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第二章

意外な相手

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 帰りのホームルームが終わって少し時間が経つと、私の後ろの机に鞄を残したまま藤崎はどこかに行ってしまった。
 二ツ橋くんとどこかに行っているのかなと教室を見渡してみると、彼は他のクラスメイトと話していて、その場に藤崎の姿はなかった。

 私は勉強が好きじゃないし、得意でもないからテストではいつも苦労している。
 大抵の場合は七海と一緒に勉強しているけど、折角仲良くなったからには4人で勉強会をしたいと思っていた。

 もちろん、私の目的はそれだけじゃない。

 ただ、勉強会をしたいと言っても、私は藤崎の連絡先を知らないし、私が言い出したところできっと彼は来ないような気がする。
 出来れば二ツ橋くんが声をかけてくれると嬉しいんだけど……。

 そんなことをぼんやり考えていると、話を終えた二ツ橋くんが私の元にやって来た。

 「詩月、帰らないのか?」
 「ん~? どうせ外は暑いし、もう少しゆっくりしてからにしようかなって思ってね。 二ツ橋くんは?」
 「ああ、俺は楽と残ってちょっとだけ勉強しようと思ってたんだけど、楽に言い忘れてたからどうしようかと思ってな。 もう帰っちゃったかと思ったけど、鞄だけ置いてどこに行ったんだ?」

 どうやら二ツ橋くんは藤崎に勉強を教えてもらっているらしい。
 利用する、と言えば悪いように聞こえてしまうけど、友達と勉強会をしたいというのは本心なので、深く考えないことにする。

 「さぁ? トイレにでも行ってるのかと思ったけど、それにしては随分長いからどこに行ってるのかわからないんだよね」
 「まあホームルームが終わって10分は経ってるしな…………連絡だけ残して先に帰ろっかな、なんか用事あったら悪いし」
 「あ、ねぇ、突然で悪いんだけど、藤崎の連絡先教えてくれない?」
 「楽の? まだ教えてもらってないのか?」
 「うん。 遊びのときも連絡は二ツ橋くんからだったし、今まで連絡するような間柄じゃなかったしね……」
 「そっか。 でもあいつ、人に勝手に連絡先教えたら結構怒るみたいなんだよな…………」

 話を聞くとやっぱり彼は淡白だと思う。
 一貫して人との不要な関わりを避けているけど、その明確な理由はわからない。
 彼の場合はただコミュニケーションに自信がないというわけでもなさそうだし……。

 「なるほどね。 なら、今度私が自分で聞くことにするよ」
 「そうしてくれ。 怒られるのは好きじゃないからな」

 彼との会話が途切れたのとほとんど同じタイミングで教室の後ろのドアから七海が入ってくる。
 ひとつひとつの所作が小動物みたいで相変わらず可愛い。

 「詩月ちゃん、お待たせ。 今日はどうするの?」
 「あ~、そのことなんだけど…………今回のテスト期間は4人で勉強しない?」

 『二ツ橋くんはどう?』と話を振ってみると、彼はすぐに笑顔を見せる。

 「いつものメンバーで勉強会か。 俺もちょっとやりたいと思ってたんだよな」
 「やろやろ。 七海も良いでしょ? 2人でやるより楽しいし」
 「うん、いいよ。 でも、やるときはちゃんとやらなきゃダメだからね?」
 「了解です、椎名先生」

 うまく話はまとまり、二ツ橋くんから藤崎に話をつけて明日から勉強会をすることが決まった。
 その後少し雑談を交えていても藤崎は結局戻ってこなかったので、私たち3人は鞄を持って教室を出る。

 みんな遊びに行ったか残って静かに勉強しているかで、廊下に人の姿は特になく、閑散としていた。

 「……あ」
 「どうしたの、詩月ちゃん?」
 「私忘れ物しちゃったみたい、2人は正門の前で待ってて」
 「おう、わかった」

 一旦教室に戻り、机の中を探すと、私の探し物があった。
 大事に持っているギターのピック、それも大好きな先輩にもらったものを忘れてしまうなんて。

 「しっかりしなきゃ」

 そう自分に言い聞かせつつ、自分の頬をぱちぱちと叩いて、正門で待たせてしまっている2人の元に急ぐ。

 静かな廊下に私の足音が響く。
 静けさゆえに、普段なら聞こえないはずの遠い音まで私の耳に入ってきた。

 「…………少し付き合ってよ……」
 「……え?」
 「いいから……」

 何度も聴いた声が聞こえて、振り返る。

 「…………先輩と……藤崎…………?」

 廊下の奥に見える男女を見て、私の口は無意識にそんな言葉をこぼしていた。
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