80 / 271
第二章 マレビト
021-1
しおりを挟む
夢見鳥が、マレビトがおまえの元に訪れると告げた。
占った結果は吉凶判断不能と出た。
気を付けるように。
ノエルさんに紹介された、僕よりちょっと年上に見える少年を見た時、魔女からの手紙に書かれた言葉が頭に浮かんだ。
「彼の名前はナインだよ、アシュリー」
真っ黒い髪に赤い目。どちらもはっきりした色で、自己主張があるのに、俯きがちで、表情は暗い。
「はじめまして、アシュリーです」
お辞儀をしたら、お辞儀を返してくれた。
「はっきりとは分からないけど、アシュリーと年齢は変わらないんじゃないかな。見て分かる通り男の子だよ」
ノエルさんの言葉に頷く。
「さっそくで申し訳ないんだけど、ナインに何か食べさせてあげてくれないかな? 年齢の割に成長が遅れているようだから」
それは、奴隷として生きてきたからだろうと思う。
僕も成長が遅いなんて言われてるけど、ナインさんのはそうじゃない。僕の力でも強く握ったら折れてしまいそうなぐらい、細い腕をしていた。
「分かりました。ノエルさんも食べますか?」
「うん、お願いします」
ナインさんの事はおまけだったんじゃないかな、って言いたくなるぐらいの笑顔で、ノエルさんは頷いた。
とは言っても、お昼が終わった後で、大したものは残ってないんだけど。そういえばノエルさん、お昼に大盛りで食べてなかったかな……?
タマネギを二個薄切りにして、熱してオイルを垂らしておいたフライパンに入れる。タマネギの水分が早く出ていくように、塩を振りかけておく。
ジュワジュワ、と良い音をさせるタマネギ。
「既に良い匂いと音に五感が刺激されるんだけど、アシュリー、何を作ってるの?」
「タマネギスープです」
今すぐに作れそうなのは、タマネギを炒めて作るタマネギスープぐらいだった。パンをスープに入れて上からチーズをとろけさせたら出来るし、パンもふやけるし、おなかにも優しいし。
「ラズロは?」
「食材を買いに行ってます」
僕はお留守番。
「アシュリーは一緒に行かないの?」
「僕はこれから夕食の仕込みがあるんです」
「こんな早い時間から仕込むって事は、手の込んだものを作るの?」
ノエルさんが目をキラキラさせながら聞いてくる。
「今日はラズロさんがお店の人の押しに負けて沢山買ったキャベツで、最後の端肉を包んでスープに浸して食べる奴です」
「なにそれ、美味しそう」
生でも食べられるキャベツだけど、ラズロさんが買ったキャベツは、春に採れたとは思えない程に皮が厚い。つまり固い。そのまま食べるより、煮た方が食べやすそうだし、皮が厚くて丈夫だから、具材を包んで煮込んでも破れなさそうだな、と思って。
余りの野菜やらなんやらを端肉とまぜて、キャベツで包んで、塩コショウのスープで煮込む。
「良かったら食べに来て下さいね」
「絶対食べに来る」
茶色くなったタマネギに、水とコショウを足し入れて沸騰させる。煮立ったスープを器に注いで、上にパンをのせて、細かく切ったチーズをのせる。火の魔法でチーズの表面をとろけさせて、出来上がり。
タマネギスープとスプーンを、ノエルさんとナインさんに渡す。
「んー! 良い匂いー!」
とろけるチーズとパンをすくったスプーンを口に入れるノエルさん。ナインさんはノエルさんの真似をして、スープを口に入れた。目を見開いて、まじまじとスープを見つめる。
「アシュリーの作る食事はとっても美味しいから、毎日の楽しみにすると良いよ」
ノエルさんがそう言うと、ナインさんは顔を上げて、まばたきを二回して、僕を見た。
「食べに来て下さいね」
スプーンを口に当てたまま、ナインさんは小さく頷いた。僕とノエルさんは目を合わせて、笑顔になった。
僕やラズロさんが作る料理を、ナインさんが気に入ってくれたら良いな。
占った結果は吉凶判断不能と出た。
気を付けるように。
ノエルさんに紹介された、僕よりちょっと年上に見える少年を見た時、魔女からの手紙に書かれた言葉が頭に浮かんだ。
「彼の名前はナインだよ、アシュリー」
真っ黒い髪に赤い目。どちらもはっきりした色で、自己主張があるのに、俯きがちで、表情は暗い。
「はじめまして、アシュリーです」
お辞儀をしたら、お辞儀を返してくれた。
「はっきりとは分からないけど、アシュリーと年齢は変わらないんじゃないかな。見て分かる通り男の子だよ」
ノエルさんの言葉に頷く。
「さっそくで申し訳ないんだけど、ナインに何か食べさせてあげてくれないかな? 年齢の割に成長が遅れているようだから」
それは、奴隷として生きてきたからだろうと思う。
僕も成長が遅いなんて言われてるけど、ナインさんのはそうじゃない。僕の力でも強く握ったら折れてしまいそうなぐらい、細い腕をしていた。
「分かりました。ノエルさんも食べますか?」
「うん、お願いします」
ナインさんの事はおまけだったんじゃないかな、って言いたくなるぐらいの笑顔で、ノエルさんは頷いた。
とは言っても、お昼が終わった後で、大したものは残ってないんだけど。そういえばノエルさん、お昼に大盛りで食べてなかったかな……?
