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第三章
負けたくない
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玲も充も、聴いていた限りは歌は相当上手い。
他にも歌が上手い人がいたが、歌い始めたときのどよめきが大きく、終わった後にも歓声が飛んでいた。
そう考えると、玲と充はそれぞれ1位を獲得するだろう。
……今は人のことを考えている場合じゃないな。
僕の順番は6番目。
明梨は2番目だ。
「あぅ……緊張してきた…………」
「先に終えたほうが気が楽だよ。 僕なんか自分の番までずっと緊張してるんだから」
「いや、私は絶対決勝に進むからね。 終わりはまだ遠いのです」
「応援してるよ」
「対抗してよ!?」
中学の頃ただのぼっちじゃなくてパシられるぼっちの時があったから、あんまり奢りとかそういうの抵抗ないんだよな。
しかも友達だし。
「そこまで言うなら本気出すからな」
「うむ。 よかろう。 私と勝負じゃ」
1番目が歌い終わった。
明梨の番だ。
「手抜くなよ」
「突然言うようになったね…………もちろん、全力でやるよ」
じゃ、と短く言って明梨がステージに向かう。
相変わらず可愛い。
「次は上坂明梨さんです! 曲はハニマの『私、アイラブ宣言』です! どうぞ!」
司会の声で曲が始まる。
ハニマといえば、中高生の女子からかなりの人気を誇るグループだ。
その中でも「私、アイラブ宣言」はハニマの中でもかなりの人気曲だし、配信されてからまだ時間は経っていない。
男子生徒は、彼女の普段の様子から何を歌っても票が入るだろうが、女子生徒から票を入れてもらうためにこの曲を選んだってところだろうか。
そう考えたら……僕の選曲は失敗かもな。
誰でも歌ってるような超人気曲を入れても、インパクトがない感じになってしまいそうだ。
カラオケ大会といえど、審査員は観客で、カラオケの機械の点数で順位が決まるわけじゃないのを完全に無視していた。
歌う前から勝負が決まりそうだ…………。
「ありがとうございました~!」
ようやく彼女の歌が終わる。
「お疲れ様。 凄い歓声だったね」
「うん。 サビの前に掛け声が入る部分があるんだけど、男子も女子もちゃんと入ってきてくれたんだよね。 びっくりしちゃったよ」
「まさかあの曲を選ぶとは思ってなかったけど、上手くいったみたいだね。 2番目からそんなに盛り上げられちゃうと、後の僕らがしんどいんだよね……」
見ればわかるが、3番目の人なんか出るのを躊躇ってるし、4番目も明梨のパフォーマンスの高さを見てさっきからずっと震えっぱなしだ。
わかるぞ、その気持ち。
でも僕は最後の方なんだよ、ごめんな。
「これで私の勝利に大きく近づいたかな? 優、予選落ちしたら奢り決定だからね?」
「…………そこまで言われると、むしろやる気になってくるけど、僕の選んだ曲はそんなに盛り上がるものじゃないんだよな………………失敗した」
「じゃあ、変えてもらえるように頼んでみれば?」
「明梨にひとつ問題。 それが出来ない人のことをなんと呼ぶでしょうか」
「あっ…………コミュ障か」
「その反応心に刺さるなぁ……」
そう、コミュ障というのはこのような場において絶大なハンデなのである。
しかも、コミュ障の人は相手に迷惑をかけたくないという思考が働いてしまうので、一度決めたことを変更するなどというのは以ての他なのだ。
それくらいやれって?
無茶言うな、それが出来たら苦労はしていない。
「じゃあ何に変えたいの?」
「え? ああ、変えるとしたらなんだろ。 公式髭団子の『異端児スター』かな」
「え、あの高音程だらけの曲歌えるの?」
「頑張ってみるよ」
「ふーん……ちょっと待ってて」
「……? あっ」
明梨が司会のところに向かってからようやく彼女の意図に気がついた。
……また彼女に頼む羽目になってしまった。
「オッケーだって!」
「ごめんな、行かせて」
「いいのいいの、私の彼氏さんがコミュ障って言うんなら、私がサポートしなくちゃね」
「なんか物凄く僕の存在意義を疑いたくなったよ……」
そうこうしているうちに4人目が終わっていて、あと1人で僕の出番がくる頃になっていた。
「歌ってるときに声が裏返ったりしないでよ?」
「さらっと死亡フラグを立てるな。 それが起きたら僕はもう外に出ないぞ」
ただ、明梨の言う通り僕が選んだのは男子からしたらかなり厳しい高音程の曲だ。
失敗なんてしたらたまったものじゃない。
「「優~」」
前の人の歌が終わるのを待っていると、明梨ではなく玲と充から声がかけられた。
「なんだこの直前に。 プレッシャーかけにきたの?」
「うん。 否定はしないね」
「そこはせめて否定してくれよ、充……」
「明梨のときは忙しくて見れなかったけど、優はちょっと面白そうだと思ったから見に来ちゃった」
「玲、さらっと僕のことディスらないでくれる……?」
「まあ、そんなわけだし? 私たち3人とも優の活躍を応援してるから、頑張れ!」
いや、応援は嬉しいけどそもそも勝負してるんですが……。
相当余裕なのだろうか。
なんだろう、突然奢りが嫌になってきた。
「直前に確認。 これって決勝に出ればまだ奢りは決まらないよね?」
「う、うん。 どしたの急に」
「なんか急にやる気出てきた」
前の人が終わったことを確認し、僕はステージに立つ。
今日この夜だけは、吹っ切れてしまおう。
「友潟優君です! 公式髭団子の『異端児スター』。 どうぞ!」
そうして、曲が流れると僕は大きく息を吸いーー
『ねえ、聞いて』
