239 / 271
第四章 魔女の国
059-2
しおりを挟む
皆の食べたいものをダグ先生が集めてくれたので、次の週から魚貝じゃないものを作ることになった。この季節でも手に入れられるものにはなっちゃうけど。
「魚貝は自分用にたまに食うかな」
「いいですね。僕も食べたい。前に庭で焼いて食べたの、美味しかったです」
「あれな! 休みの日にでもやるか!」
「賛成ー!」
ふと、魔術師の人たちのことを思い出した。
「北の国から逃げてきた魔術師の人たち、レンレンさんのごはんを食べてるって聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「それなぁ……。他の薬学師がきちんとしたもん食わせてるらしいから大丈夫だろ」
……魔法薬学の人たち、きっと見るに見かねたんだろうな……。
レンレンさんはあいかわらず野草を主食にしてるみたいだし。
ラズロさんは食事を終えて、コーヒーを淹れてくれた。僕のは蜂蜜入りミルク。
「気になってたんですけど、魔術師の人たちが沢山増えて困らないんですか?」
「魔法使いの数五百人、魔法薬学師四百人弱。魔術師百人だ」
魔術師がすごい少ないんだ。
魔法使いと魔法薬学師は同じぐらいいるのに。
「魔力を持つ人間は圧倒的に北側で生まれやすいみたいでな。南の国なんてうちの国よりいない」
「へぇー。なんででしょうね。なにか理由があるのかな」
僕の生まれた村は王都より西にある。
「遥か昔はそうじゃなかったと聞いたことがありますよ」
声のしたほうを見ると、ダグ先生だった。
僕たちを見て笑顔になる。手に紙の束を持ってるから、皆の食べたいものをまとめてくれた奴かも。
「お邪魔します」
ラズロさんは立ち上がって厨房に入った。ダグ先生にコーヒーを淹れるんだと思う。
「先生、昔ってどのぐらい昔ですか?」
「文献によれば、五百年前は南の国でも魔力を多く持つ者、魔法使いがいたようです」
「なんででしょうね」
『知りたいかしら?』
振り返ると白と黒の大蛇がそこにいた。
……今日はお客さんが多い。
「アマーリアーナ様、こんにちは」
赤い舌がチロチロと口から出てくる。
『ごきげんよう、アシュリー』
ダグ先生を見ると、目を細めていたぐらいで、いつも通りだった。コーヒーを淹れて戻って来たラズロさんが一番びっくりしてたぐらいで。
「アマーリアーナ様は理由を知ってるんですか?」
知っているわよ、と答えると、白黒の大蛇はズリズリと音をさせながらテーブルの横までやってきた。おなか痛くないのかな。
僕の蜂蜜入りミルクを差し出したら、喜んで受け取ってくれた。
『五百年より前はね、魔力を持つ者は世界中にいたのよ。今も魔法のスキルを与えられた者は南にもいるだろうけど、魔力が足りないわね』
「五百年前、なにかあったんですか?」
『魔女が生まれたの』
魔女が生まれると魔力を持つ人が減るの?
あれ? その魔女って。
『パシュパフィッツェが生まれたのよ』
魔女の中で一番若いのがパフィだというのは教えてもらって知ってた。
『パシュパフィッツェが何かをしたわけじゃないわよ?』
なにか隠してるような口振りだけど、僕にはそれがなんなのか分からない。
『六百年ぶりの新しい魔女の誕生を、私たちは喜んだものだわ』
今の話だけで、アマーリアーナ様が千年は生きてることが分かってしまった。知ってたけど、魔女って本当に長生きなんだなぁ。パフィは僕の村で暮らしていたけど、他の魔女たちは寂しくないのかな。
『生の胡椒をもらっていくわね』
「あ、はい。どうぞ」
裏庭のダンジョンの野菜や花、香辛料があっという間に育つのは、アマーリアーナ様の時間をもらっているからだ。
好きなだけ持っていって欲しい。パフィは拗ねそうだけど。
アマーリアーナ様がいなくなった後、ダグ先生とラズロさんが大きな息を吐いた。
「噂には聞いていましたが、肝が冷えますね……」
「なんでアシュリーは平気なんだよ……」
「パフィで慣れてるんだと思います。それに魔女だからといって、なんの理由もなく怒ったりしないですから」
「なにで怒るか分からんって話なんだよ」
第二王子たちが起こしたことを知って、人のほうが怖いと思った。魔女は確かに怒ると怖いけど、理由もなく怒らないから。
たまに無茶苦茶だって思うこともあるけど。
「魚貝は自分用にたまに食うかな」
「いいですね。僕も食べたい。前に庭で焼いて食べたの、美味しかったです」
「あれな! 休みの日にでもやるか!」
「賛成ー!」
ふと、魔術師の人たちのことを思い出した。
「北の国から逃げてきた魔術師の人たち、レンレンさんのごはんを食べてるって聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「それなぁ……。他の薬学師がきちんとしたもん食わせてるらしいから大丈夫だろ」
