上 下
177 / 271
第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

043-3

しおりを挟む
 ガラゴロ、と音をさせながら馬車は進んで行く。
 ちょっと大きめの石の上を通るときにちょっと大きく揺れるぐらい。

「あと数時間もすれば到着するから」

 ティール様は持ってきたという本を読んでいる。クリフさんは剣を磨いていて、ノエルさんは報告書を書き始めた。馬車での移動だと道中暇になるだろうからと持って来たもの。
 一応僕も持ってきてる。せっかくだからと薬研を持ってきた。時間のあるときじゃないと出来ないから。

「薬を作るんですか?」

 ティール様の質問にはい、と答えて頷く。
 最近食堂を利用する人が増えて、前は作れていた軟膏やおなかが痛いとき用の薬を作る時間がとれなかったから。

 持ち歩き用の小さなまな板に、薬草を置いて包丁で切る。フルールが鼻を近付けてくる。

「これは食べちゃ駄目だよ」

「何が出来るの?」

「おなかが痛いとき用の薬です」

 必要なものを全部薬研の中に入れて、薬研車で混ぜていく。

「アシュリーはよくレンレンから逃げきれているなって思うんだよね」

「パフィが助けてくれてるので」

「以前口に紙が貼り付けられていた時には驚いたよ」

「静かだったな、あの時は」

 ノエルさんの言葉にクリフさんが頷く。

「走って来た後もあの早口で、凄いですよね」

 僕の感想に、みんな苦笑いを浮かべる。

「うんざりするけどね、僕なんか」

「鬱陶しい」

 ははは、と笑うティール様。






 目的のダンジョンに到着したときには、僕は薬を作り終えていて、クリフさんも剣を磨き終えていた。ノエルさんは報告書を書き終えてしまって暇になり、途中から僕の薬作りを手伝ってくれた。ティール様は黙々と本を読み続けていた。

「これは、本気で暇つぶしを考えた方が良さそう」

 僕の手伝いをしていたノエルさんが言った。

「そうだな。剣も磨き終えてしまって、帰りに何をすれば良いか……」

「魔術書読みますか?」

 笑顔でティール様が手元の本を指差すと、二人とも首を横に振った。

 御者役の騎士様に見送られながらダンジョンに下りて行く。
 真っ暗なダンジョン。目がまだ慣れていないから、先が全然見えない。
 ノエルさんが呪文らしきものを唱えると、ダンジョン全体が明るくなった。
 そんなに広くないダンジョンで、奥にいるモンスターが大きな目をギョロリとさせてこっちを見た。詳しくはないけど、ゴブリンと言うモンスターかな?
 僕は到底敵わないけど、クリフさんたちには問題ない……と思うんだけど、とにかく数が多い。それから、臭い。
 一番大きな身体のゴブリンが棍棒を振り上げて、奇声を上げると、他のゴブリンたちも倣って棍棒を振り上げ、叫んだ。

「よろしくお願いしますね、二人とも」

 そう言ってティール様は術符を取り出し、足元に置く。
 術符を中心として青い光が広がって、僕とティール様の周りを取り囲む。
 ティール様の大きな手が僕の頭を撫でて、「この輪の中にいれば大丈夫ですよ」と教えてくれた。

「手加減して下さいねー。二人が本気でやったら素材になる部分がなくなってしまいますので」

「本音を取り繕うことを止めてきたよ」

 呆れ顔のノエルさんの肩をクリフさんが叩く。

「ティールはレンレン程ではないが、本能に忠実な方だ」

 はぁ、とため息を吐いてるけどノエルさん、ゴブリンがもうすぐそばまで来ちゃってます!

「ノエルさん!」

 にっこり微笑んで、ノエルさんはゴブリンに向き直って手を差し出す。ノエルさんの手から小さな炎が放たれて、ゴブリンに命中していった。その後もいくつもの炎が手から飛び出していく。
 クリフさんも剣でゴブリンを撫でるように切っていく。

 炎がゴブリンに当たる音、切られていく音、ゴブリンの悲鳴。
 二人の足元にどんどん積み上がっていくゴブリンの山。

「あの二人、頼りになりますよねぇ」

「そうですね」

「あー、移動式結界にすべきでしたかねぇ」

 ティール様を見上げると、ソワソワしていた。

「ほら、移動式結界なら、絶命したゴブリンから素材部分を頂戴出来るかと思いまして」

 ティール様、本当に素材欲しいんだね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

少女は自重を知らない~私、普通ですよね?

チャチャ
ファンタジー
山部 美里 40歳 独身。 趣味は、料理、洗濯、食べ歩き、ラノベを読む事。 ある日、仕事帰りにコンビニ強盗と鉢合わせになり、強盗犯に殺されてしまう。 気づいたら異世界に転生してました! ラノベ好きな美里は、異世界に来たことを喜び、そして自重を知らない美里はいろいろな人を巻き込みながら楽しく過ごす! 自重知らずの彼女はどこへ行く?

処理中です...