋をしてきたし、どんなに1人の人を好きになっても、別れが来て時が経てばまた別の人を好きになれる自分を知っているはずなのに。
いつの間にか、礼央様の次の恋は想像出来なくなってしまった。
首に嵌められたネックに手をかけて、俺は項垂れる。
「このまま屋敷に戻れば、もうヒートが近いからと外出もさせてもらえなくなるかもしれませんが…。」
いよいよ、一生のことが決まってしまうのか…。
ネックの管理が自分で出来ない以上、彼に委ねるしかないんだ。
「…今夜、ご実家まで送りましょうか?」
執事長がかけてくれた言葉に、心は迷う。
「ご実家で抑制剤を飲んでヒートをやり過ごせば、次は3ヶ月程度空くはずです。」
執事長は、先延ばしにしてもう少し考えた方がいいと言ってくれているんだ。
「でも、ヒートの訓練が…。」
「それは、他のΩもいますから。」
例え訓練でも、彼が他のΩと行為をするのを想像するだけでも嫌だった。
昔から無理矢理訓練させられる彼を可哀想だとは思っていたけど、嫉妬とは違う感情だったはずだ。
こんなことを思う様になるなんて、俺はなんて身の程知らずなんだろう…。
「…そんな顔をするあなたをずっとお世話するのは、私も辛いですね。」
執事長の言葉に、勝手に涙が頬を伝う。
背中にそっと手を回されて、俺たちはまた歩き始めた。
執事長の手が、温かい…。
そして俺の涙が止まるのを待って、執事長はタクシーを拾ってくれた。行き先を尋ねられ、俺は結局、屋敷に戻ることを選んだ…。
屋敷に戻ると、時間はもう22時近くになっていた。
礼央様が先に戻っているかもしれないと思っていたのに、彼の姿はない。
「運転手が別の場所へ送ったようです。2人で先に帰ったので、臍を曲げたんでしょう。」
執事長がスマホをのぞいて、曖昧な言い方をする。
彼が何処へ行ったかなんて、執事長には報告が来ているだろう。久しぶりに夜遊びか…。
時間の問題だとは思っていたけど、彼の機嫌を損ねた途端に遊ばれるのは、これから先が思いやられた。
「…眠れない夜に、お付き合いしましょうか?」
余程暗い顔をしていたのか、俺の様子を見ていた執事長が、また微笑んでくれた。
「いえ、そこまで繊細じゃないですよ!」
俺も笑顔を作ってみたけど、
「上手く笑えていませんよ。」
礼央様と同じようなことを言われて、また俯く。
嘘をつくのが上手いわけでもないのに、俺は自分の心に嘘をついていけるだろうか…。
「ほとんど食べていませんし、夜食をお持ちしましょう。」
執事長はもう勤務時間ではないはずなのに、テキパキと指示を出して豪華な夜食まで用意してくれた。
ワインやビールも…。
「礼央坊ちゃんとは違い我々はいい大人ですから、飲みましょうか。」
彼を子どもの頃から知っている執事長には、今も変わらず礼央様は子どもに見えるのかもしれない。
俺の部屋のソファで向かい合って座り、酒のつまみに小学生の頃の彼の話を聞いた。
屋敷のカーテンでターザンごっこをしたという様な可愛いものから、かなり計画的な家出をして大騒ぎになったとか、旦那様の部屋から現金を持ち出し、映画みたいにばら撒いて執事達の反応を観察したとかいう凄いものまで。
子どもの頃から優秀だったけれど、一人息子だからか自由で我儘で、側近達は散々困らされてきた様だ。
そんな彼は、日付が変わってもまだ帰って来ない。
俺は飲まずにはいられなくて、勧められるままについ飲み過ぎていく。
「俺も、礼央様からメスになれなんて言われて、どうしたらいいのか…。」
さすがに射精管理の話までは出来なかったけど、だいぶ酔っ払って漏れ出た俺の本音に、執事長が苦笑している。
「何でも許してはいけませんよ。お子様にはしつけが必要ですから。」
執事長もかなり飲んでいるのに、全く顔色が変わらない。
ただ、いつもの隙のない雰囲気は解けていた。
「俺も冷静になるとそう思うんですけど…。」
「体はαに逆らえませんか?」
ワイングラスを傾けながら、執事長が微笑った。
その姿があまりにも様になっていて、俺は一瞬ドキッとする。日本人離れした礼央様とはタイプが違うけど、執事長も羨ましいくらいに整った顔立ちをしている。ワイングラスが似合う、歴とした大人の男だ。
「いえ、そういうわけでは…。」
急に恥ずかしくなって、俺は口籠った。いくら相談できる人がいないからって、つい喋りすぎてしまったかもしれない。
「別に恥ずかしいことではありません。Ωの体というのは、快楽に従順に出来ていますから。」
執事長のクールな話し方に、ふと学校で習ったことを思い出す。そうかΩは、生殖に特化したバース性だから…。
「…礼央様の訓練をしていたはずなのに、いつの間にか彼の言うことを聞かないといけないと思っている自分がいて、混乱します。」
俺は、情けないと思いつつそう呟いた。
彼に与えられる強烈な快楽に逆らえない、もうそんな自分を認めるしかないんだろうか。
礼央様の噛み癖も、隙をみせるとすぐに元の木阿弥になりつつある。あんなに命がけで訓練してきたのに…。
「αとΩの関係は難しいですよ。αが圧倒的に優位になりますから。」
執事長が、少し考えるように目を伏せる。
「…特に礼央様はΩに対して凶暴ですし、Ωを幸せに出来る人なのかどうか…。そこそこの耐性をつけたら、あとはαの中で生きた方がいいと私は思いますけどね。」
そう続けて、手慣れた仕草で俺のグラスにまたワインを注いでくれた。そんな執事長の滑らかな動きを見つめながら、言われた言葉を反芻する。
確かに彼は、αの中で生きていけばうまくいく人だろう。
しかるべきαの令嬢と結婚して、今まで通りα同士で遊べば、凶暴にもならないし全て事足りる。
いくらΩを連れているのが特権階級のステータスとはいえ、絶対に必要というわけでもない…。
かえって彼を強く刺激するΩ《おれ》の存在のせいで、側近達は朝から時間管理に追われ、執事長も何か起こりはしないかと気苦労が絶えないんだ。
「…俺、側にいない方がいいのかもしれませんね。」
思わずそう呟くと、
「いえ、そういう意味では…。」
執事長が、とたんに困った表情になる。
「あなたに幸せになって頂きたいという意味で、言ったのですが…。」
執事長が言ってくれていることは、よく分かる。
恋愛や結婚をするなら、互いを思い合える優しい関係の方がいいに決まっている。俺もずっとそう思って恋愛してきた。
なのに俺と礼央様の関係は、一体何なんだろう。
彼はどうしても、Ωの俺に対して凶暴だし支配的になる。そんな彼が怖いし理不尽だと思うのに、俺はどうしても惹かれてしまうんだ。
まるで俺の本能は、痛いくらいに強く彼に縛られたがっているみたいに…。
もうどうしたらいいのかわからなくなってきて、俺は注いでもらったワイングラスを手に取った。
そして、あおる様に勢いよくワイングラスを傾けて口に含んだ、次の瞬間、酔っていたせいか派手にムセた俺は、赤ワインを盛大に自分の服に溢してしまった。
「大丈夫ですか!?」
素早く席を立った執事長が、咳き込む俺に水を飲ませてくれる。
そして、ナフキンで俺の口元やら服に溢れた赤ワインを手早く拭いてくれて…。
「す、すみません、すぐ流した方がいいですよね!?」
礼央様からもらったデザイナーの一点ものに赤ワインのシミをつけてはいけないと、焦ってバスルームへ向かおうとする俺に、
「少し飲ませすぎてしまいましたね。私がやりますよ。応急処置をして明日クリーニングに出せば、綺麗になりますから。」
そう言って執事長もついてきてくれた。
汚れた上衣を脱ぐと、ズボンにも少しついているからと言われ、恥ずかしがる間もなくテキパキと下も脱がされる。
「ついでにシャワーでもどうぞ。」
「す、すいません…。」
風邪で寝込んだ時を思い出した。あの時も執事長には散々お世話になったけど、あまりに要領がよくて指示に逆らえないというか、結果、自分の母親に看病されるよりずっと丁寧に細かくお世話されてしまったんだった。
そして今も、言われるがままにバスルームへ入る。
シャワーを浴びてバスルームのドアを開けると、目につくところにタオルとパジャマと下着がきっちりと置いてあった。
風邪で寝込んだ時に、下着のありかまで全て把握されてしまった様だ。
さすがプロだと思いながら着替えて部屋に戻ると、ソファテーブルの上の食事は傷みそうなものは下げられていて、飲み物と軽いものだけが残されていた。
誰もいない広い部屋が、急に寂しく感じられる。
礼央様は、やっぱり朝帰りか…。
大きなベッドの上で横になると、何ともいえない気持ちが込み上げてきた。
嫌な想像ばかりが頭を巡る。彼は今頃、誰と何をしているんだろう…。
スマホを手に取ってみたけど、彼からの連絡はない。
こんなことくらいでしょげていたら、とても礼央様の番なんてやっていけない。
これくらい平気だと、自分に言い聞かせてみる。
言い聞かせながら、そうまでして彼の側にいたいと思う自分に、悲しくなってくる…。
番になれば、次の恋はない。一生こんな風に、彼だけを求めて生きていくことになる。俺は本当にそうしたいのか?
他の幸せを選んだ方がいいんじゃないのか?
そう思う心とは裏腹に、彼になら何をされてもいいとすら…。
ふと、体が熱くなった気がした。
思わずベッドの上で跳ね起きる。
この感じ…!
