上 下
91 / 271
第二章 マレビト

023-3

しおりを挟む
 ナインさんはそれから少しして目を覚ました。
 初めて会った時のような、怯えた顔をして、僕達を見る。

「気分はどうだ?」

 トキア様が尋ねると、ナインさんは小さく「大丈夫、です」と答えた。

「頭が痛いとか、吐き気とか、身体の何処かをぶつけたとか、違和感があるなら教えて」

 顔を上げて、みんなの顔を見るナインさん。ノエルさんが笑顔を向ける。
 俯いて首を横に振る。

「昨日……寝れ……なかった、から……」

 嘘だと僕でも分かったから、みんなも分かったと思う。でも何も言わずにナインさんの頭を撫でた。

「今日は何もせずとも良い。休め」

 トキア様が言って、ノエルさん、ティール様、ラズロさんと僕も医術室を出た。

「無理強いはするな」

 ノエルさんとティール様が頭を下げる。
 トキア様は戻って行って、僕たちは食堂に向かった。

「ナインは何かを隠してると、思う」

 ノエルさんの言葉にティール様も頷く。

「でも、言いたくねぇんだろ」と、ラズロさんが言って厨房に立つ。珈琲を入れるみたいだ。
 手伝おうとしたら、座ってろ、と言われたので、お言葉に甘えて座って待つ事にする。
 ネロが何処からかやって来て、膝の上に乗る。

「アシュリーがダンジョンメーカーの話をしたら、倒れた」

「あの国ではクロウリーの事もあって、魔術師もダンジョンメーカーも禁忌です」

 え……。

「禁忌故に、衝撃を受けたと言う事でしょうか?」

 違うと思う、とノエルさんが否定する。

「魔術師のスキルを持って生まれる者は多い。だから禁忌だとしても封じ込める事は出来ない。だからナインのようにスキル所持者は奴隷に落とされてしまう」

 ラズロさんが珈琲の入ったカップをテーブルに置く。ありがとう、とノエルさんとティール様が礼を言う。
 ミルクのたっぷり入ったカップを受け取る。ラズロさんにお礼を言うと、おぅよ、と返事が返ってきた。

「ダンジョンメーカーは稀有なスキルだ。アシュリーを迎えるまで、知識としては知っていたけど、保持者を目にした事はなかった。アシュリーしか見た事が無いよ」

 そんなに珍しいスキルなんだ。

。だから、七歳でスキルが発覚して奴隷に落とされたナインが知ってる筈がないんだよ」

 カタン、と音がして、見るとナインさんが入り口に立っていた。

「ナイン?」

「ナインさん?」

 みんなで慌ててナインさんの元に向かう。

「動いて大丈夫なの?」と、ノエルさんがナインさんの顔色を窺いながら尋ねる。

「休息は大事ですよ、ナイン」とティール様が言うと、すかさず「おまえが言うな」とラズロさんに言われていた。

「ナインさん、大丈夫ですか?」

「話す……」

 ナインさんは自身の服をぎゅっと握りしめて言った。

「え?」

「ダンジョンメーカーについて、話す」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ
ファンタジー
病弱な青年ビャクヤは点滴を受けに病院にいたはず……だった。 突然、砂浜に転移した彼は混乱するものの、自分が健康体になっていることが分かる。 ここは絶海の孤島で、小屋と井戸があったが他には三冊の本と竹竿、寝そべるカピバラしかいなかった。 喰うに困らぬ採集と釣りの特性、ささやかな道具が手に入るデイリーガチャ、ちょっとしたものが自作できるクラフトの力を使い島で生活をしていくビャクヤ。 強烈なチートもなく、たった一人であるが、ビャクヤは無人島生活を満喫していた。 そんな折、釣りをしていると貝殻に紐を通した人工物を発見する。 自分だけじゃなく、他にも人間がいるかもしれない! と喜んだ彼だったが、貝殻は人魚のブラジャーだった。 地味ながらも着々と島での生活を整えていくのんびりとした物語。実は島に秘密があり――。 ※ざまあ展開、ストレス展開はありません。 ※全部で31話と短めで完結いたします。完結まで書けておりますので完結保障です。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

処理中です...