拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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第一章

奨学生

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 「まだ入学式も始まっていないのにナンパかい?」

 にやにやしながら先生は言う。

 「違いますよ! 僕が外で休んでいたところに彼女が来て声をかけてきたんです!」
 「どういう経緯かは知らないけど、あの場面だけを見たら全員同じことを言うと思うよ」
 「そんなー……」

 爽やかな笑顔を見せる先生。
 かなり若く見えるから、新任の先生なのだろうか。
 それにしてもコミュ力が高そうだ。
 流石は先生と言ったところだろうか。
 イケメンだし、優しそうだから、授業が始まるとすぐに人気になるだろう。
 ……羨ましい。

 「ところで、先生。 僕らはどこに向かっているんですか?」
 「あれ、聞いてなかったのか? お前、奨学生だから。 他の奨学生と一緒に壇上に立つんだぞ」
 「……そんなのいつ言ってたんですか」
 「ホール内の放送で既に呼びかけてたよ。 外にいたから聞こえなかったのかもしれないけど。 とにかく、もうそろそろ入学式が始まるから、裏で待機な」

 淡々と会話を進めていると、待機場所についたようだった。
 そこには僕の他に9人の生徒がいた。
 先に着いていたみんなは、お互いに絶妙な距離感を保っていたが、1人だけやけに存在感のある人がいた。

 「あっ……友潟君!」

 そう、上坂明梨だ。

 「ご、ごめん。 ぼーっとしてたら、結構時間経ってたみたいで……」
 「い、いや、私は大丈夫だよ。 何かあったのか心配してたから、特になにもないなら良かったよ」

 個人的に休憩中のは事件だが、特に言う必要はないか……。

 「あ、君も友潟君と仲良いの? なら、頑張ってね。 彼、けっこうモテるみたいだから」

 僕らのすぐ近くにいた若い先生が小声で言い、何もなかったかのようにそっぽを向く。
 前言撤回。
 この先生は要注意人物リストの1番上に突っ込んでおこう。

 「いや、そういうわけじゃ……」

 上坂さんが言いかけたとき、このタイミングを待っていたかのように放送が流れる。

 『ただいまより、入学式を開式いたします。 まず、奨学生10名の表彰です』

 「ほら、君らの出番だ。 上坂さんと友潟君は、奨学生の中でも成績が優秀だったから一言挨拶してもらうからね。 頑張れよ」
 「「ちょっと、聞いてないんですが!」」
 「2人のこと見てたら言うの忘れちゃったよ。 ほら、行った行った」

 呆れたような顔を作って、しっしっと僕らを追いやるような仕草を見せる。
 ほんと、この先生は……。
 ここでゴネていても仕方がないので、さっさと壇上に上がる。

 指定された位置に着くまで、下を向いてなんとなく生徒の方を見ないようにしていたが、着いてから顔を上げると、ホールの張り詰めた雰囲気に圧倒される。
 1人1人名前を読み上げていき、ぺこりとお辞儀をする。
 心なしかお辞儀がぎこちなくなってしまったように思えて、なんとなく上坂さんを横目で見る。

 なんとなく、彼女の仕草にはかなさを感じた。
 ただお辞儀をしているだけなのに、ただそこに立っているだけなのに。
 気が付いたときには消えてしまいそうな哀しさと、それでも確かに彼女がそこにいることを証明する美しさを、彼女はその身にまとっていた。

 『続きまして、奨学生代表の挨拶です。 友潟優君、上坂明梨さん、お願いします』

 放送の声で現実に引き戻される。
 自分が今置かれている状況を思い出し、心臓の鼓動が僕に早くしろと急かす。
 慣れない状況からくる焦りで手が震える。
 ふと、彼女を見遣みやると、彼女は僕の考えを見透かしたように笑顔を見せて、口をぱくぱくと動かした。

 『だ い じ ょ う ぶ』

 そう彼女に言われた気がした。
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