初めてのヒートで味わった感覚と似ていると思った。
まだ本格的に来たわけではなさそうだけど、今のうちに何とかしないといけない。
俺は慌てて執事長に電話をしようと、スマホを手に取った。
礼央様がいないんだから、抑制剤か特効薬を持ってきてもらうしかない。
電話をかけると執事長はすぐに出てくれた。どうやら、服の染み抜きをしてくれていた様だ。
「あの、抑制剤を…、一応、特効薬も、必要かもしれないんですけど…っ。」
『…わかりました。すぐ行きます。』
すぐに事情を察してくれた執事長に、何から何まで申し訳ないと思いつつも安心して、俺はベッドの中で体を丸める。
すぐにドアがノックされて、執事長が戻って来てくれた。
抑制剤の白い錠剤とグラスの水を手渡され、一緒に飲み込む。
「来週あたりと言われていたのに。自分の体のことも、よくわからなくて…。」
「…気持ちが不安定になると、急に来たりすることがありますから。」
俺をベッドに横にならせてくれてから、執事長が枕元に腰掛けた。
確かにかなり不安定だけど、αの執事長にこのまま側にいてもらうわけにもいかず、
「その、ありがとうございました。あとは一人で大丈夫です。」
そう言って、俺は横になったまま執事長を見上げる。
「薬が効くまで側にいます。個展の前に、私は遮断薬を飲んでいますので。」
俺の心配を読んだように、執事長が微笑む。
今日は何度目だろう。あんなにいつもはポーカーフェイスなのに、今夜は何回も執事長の笑顔を見た気がする。
「…今回のヒートは、抑制剤の効果を確かめるためという名目でやり過ごしませんか?」
執事長の言葉に、抑制剤の効果は人によると聞いたのを思い出した。確かに、ちゃんと効くか確かめる必要がある。
「番になっても、ヒートがなくなるわけではありません。パートナーのαの関心が離れてしまったら、抑制剤に頼るしかありませんから。」
執事長が何を心配してくれているのかもよく分かった。
若く華やかな彼のことだ、これからも色々な相手と巡り合うだろう。いくら俺のΩフェロモンが『特別』でも、彼を縛ることは出来ない。
「そう、ですよね…。そうした方がいいですよね…。」
小さく呟いた俺の頭を、執事長が躊躇いがちに撫でる。
温かい手…。
どれくらいそうされていただろう。
薬を飲んで15分以上経ったのに、体の火照りはおさまらない。念の為にもう一錠飲んでみたけど、息が上がる。
「…あまり効いてきませんね。」
体を丸めながら、熱が集中してきてしまう自分自身を必死で堪える俺に、
「少し処理をした方が楽になるかもしれませんね。お手伝いしますよ。」
何でもないことの様に言われて、一瞬耳を疑った。
「え……?」
執事長を見上げると、変わらず穏やかな眼差しが俺を見下ろしている。朦朧とするし、聞き間違いだよな…?
そう思ったのに、
「…もう貴方の辛い顔は、見たくない。」
次の瞬間、甘い匂いに捕まった様な気がした。
まさか、αのフェロモン…?
そう思った時には、まるで脳が砂糖漬けにでもされたみたいに動かなくなる。
唇にキスが降ってきて、ゆっくり口腔内を蹂躙された。
俺、執事長にキスされてるのか…?
優しく寝衣を脱がされながら、こんなことはダメだと思うのに抵抗出来ない。
「な、なんで…っ。」
やっと振り絞った俺の台詞に、執事長が切長の瞳を細める。
「貴方はもう何も、考えなくていい。」
いつもの落ち着いた低い声なのに、甘く響く。
体中に残る礼央様の噛み跡を器用な指先でなぞられると、Ωの体は敏感に反応した。
「…本当に傷跡だらけですね。私なら、ヒートでも貴方を傷つけたりしないのに。」
熱くなっていた俺自身に触られると、礼央様の声が聞こえたような気がした。
『出したらダメだよ。』
そうだ、ダメだ。こんなこと…っ!
何とか理性をかき集めて、逃れようともがく。
「や、やめてください…っ! 俺は…っ!」
「怖がらないでください。礼央様より、優しくします。」
でも、まだ傷が残っている乳首を舐められながら俺自身を刺激されると、発情しかけたΩの体はひとたまりもなかった。
気持ち良くて、腰が震える。
「ダメです…、し、叱られます…っ!」
必死に堪えようとする俺を見つめて、執事長が眉を顰める。
「…メスになれなどと可哀想に。もう我慢しないでください。」
快感に震える俺自身が、熱くて柔らかいものに包まれた。
…執事長の口の中だ。
礼央様にも、こんなことはされたことがない…!
舌を絡められて、唇で吸われて、手で扱かれて、睾丸まで舐められて、強烈な快楽の奉仕に目が眩んだ。
「ああぁぁぁっ!」
堪えきれずに放ったはずのものは全て飲み込まれて、
「たくさん出せましたね。それでいいんですよ。」
呆然とする俺を、執事長が褒めてくれる。
いつものポーカーフェイスからは想像も出来ない、優しく甘い、それでいて男らしい表情に見つめられると、どうしたらいいか分からなくなった。
「も、もう大丈夫です…から。」
イッてしまった後の怠い体で、何とかベッドから降りようとしたけど、
「駄目ですよ。まだ横になっていないと。」
言い聞かせる様に囁かれ、またベッドへ戻される。
そして、温かく包み込まれる様に抱きしめられた。
体中にキスをされて、溶けそうな程に甘やかされる。
「…貴方はもっと大切にされるべきです。ここから、逃がしてあげたい。」
気持ちよくて、温かくて、…胸が詰まりそうだ。
大切にされていると、全身で感じさせてくれるような触れ方だった。
それなのに…。
「………っ。」
涙が込み上げてきた。執事長は優しい。半端なΩの俺を気遣ってくれて、くだらない話を聞いてくれて、俺の幸せを考えてくれた。
執事長みたいなαを好きになれば、Ωは幸せになれるのかもしれない。
なのに何で、俺は彼のことばかりが頭を巡るんだろう…。
「俺は…、礼央様が……。」
そんな台詞しか出てこなかった。
こんなに優しくされても、ただ彼が恋しい。
きっと俺は、誰かに優しくしてもらいたいわけじゃないんだと思った。
俺はずっと、自分が礼央様を守っているつもりで訓練してきた。彼の役に立っていると、そう思えることが嬉しかった。
求めてないんだ。優しくされることも、守ってもらうことも。俺はただ、自分が好きになった人を守りたかっただけなんだ…。
「…抑制剤が効いてきた様ですね。」
名残惜しそうな執事長の言葉に、いつの間にか体の火照りが引いていたことに気がついた。
「俺…、すみません…。」
居た堪れないような申し訳ないような気持ちになって、シーツで体を隠した俺に、執事長が小さく溜め息をつく。
「…私は貴方の心のままに、お仕えします。」
そう言って、変わらず穏やかに微笑ってくれた執事長に、俺は涙が止まらなくなった…。
すっかり夜が更けて、俺は一人になったベッドの上でうとうとしていた。
礼央様以外は選べない自分を自覚してしまった。
もう苦しくても何でも、腹を括るしかない…。
今頃、誰か別の人と一緒にいるであろう彼を想いながら、仕方なく目を閉じる…。
眠りに引き摺り込まれそうになった瞬間、ふと人の気配がした様な気がして俺は重たい瞼を開いた。
気のせい…?
体を起こして目を凝らしてみたけど、室内は暗く静かで、特に変わった様子はなさそうだ。
抑制剤が効いているけど、体が怠い。俺はまた横になって、目を瞑る。
…そして夢を見たのか、彼の声が聞こえた様な気がした。
「…だから、俺が帰ったら出迎えろって。」
こんな夜中にそんな無茶な…。
夢の中でも、彼は勝手だ。
「で、どうだった? 逃げ道あった?」
ジャケットを脱ぎ捨てる音。いつもそうだ。服は脱ぎっぱなし、お菓子は食べっぱなし。
しかも人の気も知らないで、なんてことを言うんだろう。
逃げ道があったら逃げたい。俺はもっと穏やかで、平凡な人生を送りたかったのに。
そう思ってまた落ち込んでいたら、ふいに頭を撫でられた。すごく、いい匂いがする。
その特別な匂いに誘われる様に、俺は思わず目を開けた。
ぼんやりとしたシルエットが、だんだんと浮き上がる。
「…帰って、来てたんですか?」
「シロこそ、逃げなかったんだ?」
たった数時間ぶりの彼の姿に、胸が詰まった。
それくらい、会いたかった…。
「わざわざヒートが来るって成瀬に教えておいてやったし、色々言って来たろ?」
そう言って飄々と微笑う彼に、大人の気持ちを利用するなんて、心底悪い人だと思う。
「実家帰って普通に女と家庭持つとか、俺以外のαに靡くとか…。」
俺の気持ちも見透かした様な彼に、何も言い返せない。
どっちも出来ないと分かっていた様な言い方に、怒りを通り越して泣けてきた。
「礼央様の、せいじゃないですか…っ。」
勝手に嫉妬して辛くなって、それでも側にいたいのは自分なのに、大人気なく彼のせいにした。
「そうそう。俺のことが大好きなせい。」
ヘーゼル色の瞳が、楽しそうにそんな俺を見つめている。
もうその通りだった。せめて涙を見られまいと、俺は枕に突っ伏す。
「もうわかったろ? 逃げ道なんてないって。」
背中に彼の重みを感じた。
そのまま抱きしめられる。
「…俺にもないんだから、シロにあって堪るかよ。遊んでもつまんねー…。シロのことばっか考えてた…。」
不貞腐れた様な声。
「初めて会った時から俺のこと散々縛っといて、何でシロはこんなに迷うんだよ。俺は、迷うことすら…。」
さらに強く抱きしめてくる彼の腕に、胸が痛くなった。
常識も倫理も無視して、迷わず俺をホルモンコントロールした人だ。そして、長いこと無自覚だった俺を、見つめ続けてくれた。
振り返ると、彼が何だか泣きそうな表情をしている。
こんな表情、久しぶりに見た。駄目だ、俺は、彼のこの表情に一番弱いんだ…。
「…もう、迷いません。」
だからもう、そんな表情しないで欲しい。
いつも飄々と笑っていて欲しい。
「番にしてください。ヒートが来たら…。」
抑制剤を飲んだはずなのに、体が熱い。
体中の細胞が彼を求める。
恋愛は心でするものだとは思うけど、怖がったり迷ったりする心とは裏腹に俺の本能は正直だ。
自分では意識できないような無意識の領域から、たった一人の相手を求めてやまない。
こんなの、知らなかった。
「…やっと分かった? もう待ちくたびれたから、今すぐ発情させてやる…。」
礼央様から物凄くいい匂いがした。クラクラする…。
荒々しいキスに、全身が悦びに震える。
全て捧げたい。心だけじゃなく、俺の体の隅々まで全部、縛って欲しい。
…体が一気に熱くなる。なんて単純で正直な本能なんだ。
ヒートが来たのが自分でも分かった。
「いー匂い。…でも、成瀬の匂いもする。あいつに何かさせたろ?」
彼の目つきも変わった。凶暴なαの本能。
「礼央様こそ…、個展で楽しそうだったじゃないですか…!」
体が熱くて息があがる。俺も、自分の感情を抑えられなくなってくる。
「…あんなの社交辞令だろ。シロのは浮気。」
ズボンを下ろされ、後ろを乱暴に指で掻き回された。
執事長みたいな丁寧さなんて微塵もないのに、堪らないくらい気持ちいい。
「最後じゃないですか…、俺は…っ!」
今夜で全部、彼のものになるんだから、もう蒸し返さないで欲しい。自分だって、夜遊びまでしてたくせに!
