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第二章 マレビト
023-1
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エスナさんの送別会の翌日、お昼も終わって、厨房で一人、仕込みをしてる時だった。
ナインさんがやって来て、カウンターの前に立った。座ろうとはしない。挨拶もしない。俯いている。
昨日の事、まだ考えてるのかなぁ?
ナインさんにとって、何が気になるんだろう? 自分を助けた国を出ようとするエスナさんを止めたかった……とか、そういうのかな?
「チャイを入れるので、飲みませんか?」
「チャイ……?」
「甘くて、あったかくて、美味しい飲み物です」
イースタンさんの店で買った香辛料も、そろそろ底を尽く。勿体ないと思っていた僕に、ラズロさんは言った。
食べる為に買った。食べられる為にコイツらも収穫されてんだ。勿体ぶってシケさせる方が失礼だぞ、と。
ラズロさんのこういう所、僕は好きだ。食べ物を粗末に扱ってるんじゃないから。
カウンターの席に座ったナインさんは、黙ったまま、僕がチャイを淹れるのを見てる。あんまりじっと見られると、緊張する。
「ナインさんは、エスナさんが旅に出たのが嫌だったんですか?」
ナインさんが頷く。
「この街は、生まれた国と違って、優しい」
その言葉に胸がちょっと痛くなる。
チャイをカップに移して渡す。
「分からない」
そう言ってチャイを見つめる。
「僕、ここの生まれじゃないんです」
顔を上げて僕を見るナインさん。
「僕も少し前にノエルさんとクリフさんにここに連れて来てもらったんですよ」
「アシュリーも、奴隷?」
首を横に振る。
「生まれ育った村で死ぬまで生きるんだって思ってたんです。とても温かくて、優しくて、住んでる人も明るくて、良い村だったんです。
王都に来て、あの村とはまた違ってて、まだ分からない事ばっかりですし、たまに寂しく思ったりもしますけど、僕はしあわせですよ」
「……よく、分からない」
「エスナさんは、王都が嫌いだから出て行くんじゃなくて、自分だけの場所を、本当は探してるのかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
ラズロさんが言ってました。旅でしか得られないものがある、って」
「旅でしか、得られないもの……」
呟いた後、ナインさんはチャイを口にした。初めての味と香りに目をキラキラさせる。何を食べても美味しそうにしてくれるナインさんを見るのは嬉しいけど、少し悲しくもなる。
「美味しい……」
「シナモンとクローブ、という香辛料が入ってるんですよ」
チャイの香りを改めて嗅ぐナインさん。
「香辛料はこの国では取れないものだから、行商人や、大きな商会から買うんです」
「ぎょうしょうにん?」
「旅をしながらその土地でしかとれないものを買って、別の場所で売る人、だそうです」
「香辛料も、旅してきた」
その言葉に思わず笑ってしまった。上手だなぁ。
「……大人になったら、アシュリーと、旅したい」
突然の言葉にびっくりする。
そんなに僕の事を気に入ってくれてるとは思ってなかったから。
「誘ってもらって嬉しいですけど、僕は行けないんです」
「どうして? アシュリー、ナイン、嫌い?」
首を横に振って、そうじゃないと伝える。
「そうじゃなくて、僕は王都から出られないんですよ」
「どうして? アシュリー悪い事しない。どうして出られない?」
「僕が持ってるスキルが特殊だからです」
スキル? と聞き返されたので、頷く。
「ダンジョンメーカーと言うスキルを持っているんです」
「だんじょん……めーかー……」
ナインさんの顔が真っ白になって、身体が傾いて椅子から落ち、床に倒れてしまった。
「ナインさん! ナインさん!!」
僕の声を聞き付けたラズロさんが慌てて食堂に入って来た。
「どうした、アシュリー?!」
「ラズロさん、ナインさんが突然倒れちゃったんです!」
「オレが医術室に運ぶから、アシュリーはトキア様、ノエル、ティールを呼んで来てくれ!」
駆け寄って来たラズロさんがナインさんを抱え上げた。
「はい!」
食堂を飛び出し、みんなを呼びに向かった。
ナインさんがやって来て、カウンターの前に立った。座ろうとはしない。挨拶もしない。俯いている。
昨日の事、まだ考えてるのかなぁ?
