拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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第一章

担任の先生

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 教室に着くと、まだ僕らを含めて5人しかいなかった。
 黒板には座席表が書いてあったので、それに従って座ることにする。
 特に時間は指定されていないため、生徒が集まり次第ホームルームが始まるだろう。
 それまで何をしていようか。
 本当にリア充・陽キャラなら、このタイミングでクラスの人に話しかけるんだろうか。
 まあ、自己紹介の時間はあるし、まだ大丈夫だろう。

 「友潟君、友潟君」

 暇つぶしのために持ってきていた小説を取り出していると、荷物を置いた上坂さんが声をかけてきた。

 「なに? 上坂さん」
 「ちょっと散歩しよ?」
 「どうしたの急に」
 「暇になっちゃって」

 まあ、少し校内を見て回るのもいいかもしれない。
 そう思って席を立ち、教室を出る。

 少し校内を回ってきたが、流石進学校、設備が充実している。
 これなら学校生活ではまず困ることはないだろう。
 教室に戻るとき、さっき彼女に言われたことを思い出す。
 にしても、だなんて、どういう意味だろう。
 きっと、お互い最初に知り合った。
 ただそれだけの理由だから、特別とまでいうことはないだろう。
 特に悪くは思わないが、ずっと一緒にいても困る。
 彼女といると言動や仕草に多少なりとも気を使う必要があるので、意外と疲れるんだ。

 ……わかってる。
 僕が中学の頃から人と全然接してなかったから、慣れないことをしているような状態になっているのだろう。
 要するに、早く慣れろという話だ。

 「友潟君、なにか考え事してる?」
 「え?」
 「なんか、さっきから難しい表情かおしてるし」

 どうやら、感情が外に出てしまっていたみたいだ。

 「気のせいだよ」
 「あっ、待ってよ!」

 そう誤魔化して、僕は足を早めた。

 クラスに戻ると、ほとんどの生徒が集まっているようだった。
 僕は教室に入る前に追いかけてきている上坂さんに目を合わせ、口元で指を立ててみせた。
 彼女は一瞬意味がわからないという素振りを見せたが、僕が教室に入った後、教室内の様子を見て理解したようだった。
 理解が早くて助かる。
 あのまま僕ら2人で入っていくと、確実に浮いてしまう。
 それを避けるには、2人とも別々に戻ってくる必要があった。

 僕ら2人が入った後、もう1人男子が入ってきて、全員揃った。
 静寂が教室に流れる。
 すると廊下から、小走りで誰かが走ってくる音が聞こえた。
 きっと僕らの担任だろう。
 そういえば担任の名前は書いてあったが、先生の名前は1人も知らないから気にしていなかった。
 澤谷さわたに、だったっけな、名前。
 あの若い先生じゃないといいな。
 あの人はいい人なんだろうけど、人の領域にずかずかと入ってくるタイプだと思う。
 小説とかだったら、きっとここで来るのはあの人だろう。
 だが、そこまで僕も物語の世界に溺れてはいない。
 大丈夫だろ……。

 「遅れちゃってごめんね! すぐホームルームを始めよっか! …………あれ」

 目が合う。
 にやりと彼は笑う。

 「良かったな、友潟君」

 どうやら、ここは現実じゃなくて、物語の世界のようだ。
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