「開き直るつもりかよ…。心まで全部縛り付けとかないと気が済まない…っ。俺は、成瀬みたいに優しくないからな!」
一気に挿れられて、串刺しにでもされたかと思った。
さらに勃っていた俺自身を長い指で強く握られて、痛みにのけぞる。
ヒートで射精を我慢させられるのは、流石に地獄だ。
俺、何でこんなに凶暴な人のことを、どうしようもなく好きなんだろう…。
「俺も最後にしてやるから…、二度と俺から目を逸らすな…っ!」
快楽の出口を塞がれたまま、追い詰める様に腰を動かされる。
「俺はもう、シロ以外は抱けない…!」
痛みに朦朧としながらも、彼の言葉に涙が出てきた。
彼は藤堂グループの後継で、自由に生きられる人じゃない。
彼の気持ちだけでは、どうしようも出来ないことがたくさんある。
でも、もうこの一言で一生ついて行ける。
この先、何があっても…。
「…噛んでください。その代わり、俺以外は二度と噛まないでください…!」
でもせめて、本能のまま噛みつくのは俺だけにして欲しい。
この美しくて凶暴な獣は、俺だけのものだ。
執事長の言葉に、どうしてこんなに動揺しているんだろう。
藤堂家お抱えの往診医に傷の手当てをしてもらい、俺は自分の部屋で休んでいた。
βで使用人だった時には考えられなかったけど、彼との恋愛が成立するかもしれないと思い始めていたのに。
Ωになってからというもの、礼央様を見ると妙に心拍数が上がるし、体はどんどん抱き慣らされていく。
挙句、噛まれることにも慣れていって…。
彼の言うことを聞かされるのは、もともとが主人と使用人だし、相手があの礼央様だし、仕方がないことの様な気もしていたのに、執事長の言葉にこのままでいいのかと不安になってくる。
ヒートで感じた、あの強烈な一目惚れの様な感覚を思い出した。それと同時に、俺を見据えるあの獰猛な目も。
Ωになったからなのか、αの彼を前よりずっと怖いと思う。怖いと思うのに、惹かれてしまう…。
その日の夜になって、礼央様が執事長と一緒に俺の部屋へやって来た。
「シロ、ただいま。」
静かだと思っていたら買い物に出ていた様で、執事長が洒落たショップ袋をごっそり持たされている。
「大丈夫ですか!?」
慌てて手伝おうとしたら、
「シロ、おかえりのキスは?」
礼央様から、不機嫌そうに見下ろされた。
「…間を失礼します。」
そんな俺たちの間を、いつものポーカーフェイスで執事長がわざわざ通り抜け、紙袋を壁際のチェストの上へ降ろす。
「礼央様から、立花さんへのプレゼントだそうですよ。」
「どうしてこんなに…。」
「俺の趣味で服選ばせてって、言ったろ?」
おかえりのキスは何となく流された様で、代わりに俺は山の様な紙袋を見つめた。有名なハイブランドの袋もたくさんある。
「成瀬はもう下がれよ。」
「いいえ。礼央様がご自分の部屋へ戻るまで、ここにおります。」
「さすがに今夜は何もしないって。」
面倒くさそうに呟く礼央様に、
「来週の土曜は私も同伴しますので、ついでに立花さんの服装も確認させてください。」
執事長は、ポーカーフェイスを崩さない。
来週の土曜日に、また何かあるらしい。特権階級というのは、本当にパーティー好きだな…。
「じゃあ、コーラ持って来て。シロは何か飲む?」
「いえ、特には…。」
「では立花さんには、麦茶でもお持ちしましょう。」
執事長の言葉に、いつぞやお互いを飲み物に喩えたのを思い出した。執事長は確か、俺のことを常温の麦茶みたいだと…。
「何、シロって麦茶好きだった?」
執事長が部屋を出て行くと、礼央様が不思議そうに言ってソファに腰をかけた。
「いえ、…執事長と飲み物に喩えあったことがあるんです。礼央様はコーラで、俺は常温の麦茶みたいだって。」
「…ふーん、じゃあ成瀬は?」
「ほっ○レモンって、わかります? コンビニにあるんですけど…。」
礼央様が、俺の方を面白そうに眺めている。
「見たことある。飲んだことはねぇけど。」
彼はお坊ちゃんだけど、決して世間知らずではない。
コンビニも覗くし、新商品にも詳しい。
「で、シロはどうしてそう思った?」
「冷めても、美味しいので…。」
「何だよそれ。」
執事長にも、どういう意味かと聞かれたのを思い出した。
「…冷たく見えても優しい人だと、思ったんです。」
「大概のαは、Ωに優しいと思うけど?」
確かにαはΩに下心を持って優しくしてきたりするんだろうけど、執事長はそんな人ではないと思う。だって…。
「執事長は、母親がΩだから大変さがわかると…。」
「似たようなもんじゃん。βのシロに成瀬は優しくしてくれたか? 顔合わせたことくらいはあるだろ。」
礼央様の言葉に、以前のことを思い出す。
確かに、執事長は訓練のことも、俺が関わっていることも知っていた。礼央様にどんなに噛まれても訓練に付き合う変わった人だと思っていた、と前に言われたし…。
「成瀬みたいにクールな奴でも、Ωにはいい顔したいんだろーな。」
いい顔? 下心なくΩに優しいだけなんじゃないのか…? βからΩになって前とはフェロモンの量が違うから心配だとも言われたし、何より、Ωの本能だけじゃなく心も大切にした方がいいと言ってくれた。その執事長が、αの本能で俺に優しくしてくれているとは思いたくない。
「失礼します。」
その時ちょうど、飲み物を持って戻ってきた執事長に、俺たちの会話が途切れた。
「ほら、早く開けてみろよ。似合いそうなやつ選んできたから。」
「え…? は、はい。」
礼央様が、ソファからプレゼント達を視線で示している。
執事長を前にして、どうして俺に優しくしてくれるのかなんていう話を続けるのも憚られて、俺は仕方なく目についたものから開封していった。
どれもこれも丁寧に包装されていて、開封するだけでも一苦労だ。
「あれ、麦茶は?」
「屋敷には置いておりませんでしたので、紅茶にしました。」
「そんなこと、お前なら初めから把握してるだろ。」
ソファーテーブルの上に、レモンを添えたコーラと紅茶を並べた執事長と、礼央様の会話が耳に入る。
なぜ麦茶の話を出してこられたのか、執事長の意図がよくわからない。
「何でシロは麦茶なんだよ。」
「…個人的なイメージですが、庶民的で素朴な方だからです。それなのに、随分と無理をしておられる。」
「無理って?」
俺は山程の包みを開けながら、2人の話を黙って聞いていた。不穏な空気が流れ始める。
「立花さんの意思を無視して、貴方が好き放題しているじゃないですか。」
執事長が躊躇いなく年下の主に言い放った言葉に、俺は息を呑んだ。いくら礼央様が子どもの頃からの付き合いとはいえ、大丈夫なんだろうか。しかも、執事長自身のことじゃなく、俺のことで…。
「そもそも、同意もなしにβをΩにするなど根本的におかしいですよ。いくらα性が強いからといって、やっていいことと悪いことがあります。私は止めたはずです。」
礼央様は黙ってコーラを飲んでいるけど、俺は慌てて執事長を止めようとした。
「それはもういいですから…!」
「立花さんも、何でも許しては駄目です。番も妊娠も、あなたが望まないなら…!」
「俺とシロの関係は『特別』だ。成瀬にはわからない。黙ってろよ。」
礼央様の言葉に、部屋の中が静まり返る。
すごい威圧感だった。大の大人が2人とも、一言で黙らされた。
「…で、何だっけ。シロの服装の確認?」
礼央様がそう言って、すぐにいつもの笑顔を浮かべたことに、俺は心底ホッとしてしまう。
訓練や今後のことは、俺がもっとちゃんとしないといけないんだ。執事長を、巻き込んじゃいけない…。
「私には、この屋敷で働く者達に対する責任があります。関係ないなどということはありません。」
「…執事長。」
巻き込んではいけないのに、いつものポーカーフェイスでそう言い切った執事長を、心のどこかで頼りにしてしまう自分がいた。
礼央様への想いを貫く覚悟も、Ωとして生きていく強かさもないと言われたのを思い出す。まだどちらも持てずにいる中途半端なΩの俺を気遣ってくれる、優しい人だ。
「何、アツくなってんの?」
礼央様が、ソファから立ち上がって俺の側まで来た。
そして開封していた服を、手に取って広げる。
「次は、偉い政治家さん関係の個展のレセプションだっけ?スーツよりは個性的な格好の方が、芸術家には受けると思ってさ。」
礼央様からプレゼントされた服達は、どれも素材が良さそうで色合いもシンプルなものだった。でも形が変わっていて、確かにどこか芸術的なデザインだ。
「…俺に着こなせますかね?」
自分では絶対に選ばない様な個性的なデザインの服を前に、つい戸惑いを隠せない。
「デザイナーの一点ものだから、誰とも被らない。着てみてよ。」
身幅の広いジャケットを羽織らされ、袖を通した。ドロップショルダーで、袖の先がやや広がっている。
「変わったデザインですね…。」
「曲線的で色気あるだろ?」
曲線とか色気とか言われても、俺にはあまりピンとこなかった。でも、女性でも着れそうなデザインではある。
「ユニセックスな感じはします。」
「シロは男だけど俺の子どもを産むんだから、性別には囚われないで欲しいんだよなぁ…。」
礼央様の言葉に、俺は何も返事が出来なくなった。
あの遊び人の礼央様が、子どものことまで考えているなんて…。だから俺に、メスの自覚を持てなんて言ってくるのか!?