ナインさんにとって、何が気になるんだろう? 自分を助けた国を出ようとするエスナさんを止めたかった……とか、そういうのかな?
「チャイを入れるので、飲みませんか?」
「チャイ……?」
「甘くて、あったかくて、美味しい飲み物です」
イースタンさんの店で買った香辛料も、そろそろ底を尽く。勿体ないと思っていた僕に、ラズロさんは言った。
食べる為に買った。食べられる為にコイツらも収穫されてんだ。勿体ぶってシケさせる方が失礼だぞ、と。
ラズロさんのこういう所、僕は好きだ。食べ物を粗末に扱ってるんじゃないから。
カウンターの席に座ったナインさんは、黙ったまま、僕がチャイを淹れるのを見てる。あんまりじっと見られると、緊張する。
「ナインさんは、エスナさんが旅に出たのが嫌だったんですか?」
ナインさんが頷く。
「この街は、生まれた国と違って、優しい」
その言葉に胸がちょっと痛くなる。
チャイをカップに移して渡す。
「分からない」
そう言ってチャイを見つめる。
「僕、ここの生まれじゃないんです」
顔を上げて僕を見るナインさん。
「僕も少し前にノエルさんとクリフさんにここに連れて来てもらったんですよ」
「アシュリーも、奴隷?」
首を横に振る。
「生まれ育った村で死ぬまで生きるんだって思ってたんです。とても温かくて、優しくて、住んでる人も明るくて、良い村だったんです。
王都に来て、あの村とはまた違ってて、まだ分からない事ばっかりですし、たまに寂しく思ったりもしますけど、僕はしあわせですよ」
「……よく、分からない」
「エスナさんは、王都が嫌いだから出て行くんじゃなくて、自分だけの場所を、本当は探してるのかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
ラズロさんが言ってました。旅でしか得られないものがある、って」
「旅でしか、得られないもの……」
呟いた後、ナインさんはチャイを口にした。初めての味と香りに目をキラキラさせる。何を食べても美味しそうにしてくれるナインさんを見るのは嬉しいけど、少し悲しくもなる。
「美味しい……」
「シナモンとクローブ、という香辛料が入ってるんですよ」
チャイの香りを改めて嗅ぐナインさん。
「香辛料はこの国では取れないものだから、行商人や、大きな商会から買うんです」
「ぎょうしょうにん?」
「旅をしながらその土地でしかとれないものを買って、別の場所で売る人、だそうです」
「香辛料も、旅してきた」
その言葉に思わず笑ってしまった。上手だなぁ。
「……大人になったら、アシュリーと、旅したい」
突然の言葉にびっくりする。
そんなに僕の事を気に入ってくれてるとは思ってなかったから。
「誘ってもらって嬉しいですけど、僕は行けないんです」
「どうして? アシュリー、ナイン、嫌い?」
首を横に振って、そうじゃないと伝える。
「そうじゃなくて、僕は王都から出られないんですよ」
「どうして? アシュリー悪い事しない。どうして出られない?」
「僕が持ってるスキルが特殊だからです」
スキル? と聞き返されたので、頷く。
「ダンジョンメーカーと言うスキルを持っているんです」
「だんじょん……めーかー……」
ナインさんの顔が真っ白になって、身体が傾いて椅子から落ち、床に倒れてしまった。
「ナインさん! ナインさん!!」
僕の声を聞き付けたラズロさんが慌てて食堂に入って来た。
「どうした、アシュリー?!」
「ラズロさん、ナインさんが突然倒れちゃったんです!」
「オレが医術室に運ぶから、アシュリーはトキア様、ノエル、ティールを呼んで来てくれ!」
駆け寄って来たラズロさんがナインさんを抱え上げた。
「はい!」
食堂を飛び出し、みんなを呼びに向かった。
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