……魔法薬学の人たち、きっと見るに見かねたんだろうな……。
レンレンさんはあいかわらず野草を主食にしてるみたいだし。
ラズロさんは食事を終えて、コーヒーを淹れてくれた。僕のは蜂蜜入りミルク。
「気になってたんですけど、魔術師の人たちが沢山増えて困らないんですか?」
「魔法使いの数五百人、魔法薬学師四百人弱。魔術師百人だ」
魔術師がすごい少ないんだ。
魔法使いと魔法薬学師は同じぐらいいるのに。
「魔力を持つ人間は圧倒的に北側で生まれやすいみたいでな。南の国なんてうちの国よりいない」
「へぇー。なんででしょうね。なにか理由があるのかな」
僕の生まれた村は王都より西にある。
「遥か昔はそうじゃなかったと聞いたことがありますよ」
声のしたほうを見ると、ダグ先生だった。
僕たちを見て笑顔になる。手に紙の束を持ってるから、皆の食べたいものをまとめてくれた奴かも。
「お邪魔します」
ラズロさんは立ち上がって厨房に入った。ダグ先生にコーヒーを淹れるんだと思う。
「先生、昔ってどのぐらい昔ですか?」
「文献によれば、五百年前は南の国でも魔力を多く持つ者、魔法使いがいたようです」
「なんででしょうね」
『知りたいかしら?』
振り返ると白と黒の大蛇がそこにいた。
……今日はお客さんが多い。
「アマーリアーナ様、こんにちは」
赤い舌がチロチロと口から出てくる。
『ごきげんよう、アシュリー』
ダグ先生を見ると、目を細めていたぐらいで、いつも通りだった。コーヒーを淹れて戻って来たラズロさんが一番びっくりしてたぐらいで。
「アマーリアーナ様は理由を知ってるんですか?」
知っているわよ、と答えると、白黒の大蛇はズリズリと音をさせながらテーブルの横までやってきた。おなか痛くないのかな。
僕の蜂蜜入りミルクを差し出したら、喜んで受け取ってくれた。
『五百年より前はね、魔力を持つ者は世界中にいたのよ。今も魔法のスキルを与えられた者は南にもいるだろうけど、魔力が足りないわね』
「五百年前、なにかあったんですか?」
『魔女が生まれたの』
魔女が生まれると魔力を持つ人が減るの?
あれ? その魔女って。
『パシュパフィッツェが生まれたのよ』
魔女の中で一番若いのがパフィだというのは教えてもらって知ってた。
『パシュパフィッツェが何かをしたわけじゃないわよ?』
なにか隠してるような口振りだけど、僕にはそれがなんなのか分からない。
『六百年ぶりの新しい魔女の誕生を、私たちは喜んだものだわ』
今の話だけで、アマーリアーナ様が千年は生きてることが分かってしまった。知ってたけど、魔女って本当に長生きなんだなぁ。パフィは僕の村で暮らしていたけど、他の魔女たちは寂しくないのかな。
『生の胡椒をもらっていくわね』
「あ、はい。どうぞ」
裏庭のダンジョンの野菜や花、香辛料があっという間に育つのは、アマーリアーナ様の時間をもらっているからだ。
好きなだけ持っていって欲しい。パフィは拗ねそうだけど。
アマーリアーナ様がいなくなった後、ダグ先生とラズロさんが大きな息を吐いた。
「噂には聞いていましたが、肝が冷えますね……」
「なんでアシュリーは平気なんだよ……」
「パフィで慣れてるんだと思います。それに魔女だからといって、なんの理由もなく怒ったりしないですから」
「なにで怒るか分からんって話なんだよ」
第二王子たちが起こしたことを知って、人のほうが怖いと思った。魔女は確かに怒ると怖いけど、理由もなく怒らないから。
たまに無茶苦茶だって思うこともあるけど。
2
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
インチキ呼ばわりされて廃業した『調理時間をゼロにできる』魔法使い料理人、魔術師養成女子校の学食で重宝される
椎名 富比路
ファンタジー
イクタは料理の時間を省略できる魔法の才能があったが、インチキ呼ばわりされて廃業に。
魔法学校の学食に拾ってもらい、忙しい日々を送る。
仕事が一段落して作業場を片付けていたら、悪役令嬢デボラが学食フロアの隅で寝泊まりしようとしていた。
母国が戦争状態になったせいで、援助を止められてしまったらしい。
イクタは、デボラの面倒を見ることに。
その後も、問題を抱えた女生徒が、イクタを頼ってくる。
ボクシングのプロを目指す少女。
魔王の娘であることを隠す、ダークエルフ。
卒業の度に、変装して学生になりすます賢者。
番長と生徒会長。
イクタと出会い、少女たちは学び、変わっていく。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる