拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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第二章

小悪魔の誕生

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 カフェの席に着くとすぐに明梨は机に突っ伏してしまった。
 こんな明梨を見たのは初めてだから、僕も玲も驚いていた。
 そんな僕らの様子を感じ取ったのか、彼女は腕にうずめていた顔を少し上げる。

 「……ちょっとー、どうしたの2人ともそんなびっくりした顔してさぁー」
 「いや、明梨がそんな疲れてるところ初めて見たからさ」
 「明梨、なんだかすごく疲れたみたいだね。 私たち先に買ってくるよ?」
 「うーん、そうだね。 先に買ってきて。 待ってるから」

 そう言うなり彼女はまた顔をうずめてしまった。
 それを見た僕らは席を立つ。

 今回は彼女たちを見習って、僕も少しだけカスタマイズとやらをやってみることにした。

 注文が終わって待っていると、同じく注文を終えた玲が駆け寄ってきて、僕の腕をつんつんとつついてきた。
 何となく不安そうな顔をしている気がする。

 「どうしたの?」
 「いや、明梨のことなんだけど……。 なんかあった? もしかしてこの前のことが原因だったりする?」

 なんだ、気にしていたのか。
 玲は、普段は天然というか、陽気なキャラを見せているが、よく人のことを観察していて、細かいところまで気配りができる。
 それゆえに、クラスでも人気で人と関わる場面が多いだろうが、その中でも普通にやっていけているあたりが凄いところだ。

 「この前のことは先生も言っていた通り、何も起きてないよ。 ただ、今日って成績の発表があっただろ。 それで、ちょっとした騒ぎになっちゃってな……」
 「あ、やっぱりあの噂本当だったんだ」
 「あ、あはは、やっぱり噂されてたか」

 どこまで知っているかはわからないが、明梨とのことを思い出して無意識に目を逸らしてしまう。

 「まったく、明梨も大胆だよねー。 そういうことなら私にもそれとなく伝えてほしいよ」
 「大胆……? って、ちょっと待った! 多分、あ、明梨は俺のことが好きってわけじゃ……」
 「だーってさー。 抱きつかれたんでしょ? どうせ明梨の胸とか当たって、優はそれどころじゃなかったと思うけど」
 「ちょ、ちょっと何言ってるかわかんないっす……」
 「ふーん……。 ちょっと意地悪してみたら、色々教えてくれたね。 優しいなー」
 「あ……」

 どうやら、要らぬことまで玲に悟られてしまったみたいだ。
 正直、図星だった。
 明梨に抱きつかれたとき、あの場所で抱きつかれたことも確かに恥ずかしかったが、それよりも明梨の胸が当たっているのがわかって頭が真っ白になっていた。
 というか、それを玲が言うのか……。

 実際、買い物に行ったときにはかなりラフな服装だったから、嫌でも目に入ってしまった。
 明梨も胸は大きい方だと思うが、玲の方がかなり大きかった。
 明梨自身、玲よりは胸が小さいとわかって、少し気にしているみたいだ。
 僕が話題に触れたら変な眼で見られる気がしたから、もちろん見て見ぬふりをしていたが。

 玲はともかく、明梨はそれでも大きい方ではあるので、彼女たちの人気の理由の1つでもあるだろう。
 男子生徒が好奇の視線を送るのも無理はない。
 何があったら、こんなに胸が大きくなるんでしょうかね……。

 「……今、一瞬私の胸見たでしょ」
 「いや見てないです」
 「……本当は?」
 「…………ちょっと見ました……」
 「……とか言って?」
 「……結構見てました…………。」
 「うーん……。 素直でよろしい。 優だから許してあげよう」

 え、許された。

 「まあ、それもあるかもね。 明梨があんなに疲れてる理由」
 「人気者は辛いよな……」

 そうやって話していると、注文した飲み物が出来たみたいだった。

 「抹茶クリームフラチーノ、チョコレートチップとソース追加、ホイップクリーム多めでご注文されたお客様ー?」
 「あぁ、はい。 僕です」
 「ありがとうございましたー」

 もらった横でストローをさして待っていると、僕の後に飲み物を受け取った玲が少し驚いた顔をしていた。

 「なんか変?」
 「いや、優もカスタマイズするようになったんだなーって思って。 ほら、優は前までここにきたら普通のコーヒーばっかり飲んでたからさ」
 「まあ、確かに。 でも、沢山種類があると、色々と試したくなっちゃう人なんだよね」
 「その気持ち、すっごくわかる~! カスタマイズの種類も沢山あるし、飽きないんだよね!」

 初めて自分でカスタマイズしたという謎の達成感を味わいつつ、口をつける。
 抹茶のほのかな苦みのなかにチョコレートの甘さがブレンドされている。
 増量したホイップのおかげでやわらかい口当たりになってすごく飲みやすい。
 どうやら、初カスタマイズは成功したみたいだ。

 満足している僕を見て、隣の玲は

 「私、そのカスタム飲んだことないんだよねー。 …………明梨がそうするなら、私も……いい…………よね?」

 なんか後半部分がよく聞こえなかったが、いったい何をーー

 「えいっ!」

 ぱくっ、ちるちる。

 僕の隙をついて、玲は僕の飲み物に口をつけた。

 「れ、玲? それって……」
 「ん? 間接キスの話? 優くんが無防備だから、ちょっと飲んじゃった。 ごめんねっ!」

 そういって、隣の小悪魔はとてとてと席に戻っていった。
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