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第四章 魔女の国

052-3

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「早く春にならないかな」

「どうした?」

「一座は春になったら始まるんですよね?」

「いや、そろそろ始まるぞ」

「え、でも冬ですよ? 雪も降るし」

 馬鹿だな、とラズロさんが言う。

 ラズロさんはフライパンの中にたっぷりの水を入れていく。ジュッと音をさせてフライパンから湯気と良い匂いが。
 大きくフライパンの中をかき混ぜると、あっという間に入れた水が茶色くなった。
 塩や胡椒といった調味料が入れられて味が付いていく。

「やれる事が減った冬だからこそ始めんだよ」

「でも寒くないんですか?」

 広場の出店だって減るはず。

「そう言った問題点を解決する為に日夜研究されてたのが、城のあちこちに置かれた魔術符だ」

 さっきの話と繋がって、頭の中がすっきりと言うか、発見したときのような気持ちになる。

「あんなに広いのに、そんなこと可能なんですか?」

「オレには魔法も魔術もサッパリだけどな、一座が演じる天幕そのものに魔術を施すって聞いたな」

「へーっ!」

 ティール様はみんなが言うように天才なんだと思う。だからこんな風に新しいものを作り出せるんだろうな。

「だから寒さはある程度凌げるってこった。後は道なんだろうが、雪はここに済む奴らにゃ毎年の事だし、雪かきはいつも兵士がやってんだろ。大雪になったらさすがに休むだろうけどな」

 そっか。
 この冬から一座が観れるんだ!

「演劇は春になるだろうけどな。何を演じるか、誰がやるか、必要なもんが山程あるからな」

 どんなものかまだぼんやりとしか分からないけど、楽しみ。

 ラズロさんは乾燥室に置いてある大きな丸パンを持って来ると、包丁で切っていく。
 煮込んだネギのスープの上にパンをのせ、店で買ったチーズを刻んだものをのせて上から火魔法で焼く。とろりとチーズが溶けて美味しいと食堂でも人気の料理。僕も大好き。

 ラズロさんがネギとチーズのスープを作ってる間、僕は新しい料理の仕込みをすることにした。

 あらかじめ石窯でこんがり焼いておいた仔牛の骨を、暖炉に置いた大鍋に入れる。骨ばっかりなんだけど焼けて良い匂いがする。
 トマトを粗く切ったものを続けて大鍋に入れる。
 秋の中頃にもらった大量のトマトは、季節外れなだけあって酸っぱいだけだった。
 これは煮込み料理に使おうとラズロさんと決めて、氷室の一番寒い所で凍らせておいた。

 食堂の氷室はラズロさんとナインさん、ノエルさんの研究により大きく変わった。
 入れたものを凍らせて保存させられる大きな箱を作ってくれた。これで冬でも新鮮な野菜を食べられるとラズロさんと僕は喜んでたんだけど、凍らせた野菜は溶かしても元のようには戻らなかった。
 色も悪いし、なんだか萎れてるみたいになってしまったし。トマトも形が崩れてしまった。

 せっかく買ったのに何かに使えないかと、ラズロさんはザックさんに相談して、新しいレシピをもらってきてくれた。
 仔牛の骨と野菜を何日間も煮込んで作るもので、ダシっていうものなんだって。仔牛のダシ。
 出来上がったらザックさんにお裾分けするという約束でレシピを教えてもらったみたい。
 ザックさんも作りたいけど、何日もかけないと作れないような料理は難しいらしくって、そう言った料理のレシピを教えてもらうかわりに、出来たものをザックさんに渡すのが決まりみたいになってきた。
 美味しく作ってザックさんに渡したい!
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