拝啓、終末の僕らへ

仁乃戀

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 週末の電車。
 通学するときとは違って、あちこちの席が空いている。
 やはりほぼ毎日満員電車でもみくちゃにされていると、空いている電車に乗るだけでもかなりの幸福感を感じる。
 車窓からさす光は暖かく、ついうとうとしてしまう。
 席に座って睡魔と格闘していると、スマホの通知がきた。
 <おはよう! 駅に着いたら、改札出たところで集合ね!>

 気付けば自分も目的地に着くところだ。
 軽く伸びをして、席を立つ。
 電車のドアが開くと、春だというのに燦々と輝く太陽に、吸い込まれるような青い空が出迎える。

 高校を卒業して、大学に入るとあっという間に1年が過ぎた。
 2年生になって大学生活にも慣れて余裕ができたから、久しぶりに集まってどこか遊びに行こうという話になって、今日に至る。
 改札を出て、彼女達に声をかける。

 「お待たせ。 久しぶりだね」
 「やっと会えたね! 1年ぶりの再会かー!」
 「私は大学が一緒だから、ちょくちょく顔合わせてたけどね」

 久しぶりの再会に会話が盛り上がる。
 他愛もない会話をしながら、駅から10分ほどの水族館に着く。

 「懐かしいね、ここ」

 何気なく彼女が発した言葉。
 その言葉には、きっと僕らにしかわからないであろう、特別な想いが込められていた。

 何気ない日常。
 普通なら、こんな日常が当たり前になっていて、流れていく時間の価値なんて考えることはないだろう。
 実際、僕もそうだった。
 つまらない日々が、ただただ早く過ぎ去って欲しかった。
 このまま何の思い出もなく、感情のない抜け殻のような人間として生き、元から自分なんて存在がなかったかのように死んでゆく。
 そう思ってばかりいた。
 ーーあの異変が起きるまでは。

 あの異変が起きてからもう4年が経った。
 高校1年生になって、これから3年間どうやって生きていこうとか、友達とか彼女作りたいなとか。
 高校を卒業してから思い返すと本当にろくなことを考えていなかったと思う。
 入学早々に期待よりも不安が勝っていた。
 そんな時に起こった異変。

 異変と言っても、僕ら3人にしか知り得ないことだ。
 他の人は誰も気付かないし、言っても信じなかった。
 大変だったが、実際あれがなければ僕は今も1人で淡々と毎日をやり過ごすだけの人生を送っていただろう。
 良くも悪くも、僕は人として変わることができた。
 今となってはいい思い出だ。

 「あ、そういえばこれ」

 僕が物思いにふけっていると、悠々と泳ぐ魚を隣で眺めていた彼女が突然僕に封筒を渡してきた。
 何が入っているのだろうと思い、中に入っているものを取り出す。
 中には、手紙が入っていた。

 「これは……?」

 突然渡された手紙に戸惑いつつ素朴な疑問を投げかける。

 「日記って言えばいいのかな? ほら、高校1年生のときのあれ。 日記感覚で何があったかとか書いてたの」

 彼女のいうとは、おそらく異変についてのことだろう。
 僕も当時この日記を見たことがある。
 しかし、タイトルとしてつけられている文章が変わっていた。

 この手紙、もとい、日記のタイトルは、
 【拝啓、終末の僕らへ】
 本来ならば得ることのなかったこの日常を、
 僕らが、
 僕が、
 作った。
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