タマネギを二個薄切りにして、熱してオイルを垂らしておいたフライパンに入れる。タマネギの水分が早く出ていくように、塩を振りかけておく。
ジュワジュワ、と良い音をさせるタマネギ。
「既に良い匂いと音に五感が刺激されるんだけど、アシュリー、何を作ってるの?」
「タマネギスープです」
今すぐに作れそうなのは、タマネギを炒めて作るタマネギスープぐらいだった。パンをスープに入れて上からチーズをとろけさせたら出来るし、パンもふやけるし、おなかにも優しいし。
「ラズロは?」
「食材を買いに行ってます」
僕はお留守番。
「アシュリーは一緒に行かないの?」
「僕はこれから夕食の仕込みがあるんです」
「こんな早い時間から仕込むって事は、手の込んだものを作るの?」
ノエルさんが目をキラキラさせながら聞いてくる。
「今日はラズロさんがお店の人の押しに負けて沢山買ったキャベツで、最後の端肉を包んでスープに浸して食べる奴です」
「なにそれ、美味しそう」
生でも食べられるキャベツだけど、ラズロさんが買ったキャベツは、春に採れたとは思えない程に皮が厚い。つまり固い。そのまま食べるより、煮た方が食べやすそうだし、皮が厚くて丈夫だから、具材を包んで煮込んでも破れなさそうだな、と思って。
余りの野菜やらなんやらを端肉とまぜて、キャベツで包んで、塩コショウのスープで煮込む。
「良かったら食べに来て下さいね」
「絶対食べに来る」
茶色くなったタマネギに、水とコショウを足し入れて沸騰させる。煮立ったスープを器に注いで、上にパンをのせて、細かく切ったチーズをのせる。火の魔法でチーズの表面をとろけさせて、出来上がり。
タマネギスープとスプーンを、ノエルさんとナインさんに渡す。
「んー! 良い匂いー!」
とろけるチーズとパンをすくったスプーンを口に入れるノエルさん。ナインさんはノエルさんの真似をして、スープを口に入れた。目を見開いて、まじまじとスープを見つめる。
「アシュリーの作る食事はとっても美味しいから、毎日の楽しみにすると良いよ」
ノエルさんがそう言うと、ナインさんは顔を上げて、まばたきを二回して、僕を見た。
「食べに来て下さいね」
スプーンを口に当てたまま、ナインさんは小さく頷いた。僕とノエルさんは目を合わせて、笑顔になった。
僕やラズロさんが作る料理を、ナインさんが気に入ってくれたら良いな。
2
お気に入りに追加
347
あなたにおすすめの小説
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
階段落ちたら異世界に落ちてました!
織原深雪
ファンタジー
どこにでも居る普通の女子高生、鈴木まどか17歳。
その日も普通に学校に行くべく電車に乗って学校の最寄り駅で下りて階段を登っていたはずでした。
混むのが嫌いなので少し待ってから階段を登っていたのに何の因果かふざけながら登っていた男子高校生の鞄が激突してきて階段から落ちるハメに。
ちょっと!!
と思いながら衝撃に備えて目を瞑る。
いくら待っても衝撃が来ず次に目を開けたらよく分かんないけど、空を落下してる所でした。
意外にも冷静ですって?内心慌ててますよ?
これ、このままぺちゃんこでサヨナラですか?とか思ってました。
そしたら地上の方から何だか分かんない植物が伸びてきて手足と胴に巻きついたと思ったら優しく運ばれました。
はてさて、運ばれた先に待ってたものは・・・
ベリーズカフェ投稿作です。
各話は約500文字と少なめです。
毎日更新して行きます。
コピペは完了しておりますので。
作者の性格によりざっくりほのぼのしております。
一応人型で進行しておりますが、獣人が出てくる恋愛ファンタジーです。
合わない方は読むの辞めましょう。
お楽しみ頂けると嬉しいです。
大丈夫な気がするけれども一応のR18からR15に変更しています。
トータル約6万字程の中編?くらいの長さです。
予約投稿設定完了。
完結予定日9月2日です。
毎日4話更新です。
ちょっとファンタジー大賞に応募してみたいと思ってカテゴリー変えてみました。
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる