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第一章
大好きな曲
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私は七海が歌っているのを眺めながら、彼女の歌をぼーっと聴いている藤崎を横眼で見る。
私はここ最近ずっと彼のことが気になっている。
気になってると言っても、恋愛感情があるということではない。
ただ漠然と、私はもっと藤崎のことを解りたいと思ってる。
彼は何かを隠しているような気がしてならない。
それも音楽に関わる大きな何かを。
……もしかしたら私が音楽部だから、彼が私の演奏をたまたま褒めたから、あるいは、私が彼に淡い期待を抱いているから、そう思えるだけであって。
本当は何も隠してなくて、私が彼に抱いた印象を勝手に押し付けているだけなのかもしれない。
……考えたところで、所詮は私の自己満足なんだろう。
自分勝手だな、と苦笑する。
気付けば歌声は止んでいた。
「ふぅ、やっぱり歌うのって楽しいね! ……詩月ちゃん?」
「ん? あ、ごめん、ぼーっとしてた。 次、誰いく?」
「あ~、そういやまだ順番決めてなかったな。 楽、歌いたい?」
「いや、俺はとりあえずいいかな……」
「じゃ、次俺で。 綾瀬は席順で回すと俺の次になるけどいいか?」
「うん、いいよ~」
あらかじめ決めていたのか、二ツ橋君はすぐに曲を入れる。
「ほい、先に渡しとく」
「ありがと」
私も彼と同じように、受け取ったリモコンを操作して歌う曲を予約し、隣にいる藤崎に渡す。
「はい、藤崎」
「あ、俺喉の調子が悪いから、飛ばしてもらっていいよ」
「せっかく来たのに歌わないの?」
「出来そうなら歌うよ」
「特に声が変って感じでもなさそうだけど……」
「昨日の練習の後から少し痛むんだ。 ……飲み物とってくる」
そう言って、彼はまるで私との会話から逃げるかのように外に出ていった。
やっぱり何かある気がする。
他人のことを気にする必要はないはずなのに、どうしても気になってしまうし、考えだすと止まらない。
……あーもう、どうして私は自分以外のことで色々考えてるんだろう。
気になるなら聞けばいいのに。
でも、そのとき私の頭には1つの疑問が浮かぶ。
どうやって聞くか?
ということだ。
私と藤崎は同じクラスといえどもこの前の文化祭で初めてちゃんと喋ったくらいの間柄。
まだ彼と関わり始めてからほんの少ししか経っていないし、その間に沢山話をしていたわけでもないから、実際のところは友達というよりは知り合いくらいの認識の方が正解だろう。
特に親しいわけでもない人が突然『何か私に隠し事してたら言って』なんて言うのは流石におかしいし気が引ける。
……やっぱり地道に仲良くなって聞き出すしかないか……。
それに今分からないことをぐるぐる考えていたってしょうがない。
遊びに来たというのに思わず色々と考え込んでしまっていた。
考え事をやめると、鮮明な歌声が聞こえてくる。
藤崎の話を聞いたところだと、二ツ橋君は歌が上手いみたいだけど、それは本当だった。
このカラオケの機種は採点が厳しめで、ただ音程を合わせているだけだとあまり点数が伸びなくなっている。
抑揚や声の大小も今までの機種よりずっと繊細に感じ取り、精密に採点される。
だからボーカルの人にとっては良い練習になる。
ネット音楽が大流行してからボーカロイズなどに歌わせることが多くなったことから練習目的で使う人はほとんどいなくなってしまったけど……。
「お、90点だ」
テレビに表示された点数を確認して彼はぽつんと言う。
「思ったよりもいってなかったね。 93点は超えると思ってたのに」
「まあ、いつもこんなもんだよ」
「なるほどねぇ」
机の上に置かれたマイクを手に取って軽く発声練習をする。
ボーカルではないけど、サビでハモりを入れるために多少なりとも努力はしているつもりだ。
「なにそれ、すげぇ」
「一応音楽部だからね」
そんなやりとりをしているうちに、曲が流れ始める。
私が入れたのは『66号線』という、ネット音楽が流行する前に人気だった曲だ。
かなり昔の曲だから、知らない人も多いけど、大好きな曲だからどうしても歌いたかった。
「ただいま……って、え? この曲……」
私は大好きな曲を全力で歌ってみせた。
私はここ最近ずっと彼のことが気になっている。
気になってると言っても、恋愛感情があるということではない。
ただ漠然と、私はもっと藤崎のことを解りたいと思ってる。
彼は何かを隠しているような気がしてならない。
それも音楽に関わる大きな何かを。
……もしかしたら私が音楽部だから、彼が私の演奏をたまたま褒めたから、あるいは、私が彼に淡い期待を抱いているから、そう思えるだけであって。
本当は何も隠してなくて、私が彼に抱いた印象を勝手に押し付けているだけなのかもしれない。
……考えたところで、所詮は私の自己満足なんだろう。
自分勝手だな、と苦笑する。
気付けば歌声は止んでいた。
「ふぅ、やっぱり歌うのって楽しいね! ……詩月ちゃん?」
「ん? あ、ごめん、ぼーっとしてた。 次、誰いく?」
「あ~、そういやまだ順番決めてなかったな。 楽、歌いたい?」
「いや、俺はとりあえずいいかな……」
「じゃ、次俺で。 綾瀬は席順で回すと俺の次になるけどいいか?」
「うん、いいよ~」
あらかじめ決めていたのか、二ツ橋君はすぐに曲を入れる。
「ほい、先に渡しとく」
「ありがと」
私も彼と同じように、受け取ったリモコンを操作して歌う曲を予約し、隣にいる藤崎に渡す。
「はい、藤崎」
「あ、俺喉の調子が悪いから、飛ばしてもらっていいよ」
「せっかく来たのに歌わないの?」
「出来そうなら歌うよ」
「特に声が変って感じでもなさそうだけど……」
「昨日の練習の後から少し痛むんだ。 ……飲み物とってくる」
そう言って、彼はまるで私との会話から逃げるかのように外に出ていった。
やっぱり何かある気がする。
他人のことを気にする必要はないはずなのに、どうしても気になってしまうし、考えだすと止まらない。
……あーもう、どうして私は自分以外のことで色々考えてるんだろう。
気になるなら聞けばいいのに。
でも、そのとき私の頭には1つの疑問が浮かぶ。
どうやって聞くか?
ということだ。
私と藤崎は同じクラスといえどもこの前の文化祭で初めてちゃんと喋ったくらいの間柄。
まだ彼と関わり始めてからほんの少ししか経っていないし、その間に沢山話をしていたわけでもないから、実際のところは友達というよりは知り合いくらいの認識の方が正解だろう。
特に親しいわけでもない人が突然『何か私に隠し事してたら言って』なんて言うのは流石におかしいし気が引ける。
……やっぱり地道に仲良くなって聞き出すしかないか……。
それに今分からないことをぐるぐる考えていたってしょうがない。
遊びに来たというのに思わず色々と考え込んでしまっていた。
考え事をやめると、鮮明な歌声が聞こえてくる。
藤崎の話を聞いたところだと、二ツ橋君は歌が上手いみたいだけど、それは本当だった。
このカラオケの機種は採点が厳しめで、ただ音程を合わせているだけだとあまり点数が伸びなくなっている。
抑揚や声の大小も今までの機種よりずっと繊細に感じ取り、精密に採点される。
だからボーカルの人にとっては良い練習になる。
ネット音楽が大流行してからボーカロイズなどに歌わせることが多くなったことから練習目的で使う人はほとんどいなくなってしまったけど……。
「お、90点だ」
テレビに表示された点数を確認して彼はぽつんと言う。
「思ったよりもいってなかったね。 93点は超えると思ってたのに」
「まあ、いつもこんなもんだよ」
「なるほどねぇ」
机の上に置かれたマイクを手に取って軽く発声練習をする。
ボーカルではないけど、サビでハモりを入れるために多少なりとも努力はしているつもりだ。
「なにそれ、すげぇ」
「一応音楽部だからね」
そんなやりとりをしているうちに、曲が流れ始める。
私が入れたのは『66号線』という、ネット音楽が流行する前に人気だった曲だ。
かなり昔の曲だから、知らない人も多いけど、大好きな曲だからどうしても歌いたかった。
「ただいま……って、え? この曲……」
私は大好きな曲を全力で歌ってみせた。
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