俺は26歳のいい大人なのに、父親になる覚悟すら持ったことがないんだ。ましてや自分が産むなんて…。
「子どもが子どもを作って、どうするおつもりですか。礼央様はまだ学生です。妊娠は困ります。」
言葉を失っていた俺の代わりに、執事長が淡々と言う。
内容はいたって常識的だけど、言い方に棘があった。
「学生だから子どもって、古くさ…。俺は投資で稼いでるし、シロと俺の子10人くらいは余裕で養えるから。」
子ども10人…!?
それは冗談としても、確かに彼は自分の資産を持っている様だし、成人もした。俺よりずっと年下だけど、家庭を持とうと思えばいつでも持てるのかもしれない。Ωにとって、番は一生の選択だ。でも、彼も彼なりに、俺との未来をちゃんと考えてくれているということなのか…。
「…あなたは、藤堂グループ全体を養わなければならない。よくお考えください。」
執事長が、そう言って丁寧に頭を下げた。礼央様は、はいはいと仕方なさそうに肩をすくめている。
彼が背負うものは大きい。そして、そんな礼央様をまだ子どもだなんて真正面から言える執事長もすごい。2人の関係性の良さが、垣間見える気がした。
「シロ、それ似合ってる。次はこっちも着てみてよ。」
目を細めて俺を見つめる、迷いのない礼央様の言葉。
メスの自覚を持てなんてどういう意味かと思ったけど、子どもか…。単に女扱いされているわけじゃないことには安心したけど、自分が子どもを産むなんてやっぱり想像できなかった。つい数週間前までβの男だったんだ…。
礼央様が俺のために選んでくれた服。似合うと言われるのは嬉しいはずなのに、素直に受け入れられない。
俺にはもっと、平凡な服の方が似合う気がして…。
「…ありがとうございます。」
それだけ言うのが、精一杯だった。
******
翌日、礼央様を学校に送り出した後、俺は部屋でひとり考え事をしていた。
礼央様が俺に望んでいるのは、番になることだけじゃなく彼の子を産むことなのか…。本能的な礼央様が、避妊に失敗して子どもが出来る可能性はあると思っていたけど、まさか自ら作るつもりがあるなんて…。
礼央様に否応なく惹かれるΩの本能と、βの男として生きてきた俺の心がせめぎあう。自分が子どもを産むなんて、正直全く想像が出来ない。親もどう思うんだ…?
そういえば、まだΩになったことすら親に話していない。
とりあえず出来ることからやってみようと、俺は意を決してスマホを手に取った。
『はい、立花です。』
「母さん、俺だけど…。」
『真白? あら、今日は仕事お休み?」
「…うん。母さんは、パートない日だっけ。」
咄嗟に誤魔化したけど、月曜日の午前中だった。でも、父さんよりは母さんの方が話しやすい。週に何回かパートに出ている母さんも、今日は仕事がないらしい。
『あんた、お見合いの話断ったんだって? 理由はお相手がはっきり言ってくれなかったみたいだけど、何でなの?』
「…そのことなんだけど。」
彼女に説明した様に、体調が悪くて病院へ行ったらバース性が変わっていたということにした。ホルモンコントロールのことは、さすがに親でも言えない。
『大変じゃないの…っ。体は大丈夫…?』
黙って話を聞いていた母さんがやっと発した声から、動揺が伝わってくる。一度帰っておいでと言われて、つい里心がついた。
「…帰るときはまた連絡する。」
そう言って電話を切った俺は、ぐったりとベッドへ横になる。予想はしてたけど、ものすごく心配されてしまった。
体のことだけじゃなく、仕事が続けられるのかどうかとか…。定期的にくるヒートのせいで、Ωは安定した仕事にはなかなかつけない。生活が安定しないと、将来が心配というのは当然だ。抑制剤の効果は人によるらしいし…。
かといって、年下のαの下でΩとして働いているなんて、口が裂けても言えなかった。それならいっそ、番になって子どもを産む方が親は安心するのか?
無意識にとはいえ、礼央様のためにΩになったんだ。現実感は全くないけど、彼が望むならそうすべきなんだろうか…。
ふいに部屋のドアがノックされ、俺はノロノロとドアを開けた。
「立花さん、体調はどうですか?」
ドアを開けると、今日もいつも通り隙のない執事長がいる。
「ありがとうございます。…大丈夫です。」
「大丈夫、という顔ではありませんね。礼央様とお子様10人との未来は想像できそうですか?」
切長の瞳が、俺の考えていることを見透かした様に見つめている。
「…全然違う未来を、今までは想像していたんですけどね。」
「どんな未来を、想像していたんでしょう?」
執事長を部屋に招き入れて、俺は少しだけ話を聞いてもらうことにした。ソファに座って、向かい合う。
「…礼央様の訓練が終わったら、明るい癒し系の女性と恋愛して、結婚して…。俺は1人息子なんで、子どもは兄弟がいた方が楽しいかなとか、でもその分稼がないといけないなとか。未来って言っても、それくらいなんですけど…。」
そんな平凡な人生を歩む気でいたのに、俺の本能は彼を選んだんだ。どうしてこんなに、ちぐはぐなんだろう…。
「…なぜこの人を好きになったのかと思う恋愛ほど、想いは深い気がします。しかし、幸せかどうかはまた別かもしれませんね。」
執事長の言葉に、ハッとした。想いは深い…。そうかもしれない。今まで散々痛い目に遭ってきたけど、俺は彼から離れられなかった。番になるのも子を産むのも、それが自分の幸せだと思ったことはない。でも彼が望むならと、引きずられそうになっていく…。
「私の母も一般家庭の生まれでしたが、ある政治家一族の父の番になりました。愛しあっていた様ですが、家同士の問題で正妻にはなれなかった。愛する人に他にも家庭があるという現実は、想いが深いほど辛いものです。」
執事長の母親はΩだと聞いたのを思い出す。そして、執事長が何を言おうとしているのかも…。
「礼央様が成人され、しかるべき令嬢との縁談が次々ときています。大学在学中には、ご婚約されるでしょう。もし立花さんが番になり、先にお子様が生まれたとしても、正妻の子とは扱いが違ってきます。」
政治家一族の番の子である執事長が、政治の世界で生きていないことに、複雑な事情を察した。そうか、俺だけじゃなく子どもだって難しい立場に置かれるんだ。
「土曜日の個展は、大臣も務めたことのある有力な代議士の奥様が開くものです。そして先方には、礼央様に引き合わせたい女性がいます。彼らの孫娘で、海外生活も長く非常に優秀なα…。」
なんでも、元大臣の一人娘が婿であるエリート外交官との間に設けた孫娘で、長らく駐在で海外生活をしていたけど、娘婿が日本で政治活動を始めるにあたって帰国したらしい。
「こういった場を利用したいという、まぁ、よくある手です。」
上流階級の社交の場なんだから、そういうのは当然だ。
礼央様がいずれ結婚することだって、当然のことだ。
Ωなら、男同士でも恋愛出来るし、番になってずっと側にいることもできる。でも、結婚は家同士の問題だ。そこはどうしようも出来ない。結局、αの礼央様はΩの俺の全てを自分のものに出来るけど、俺は出来ないんだ。
…それでも、後ろ指刺されることなく側にいられるなら、それでいいじゃないか。そう思う自分と、もっと身の丈に合った穏やかな幸せを願う自分がいる。
俺は何でΩになんかなったんだろう…。
「礼央様に、最後まで従わなければならないということはありません。あなたが望むなら、Ωでも安全に働ける職場を用意します。生活が安定すれば、家庭を持つことも出来るでしょうから。」
目の前に座っている執事長から、微かにタバコの残り香がする気がした。ストレスが溜まると吸いたくなると言っていたっけ。俺にこんな話をするのは、礼央様に仕える執事長としては複雑だろう。
ホルモンコントロールを止められなかった責任を感じているとか、Ωの大変さがわかるとか、こんなにクールに見えるのにやっぱり優しい人だと思う。
俺は選ばせてもらえるんだ。自分の望む未来を…。
******
それから数日間は、噛み跡だらけの俺を気遣ってか礼央様は大人しかった。朝は彼を送り出し、帰宅したら出迎えて、一緒に食事したり学校の話を聞いたり…。そんな穏やかな毎日。話をするだけなら気さくな人だ。こういう生活は楽しいと思ってしまう。
そんなある日、気分転換にとヘアサロンへ連れて行かれた夜。
「シロ、なんか元気ないね。」
「…そうですか?」
礼央様行きつけの洒落たヘアサロンで、流行っているからと髪を派手な色に染められそうになるのを何とか躱し、外で食事をして屋敷に帰ってきた。自分の部屋の前で、おやすみのあいさつをしようとした所を、彼に引き止められる。
「サロンの人と長話して、疲れたのかもしれません。」
咄嗟に誤魔化したけど、週末の個展が憂鬱で仕方なかった。礼央様と令嬢が引き合わされることは、彼が面倒がってはいけないからと、執事長から口止めされている。
「今週ずっと、元気ない。」
「…月曜にバース性のことで親に電話したら、ものすごく心配されました。一度、帰っておいでと言われて…。」
以前、嘘をつくのが下手だと言われたことを思い出し、俺は当たらずも遠からずな理由を素直に話した。
「何、帰りたいの? 危ないからダメって言ったろ。」
礼央様が、カットしたばかりの俺の髪を指で弄っている。
自分の部屋の前で、彼の機嫌を損ねると碌なことにならない。
「そ、そうでしたよね。わかってます…。」
「シロの匂い、強くなってきてる。」
「え…?」
Ωフェロモンに過敏な彼には、俺のホルモン変化までわかってしまう様で、嬉しそうに目を細めている。
「もうすぐヒート来るよ。多分来週あたり。」
前回のヒートを特効薬で無理に止めたから、次のヒートは早く来る可能性が高いとは言われていたけど、もう来てしまうのか…?
礼央様に抱きしめられると、彼からもいい匂いがする気がした。
「…礼央様もいい匂いがします。香水か何かつけてますか?」
「うちの学校、香水もピアスも髪染めるのも禁止。サロンのシャンプーかもな。」
そう言われるとそうかもしれないと、礼央様の匂いを確認する様に鼻を寄せていると…。
「…噛まないようにするから、いい?」
耳元で囁かれて、体がゾクリとした。
…俺も彼が欲しいと思った。ヒートが近いからかもしれない。番のことも、何もかも決心がつかないのに。
答える代わりに、俺も彼に腕を回す。やっぱり、いい匂いがする…。
部屋に入ってベッドで服を脱がされながら、勝手に早くなる胸の音に苦しくなった。抱かれる度に、自分はもうβ《ふつう》の男なんかじゃないと思い知らされる。
「親に心配かけて落ち込むなんて、シロはいい子だな。大丈夫、俺の番になれば安心してくれるって。」
そうだ、礼央様のためにΩにまでなったんだ。もう番になって側にいたらいいじゃないか。彼が結婚しようと何をしようと、俺の気持ちの問題だけだろ…。
「それから可愛い孫の顔でも見せてやれば、イチコロだから。」
まだ少し痛む傷痕に優しくキスされながらそんなことを言われると、もうそれで丸くおさまる様な気がしてくる。
そうだ、正妻の子と立場は違っても、一般家庭に生まれるよりはずっと恵まれているはずだ。産むのが怖いだけで…。
後ろを指で弄られると、やっぱり濡れてくる。βの体ではあり得ない。俺の体は、彼のために変わってしまったんだ…。
「…ここ、出したらダメだよ?」
ふいに手を取られて、ゆるく勃ち始めていた自分自身を握らされた。
「え……。」
俺を見下ろすαの目が命じる。
「自分で握って、我慢しろ。」
俺はメスだと言われたのを思い出した。自覚を持てと言われても、どうしても気持ち良くなれば反応してしまうのに。
グチュグチュと後ろを指で弄られながら、勃ってきてしまう自分自身を戒める。
俺はもう、βの男じゃない…。
彼から与えられる刺激に、体が悦んでいる。
オスなのにメスになれなんて、無茶なことを言われても…。
両足を抱えられて彼自身が中に入ってくると、俺は反応する自身の根本を必死に握りしめた。
挿れられると気持ちいい…っ。でも、出しちゃダメだ…!
「メスイキ、ちゃんと覚えてる?」
彼の端正な顔に、αの本能が滲んでいる。
自分の分身を握りながら、中だけで彼を感じようとする。弱い所を、何度も的確に突かれた。
気持ちいい、気持ちいい…っ!
自分の手の力を緩めて出したい…っ、でも…!
「あっ、あぁぁぁ……っ!」
だんだんと何かがクる様な感覚がしてきて、俺は自分自身を握りながら、両足を伸ばして体を細かく痙攣させた。内壁が甘くヒクついている。
「あー…、シロ、上手。」
彼の満足そうな声に、思わずホッとする。
「メスイキできて偉いね。」
優しく深いキスをされながら、ふいに無防備だった亀頭を弄られた。
「ん゛ぅぅぅ…!!!」
せっかく我慢出来たのに、そんなところ触られたら…っ!
いつの間にか滲んでいた先走りを塗り広げる様に刺激されると、あっという間に限界まで硬くなってきてしまう。
「ダメだよ、我慢。」
意地の悪い言葉とともに、彼がまた腰を動かし始める。もうダメだ、おかしくなりそうだ…っ! 中と俺自身の先端とを同時に責められながら、俺は必死に自分の欲望を堰き止める。
我慢しないと、我慢しないと…っ!!!
「こんなの、無理です…っ、出るっ…!!!」
必死に我慢したはずなのに、先端を爪でグリグリされたり雁首の辺りを弄られるとダメだった。俺の雄が、堪えきれずに白濁を漏らしてしまう。放心しながら涙を滲ませる俺を、彼の冷たいくらい綺麗な顔が見下ろしている。
「…あーあ。」
ゾクリと総毛立った。こんなのないだろと思うのに、噛まれて痛くされたり、こんな風に我慢させられたりすると、どうしようもなく感じてしまう。礼央様から、やっぱりいい匂いがする気がした。αのフェロモンかもしれない…。
「お漏らし我慢できないなら、射精管理してあげようか?」
「い、いやだ…っ、いやです…!」
子どもみたいに叱られて、被りを振った。
イッたばかりでヒクつく俺自身を、また自分で強く抑え込む。
「我慢…しますから…っ!」
礼央様の瞳に、嗜虐的な色が浮かぶ。
そのまま前立腺を抉る様に動かれて、気持ちよくなればなるほど抑えつけた自分の痛みが増していく。
「あぁぁぁ……っ!!!」
αとΩは対等じゃない。対等なβ同士の恋愛とは、まるで違う。Ω《おれ》はα《かれ》に従わないといけない。好きになればなるほど、きっと苦しくなる。それでも、俺は…。
******
土曜日の夕刻になり、個展のレセプションパーティーへ向かうことになった。
車でたどり着いたのは、コンクリート打ちっぱなしのモダンな建物だ。1階がカフェで2階がギャラリースペースになった造りで、洒落た中庭まである。
建物の中に入ると、至る所に美しい風景が描かれた油絵がディスプレイされ、優雅な雰囲気が漂っていた。個展といっても絵を売るというよりは、お金持ち同士の交流がメインの様だ。
受付でコートを預けながら招待客を見回すと、前回のΩだらけのパーティーとは違い、ネックをしたΩはちらほらしかいない。これなら、礼央様はイライラせずに済みそうだ。
そしてどのΩ達も、清楚な服装のお嬢様ばかりだった。
裕福な家に生まれた令嬢達だろう。
「可愛い子でもいる?」
深みのあるチョコレート色のスーツを着た礼央様にふいに話しかけられて、
「いえ! そ、そんなことはっ。」
思わず声が裏返った。そういうつもりで見ていたわけじゃないのに、自分が悪いみたいに感じる。
「…今夜はやはり、政界の関係者が多いですね。」
そんな俺達を横目でチラリと見てから、執事長が言った。政治家一家の人だし、知った顔が多い様だ。
今夜の執事長は、落ち着いたグレーのスーツを着ていて、いつものオールブラックな執事服と比べると雰囲気が柔らかく見える。お祝いの席だからか、ネクタイやチーフの色も明るい。俺だけスーツではなく、礼央様が見立ててくれたデザイナーズのセットアップを着てきたけど、変わったデザインだし少し気恥ずかしかった。
2階で絵を眺めていると、ほどなくしてホストである代議士夫妻の挨拶の後、1階のカフェスペースで立食パーティーが始まった。
礼央様も執事長も、招待客の政治家や美術関係者達と卒なく話をしていて、俺はただ隣でそれを聞いていた。政治の話も絵の話も、正直よく分からない。着ていた服を褒められて笑顔で礼を言うくらいしか出来ないのに、礼央様はそれで満足そうだった。着飾って笑っていればいいってことか…。他には何も出来ないくせに、そんな卑屈な気分になってくる。
追い討ちをかける様に、
「今日は娘も来ているから、紹介するよ。」
数人の招待客達が、礼央様に年頃の自分の娘達を紹介する場面を見た。αやΩの、上品な令嬢ばかりだ。
藤堂家の跡取りと娘を引き合わせたい人達は、たくさんいるんだ…。
そもそも社交の場なんだから当たり前だ。この前の還暦パーティーが特殊だっただけで、これが普通なんだろう。
「藤堂さん、今日はありがとうございます。」
しばらくすると、ホストの代議士夫婦が、綺麗な女性を伴ってこちらへやって来た。
「成瀬君も、ありがとう。」
貫禄たっぷりな元大臣の代議士が、にこやかに執事長の背中を叩く。
「先生も、お元気そうで。」
執事長が丁寧に頭を下げ、奥様の絵を褒めた後…。
「彼女は私達の孫なんだが、イギリスから最近帰国してね…。」
紹介された女性は、ショートカットで背の高い美女だった。女性らしい服装の他の令嬢達とは違い、クールなパンツスーツを着ている。でも、それがかえって彼女のスタイルの良さを際立たせていた。
「来年から同じ大学へ通うことになった様だから、よろしく頼むよ。」
イギリスのパブリックスクールで学び、礼央様と同じ様に推薦枠で合格した才媛。
「あなたは経営の方でしょう? 私は理学部だけど、よろしくね。」
少し英語訛りのある話し方で、笑うと途端に華やかになる。
「…へぇ、理学部?」
「私は祖母と違って、絵を描くより科学雑誌を読む方が性に合うのよ。」
2人の会話を聞きながら、礼央様もよく科学雑誌を読んでいる姿が浮かんだ。
「遺伝子がどうとかいうことに興味がある様でね。藤堂家のご子息となら、話が合うんじゃないかと思うんだが…。」
礼央様も、経営より研究の方が面白そうだと以前もらしていたのを思い出す。
「せっかくだから、向こうでもっとゆっくり…。」
代議士夫婦の言葉に俺と執事長は空気を読んで、さり気なく礼央様から離れた。
並べられた食事を取りに行くフリをしたけど、食欲なんてない。客観的に見て、2人はものすごくお似合いだった。しかも、来年の春からは大学まで一緒だ。わかっていたはずなのに、想像以上にショックだった。黙り込んでいる俺に、
