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第四章 魔女の国

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 洗濯をしなくて良くなったので、少し時間ができて嬉しい。最近はへとへとになってすぐに寝てしまって、本を読む時間がなかったから。
 魔力は食べることで回復できても、身体の疲れまでは取ってくれないし、魔法は集中しないと危ない。
 ちょっとでいいから本を読みたい。
 文字を覚えて色んな本を読めるようになった。僕の知らないことが沢山書かれていて、想像するのが楽しい。想像してもよく分からないものはラズロさんや城の皆に聞けば教えてもらえる。
 読めるようになってきたし、言葉も覚えたし、書けるようになってきた。

 僕は王都から出られない。嫌ではないけど、たまに寂しくなる。いつか行きたいねっていう口約束もできない。それがどうしようもなく悲しくなって、でもそれはどうしようもないことだって分かってる。
 ダンジョンメーカーは、ダンジョンの中でならなんでもできてしまう。僕が望まなくても、その力を悪用したいという人が僕を言いなりにさせたら……。それに、いくらダンジョンの中で再現できても、それは本物じゃない。

 ノエルさんはこの力を持っていても危険じゃないことを証明したいって言ってくれたけど、無理だろうなって今なら思う。
 そんな僕にとって、本は僕の知らない外のことを教えてくれるもの。だから、ほんのちょっとでいいから、本を読みたい。
 それに外に出られないのは僕だけじゃない。殿下もそうだって気づいて、自分のことばかり考えてたなって思った。
 
「一日にできることって、そんなに多くないですよね。食事の準備とか、洗濯とか、掃除とか」

「アシュリーの言ってることが主婦すぎてオニーサンは泣けてきたよ……」

 ラズロさんは僕に子供らしさを持って欲しいみたい。でもラズロさん、子供って意外と冷静だと思います。ラズロさんの優しさは他の人の優しさとも違ってて、あったかいなって思う。

「でもまぁ、アシュリーの魔法の使い方をおエライさんが知ったのは大きいことだったよなぁ」

 夕食の準備をしながらの、ラズロさんと僕のおしゃべり。ラズロさんは休みの日以外は僕とこうして一緒にいてくれる。食堂を使う人が増えて僕一人ではまかなうことができないから。
 休みの日は宵鍋に連れて行ってくれたり、ギルドの屋台に行ったり。
 自分が作ったんじゃないメシが食いたい! って言って。

「僕のように魔力が少ない人もいますもんね」

 トキア様は魔力が多い。魔法師団にいる人たちも同じように魔力が多くて、魔法や魔術のスキルを持っている人たちが集められてる。でも多くはないみたい。
 魔法スキルを持ってる人はそこそこいる。でも魔力がないから仕事にできない。
 僕のような魔力が少ない人でもできることがある、それを仕事にできるとトキア様たちは思ったみたいだった。

「魔力はあるが使えるスキルのない奴らに魔術師団が声をかけてるらしいぞ」

「術符に魔力を込めるんですか?」

 そうそう、と答えながらラズロさんはトマトを鍋に入れる。
 トマトを使った料理をパフィがとても気に入ってしまって、ダンジョンで育てろと言い出して……駄目だって分かってるけど、トマトを使った料理の美味しさに僕も負けてしまった。

 高い山、雨が少なくて、朝と夜の気温の差が大きいところ、あと日差しが強いと甘くて酸味の少ないトマトが採れるんだって。この国でもトマトを作ってるけど、甘さはあんまりなくって、酸っぱいだけのものが普通。
 酸味の強いトマトは煮込み料理にすると酸味が減るのもあって、この国のトマト料理は煮込みが普通。僕もそういった食べ方しか知らなかった。

 たまに乾燥していないトマトがギルドに入ることがあると、ザックさんが買い占めちゃうらしい。高くて皆買わないから問題ないみたいだけど……。
 ザックさんはトマトを生のまま使った料理を出してくれる。
 僕が好きなのは、乱切りにしたトマトと、タマネギの薄く切ったものを酢漬けにしたもの。
 これを食べて僕とパフィがトマト作りを決めた。
 つい勢いで作り始めてしまったトマトを気に病んでいたら、南の国との関係が良くないのもあって、多めに採れたらギルドに卸す……という建前があるから気にすんなってラズロさんが笑って言ってくれた。優しい。
 最近はザックさんのお店以外でも煮ていないトマトを出すところが増えたみたいで、今王都はトマトが流行ってる。
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