拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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第一章

心躍る

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 「え、なんで2人ともそんなにびっくりしてるの」

 彼女たちが何故そんなに驚いているのか理解できずに聞くと、明梨が答えた。

 「だって、あそこ人が全然来ないから廃部になるかもって言われてるんだよ?」

 そうだったのか。
 確かに友達が廃部寸前の部活に入るなんて聞いたら驚くだろう。
 ここは話を合わせておくべきだろうか。
 ……いや、いいか。

 「でも、僕はそっちの方がいいかな。 人が多いのはそんなに好きじゃないし、本が好きってだけだから」

 そう理由を述べると、玲が言う。

 「優ってさ、1人でいるの好きだよね。 なんか、寂しくないの?」
 「落ち着くからね。 寂しいとかは……あんまり、感じないかな」

 嘘だ。
 本心じゃない。
 人に嫌われるのが苦手で、嫌われたくないなら関係を持たなければいいなどという考え方から内向的で協調性のない人間になってしまっただけなんだ。
 僕だって友達と遊びに行きたい。
 変わりたい。

 今の発言と矛盾するが、僕は嘘が嫌いだし、下手だ。
 実際に今も次の言葉に詰まってしまった。
 クラスでも人とほとんど会話できていないくらいだ。
 きっとみんなからの僕の印象は、最悪だな。

 口籠った僕の発言に対して、2人ともすぐに言葉を返さなかった。
 心を見透かすような澄んだ瞳で見てくる2人と僕は目を合わせることができず、思わず視線を逃す。
 明日から1人ぼっちになるだろうという根拠のない考えが浮かぶ。
 無理もない……か。

 「確かにそういう時間も大切だね。 でも、私たちといると楽しいでしょ?」

 玲は、僕が予想していなかった言葉で沈黙を破った。
 本当にここは現実なのか、夢か何かなんじゃないかと思って無意識に足をつねってみるが、ピリッとした痛みを足に感じる。
 未だに信じられない。
 拒絶されると思っていた。
 こんな優しい人もいるんだなと思うと、思わず笑みが溢れる。

 「そうだね。 こっちの方が好きかな」

 僕の言葉を聞いて明梨も玲も笑顔になる。
 なんて眩しい笑顔だろう。
 そう思った。



 「それじゃあ、この後は部活の仮入部があると思うので早めにホームルームを終わりにしましょう。 委員長」
 「はい。 起立。 ……礼」

 淡々とホームルームが進み、それぞれが自分の興味のある部活動に参加しにいく。
 僕はまだどの部活に入るか決めていなかったから、今日は帰って落ち着いて考えることにした。
 文芸部は今日は休みみたいだし、問題ない。

 「あれ、優は仮入行かないの?」

 教室でゆっくりと帰る準備をしている僕に明梨が声をかける。

 「僕は……まだ迷ってるから、今日は帰ってゆっくり考えてみるよ」

 そう言うと、彼女は微笑んで言う。

 「そっか。 じゃあ、また明日ね」
 「うん。 また明日」

 そうして僕は、明日からの生活にいつも通り不安な気持ちを抱きつつも、心のどこかで明日もきっと楽しい1日になるだろうと思って心を躍らせた。
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