「飲みますか?」
執事長が、スパークリングワインが入ったグラスを手渡してくれる。
「…ありがとうございます。」
食欲もないしと、俺はワイングラスを受け取ると一気に飲み干す。行儀が悪い飲み方だと思うけど、執事長は驚いた様に少しだけ目を見開いただけだ。そして、
「…もう、帰りましょうか?」
飲み干したワイングラスを俺の手から受け取りながら、微かに微笑んでくれる。本当に時々しか見れない笑顔だけど、見るたびに思いのほか優しくて目を奪われてしまう。
「でも、礼央様が…。」
「ホスト夫妻に捕まってしまった様ですし、今夜はΩも少ないので大丈夫ですよ。体調でも悪くなったことにして、先に出ましょう。」
彼を目で探したけど、もう見当たらなかった。どこか静かな場所へ、連れて行かれてしまったのかもしれない。
「…そうですね。」
ヤキモキしながら待つのも嫌だし、2人の姿を隣で見るのも辛い。俺はそう思い、受付でコートを受け取ると、執事長と会場を出ることにした。
******
「少し、歩きますか?」
待たせていた車で真っ直ぐ屋敷に帰るのも気が晴れないと思っていた俺は、執事長の言葉に間髪入れず頷いた。
一気飲みしたワインが効いてきたのか少し足元がふわふわするけど、夜の街を自由に歩くなんて久しぶりだ。
土曜日の夜ということもあり、人も車も多くて、辺りは活気に溢れている。
「あの、コンビニ寄ってもいいですか?」
近くのコンビニが目に入って、俺は思わず中に入った。βだった頃は、夕飯を調達しに毎晩のように通っていたコンビニが、ものすごく懐かしく感じる。
「お一人での外出は出来ませんが、声をかけて頂けたらコンビニくらい私がいつでもお付き合いしますよ。屋敷の近くにもありますし。」
「じゃあ、屋敷の側にあるラーメン屋もいいですか? 俺、あそこのラーメン好きなんです。」
「あぁ、美味しいですよね。」
俺の庶民的な味覚に、意外にも執事長が同意してくれた。
「裏メニューで、麻婆豆腐をかけてもらえたりもしますよ。お勧めです。」
「えっ、知りませんでした。いいですね!」
しかも、通な情報まで教えてくれる。執事長がクールな顔で麻婆ラーメンを食べている所を想像すると、何だかおかしかった。少しだけ、気持ちが楽になってくる。
ふと、温かい飲み物コーナーに例のほっ○レモンを見つけて、俺は立ち止まった。
「似たような商品がたくさんありますけど、どれが私なんでしょう?」
確かに、同じ様な商品名で数種類並んでいる。執事長にあらためてそう聞かれ、もしかしたら密かに悩ませていたのかもしれないと思った。
「俺のお勧めはこれなんです。」
俺は某メーカーのものを手に取ると、それを買ってコンビニから出た。
あたたかい店内から出ると、コートを着ているとはいえ初冬の夜風が冷たい。歩きながらペットボトルで手を温める俺に、
「…手袋が要りましたね。」
執事長が、ポツリと呟く。
「飲むと温まりますから。執事長も良かったらどうぞ。」
ペットボトルを開けて差し出すと、執事長は無言で受け取って一口飲んだ。
「あまり主張のない味なんですね。」
「甘すぎず酸っぱすぎずサラッとしているから、冷めてもおいしいのかもしれません。」
ペットボトルを返してもらって、俺もチビチビと飲みながら歩く。
「…礼央様がいたら、間接キスだ何だと大騒ぎしたでしょう。」
執事長がさりげなく言った台詞に、そういえば…と、今更ながらに意識した。男同士でも俺はΩだった。やっぱり、変な感じがする。
「…執事長は、その、Ωと付き合ったりしたことがあるんですか?」
立ち入った話かなとも思ったけど、ほろ酔いだからか勢いで聞いてしまった。
「Ωは少ないので、まぁ、一度だけ。」
「執事長は、Ωに優しそうですね。」
αはΩを本能的に支配したがると言っていたけど、執事長からはそんな雰囲気を感じたことはない。礼央様と同じαなのに。
「優しいといいますか…、私の場合は、過保護になります。」
過保護と聞いてなるほどと思った。それも少し、支配とか管理に似ているかもしれない。でも保護するんだから、何だかんだで優しい気がした。
「そのΩの方とは…?」
「高校の頃の話ですから。家柄のいい人で、親が決めた婚約者もいたので…。」
その答えに、俺は黙って俯く。特権階級の人達はみんな、恋愛以上の関係に進むには家柄が問題になってくるんだ。
礼央様だけじゃない…。
「…あの代議士のお孫さんと礼央様、お似合いでしたね。」
そう小さく呟いた俺に、執事長は何も答えなかった。
しばらく無言のまま歩いていると…。
「来週には立花さんのヒートが来ると礼央様が言っていましたが…、番になるんですか?」
ふいに立ち止まった執事長が、俺を見つめている。執事長が、心も大切にした方がいいと言ってくれたのを思い出した。仕事まで用意してくれるとも。でも…。
「…自分の心に嘘をついてでも側にいたいなんて、おかしいですよね。」
せっかく選ばせてもらえるのに、結局俺は、礼央様に何をどうやっても惹かれる。
痛い思いばかりさせられても、俺の本能は彼を求める。
彼と代議士の孫娘がお似合いだというだけで、こんなに鬱々とするというのに。
いざ誰かと結婚する彼を目の当たりにしたら、俺の心は一体どうなってしまうんだろう…。
「…辛い恋を選ぶんですね。」
辛い恋だと言葉にされると、怯みそうになる。
番も愛人も、持とうと思えば何人でも持てる立場の人だ。
どうしてもっと先のことを考えて、思いとどまれないんだろう。
それなりにいくつかの恋をしてきたし、どんなに1人の人を好きになっても、別れが来て時が経てばまた別の人を好きになれる自分を知っているはずなのに。
いつの間にか、礼央様の次の恋は想像出来なくなってしまった。
首に嵌められたネックに手をかけて、俺は項垂れる。
「このまま屋敷に戻れば、もうヒートが近いからと外出もさせてもらえなくなるかもしれませんが…。」
いよいよ、一生のことが決まってしまうのか…。
ネックの管理が自分で出来ない以上、彼に委ねるしかないんだ。
「…今夜、ご実家まで送りましょうか?」
執事長がかけてくれた言葉に、心は迷う。
「ご実家で抑制剤を飲んでヒートをやり過ごせば、次は3ヶ月程度空くはずです。」
執事長は、先延ばしにしてもう少し考えた方がいいと言ってくれているんだ。
「でも、ヒートの訓練が…。」
「それは、他のΩもいますから。」
例え訓練でも、彼が他のΩと行為をするのを想像するだけでも嫌だった。
昔から無理矢理訓練させられる彼を可哀想だとは思っていたけど、嫉妬とは違う感情だったはずだ。
こんなことを思う様になるなんて、俺はなんて身の程知らずなんだろう…。
「…そんな顔をするあなたをずっとお世話するのは、私も辛いですね。」
執事長の言葉に、勝手に涙が頬を伝う。
背中にそっと手を回されて、俺たちはまた歩き始めた。
執事長の手が、温かい…。
そして俺の涙が止まるのを待って、執事長はタクシーを拾ってくれた。行き先を尋ねられ、俺は結局、屋敷に戻ることを選んだ…。
屋敷に戻ると、時間はもう22時近くになっていた。
礼央様が先に戻っているかもしれないと思っていたのに、彼の姿はない。
「運転手が別の場所へ送ったようです。2人で先に帰ったので、臍を曲げたんでしょう。」
執事長がスマホをのぞいて、曖昧な言い方をする。
彼が何処へ行ったかなんて、執事長には報告が来ているだろう。久しぶりに夜遊びか…。
時間の問題だとは思っていたけど、彼の機嫌を損ねた途端に遊ばれるのは、これから先が思いやられた。
「…眠れない夜に、お付き合いしましょうか?」
余程暗い顔をしていたのか、俺の様子を見ていた執事長が、また微笑んでくれた。
「いえ、そこまで繊細じゃないですよ!」
俺も笑顔を作ってみたけど、
「上手く笑えていませんよ。」
礼央様と同じようなことを言われて、また俯く。
嘘をつくのが上手いわけでもないのに、俺は自分の心に嘘をついていけるだろうか…。
「ほとんど食べていませんし、夜食をお持ちしましょう。」
執事長はもう勤務時間ではないはずなのに、テキパキと指示を出して豪華な夜食まで用意してくれた。
ワインやビールも…。
「礼央坊ちゃんとは違い我々はいい大人ですから、飲みましょうか。」
彼を子どもの頃から知っている執事長には、今も変わらず礼央様は子どもに見えるのかもしれない。
俺の部屋のソファで向かい合って座り、酒のつまみに小学生の頃の彼の話を聞いた。
屋敷のカーテンでターザンごっこをしたという様な可愛いものから、かなり計画的な家出をして大騒ぎになったとか、旦那様の部屋から現金を持ち出し、映画みたいにばら撒いて執事達の反応を観察したとかいう凄いものまで。
子どもの頃から優秀だったけれど、一人息子だからか自由で我儘で、側近達は散々困らされてきた様だ。
そんな彼は、日付が変わってもまだ帰って来ない。
俺は飲まずにはいられなくて、勧められるままについ飲み過ぎていく。
「俺も、礼央様からメスになれなんて言われて、どうしたらいいのか…。」
さすがに射精管理の話までは出来なかったけど、だいぶ酔っ払って漏れ出た俺の本音に、執事長が苦笑している。
「何でも許してはいけませんよ。お子様にはしつけが必要ですから。」
執事長もかなり飲んでいるのに、全く顔色が変わらない。
ただ、いつもの隙のない雰囲気は解けていた。
「俺も冷静になるとそう思うんですけど…。」
「体はαに逆らえませんか?」
ワイングラスを傾けながら、執事長が微笑った。
その姿があまりにも様になっていて、俺は一瞬ドキッとする。日本人離れした礼央様とはタイプが違うけど、執事長も羨ましいくらいに整った顔立ちをしている。ワイングラスが似合う、歴とした大人の男だ。
「いえ、そういうわけでは…。」
急に恥ずかしくなって、俺は口籠った。いくら相談できる人がいないからって、つい喋りすぎてしまったかもしれない。
「別に恥ずかしいことではありません。Ωの体というのは、快楽に従順に出来ていますから。」
執事長のクールな話し方に、ふと学校で習ったことを思い出す。そうかΩは、生殖に特化したバース性だから…。
「…礼央様の訓練をしていたはずなのに、いつの間にか彼の言うことを聞かないといけないと思っている自分がいて、混乱します。」
俺は、情けないと思いつつそう呟いた。
彼に与えられる強烈な快楽に逆らえない、もうそんな自分を認めるしかないんだろうか。
礼央様の噛み癖も、隙をみせるとすぐに元の木阿弥になりつつある。あんなに命がけで訓練してきたのに…。
「αとΩの関係は難しいですよ。αが圧倒的に優位になりますから。」
執事長が、少し考えるように目を伏せる。
「…特に礼央様はΩに対して凶暴ですし、Ωを幸せに出来る人なのかどうか…。そこそこの耐性をつけたら、あとはαの中で生きた方がいいと私は思いますけどね。」
そう続けて、手慣れた仕草で俺のグラスにまたワインを注いでくれた。そんな執事長の滑らかな動きを見つめながら、言われた言葉を反芻する。
確かに彼は、αの中で生きていけばうまくいく人だろう。
しかるべきαの令嬢と結婚して、今まで通りα同士で遊べば、凶暴にもならないし全て事足りる。
いくらΩを連れているのが特権階級のステータスとはいえ、絶対に必要というわけでもない…。
かえって彼を強く刺激するΩ《おれ》の存在のせいで、側近達は朝から時間管理に追われ、執事長も何か起こりはしないかと気苦労が絶えないんだ。
「…俺、側にいない方がいいのかもしれませんね。」
思わずそう呟くと、
「いえ、そういう意味では…。」
執事長が、とたんに困った表情になる。
「あなたに幸せになって頂きたいという意味で、言ったのですが…。」
執事長が言ってくれていることは、よく分かる。
恋愛や結婚をするなら、互いを思い合える優しい関係の方がいいに決まっている。俺もずっとそう思って恋愛してきた。
なのに俺と礼央様の関係は、一体何なんだろう。
彼はどうしても、Ωの俺に対して凶暴だし支配的になる。そんな彼が怖いし理不尽だと思うのに、俺はどうしても惹かれてしまうんだ。
まるで俺の本能は、痛いくらいに強く彼に縛られたがっているみたいに…。
もうどうしたらいいのかわからなくなってきて、俺は注いでもらったワイングラスを手に取った。
そして、あおる様に勢いよくワイングラスを傾けて口に含んだ、次の瞬間、酔っていたせいか派手にムセた俺は、赤ワインを盛大に自分の服に溢してしまった。
「大丈夫ですか!?」
素早く席を立った執事長が、咳き込む俺に水を飲ませてくれる。
そして、ナフキンで俺の口元やら服に溢れた赤ワインを手早く拭いてくれて…。
「す、すみません、すぐ流した方がいいですよね!?」
礼央様からもらったデザイナーの一点ものに赤ワインのシミをつけてはいけないと、焦ってバスルームへ向かおうとする俺に、
「少し飲ませすぎてしまいましたね。私がやりますよ。応急処置をして明日クリーニングに出せば、綺麗になりますから。」
そう言って執事長もついてきてくれた。
汚れた上衣を脱ぐと、ズボンにも少しついているからと言われ、恥ずかしがる間もなくテキパキと下も脱がされる。
「ついでにシャワーでもどうぞ。」
「す、すいません…。」
風邪で寝込んだ時を思い出した。あの時も執事長には散々お世話になったけど、あまりに要領がよくて指示に逆らえないというか、結果、自分の母親に看病されるよりずっと丁寧に細かくお世話されてしまったんだった。
そして今も、言われるがままにバスルームへ入る。
シャワーを浴びてバスルームのドアを開けると、目につくところにタオルとパジャマと下着がきっちりと置いてあった。
風邪で寝込んだ時に、下着のありかまで全て把握されてしまった様だ。
さすがプロだと思いながら着替えて部屋に戻ると、ソファテーブルの上の食事は傷みそうなものは下げられていて、飲み物と軽いものだけが残されていた。
誰もいない広い部屋が、急に寂しく感じられる。
礼央様は、やっぱり朝帰りか…。
大きなベッドの上で横になると、何ともいえない気持ちが込み上げてきた。
嫌な想像ばかりが頭を巡る。彼は今頃、誰と何をしているんだろう…。
スマホを手に取ってみたけど、彼からの連絡はない。
こんなことくらいでしょげていたら、とても礼央様の番なんてやっていけない。
これくらい平気だと、自分に言い聞かせてみる。
言い聞かせながら、そうまでして彼の側にいたいと思う自分に、悲しくなってくる…。
番になれば、次の恋はない。一生こんな風に、彼だけを求めて生きていくことになる。俺は本当にそうしたいのか?
他の幸せを選んだ方がいいんじゃないのか?
そう思う心とは裏腹に、彼になら何をされてもいいとすら…。
ふと、体が熱くなった気がした。
思わずベッドの上で跳ね起きる。
この感じ…!
初めてのヒートで味わった感覚と似ていると思った。
まだ本格的に来たわけではなさそうだけど、今のうちに何とかしないといけない。
俺は慌てて執事長に電話をしようと、スマホを手に取った。
礼央様がいないんだから、抑制剤か特効薬を持ってきてもらうしかない。
電話をかけると執事長はすぐに出てくれた。どうやら、服の染み抜きをしてくれていた様だ。
「あの、抑制剤を…、一応、特効薬も、必要かもしれないんですけど…っ。」
『…わかりました。すぐ行きます。』
すぐに事情を察してくれた執事長に、何から何まで申し訳ないと思いつつも安心して、俺はベッドの中で体を丸める。
すぐにドアがノックされて、執事長が戻って来てくれた。
抑制剤の白い錠剤とグラスの水を手渡され、一緒に飲み込む。
「来週あたりと言われていたのに。自分の体のことも、よくわからなくて…。」
「…気持ちが不安定になると、急に来たりすることがありますから。」
俺をベッドに横にならせてくれてから、執事長が枕元に腰掛けた。
確かにかなり不安定だけど、αの執事長にこのまま側にいてもらうわけにもいかず、
「その、ありがとうございました。あとは一人で大丈夫です。」
そう言って、俺は横になったまま執事長を見上げる。
「薬が効くまで側にいます。個展の前に、私は遮断薬を飲んでいますので。」
俺の心配を読んだように、執事長が微笑む。
今日は何度目だろう。あんなにいつもはポーカーフェイスなのに、今夜は何回も執事長の笑顔を見た気がする。
「…今回のヒートは、抑制剤の効果を確かめるためという名目でやり過ごしませんか?」
執事長の言葉に、抑制剤の効果は人によると聞いたのを思い出した。確かに、ちゃんと効くか確かめる必要がある。
「番になっても、ヒートがなくなるわけではありません。パートナーのαの関心が離れてしまったら、抑制剤に頼るしかありませんから。」
執事長が何を心配してくれているのかもよく分かった。
若く華やかな彼のことだ、これからも色々な相手と巡り合うだろう。いくら俺のΩフェロモンが『特別』でも、彼を縛ることは出来ない。
「そう、ですよね…。そうした方がいいですよね…。」
小さく呟いた俺の頭を、執事長が躊躇いがちに撫でる。
温かい手…。
どれくらいそうされていただろう。
薬を飲んで15分以上経ったのに、体の火照りはおさまらない。念の為にもう一錠飲んでみたけど、息が上がる。
「…あまり効いてきませんね。」
体を丸めながら、熱が集中してきてしまう自分自身を必死で堪える俺に、
「少し処理をした方が楽になるかもしれませんね。お手伝いしますよ。」
何でもないことの様に言われて、一瞬耳を疑った。
「え……?」
執事長を見上げると、変わらず穏やかな眼差しが俺を見下ろしている。朦朧とするし、聞き間違いだよな…?
そう思ったのに、
「…もう貴方の辛い顔は、見たくない。」
次の瞬間、甘い匂いに捕まった様な気がした。
まさか、αのフェロモン…?
そう思った時には、まるで脳が砂糖漬けにでもされたみたいに動かなくなる。
唇にキスが降ってきて、ゆっくり口腔内を蹂躙された。
俺、執事長にキスされてるのか…?
優しく寝衣を脱がされながら、こんなことはダメだと思うのに抵抗出来ない。
「な、なんで…っ。」
やっと振り絞った俺の台詞に、執事長が切長の瞳を細める。
「貴方はもう何も、考えなくていい。」
いつもの落ち着いた低い声なのに、甘く響く。
体中に残る礼央様の噛み跡を器用な指先でなぞられると、Ωの体は敏感に反応した。
「…本当に傷跡だらけですね。私なら、ヒートでも貴方を傷つけたりしないのに。」
熱くなっていた俺自身に触られると、礼央様の声が聞こえたような気がした。
『出したらダメだよ。』
そうだ、ダメだ。こんなこと…っ!
何とか理性をかき集めて、逃れようともがく。
「や、やめてください…っ! 俺は…っ!」
「怖がらないでください。礼央様より、優しくします。」
でも、まだ傷が残っている乳首を舐められながら俺自身を刺激されると、発情しかけたΩの体はひとたまりもなかった。
気持ち良くて、腰が震える。
「ダメです…、し、叱られます…っ!」
必死に堪えようとする俺を見つめて、執事長が眉を顰める。
「…メスになれなどと可哀想に。もう我慢しないでください。」
快感に震える俺自身が、熱くて柔らかいものに包まれた。
…執事長の口の中だ。
礼央様にも、こんなことはされたことがない…!
舌を絡められて、唇で吸われて、手で扱かれて、睾丸まで舐められて、強烈な快楽の奉仕に目が眩んだ。
「ああぁぁぁっ!」
堪えきれずに放ったはずのものは全て飲み込まれて、
「たくさん出せましたね。それでいいんですよ。」
呆然とする俺を、執事長が褒めてくれる。
いつものポーカーフェイスからは想像も出来ない、優しく甘い、それでいて男らしい表情に見つめられると、どうしたらいいか分からなくなった。
「も、もう大丈夫です…から。」
イッてしまった後の怠い体で、何とかベッドから降りようとしたけど、
「駄目ですよ。まだ横になっていないと。」
言い聞かせる様に囁かれ、またベッドへ戻される。
そして、温かく包み込まれる様に抱きしめられた。
体中にキスをされて、溶けそうな程に甘やかされる。
「…貴方はもっと大切にされるべきです。ここから、逃がしてあげたい。」
気持ちよくて、温かくて、…胸が詰まりそうだ。
大切にされていると、全身で感じさせてくれるような触れ方だった。
それなのに…。
「………っ。」
涙が込み上げてきた。執事長は優しい。半端なΩの俺を気遣ってくれて、くだらない話を聞いてくれて、俺の幸せを考えてくれた。
執事長みたいなαを好きになれば、Ωは幸せになれるのかもしれない。
なのに何で、俺は彼のことばかりが頭を巡るんだろう…。
「俺は…、礼央様が……。」
そんな台詞しか出てこなかった。
こんなに優しくされても、ただ彼が恋しい。
きっと俺は、誰かに優しくしてもらいたいわけじゃないんだと思った。
俺はずっと、自分が礼央様を守っているつもりで訓練してきた。彼の役に立っていると、そう思えることが嬉しかった。
求めてないんだ。優しくされることも、守ってもらうことも。俺はただ、自分が好きになった人を守りたかっただけなんだ…。
「…抑制剤が効いてきた様ですね。」
名残惜しそうな執事長の言葉に、いつの間にか体の火照りが引いていたことに気がついた。
「俺…、すみません…。」
居た堪れないような申し訳ないような気持ちになって、シーツで体を隠した俺に、執事長が小さく溜め息をつく。
「…私は貴方の心のままに、お仕えします。」
そう言って、変わらず穏やかに微笑ってくれた執事長に、俺は涙が止まらなくなった…。
すっかり夜が更けて、俺は一人になったベッドの上でうとうとしていた。
礼央様以外は選べない自分を自覚してしまった。
もう苦しくても何でも、腹を括るしかない…。
今頃、誰か別の人と一緒にいるであろう彼を想いながら、仕方なく目を閉じる…。
眠りに引き摺り込まれそうになった瞬間、ふと人の気配がした様な気がして俺は重たい瞼を開いた。
気のせい…?
体を起こして目を凝らしてみたけど、室内は暗く静かで、特に変わった様子はなさそうだ。
抑制剤が効いているけど、体が怠い。俺はまた横になって、目を瞑る。
…そして夢を見たのか、彼の声が聞こえた様な気がした。
「…だから、俺が帰ったら出迎えろって。」
こんな夜中にそんな無茶な…。
夢の中でも、彼は勝手だ。
「で、どうだった? 逃げ道あった?」
ジャケットを脱ぎ捨てる音。いつもそうだ。服は脱ぎっぱなし、お菓子は食べっぱなし。
しかも人の気も知らないで、なんてことを言うんだろう。
逃げ道があったら逃げたい。俺はもっと穏やかで、平凡な人生を送りたかったのに。
そう思ってまた落ち込んでいたら、ふいに頭を撫でられた。すごく、いい匂いがする。
その特別な匂いに誘われる様に、俺は思わず目を開けた。
ぼんやりとしたシルエットが、だんだんと浮き上がる。
「…帰って、来てたんですか?」
「シロこそ、逃げなかったんだ?」
たった数時間ぶりの彼の姿に、胸が詰まった。
それくらい、会いたかった…。
「わざわざヒートが来るって成瀬に教えておいてやったし、色々言って来たろ?」
そう言って飄々と微笑う彼に、大人の気持ちを利用するなんて、心底悪い人だと思う。
「実家帰って普通に女と家庭持つとか、俺以外のαに靡くとか…。」
俺の気持ちも見透かした様な彼に、何も言い返せない。
どっちも出来ないと分かっていた様な言い方に、怒りを通り越して泣けてきた。
「礼央様の、せいじゃないですか…っ。」
勝手に嫉妬して辛くなって、それでも側にいたいのは自分なのに、大人気なく彼のせいにした。
「そうそう。俺のことが大好きなせい。」
ヘーゼル色の瞳が、楽しそうにそんな俺を見つめている。
もうその通りだった。せめて涙を見られまいと、俺は枕に突っ伏す。
「もうわかったろ? 逃げ道なんてないって。」
背中に彼の重みを感じた。
そのまま抱きしめられる。
「…俺にもないんだから、シロにあって堪るかよ。遊んでもつまんねー…。シロのことばっか考えてた…。」
不貞腐れた様な声。
「初めて会った時から俺のこと散々縛っといて、何でシロはこんなに迷うんだよ。俺は、迷うことすら…。」
さらに強く抱きしめてくる彼の腕に、胸が痛くなった。
常識も倫理も無視して、迷わず俺をホルモンコントロールした人だ。そして、長いこと無自覚だった俺を、見つめ続けてくれた。
振り返ると、彼が何だか泣きそうな表情をしている。
こんな表情、久しぶりに見た。駄目だ、俺は、彼のこの表情に一番弱いんだ…。
「…もう、迷いません。」
だからもう、そんな表情しないで欲しい。
いつも飄々と笑っていて欲しい。
「番にしてください。ヒートが来たら…。」
抑制剤を飲んだはずなのに、体が熱い。
体中の細胞が彼を求める。
恋愛は心でするものだとは思うけど、怖がったり迷ったりする心とは裏腹に俺の本能は正直だ。
自分では意識できないような無意識の領域から、たった一人の相手を求めてやまない。
こんなの、知らなかった。
「…やっと分かった? もう待ちくたびれたから、今すぐ発情させてやる…。」
礼央様から物凄くいい匂いがした。クラクラする…。
荒々しいキスに、全身が悦びに震える。
全て捧げたい。心だけじゃなく、俺の体の隅々まで全部、縛って欲しい。
…体が一気に熱くなる。なんて単純で正直な本能なんだ。
ヒートが来たのが自分でも分かった。
「いー匂い。…でも、成瀬の匂いもする。あいつに何かさせたろ?」
彼の目つきも変わった。凶暴なαの本能。
「礼央様こそ…、個展で楽しそうだったじゃないですか…!」
体が熱くて息があがる。俺も、自分の感情を抑えられなくなってくる。
「…あんなの社交辞令だろ。シロのは浮気。」
ズボンを下ろされ、後ろを乱暴に指で掻き回された。
執事長みたいな丁寧さなんて微塵もないのに、堪らないくらい気持ちいい。
「最後じゃないですか…、俺は…っ!」
今夜で全部、彼のものになるんだから、もう蒸し返さないで欲しい。自分だって、夜遊びまでしてたくせに!
「開き直るつもりかよ…。心まで全部縛り付けとかないと気が済まない…っ。俺は、成瀬みたいに優しくないからな!」
一気に挿れられて、串刺しにでもされたかと思った。
さらに勃っていた俺自身を長い指で強く握られて、痛みにのけぞる。
ヒートで射精を我慢させられるのは、流石に地獄だ。
俺、何でこんなに凶暴な人のことを、どうしようもなく好きなんだろう…。
「俺も最後にしてやるから…、二度と俺から目を逸らすな…っ!」
快楽の出口を塞がれたまま、追い詰める様に腰を動かされる。
「俺はもう、シロ以外は抱けない…!」
痛みに朦朧としながらも、彼の言葉に涙が出てきた。
彼は藤堂グループの後継で、自由に生きられる人じゃない。
彼の気持ちだけでは、どうしようも出来ないことがたくさんある。
でも、もうこの一言で一生ついて行ける。
この先、何があっても…。
「…噛んでください。その代わり、俺以外は二度と噛まないでください…!」
でもせめて、本能のまま噛みつくのは俺だけにして欲しい。
この美しくて凶暴な獣は、俺だけのものだ。
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