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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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 ラズロさんが買い付けてきてくれた端肉を煮込む。
 煮立った湯の中で、端肉が揺れる。浮いてきたアクを掬い取っては捨てる。

「おー、始まったかー。オレもやるぞー!」

 厨房に入ってくるなり、ラズロさんが腕まくりをする。やる気十分と言った感じだ。
 手を洗い終えると、大きな鍋に端肉をゴロゴロ入れていく。そこへ水を注ぎ入れると、術符を鍋の底にぐるりと巻く。

「随分と細長い術符ですね」

 ティール様が使っていたのは、カードぐらいの大きさだった。こんな形のもあるんだ。

「ナインとオレの共同制作って奴だ。細長くした分、火力は落ちるがな、満遍なく鍋を加熱出来るようにしてある」

「へーーっ。底が焦げ付かなくて良いですね」

 そうだろう、と得意顔で言うと、大きな木べらで鍋の中をかき混ぜていく。

「去年と違って端肉の量も多いし、あの料理を食べたがる奴は多いからな。なにしろオレが食べたい。毎日食べたい。なんだったら毎食お願いしたいぐらいだ」

「食べすぎですよ」

「それぐらい美味いってこった。煮込みやペーストも美味かったが、新しいのも作ってみたいからな」

 放っておいてるミルクを見ると、「あれがチーズの元か?」と聞かれた。

「そうです。今はヨウルトがミルクに馴染むのを待っています」

 砂時計に目をやる。もうちょっと待てば全部落ちそうだな。

「あの砂時計が全部落ちて、一度ひっくり返したら、レンネットを加えるんです。そうしたらまた、置いておきます」

「これ、たまにアシュリーが使ってるよな。
大きさは全部同じなのに、刻む時が違うんだろ?」

「はい。僕が忘れないようにとパフィが作ってくれました」

 僕が料理に不慣れだった頃、時間の加減が分からなくて、煮込み過ぎてしまったりと失敗が続いて凹んでいたら作ってくれた。
 お陰で失敗が減って、今はあんまり使わなくなってきたけど、長い時間を測るこの砂時計はとても便利。

 端肉を煮込んでいるから厨房は暖かいし、失敗はしなさそう。

 ラズロさんと端肉で作る新しい料理はどんなものが良いか、と話している内に砂時計が落ちた。
 ひっくり返すとゆっくりと砂が落ちる。砂がひと粒ひと粒落ちていく。

「今回はさ、赤ワインで煮てみないか?」

「赤ワインですか?」

「ザックに話したらな、干しトマトをもらったんだよ。なんでも沢山採れ過ぎたからと押し付けられたのを干しておいたんだと。ほんっとマメだよなぁ、アイツ」

 あぁ、そうか。干しトマト。
 水分が飛んでしまって、あの瑞々しさはなくなってしまうけど、日持ちもするし、甘さも増すんだよね。
 王都にいると何かしら手に入るからか、野菜を干したりしてなかったな。

「代わりに、煮込んだ端肉を少しくれと言われた。煮込みは火を使い続けるからな、魔法を使えないザックには限界があるからなぁ」

 魔法が使えるかどうかは、日常に大きく影響するのだと分かってる。

「ザックさんのスキルは料理ですか?」

「そうだ。それと大工だ」

 思いもよらないスキルだった。

「あの店にあるもの全てがザックの手によるものなんだぞ。店そのものもそうだし、テーブルや椅子もそうだ。故郷では大工をやってたらしいんだがな、こっちに来てから店を始めたんだ」

「なんて言うか、意外です」

 そうだろ? とラズロさんが言う。

「だから宵鍋はな、ザックの城なんだよ」

「良いですね、凄い」

「おだててみたらなんか作ってくれるかも知れないぞ」

 そう言ってラズロさんはにやりと笑った。

 自分の作りたいものを自分の手で作った、ザックさんの店。
 次に行ったら、店の中をもうちょっとよく見てみたいな。
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