きっと、誰も聞いたことのない僕の歌声をホールに響かせた。
他にも歌が上手い人がいたが、歌い始めたときのどよめきが大きく、終わった後にも歓声が飛んでいた。
そう考えると、玲と充はそれぞれ1位を獲得するだろう。
……今は人のことを考えている場合じゃないな。
僕の順番は6番目。
明梨は2番目だ。
「あぅ……緊張してきた…………」
「先に終えたほうが気が楽だよ。 僕なんか自分の番までずっと緊張してるんだから」
「いや、私は絶対決勝に進むからね。 終わりはまだ遠いのです」
「応援してるよ」
「対抗してよ!?」
中学の頃ただのぼっちじゃなくてパシられるぼっちの時があったから、あんまり奢りとかそういうの抵抗ないんだよな。
しかも友達だし。
「そこまで言うなら本気出すからな」
「うむ。 よかろう。 私と勝負じゃ」
1番目が歌い終わった。
明梨の番だ。
「手抜くなよ」
「突然言うようになったね…………もちろん、全力でやるよ」
じゃ、と短く言って明梨がステージに向かう。
相変わらず可愛い。
「次は上坂明梨さんです! 曲はハニマの『私、アイラブ宣言』です! どうぞ!」
司会の声で曲が始まる。
ハニマといえば、中高生の女子からかなりの人気を誇るグループだ。
その中でも「私、アイラブ宣言」はハニマの中でもかなりの人気曲だし、配信されてからまだ時間は経っていない。
男子生徒は、彼女の普段の様子から何を歌っても票が入るだろうが、女子生徒から票を入れてもらうためにこの曲を選んだってところだろうか。
そう考えたら……僕の選曲は失敗かもな。
誰でも歌ってるような超人気曲を入れても、インパクトがない感じになってしまいそうだ。
カラオケ大会といえど、審査員は観客で、カラオケの機械の点数で順位が決まるわけじゃないのを完全に無視していた。
歌う前から勝負が決まりそうだ…………。
「ありがとうございました~!」
ようやく彼女の歌が終わる。
「お疲れ様。 凄い歓声だったね」
「うん。 サビの前に掛け声が入る部分があるんだけど、男子も女子もちゃんと入ってきてくれたんだよね。 びっくりしちゃったよ」
「まさかあの曲を選ぶとは思ってなかったけど、上手くいったみたいだね。 2番目からそんなに盛り上げられちゃうと、後の僕らがしんどいんだよね……」
見ればわかるが、3番目の人なんか出るのを躊躇ってるし、4番目も明梨のパフォーマンスの高さを見てさっきからずっと震えっぱなしだ。
わかるぞ、その気持ち。
でも僕は最後の方なんだよ、ごめんな。
「これで私の勝利に大きく近づいたかな? 優、予選落ちしたら奢り決定だからね?」
「…………そこまで言われると、むしろやる気になってくるけど、僕の選んだ曲はそんなに盛り上がるものじゃないんだよな………………失敗した」
「じゃあ、変えてもらえるように頼んでみれば?」
「明梨にひとつ問題。 それが出来ない人のことをなんと呼ぶでしょうか」
「あっ…………コミュ障か」
「その反応心に刺さるなぁ……」
そう、コミュ障というのはこのような場において絶大なハンデなのである。
しかも、コミュ障の人は相手に迷惑をかけたくないという思考が働いてしまうので、一度決めたことを変更するなどというのは以ての他なのだ。
それくらいやれって?
無茶言うな、それが出来たら苦労はしていない。
「じゃあ何に変えたいの?」
「え? ああ、変えるとしたらなんだろ。 公式髭団子の『異端児スター』かな」
「え、あの高音程だらけの曲歌えるの?」
「頑張ってみるよ」
「ふーん……ちょっと待ってて」
「……? あっ」
明梨が司会のところに向かってからようやく彼女の意図に気がついた。
……また彼女に頼む羽目になってしまった。
「オッケーだって!」
「ごめんな、行かせて」
「いいのいいの、私の彼氏さんがコミュ障って言うんなら、私がサポートしなくちゃね」
「なんか物凄く僕の存在意義を疑いたくなったよ……」
そうこうしているうちに4人目が終わっていて、あと1人で僕の出番がくる頃になっていた。
「歌ってるときに声が裏返ったりしないでよ?」
「さらっと死亡フラグを立てるな。 それが起きたら僕はもう外に出ないぞ」
ただ、明梨の言う通り僕が選んだのは男子からしたらかなり厳しい高音程の曲だ。
失敗なんてしたらたまったものじゃない。
「「優~」」
前の人の歌が終わるのを待っていると、明梨ではなく玲と充から声がかけられた。
「なんだこの直前に。 プレッシャーかけにきたの?」
「うん。 否定はしないね」
「そこはせめて否定してくれよ、充……」
「明梨のときは忙しくて見れなかったけど、優はちょっと面白そうだと思ったから見に来ちゃった」
「玲、さらっと僕のことディスらないでくれる……?」
「まあ、そんなわけだし? 私たち3人とも優の活躍を応援してるから、頑張れ!」
いや、応援は嬉しいけどそもそも勝負してるんですが……。
相当余裕なのだろうか。
なんだろう、突然奢りが嫌になってきた。
「直前に確認。 これって決勝に出ればまだ奢りは決まらないよね?」
「う、うん。 どしたの急に」
「なんか急にやる気出てきた」
前の人が終わったことを確認し、僕はステージに立つ。
今日この夜だけは、吹っ切れてしまおう。
「友潟優君です! 公式髭団子の『異端児スター』。 どうぞ!」
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きっと、誰も聞いたことのない僕の歌声をホールに響かせた。
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